Snapchatとドローンが合体、新しい“空飛ぶカメラ”からスナップが見通していること

「Snapchat」で知られるスナップが、新たにドローン型のカメラを発表した。手のひらから飛び立って写真や動画を撮れるデバイスだが、その先には同社が見通す拡張現実(AR)の未来図も透けて見えてくる。
Snap Pixy Drone
スナップが発表したドローン型のカメラ「Pixy」。上部にあるノブを回すと、手のひらから離陸させたあとに撮影させたい写真やビデオの種類を選択できる。PHOTOGRAPH: SNAP

スナップは、短時間で消えるメッセージと評価の高い拡張現実(AR)フィルターを特徴とするソーシャルネットワーク「Snapchat」でよく知られている。しかし、自称“カメラ会社”のスナップは、ときに新しいハードウェアをつくり出す。そして事態が少し奇妙なことになる場合がある。

今回はそのひとつだ。スナップは4月28日(現地時間)に開催した「Snap Partner Summit」で空飛ぶカメラ、つまりドローンのようなデバイスを披露したのである。

黄色い平らなプラスチック製のドローン「Pixy」はSnapchatのアプリとペアリングする。おそらく巨大フェス「コーチェラ・フェスティバル」などで持ち主の手のひらから飛び立ち、素早く写真や動画を撮影して再びさっと戻ってくるように設計されている。撮影された写真や動画はSnapchatアプリの機能「Memories」へとワイヤレスで共有され、スナップが得意なARフィルターや動画エフェクトを適用できる仕組みだ。

この小さなドローンの価格は230ドル(約30,000円)である。さらに20ドル(約2,600円)を追加すれば、ふたつの予備バッテリーを同梱したセットを購入できる。

フル充電されたPixyは5〜8回の短距離飛行で再充電が必要になるので、おそらく予備バッテリーが必要になる。実際のところ、重量が1ポンド(約450グラム)未満の手のひらサイズのドローンでは、大きなバッテリーを使うことは難しい。

PHOTOGRAPH: SNAP
空飛ぶカメラの付加価値

Pixyは特定のスナップユーザーの興味を引くような製品であり、スナップもそれを承知している。Pixyは米国とフランスで「在庫がなくなるまで」の限定台数で販売される予定だ。

スナップの共同創業者で最高技術責任者(CTO)のボビー・マーフィーは、Pixyとスナップがもたらすより幅広いARの目標について語ったインタビューで、販売予定数については明言しなかった。しかし、同社の目標は「スナップコミュニティの心に本当に響くものをつくること」だと語っている。

これはスナップの以前のハードウェアの取り組みと一致しているようだ。2016年の発売当初はスナップブランドの自動販売機でのみ販売された同社のスマートグラス「Spectacles」から、開発者のみが入手できた昨年春に披露されたその最新世代のARメガネに至るまで、スナップはハードウェア事業から必ずしも収益を上げるわけではないが、話題を集めることに非常に長けている。

だからといって、スナップの研究所で開発されたハードウェア製品が技術的に重要ではないという意味ではない。スナップは、はるかに影響力のあるメタ・プラットフォームズより何年も早く、動画の撮影が可能なメガネをリリースしている。昨年発表したAR対応のSpectaclesでは、スナップの説明にあるように、着用したメガネを通して没入感のある楽しいARのレンズを垣間見ることができた。

新たに発表されたドローンのPixyは、コンピュータービジョンと物体認識技術を利用して人の顔や体の一部を識別するようになっている。そしてユーザーを追跡または周回して、できる限り最高の写真やビデオクリップを撮影し、再びユーザーの手のひらの上に着陸する。

「Pixyを進化させ、コンピュータービジョンを利用した空飛ぶカメラのさまざまな付加価値を明らかにしていきたいと考えています」とマーフィーは言う。

「現実」に即した技術

しかし、マーフィーのインタビューでも、28日にオンライン形式で開催されたスナップのパートナーサミットでも、同社が真っ向から焦点を当てているのはAR技術であることは明確だった。

スナップは幅広いソーシャルメディアの世界で複数の理由で際立っているが、その理由のひとつがAR技術である。イーロン・マスクによるツイッターの買収と株式非公開化の計画により、今週のニュースを埋め尽くしたTwitterよりも、スナップの1日のアクティブユーザー数のほうが何百万人もの多いことも特筆に値する。

28日のスナップの開発者向けイベントでは、クラウドサービス「Lens Cloud」も公開された。これはスナップが運営するバックエンドサービスで、アプリメーカーが新しい種類のARのシステムを構築し、Snapchat内からよりスムーズかつ素早く実行できるようにする。

以前はマルチユーザーゲームのような体験を構築したり、位置情報に基づいたアンカーを利用したりするには、アプリメーカーは基本的に独自のアプリを構築する必要があった。スナップはそのためのホスティングサービスを、Lens Cloudで提供することを目指している。

また、新しいARショッピングのテンプレートも発表された。これを使うと、小売業者は自社のショッピングサイトにある既存の写真をアップロードし、スナップの技術を使ってその画像をARショッピング用の表示に変換できるようになる。

スナップはまた、コンサート検索エンジンのLive Nationと協力して、ライブ向けのコンサート専用Lensも開発している。わたしたちが現実世界に戻って遊ぶ場合でも、スマートフォンの画面のさらなる利用には目がないからだ。

スナップはまた、同社のAR製品は現在の現実に組み込まれたもので、将来の幅広いビジョンを構成するものではないと主張している。この点では、メタとは一線を画す立場を確立している。

メタは装着した人の視界全体を包み込む人気の仮想現実(VR)ヘッドセット「Meta Quest」(旧称はOculus Quest)を提供しているが、スナップは同社のアプリのユーザーは依然として現実の世界を体験すべきだと考えている。スナップは28日のイベントに「Back to Reality(現実に戻る)」と名付けてさえいるのだ。

長期的な信念に基づくプロジェクト

現実世界に重ねられたコンピューター体験というスナップの技術が、基本的に技術者がメタバースを表現するものであるとしても、スナップの最高経営責任者(CEO)のエヴァン・シュピーゲルは短い基調講演で「メタバース」についてほとんど言及しなかった。

またシュピーゲルは、スナップが「ほかのアプリと比較して最もハッピーなプラットフォーム」であると主張する。そして、Snapchatユーザーの90%が、Snapchatを使用中に快適でつながりを感じているという。

ただし、この発言はSnapが委託した調査の結果に基づいている。しかしシュピーゲルの発言は、昨年秋に『ウォール・ストリート・ジャーナル』の一連の報道で、フェイスブックのアプリが10代のメンタルヘルスに与えているかもしれない悪影響についてフェイスブックが精査されたことを受けて出されたものである。

28日のパートナーイベントは近い将来の技術に焦点が当てられていたが、マーフィーによるとスナップは「ARに関して極めて長期的な信念を持っている」という。「人間の自然な行動様式に合うコンピューティング体験が可能になるかもしれません」

スナップとメタの違いについて問われたマーフィーは、スナップのAR/VR分野における大きな差別化要因について、次のように答えている。「それはARのみにフォーカスしていることです。わたしたちはAR分野における空間的な機会が、『メタバース』やその他の用語で説明されてきたものよりも、はるかに大きいと確信しています」

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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