テスラがついに「サイバートラック」を納車へ。奇抜な電動ピックアップトラックには課題も山積

テスラが電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」の納車イベントを日本時間の12月1日に開催する。あまりに奇抜なデザインのEVをテスラが量産しようとしていることに、専門家たちはいまだに戸惑いを隠せないでいるようだ。
カリフォルニア州サンノゼにあるテスラの店舗で展示されていた「サイバートラック」。2023年11月28日に撮影。
カリフォルニア州サンノゼにあるテスラの店舗で展示されていた「サイバートラック」。2023年11月28日に撮影。Photograph: David Paul Morris/Bloomberg/Getty Images

テスラが11月30日(米国時間)に投資家とファンのためのイベントをテキサス州オースティンで開催し、電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」の最終モデルを正式に公開する見通しだ。このイベントに対してポール・スナイダーは複雑な感情を抱いている。そのひとつは「恐れ」である。

テスラが2019年11月にサイバートラックのデザインを公開したとき、まず最初にスナイダーの頭の中には数々の疑問が渦巻いたという。「いったい何が起きたんだ?って思ったんです」と、デトロイトのデザイン専門大学であるカレッジ・フォー・クリエイティブ・スタディーズで自動車などのデザイン部門を統括するスナイダーは語る。

スナイダーによると、サイバートラックのデザインは三角形や平面、鋭角を多用しており、「過去100年にわたって西洋で教えられてきた自動車デザインの慣習やルールから完全に逸脱したもの」だ。それにテスラの最新のヒット作である電気SUV「モデルY」の洗練された形状を“否定”するかのような武骨で攻撃的な印象をもたらすデザインを採用しており、スナイダーの目には攻撃的に見えるという。

これに対してテスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクは、このデザインは意図的なものだと明言している。「わたしたちは黙示録的な技術におけるリーダーになりたいんです」と、マスクは20年に語っていた。

一方でサイバートラックは、スナイダーに畏敬の念も呼び起こしている。「ほとんど誰も見たことがないようなクールなデザインであるという事実を尊重しなければなりません」と、スナイダーは言う。

サイバートラックの量産はまだ始まっておらず、マスクによると量産は25年からになる。それでもスナイダーは、学生たちのデザインや競合他社のコンセプトカーの微妙に角張った形状に、その影響を感じ始めているという。すでにサイバートラックが自動車デザインの世界を変えた可能性があるのだと、スナイダーは指摘する。

19年の発表会のステージでは、「割れることのない」とされたサイバートラックのガラス窓をテスラのチーフデザイナーが鉄球で粉々に砕いてしまい、マスクが「なんてこった!」と大声で叫んだこともあった。それから4年が経つが、自動車業界の関係者によると、サイバートラックのユニークなデザインはいまだに他を寄せ付けず、好奇心をそそる存在であり、人々を魅了し続けているという。現時点での最大の驚きは、そのデザインにテスラがこだわり、決して考えを変える気がないように思えることかもしれない。

「テスラはコンセプトを示し、そのコンセプトを実際に実現させたいと考えたのです」と、英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アーツ(王立芸術院)で「Intelligent Mobility Design Centre」の責任者でディレクターのデール・ハロウは言う。自動車業界においてデザイナーがコンセプトカーを制作する目的は、一般的には新しい技術を紹介したり、新しいクルマの形状や素材を試したりすることである。そのデザインは奇妙なものに思えることもあるが、それは「現実」ではないからだ。

ところが、サイバートラックは違う。「(テスラは)この点に関しては本当に自分たちの信念を貫いています」と、ハロウは語る。サイバートラックの最終形がどのようなデザインになったのかは、11月30日午後3時(米東部時間、日本時間では12月1日午前5時)に明らかになる予定だ。

奇抜なデザインゆえの課題が山積

サイバートラックの奇抜な美学のテーマのひとつは、シンプルであることだろう。直線を多用し、パネルはむき出しで、角は鋭利になっている。こうしたデザイン手法は実際のところ、この電気自動車(EV)の生産をより複雑なものにしているのだ。

ハロウが見たサイバートラックの最終デザインの写真では、サイドパネルがすっきりとしていて平面になっている。「(こうしたデザインは)技術的には実現が非常に難しいものです」と、ハロウは言う。

自動車デザインにおいて一般的に直線は禁物である。なぜなら、実際には平らな面であっても、見る角度や環境によっては、たるんだり、へこんだりしているように見えてしまうからだ。

そこでテスラはサイバートラックの最終デザインにおいて、ボンネットやフロントバンパー、フロントガラスに“クラウン”を配置したうえで、車両の支配的なラインに対して小さく微妙なカーブを描くことで、デザインに「さらなる表面張力」を与え、へこんで見えないようにしているようだと、ハロウはみている。「完璧」とは、多少の不完全さがあって初めて達成されるものなのだ。

テスラが「エクソスケルトン(外骨格)」と呼ぶステンレス鋼の外板は衝突に対する抵抗を外側から発揮することから、従来のような塗装仕上げの外板では生じない製造上の障害を生み出した可能性が高い。一方で、ステンレス鋼は腐食に強いので、テスラは高コストかつ複雑で環境に有害な塗装工程を避けることができる(カリフォルニア州フリーモントにあるテスラの工場は昨年、塗装行程に関連する大気汚染基準違反で米環境保護局から罰金を科された)。

ただ、自動車ではめったに見られないこの素材は、扱いが難しくコストが高い。無塗装で完璧な光沢のある平らな表面をつくって維持するためには、高度な技術と非常に慎重な扱いが必要になると、コロラド鉱山大学で先端鋼材加工・製品研究センターの責任者を務めるジョン・スピアは指摘する。

鋼材は生産後にコイル状にされるので、元の状態に戻ろうとする「スプリングバック」と呼ばれる現象によって、成形された後にボディパネルにゆがみが生じることもある。特に「弾丸や矢にも耐えられる」とテスラが宣伝しているサイバートラックに使われているような高強度鋼はそうだ。

「鋼材の強度が高ければ高いほど、何度も何度も隙間なく正確で完璧な形状をつくることは難しいのです」と、スピアは言う。これこそが均一な品質の自動車を大量生産するために必要な一貫性なのだ。

この懸念は現実のものになっている。今年10月、テスラのチーフデザイナーであるフランツ・フォン・ホルツハウゼンがカリフォルニア州マリブで開催されたイベントにマットブラックのサイバートラックとともに登場したとき、車体パネル間にある大きな隙間が写った写真に一部のネット民たちは恐怖を覚えたという。これもステンレス鋼の成形の難しさが原因と思われる(『ウォール・ストリート・ジャーナル』は11月下旬、サイバートラックのステンレス鋼は加工が難しいことが判明したと報じている)。これに対して、今週に入ってからテスラのショールームに展示された量産型サイバートラックの写真からは、品質上の問題はほとんど見られていない。

次々に発売される競合に対抗できるか

これまでもサイバートラックは生産上の問題に悩まされてきた。テスラは当初、21年後半に最初の納車を予定していたが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に影響されて「翌年」へとずれ込んだ。

ドイツの大手経済紙『Handelsblatt(ハンデルスブラット)』を皮切りに『WIRED』も報じた内部報告書によると、サイバートラックの試作段階にある“α版”は22年1月の段階で、サスペンションや車体のシーリング、騒音レベル、ハンドル、ブレーキの基本的な問題を解決できていないことが示されていた。同じころ、テスラはサイバートラックの量産が23年初頭に、そして23年後半に延期されたと発表している。

こうしたなかテスラは、11月30日(米国時間)に非常に少数のサイバートラックを“納車”する予定だ。とはいえ、本格的な量産は24年になる見通しで、25年までに年間25万台の生産を目標としていると、マスクは語っている。

「わたしたちはサイバートラックで墓穴を掘ってしまいました」とマスクは10月に投資家たちに語り、サイバートラックに搭載されている新技術の多さが生産プロセスを複雑にしていると説明している。なお、サイバートラックがテスラのキャッシュフローに貢献するまでに、12~18カ月かかるとマスクは見積もっている。

また、サイバートラックのユニークな外観は、今後の評判の予測が難しいことも意味している。マスクは先月、サイバートラックの予約金として100万人以上が100ドル(約15,000円)を支払ったことを明らかにしている。最終的な価格や仕様が不明であるにもかかわらずだ。

だが、いまや競合する電動ピックアップトラックが次々に市場に投入されている。フォードの「F-150 Lightning」にリヴィアンの「R1T」、「シボレー・シルバラードEV」など、ラインナップも多彩だ。自動車関連情報サイト「Edmunds.com」の編集ディレクターのアリステア・ウィーバーは、サイバートラックがこうした競合にどう対抗できるかは不透明だと指摘する。「これは“本物”のアメリカントラックなのでしょうか。それとも、テスラファンの好奇の目に晒されて終わるのでしょうか」

カレッジ・フォー・クリエイティブ・スタディーズのスナイダーは、サイバートラックのデザインがすべてを“破壊”してしまうのではないかと考えている。デザイナーのなかには、自然界の造形に由来する普遍的な美の基準があると考える人もいる。それを逸脱すれば優れたデザイナーとはいえない、というわけだ。

しかし、サイバートラックは“自然”ではない。「カーデザイン界の“災難”として完全に否定されています」と、スナイダーは言う。だが、もしこれが大ヒットしたらどうだろうか?

「何が美しいかはその人の主観による、といえるのでしょうか」 と、スナイダーは問いかける。「それは実存的な問題でしょうね」

WIRED US/Translation by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるテスラの関連記事はこちら


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