住宅にもイノベーションを。「ソフトウェアで進化する家」で人々の暮らしをアップデートする:連載 The Next Innovators(6)HOMMA 本間毅

この世の中を変えていくために、常識を疑い、道なき道を切り拓き、誰も想像しなかった未来をつくるべく挑戦し続ける人々がいる。そのエネルギーの源泉に迫る連載「The Next Innovators」の第6回は、スマートホーム技術を手がけるHOMMAの創業者で最高経営責任者(CEO)の本間毅。日常のあらゆる“雑事”が自動化された世界を目指すHOMMAのビジョンを訊いた。
住宅にもイノベーションを。「ソフトウェアで進化する家」で人々の暮らしをアップデートする:連載 The Next Innovators(6)HOMMA 本間毅
Photograph: Keiko Hiromi

スマートホームと聞くと、スイッチを操作せずとも点灯する照明や、自動で室温を調整してくれるエアコンなどが思い浮かぶ。もはやそれは驚くべき技術ではなく、そのおおよその仕組みも想像がつくだろう。とはいえ、実際に家のほとんどの場所がスマート化されているという人は、わずかではないだろうか。

スマートホームシステムの大きな障壁となるのは、導入や設定の煩雑さだ。スマート家電をひとつずつ設置・管理するには、膨大な手間をかけなければならない。

この問題を解決し、スマートホームをより一般的なものにしようとしているスタートアップが、シリコンバレーを拠点とするHOMMAだ。HOMMAが手がけた物件では、入居初日から住空間が“スマート化”されている。何の設定をせずとも、照明や空調が住人の生活パターンに合わせて自律的に稼働するように設計されているのだ。

2023年に米国のボストン郊外のクインシーに完成した住居もそのひとつ。HOMMAがNTT都市開発や現地のデベロッパーと連携して構築したこの住居は、既存のアパートメントの一室をリノベーションしてスマートホームにつくりかえたものだ。設計の段階からスマート化が考慮され、建築業者と連携して具現化されている。

生活のあり方を大きく変化させる可能性を秘めているスマートホーム技術。その普及の先に、いかなる未来をHOMMAは描いているのか。創業者で最高経営責任者(CEO)の本間毅に聞いた。

本間 毅|TAKESHI HOMMA
1974年生まれ。中央大学在学中に起業し、1997年にウェブサイトなどの製作を手がけるイエルネットを設立。2003年にソニーに入社し、ネット系事業戦略部門などを経て08年5月から米西海岸に赴任。電子書籍事業の事業戦略に従事。12年2月に楽天の執行役員就任。16年にシリコンバレーでHOMMA, Inc.創業。


Photograph: Keiko Hiromi

「住居」だけが時代遅れなシリコンバレー

──本間さんにとってHOMMAは初めての起業ではなく、すでに大学時代にウェブ制作などを手がける会社を立ち上げています。その後、ソニーに入社して“会社員”の道へと進まれました。学生時代に起業した人はシリアルアントレプレナーや投資家になる人も多いですが、なぜそうした道を選ばなかったのでしょうか。

わたしが最初に起業した1990年代後半は、「ビットバレー構想」に後押しされて多くの若者が起業家を目指していた時代です。ただ、そのとき立ち上げた会社の上場という目標は叶わず、事業は売却しました。そのまま他のスタートアップなどを支援したり、自分が別の会社を立ち上げたりといった選択肢もあったのですが、違う世界を見てみたいという思いがあって。

そのとき、働いてみたいと考えた会社がソニーだったんです。ソニーは日本発のグローバル企業で、世界中の人々にブランドが認知されている。事業分野はハードウェアからソフトウェア、エンターテインメントまで多岐にわたります。さまざまな業種業態でグローバルにビジネスを展開している大企業で新しい経験をすることで、もっとおもしろい人生になるんじゃないかなと考えたことがきっかけでした。

──実際にソニーで働いてみて、いかがでしたか。

社内にはアントレプレナーシップがありながらも大企業のパワーもありました。インターネット関連の新規事業開発だけでなく、一般消費者向けのさまざまな事業を統合する戦略立案にも携わることができ、ハードからソフト、コンテンツまで手がけているだけに非常に有意義な経験を積めたと思っています。

──その後、ソニーから楽天に入社されています。ソニーで重要な仕事を任されていたなかで、なぜ楽天への転職を選んだのでしょうか。

ソ二ーで2008年にカリフォルニアに赴任する機会を得たことが転機になりました。そのままソニーに勤め続けてもよかったのですが、それではいつか日本に帰る日が来てしまいます。しかし、日本という国は将来的に人口の減少が加速し、国民が高齢化して国内総生産(GDP)と市場規模も縮小していく運命にある。そうした環境で成長を見込める事業をつくることは難しいのではないかと考えたんです。そんな時期に出合ったのが、楽天でした。

当時の楽天は英語を公用語にしていて、海外の売上比率を7割にするという目標を掲げていました。インターネットという最も成長を期待できる分野で本気で世界を目指す──これは本当にすごいことだと、心を動かされたんです。

その後、三木谷さん(楽天グループの三木谷浩史CEO)にお会いする機会もあってお誘いいただき、米国在住のまま楽天に入社することになりました。楽天ではデジタルコンテンツのグローバル事業戦略責任者になり、電子書籍端末「Kobo」などの事業を手がけていました。

──そこからなぜ、再び起業することになったのでしょうか?

正直なところ、起業に関しては「もういいや」という思いもあったんです。もともと、父方の祖父は建築士として設計事務所を経営しており、母方の祖父は建築資材会社を経営していました。ふたりの祖父を見て育って「起業家になりたい」と中学生くらいから考えるようになったのですが、その夢は大学時代の起業で達成できていたわけですから。

それに、やっぱり起業ってハードシングスじゃないですか。つらいことは多いし、苦手なことも自分でやらなきゃならない。人のことからお金のこと、日々の業務に関することまで、あらゆる側面でハードなことが降ってくるわけです。ですから、「もういいや」という気持ちにもなって、幸せに“サラリーマン”として生きていこうと思ったんです。

ところが、楽天で働いていたときに、シリコンバレーの新しいスタートアップの動きに触れたことで考えが変わりました。現地の起業家やスタートアップのカルチャーを楽天に取り込むような環境づくりに取り組んでいたのですが、そのときにUberAirbnbの台頭を目の当たりにして、90年代にわたしたちがやっていた“スタートアップなるもの”とは大きな違いがあることに気づいたんです。

これらの西海岸のスタートアップはインターネットの世界のみならず、現実世界に大きなイノベーションをもたらしている。交通や宿泊といったリアルな世界での体験を、実際に大きく変えているわけです。そう考えているうちに、「次は住宅だ」とひらめきました。

というのも、シリコンバレー近辺の住宅は、これだけのイノベーションを生み出している街であるにもかかわらず時代遅れなんです。最新のテクノロジーを導入した革新的な住宅がどこかにあるはずだと思って探しても、どうしても見つからない。

おかしいなと思って尋ねてみたところ、米国では住宅は何十年も修繕しながら住むものであって、市場の8割は中古住宅なんです。たまに建つ新築の物件も100年前からほとんど変わらないつくりをしている。「最新の家に住みたいのに残念だな」と感じた一方で、「ないならつくればいいじゃないか」という思いもわき上がってきたんです。そこで、テクノロジーと住宅を組み合わせた「未来の生活」を自分でつくってしまおうと思い立ったわけです。

米国のボストン郊外のクインシーに2023年に完成したHOMMAのスマートホーム。既存のアパートメントの一室をリノベーションしてスマートホームにつくりかえており、HOMMAがNTT都市開発や現地のデベロッパーと連携して構築した。

Photograph: Keiko Hiromi

設計からサポートまで担える強み

──「スマートホーム」という言葉だけを聞くと、すでに多くの企業が手がけている分野という印象を受けます。そのなかでHOMMAは、どのように差異化しているのでしょうか。

照明を自動化したり、ひとつのアプリで複数の家電などのデバイスを操作したりといったことは、他社の製品を使っても実現できます。しかし、自分の家に合わせて必要なデバイスやプログラムをひとつずつ用意するとなると、実際のところ大変な手間がかかりますよね。

これに対してHOMMAのテクノロジーが導入された物件では、入居した当日から高度なスマートホームでの暮らしを体験できます。アプリやスマートスピーカーから操作しなくても、人の動きに合わせて照明がそれぞれの部屋で自動的に点灯したり、時間帯に合わせて明るさや色が自動で調整されたりするわけです。エアコンの温度設定も、最も快適な状態に常に保たれるようになっています。ただ、そこで暮らすだけでいい。コンシューマーの視点から見たときに、この手軽さこそがHOMMAがもつ最大の強みだと考えています。

──いまの話をお聞きすると、スマート化の行き着く先はユーザーが「何もしなくていい」ことなのだと感じます。

その通りです。もっと言うと、そこで暮らしている人でなくてもメリットを享受できます。例えば、その家を訪れたゲストや、スマートフォンをもっていないお子さんでも、テクノロジーの存在を意識することなくスマートホームのよさを実感できるわけですから。

──現時点では、何をどこまでスマート化できるところまで来ているのでしょうか。

いまは家に最初から組み込まれていて当たり前のものからスマート化を進めています。なぜかというと、これらは頻繁に買い換える必要がなく、耐用年数が長いからです。例えば、照明と照明のスイッチ、センサー、空調のコントロールシステム、そしてスマートロックですね。

これからスマート化を進めていくものが、電動ブラインドや電動シェードです。すでにアプリから手動でコントロールできるところまでは実現できていますが、これを自動化のシーンに組み込んでいくことが次のステップです。例えば、朝のシーンではどのようなタイミングでどう動作してほしいのか、といったことですね。

これは実はテクノロジーではなくデザインの話であって、人間の心理についての話でもあります。人は朝、どんなタイミングでどのようにブラインドに開いてほしいのか、開いてほしくないのか。あるいは、日中の生活においてどういうときにブラインドが開け閉めされる必要があるのか──といったことを洞察しながら、それをプログラムに落とし込んでいこうとしています。

一方で、デバイスの数が増えれば増えるほどいいとは思っていません。そもそも、われわれのシステムに組み込むことでベネフィットになるのかどうか、という問題もありますから。あくまで生活に必要不可欠で、われわれのスマートなオートメーションの一部として長きにわたって人々のお役に立てることが前提になってきます。

──HOMMAはNTT都市開発などのデベロッパーとも連携して物件の開発を進めています。事業者向けの技術供与やパートナーシップのニーズも増えていきそうですね。

従来型のデベロッパーにとって、スマートホームシステムの導入はとても敷居が高いんです。システムを設計して実際の住宅に導入していくには専門的なノウハウが必要ですし、仮にできてもサポートやメンテナンスに手間がかかります。

しかも、デベロッパー側にしてみれば余分なコストが発生する一方で、そのコストをどのようなかたちで回収できるのか、本当に回収できるのかといった確証をもてないわけです。こうした理由で、どうしても物件のスマート化に及び腰になってしまう。

これに対してHOMMAは、スマート化によって物件の価値が高まることを自社物件の実績に基づいて明確に示せるので、デベロッパーの不安を払拭し、計画的なスマートホームシステムの導入を提案できます。設計段階から導入後のアフターケアまで包括的にサポートすることもできるので、デベロッパーは導入と運営にかかる手間とコストを最小限に抑えられ、しかも収益性を高められます。このようにBtoBの視点から見ても、HOMMAには独自の強みがあると考えています。

住宅のスマート化については、自動化されるデバイスが多ければいいというわけではないのだと、本間は指摘する。

Photograph: Keiko Hiromi

──米国ではスマートホームのデバイス間の接続を標準化する新規格「Matter」が制定されるなど、大手テック企業がスマートホーム関連事業に参入しやすい土壌が整備されつつあります。そうなると、多大なリソースを投入できる大企業のほうが強みを発揮できるかもしれません。HOMMAは、どのような戦い方をしていこうと考えていますか。

Matterのような標準規格が登場したことは、われわれにとって歓迎すべきことだと思っています。システムとデバイスとの間をソフトウェアで連携させやすくなりますから。こうした標準規格が普及したとしても、いまのようにユーザーが機器を自分で導入して設定する構造が変わらない限りは、スマート化された住宅に引っ越すだけで使えるという、われわれの強みは変わらないと思います。

大手テック企業との戦い方に関しては、よく尋ねられますね。アップルやアマゾン、グーグルがやってきたらどうするのか、と。でも、アマゾンが音声アシスタント「Alexa」に対応したスマートスピーカー「Amazon Echo」の初代モデルをリリースしたのが2014年ですが、それから10年近く経った現在も、ユーザーが購入して自分で設定する構造は変わっていません。センサーとデバイスの連動にしても同様で、結局のところユーザー自身が設定する必要がある。やはり設置から設定、自動化までのプロセスにおいては、何も変わっていないわけです。

デベロッパー向けのBtoBのビジネスに関しても、例えば大手テック企業がデベロッパー向けのプログラムを策定して、建築基準法に基づく設計支援までして、導入からサポートまで対応するようなことは実現できていません。それらすべてを自社でやる心づもりがあるなら、ぜひわれわれを買収していただけたら……という感じですね。

──そうすると、OSやプラットフォームのように全体を司るレイヤーの、さらに上のところで戦っていくという理解でいいのでしょうか。

そうですね。もっと言うと、例えばわれわれがライセンス提供することで面が広がってユーザーが増えていったとして、その面の上でいかにサービスを提供するプラットフォームとして強くなるか、ということだと思います。

なかでも、住宅の中のことを一定程度は理解したうえで、お客さまのプライバシーやセキュリティに配慮しながらサービスを提供できる点は大きな強みになります。大手テック企業は住宅に自社のデバイスを普及させることで、住人たちの生活パターンをデータとして吸い上げることをインセンティブとしてスマートホーム事業を進めていますから。

一方で、われわれはデータ(の収益化)にはあまり興味がない。それよりも、いかに簡単に導入できるのか、生活に欠かせないデバイスをいかにスマート化して自動化できるのか、それをいかにサービスに結びつけられるのか──ということを考えています。

──サービスというと、どのようなことを具体的に想定されていますか。

家の中を「よりよくする」ためのサービスを想定しています。例えば、不在の際に自宅の掃除などのサービスを依頼すると、スタッフがスマートロックを解錠して自宅に入ってきますよね。そんなとき、入らないでほしい部屋やクローゼットなどのセンサーだけを動作させて、もし誰かが入ったらスマートフォンに通知が来る──といったことですね。

つまり、監視カメラを使わずに、プライバシーに配慮しながら人の動きを推測できるわけです。これはセキュリティシステムにも応用できると思っています。

また、人の動きを先回りして推測するようなことも可能になります。普段の生活パターンのデータを人工知能(AI)が解析して、オートメーションの最適化やパーソナライズをできるところまで到達したいと考えています。そのために、新たにデータサイエンティストを採用したところです。

HOMMAのスマートホームでは、センサーが人の動きや時間帯などに合わせて反応し、照明や空調が自動で最適化される。実際に1日を過ごしてみると、そこで暮らす人が「何もしなくていい」ことが最大の利点であることを実感できた。

PHOTOGRAPH: HOMMA

ソフトウェアで進化する家

──住宅のスマート化においても将来的にはAIは欠かせない存在になり、究極的には住宅が自ら考えて判断するようなことも実現するかもしれません。最近のAIの進歩を踏まえて、スマートホームはどう進化していくと考えておられますか。

あくまで主体は人間にあるので、家やAIが人間を導くようなことは考えていません。でも、人が「こうしたい」と思っていることに対して、家が先回りして合わせてくれるならいいと思うんです。それをさらにリアルタイムかつ高度化していくために、データやAIを活用していければと考えています。あくまで、そこで暮らす人に寄り添うようなイメージですね。

どこまで先回りするかという話でいえば、人だけではなくエネルギー効率の最適化という観点も重要になります。例えば電動ブラインドなら、住人が不在の際に日差しが入ってきて必要以上に室温が上がってしまうようなときに、自動的に開閉して温度を調整して省エネにつなげるようなことです。

──スマートホームといえば最新のテクノロジーが投入されるイメージがありますが、その一方で技術の陳腐化という問題にも向き合わなければなりません。この点については、どう対応していくのでしょうか。

耐用年数が長いデバイスからスマート化を進めていくように意識しています。例えば、天井のシーリングライトは設置されると数十年は使われるわけで、こうした機器からスマート化を進めていく。逆に、スマートスピーカーのように耐用年数が短めの製品を家に組み込んで、あとで取り外しに苦労するような事態にはならないようにしています。

そして、ソフトウェアによって体験が進化するようにしたいと考えています。テスラの電気自動車(EV)のようにソフトウェアをオンラインでアップデートすることで、同じハードウェアであっても体験が進化するわけです。

かつての自動車やスマートフォン、家電などの世界では、いかにハードウェアが最新で優れているのかが重視されていました。それがいまは優れたハードウェアは大前提であって、価値の軸足がソフトウェアのほうに移り始めている。

住宅なんてハードウェアの最たるものですが、その価値の本質を何らかのかたちでソフトウェアのほうに移していけるようなものをつくっていきたいんです。例えば、データやAIの活用、ソフトウェアのアップデートによって、「ハードウェアは変わらないけれど、ソフトウェアが最新だから住み心地がいい」というところまでもっていきたい。さらには「HOMMAのソフトウェアが入っているから、この家はいい」と言っていただけるようになりたいと考えています。

HOMMAのスマートホームではセンサーが人の動きや時間帯などに合わせて反応することで、照明が自動で点灯・消灯したり、調光されたりする。

Photograph: HOMMA

明るさや色温度も自動的に最適化される仕組みなので、入居者は照明のことを特に意識しなくても暮らせる。

Photograph: HOMMA

スマート化が都市の規模にまで広がる未来

──そうしたスマートホームの進化の先に、どのような未来を見据えているのでしょうか?

われわれがソリューションを提供するパートナーが増えることで、おそらく次のステップでは「ソフトウェアで進化する家」が増えていく。サービスのビジネスのプラットフォームとしても面が広がっていくので、その上で動くサービスを増やすことで、生活をもっと便利で快適なものにしていきたいと考えています。

そして、現在のように家を丸ごとスマート化するだけでなく、数件の家、コミュニティ、そして街全体といった具合に、その人が暮らす環境全体にどれだけ貢献できるかという話になっていくと思っています。そうなると、家の外のエネルギーや交通システム、街のセキュリティなどにまで対象が広がっていく。

つまり、家の中がコネクテッドになっていれば、少なくとも家という最小単位からストリートに広がって、タウンになって、シティになって……という世界観が広がっていくわけです。そこで何ができるかは未知数なのですが、みんながコネクテッドになれば、そこからつくり出せるものは相当に大きいんじゃないかと思っています。

抽象的な言い方にはなりますが、そこに暮らす人々が余計なことに気を遣わなくて済むようになるでしょう。例えば、照明やエアコンの操作、鍵を閉めたかどうかなどの心配をしなくてよくなります。こうしたスマート化をコミュニティ規模で実施できれば、ゴミ捨てやエネルギー管理の心配すら不要になるかもしれません。サステナビリティの向上にも貢献できるはずです。究極的には、そうして人々がやりたいこと、やるべきことに集中できるような世界を構築していくことを目標としています。

──すでにHOMMAのスマートホームは、住宅単位でのエネルギー効率の向上を一定程度は実現できています。理論的にはコミュニティや都市の規模でもエネルギー利用の最適化が可能になるかもしれません。

再生可能エネルギーによる電力などをためておいて、自分たちで使ったり、分けてあげたりするようなこともできるでしょう。都市やコミュニティの随所に小規模な発電施設を設置して、そこから得たエネルギーを効率よく分配するマイクログリッドのような仕組みも構築できるかもしれません。そうした世界においてわれわれはメインプレイヤーではないですが、そのような世界の実現に貢献できればと考えています。

──そうした世界の実現に向けた道のりにおいて、現時点でどのくらいまで達成できているのでしょうか。

まだ10%くらいじゃないかと思います。でも、そのための土台は完成しつつあると思うんです。住宅の中にあるデバイスを相互接続して、それらの家をネットワーク化して、AIなどを用いてコントロールできるところまでは来ていますから。

次の段階に進むために重要なことは、「世の中はこうなっていく」という思いをより多くの人に知ってもらうことです。「スマートになって当たり前」という発想が広まっていくことで、われわれの力だけでは成し遂げられない大きな変革が可能になると信じています。

究極的には、「人々がやりたいこと、やるべきことに集中できるような世界を構築していく」ことを目標としているのだと、本間は言う。

Photograph: Keiko Hiromi

(Interview and edited by Daisuke Takimoto/Text by Asuka Kawanabe)

※『WIRED』による連載「The Next Innovators」はこちら


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