自然由来の「カーボンブイ」で、炭素を「遅い循環」へと移行させる──Running Tide:特集「リジェネラティブ・カンパニー」

2017年に米国で創業したRunning Tideは、開発中の「カーボンブイ」を海洋生態系に用いることで、炭素の固定にとどまらず「炭素循環」における不均衡を是正しようとしている──未来を再生する次世代カンパニーを紹介する『WIRED』日本版の総力特集。
自然由来の「カーボンブイ」で、炭素を「遅い循環」へと移行させる──Running Tide:特集「リジェネラティブ・カンパニー」
PHOTO: Running Tide

「気候変動は地球規模の炭素循環の不均衡によって起こる問題である」。これがRunning Tideのベースにある考え方だ。この不均衡を、同社は石灰岩と藻類によって是正しようとしている。

Running Tideの主な事業のひとつが炭素除去技術の開発だ。同社は林地残材などのバイオマスと石灰岩などの炭酸塩を用いた「カーボンブイ」を開発している。これを海の表層に浮かべ、徐々に溶かすことで炭素を固定するとともに、海洋のアルカリ性を高めて海洋酸性化にも対処するという。また、将来的にはブイに藻類の種をまき、成長過程で炭素を吸収させ、その後溶けたブイが海藻ごと沈むことで海底に炭素をとどめる計画だ。

「地球には数十年単位で生態系や大気中を流れる『速い炭素循環』と、生態系が数百年から数千年をかけて炭素を地質や深海の貯留層へと移動させる『遅い炭素循環』があります」と、CEOのマーティ・オドリンは語る。同社の技術は自然由来の仕組みと素材で、炭素を速い循環から遅い循環へ移行するのだという。

開発途上のこの技術に対し、生態系への影響を懸念する研究者やメディアの声もある。これに対し、同社はオープンな技術開発のためのフレームワークを発表したほか、世界の研究者や機関との協力や第三者による検証、米国の科学諮問委員会(SAB)による諮問などで応えようとしている。オドリンは言う。「われわれが受けた高い関心、そして時折の監視の目は、気候危機に対する持続可能な解決策を見たいという一般の人々の願いの表れだと思っています」

Running Tide
Headquarters_ U.S.
Founded_ 2017
Representative_ Marty Odlin (CEO)

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.49 特集「THE REGENERATIVE COMPANY」より転載。
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