未来はジャンル別には訪れない:Takram渡邉康太郎×松島倫明 ビブリオトーク・レポート

デザイン・イノベーション・ファームTakramの渡邉康太郎と『WIRED』日本版編集長の松島倫明のビブリオトークでは、雑誌『WIRED』日本版VOL.43のテーマである「THE WORLD IN 2022」にちなみ、2022年のトレンド、そして未来を読み解くための図書についての考察が交わされた。
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PHOTOGRAPH: EUGENE MYMRIN/GETTY IMAGES

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雑誌『WIRED』日本版VOL.44「Web3」特集号の刊行を記念し、WIRED SZメンバーシップの人気プログラム「Thursday Editor’s Lounge」と書店「SPBS TORANOMON」、 ARCHインキュベーションセンターのコラボレーション企画であるオンラインイベント(第2回)を4月7日に開催することが決定した。その開催に先立ち、第1回のダイジェストをお届けする。

2022年の最新トレンドやパラダイムシフトの予兆を全10ジャンル、豪華寄稿者たちと読み解く『WIRED』の毎年恒例の人気特集「THE WORLD IN 2022」。本書をもとに21年12月、Takramでコンテクストデザイナーを務める渡邉康太郎を迎え、編集長の松島倫明とビブリオトークイベントを開催した。

抽選で選ばれたSZメンバーシップ会員とARCH会員を会場(虎ノ門ヒルズ ARCHインキュベーションセンター)に招き、有観客でイベントを実施。コロナ禍でオンラインイベントが続くなか、久しぶりの「対面」でのトークに、渡邉も松島も興奮を隠しきれない様子だった。

過去と未来にまたがる“歴史のつながり”

今回はそれぞれが5冊ずつ持ち寄る形式をとった。選書の理由を挙げる際に、渡邉は「雑誌『WIRED』日本版 VOL.43を読んでからのほうが、今日のトークをより吸収できるかもしれない」と前置きした。

『THE WORLD IN 2022』特集は、ぼくたちにわかりやすくトレンドを教えてくれています。ただ、ここで気をつけるべきは、『未来は必ずしも科目別には訪れない』、そして『年度ごとにも訪れない』ということ。過去と未来にまたがる“歴史のつながり”を意識しながら、長期的な視野で領域を深く見ることが大事」と、渡邉は言う。さらにキーワードに関しても、ある単体の領域だけの事象として捉えず、異分野をかけ合わせる「横断的思考」をもつことが、考察を深めていくためにも重要だと語った。

その参考となる1冊として、渡邉は『コミュニケーションのデザイン史 人類の根源から未来を学ぶ』〈フィルムアート社〉を挙げた。本書ではコミュニケーションにおける「デザイン」の歴史的役割と理念を、社会にある道具や技術、制度、思想などを用いて、横断的に検証しているという。例えば「地図」から考察する際にも、メディア論では文字や音声から検証を始めることが多いなかで、本書は「人類の移動の歴史」から読み解こうとする。

このような読み解きは、本書に収められた対談で触れられているアラン・ケイの姿勢にも通ずるものがある、と渡邉は言う。アラン・ケイは「ダイナブック」の構想中、マーシャル・マクルーハンの『グーテンベルクの銀河系』という1冊の本を何度も読み返していた、というエピソードを渡邉は引く。その試みから「未来の考え方」が見えてくる。

「例えばタブレット端末は今日あたりまえのように使われているが、もともと『石版』という意味をもつ言葉。未来的な言葉ではなく、むしろ太古から人々が親しんできたものがメタファーとして用いられている。アラン・ケイも単に未来の世界を妄想して考えたのではなく、おそらく過去へ深く潜ることによってあの構想にたどり着いたのではないか。過去に潜ることは、究極的には未来を考えることと同義であり、その重ね合わせに思いを馳せることが大切になる」と渡邉は念を押す。

さらに、渡邉はマーシャル・マクルーハンの『グーテンベルクの銀河系』の深い読みによって、アラン・ケイはリベラルアーツを獲得したのだろうと論を展開する。リベラルアーツはギリシャ・ローマ時代の「自由7科」に起源をもつとされ、「自由人として生きるための学問」と表現されることもある。「自由という言葉は、自らに由(よ)る、とも読める。他人にとっての正解やビジネスにおける流行ではなく、自らが得た深く広い知識と思考によって事象を考えるということ。アラン・ケイはその意味で、自分なりのリベラルアーツを展開したのではないか」と渡邉は伝え、情報やトレンドといったものへの向き合い方にも持論を述べた。

渡邉の話を引き継いだ松島が紹介したのは、ローマン・クルツナリックの『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』〈あすなろ書房〉だ。世界が“短期思考化”している現状に対し、人間がより“長期思考”をもつための方法を考える1冊である。

松島は、そもそも人間が未来を考えだしたのは「“現在”で終わらない計画」を立てたときからだと言う。「原子力発電所の放射性廃棄物であれば10万年後を見据えなければならない。このように、3日後、1年後、100年後と続くようなツールを造ることで人間は長期思考を獲得してきた。その点では都市もそのひとつだ」と語る。現在のテクノロジーを考える上で、その影響が及ぶ時間軸にも視野を広げることが、短期思考だけに陥らないポイントとなってくることを、松島は強調した。

自分の未来は「つまらない」の先に広がる?

社会学者・岸政彦が編集した『東京の生活史』〈筑摩書房〉は、150人の執筆者が自ら探した150人の語り手の「生活」を10,000字の原稿にまとめ、それを編んだ1冊だ。執筆者は、インタビュー調査の手法や倫理についての「研修」を、岸からあらかじめ受けているという。

渡邉は「無名の人の人生を150人分集めただけの奇書ともいえる。ただこの本は、インタビューに対して意味づけをしたり、解説を加えたりはしていない。これは簡単に見えて、実は勇気がいることでもある。ぼくらは日ごろから、事象に対しての容易な意味づけに安住してしまってはいないか?」と自省的な問いを共有した。

また、ある事象と出合った際に、直感的に「面白い」や「つまらない」を判断することについても、渡邉は別の角度から問いを投げかける。「すぐに面白いと思えることは、自分がすでにもっている分類法という合理的な箱に、ただ考えを押し込んでいるだけかもしれない。意味がわからない、つまらないと思うくらいのものにこそ、自分の未来は開かれていると思うほうがいい」と言う。松島はこれを受けて「予見をもって臨まないことの大切さ」について語り、徳井直生の『創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語 』〈ビー・エヌ・エヌ〉に触れる。

「これからの創造はAIとのサーフィン」という一節を引きながら、松島はその例として、イーロン・マスクらが設立したAI(人工知能)研究企業のOpen AIが開発した自然言語処理モデル「GPT-3」を挙げた。GPT-3を活用した英文ライティングでは、書き手本人に見紛うようなレベルで文章を自動生成できる。だからといってAIに文章を書かせるということではなく、適宜AIに“提案”させて、普段は使わないようなAIによるフレーズや展開にインスピレーションを得ることで、創作のクオリティが上がるのだという。

「AIという“他者”とのコラボレーションのなかで自分は何を創れるのか。これは創造の原点のひとつだと感じた。文章創作は1行ずつに『書かれたかもしれない可能性』が開かれているが、その変数に気づかせてもくれる。予見をもたず、AIに意味を求めすぎず、その偶然性の上でクリエイションと向き合う。これは人間と他者や世界との関係性におけるひとつのあり方だと思う」と松島は話す。

そのほか、『RE-END 死から問うテクノロジーと社会』〈ビー・エヌ・エヌ〉や『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章』〈文藝春秋〉といった本にも触れながら、ふたりは現代社会における「死」や「信用」、あるいは「共感性」といったフレームワークを手がかりに、互いの論を展開していった。また、視聴者からの質疑応答も交え、ビブリオトークは制限時間いっぱいまで続けられた。

松島はイベントの最後に「自分の感覚を拡張させるのはテクノロジーだけでなく、新しいキーワードが生まれることで、初めて認知や世界観を人類は手にしていく。『THE WORLD IN 2022』特集で紹介されるキーワードに限ったことではなく、世の中に当たり前に存在しているけれど、誰もそれに気づいていないような感覚を見つけることが次のフロンティアにつながるはずだ」と締めくくった。

イベント終了後には、参加したSZメンバーシップ会員とARCH会員を対象にした“延長戦”も実施。オンラインイベント中に紹介しきれなかった書籍の紹介や、登壇者との意見交換の場が設けられた。また、来る4月にも雑誌『WIRED』最新号のVOL.44「Web3」特集に登場するゲストを迎え、SPBS TORANOMON、虎ノ門ヒルズ ARCHインキュベーションセンター、Thursday Editor's Loungeによるコラボイベントの第2回の実施が決定している。


【予告】April. 7, 2022
雑誌『WIRED』日本版VOL.44「Web3」刊行イベント
「ウェルビーイングをWeb3で実装する」
ゲスト:北川拓也

これまで客観的にしか測られてこなかった「幸福」の指標を、Web3が変えていくかもしれない──。雑誌『WIRED』日本版最新号で北川拓也(理論物理学者・Well-being for Planet Earth 理事・元楽天常務執行役員CDO)はそう語っている。ウェルビーイングを日本の社会に実装しようと新たな事業を構想する北川は、なぜいま「Web3」に注目しているのか? その実装の道筋を探るべく、重要な6つのキーワードをひも解きながらウェルビーイング×Web3に迫る!

キーワード:
・MOTIVATION(モチベーション)
・REPUTATION(レピュテーション)
・LEARN TO EARN(学んで稼ぐ)
・SUBJECTIVE VALUE(主観的価値)
・LONG-TERM VALUE(長期的価値)
・PERSONALIZATION(パーソナライゼーション)

(※関連記事:人類のウェルビーイングにはWeb3が必要だ

■ 登壇者
北川拓也 | TAKUYA KITAGAWA
理論物理学者、経営者、公益社団法人Well-being for Planet Earth理事。1985年生まれ。灘中学・灘高校卒業後、ハーバード大学に進学。数学、物理学を専攻し最優等の成績で卒業。その後、ハーバード大学院にて博士課程修了。楽天グループ常務執行役員CDO(チーフデータオフィサー)・グローバルデータ統括部ディレクターを2022年3月まで務める。

松島倫明|MICHIAKI MATSUSHIMA
未来を実装するメディア『WIRED』の日本版編集長としてWIRED.jp/WIREDの実験区“SZメンバーシップ“/雑誌(最新号VOL.44特集「Web3」)/WIREDカンファレンス/Sci-Fiプロトタイピング研究所/WIRED特区などを手がける。NHK出版学芸図書編集部編集長を経て2018年より現職。内閣府ムーンショットアンバサダー。訳書に『ノヴァセン』(ジェームズ・ラヴロック)がある。東京出身、鎌倉在住。

■ 日時
4月7日(木) 18:30〜20:00
ビデオ会議アプリケーション「Zoom」 (ウェビナー形式)で開催。

■ 参加費
1. オンライン参加(視聴のみ):¥1,540(税込)
2. オンライン参加(雑誌付『WIRED』VOL.44):¥2,500(税込)
3. 『WIRED』日本版SZ会員: 無料
※1、 2のお申し込みは▶︎こちら◀︎
※ WIREDのSZメンバーシップ会員はPeatixページからのお申し込みは不要です。

本イべントは、SPBS TORANOMONと虎ノ門ヒルズ ARCHインキュベーションセンター、「WIRED SZメンバーシップ」の人気プログラム「Thursday Editor’s Lounge」とのコラボ企画です。『WIRED』日本版SZ会員とARCH会員のなかから、抽選に当選した数名の方を配信会場に招待いたします。当選者には、メールにて詳細をお送りいたします。

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■ ご注意事項
※ 終了時間は目安となります。
※ みなさまからのご質問をチャットで受け付け、回答いたします。
※ オンライン会議には参加上限がございます。上限に達した場合、参加を締め切らせていただく場合がございます。あらかじめご了承ください。
※ 視聴URLの他者への転用は禁止しております。イベントの録画、撮影、録音もご遠慮願います。 また、ご視聴の通信環境の悪化などにより配信が途切れた場合の返金はいたしかねます。      
※ 前日の正午までにWIREDのSZメンバーシップの会員登録およびトライアル体験(1週間無料)の登録を完了された方には、ご登録時に設定したメールアドレス宛に配信URLをご連絡いたします。▶︎無料トライアルはこちら◀︎
※ SZメンバーシップ会員には、毎週木曜12時ごろに、Thursday Editor’s Loungeのお知らせメールをお届けしております。
※ 本ウェビナーの一部ダイジェストは、『WIRED』日本版で掲載予定です。

■ お問い合わせ
membership@condenast.jp

(Edit by  Erina Anscomb and Michiaki Matsushima)


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