苦戦する「D2C」からWeb3も使った「CTC」へ──特集「THE WORLD IN 2023」 

D2Cモデルが苦戦するなか、Web3、ソーシャルメディア、オンラインストア、実店舗といったすべてのチャネルで消費者とつながり、クリエイティビティを発揮するブランドがこれからの時代の勝者となる。
苦戦する「D2C」からWeb3も使った「CTC」へ──特集「THE WORLD IN 2023」
ILLUSTRATION: ROBIN DAVEY

All products are independently selected by our editors. If you buy something, we may earn an affiliate commission.

世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2023年の最重要パラダイムチェンジを網羅した恒例の総力特集「THE WORLD IN 2023」。Shopifyのシモーナ・メータは、よりレジリエンスの高い、進化したD2CモデルであるCTC(コネクト・トゥ・コンシューマー)を提案する。


この10年の間に登場した完全栄養食「Huel」や男性用グルーミング製品「Harry's」といった巧みなストーリーテリングで知られるブランドは、ソーシャルメディアやデジタルファーストの広告を活用し、中間業者を介すことなく消費者に直接販売することで、数十億ドル規模の小売ビジネスの構築に成功してきた。これらの消費者直結型のブランドは、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)と呼ばれる新たな小売モデルの典型だ。

この傾向は世界的なパンデミックにより加速し、多くの実店舗が閉店を余儀なくされた一方で、オンラインストアの売り上げは伸び続けた。消費者もこの流れに乗り、2021年には約60%が少なくとも一度はD2Cブランドの商品を購入している。

D2CからCTCの時代へ

しかしながらパンデミックが徐々に収束に向かいつつあるいま、市場は再び急速に変化している。例えば、ナイキの21年のD2C売り上げは前年比30%増の165億ドル(約2.2兆円)だが、Warby ParkerAllbirdsなど上場したD2C大手は苦戦を強いられ、22年には株価が64%下落した。

これらのブランドが業績不振に陥った経済的要因は明白で、インフレ率の上昇とサプライチェーンの混乱による経済バランスのシフトが、小売事業者の経営を圧迫している点にある。大手コンサルティングであるマッキンゼー・アンド・カンパニーのレポートによると、現在英国の消費者の3分の2が物価上昇を最大の懸念事項と考えており、約70%が消費行動の変更を余儀なくされ、これまで以上に安価なブランド品を購入するようになったと答えている。

しかし、近ごろのD2Cブランドの没落にはほかの要因も絡んでいる。例えば、アップルが新しいプライバシー機能を21年に追加した結果、事前にユーザーが許可しない限りアプリやウェブサイトを横断してユーザーデータを追跡できなくなった。そのため新規顧客獲得の手段を有料のソーシャルメディア広告にスイッチしたブランドは、膨れ上がったコストにあえいでいる。

このような市場の動向を受けて、23年には、わたしがCTC(コネクト・トゥ・コンシューマー)と呼ぶ、“よりレジリエンスの高い、進化したD2C”が続々と登場するだろう。CTCとは、Web3ソーシャルメディア、オンラインストア、実店舗など、複数のプラットフォームを同時に活用して消費者にリーチするアプローチだ。

CTCに転換するには、上記の4つの異なるプラットフォーム上でいかにブランドのストーリーを伝え、コミュニティを成長させていくかをクリエイティブに考えなくてはならない。

例えば22年7月、英国のフィットネスアパレルブランドであるGymsharkは、男性が普段は話しにくい悩みを打ち明けられる場として、メンタルヘルスに関するトレーニングを受けた理容師が常駐するポップアップ理容室をオープンした。一方、男性用メイクアップブランドのWAR PAINT.は、閉業して空き家になった店をオンラインバイヤーのためのショールームに改装して、コンシューマーとの新しいタッチポイントとして活用してる。

幅広いリーチが可能に

ソーシャルメディア上にもCTCモデルの試みは多く見られる。モデルで実業家のカイリー・ジェンナーは、22年にShopifyとTikTokが提携して始めたEC機能である「TikTok Shopping」を使って、自身のTikTokアカウントとオンラインストアをリンクし、4,770万人のフォロワーがTikTok内で彼女のKylie Cosmeticsという化粧品ブランドの商品を直接購入できるようにした。Shopifyによると、ソーシャルメディアチャネル上の注文数は、22年第1四半期に4倍に増加したという。

こうした小売にとってのビジネスチャンスはYouTubeにも及んでいる。例えば、英国のユーチューバー、ガブリエラは、自身のチャネルから約90万人のフォロワーに文房具を販売している。また、150万人のフォロワーをもつマンチェスター・ユナイテッドの非公式ファンチャネル「The United Stand」は、YouTubeとShopifyでファンコミュニティにグッズを販売している。

Web3でも、ブランドが消費者とつながる新たな機会が生まれている。オンライン限定のオファーや実店舗でのVIP体験にアクセスするためのNFT(非代替性トークン)をデジタルウォレットに入れておくようなことも今後は当たり前になるだろう。Web3はすでに主流になりつつあり、スターバックスも既存のロイヤルティプログラムを拡張する新体験としてWeb3メンバーシッププログラムをローンチし、NFTやゲームなどさまざまな特典を提供している。

このように、23年に勝利を収めるのは、ひとつの空間に依存することなく、これらすべてのチャネルを通じて顧客とのつながりを構築する小売事業者だ。現代の小売事業者はあらゆる場所や空間で店舗運営できるツールを手に入れることで、実店舗を訪れる数百人の買い物客からYouTubeやTikTokを利用する数十億人のユーザー、Web3のニッチなコミュニティまで、これまでにない幅広い層にリーチすることができるのだ。

シモーナ・メータ | SHIMONA MEHTA
独立系企業向けのeコマースプラットフォームShopifyのEMEA担当マネージングディレクター。2019年に、ほぼゼロからShopifyの欧州展開をスタートした。

(Translation by OVAL INC./Edit by Michiaki Matsushima)

雑誌『WIRED』日本版VOL.47 特集「THE WORLD IN 2023」より転載


雑誌『WIRED』日本版VOL.47
「THE WORLD IN 2023」好評発売中!

タフな時代をくぐり抜けて、ビジネスやカルチャー、イノベーションの新しいパラダイムが生まれる──。気候危機やコロナ禍、戦争の影響が地球規模で拡がり、経済や民主主義そのものが絶えず挑戦を受ける現在、テック不況やクリプト(暗号資産)バブルの崩壊を経て、次のパラダイムをつくっていくプレイヤーたちはすでに動き始めている。全10ジャンル、2023年の最重要パラダイムチェンジを網羅した恒例企画を『WIRED』が総力特集!購入ページはこちら。


Related Articles
article image
没入型のストーリーテリングの時代が始まろうとしている。だがその新たなフォーマットが真に受け入れられるには、高品質かつ圧倒的な魅力で一人ひとりを引きつけるパーソナライズされたコンテンツが必要だ。
article image
世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2023年のトレンドに迫る年末年始恒例の人気企画「THE WORLD IN 2023」がいよいよスタート。必読となるその中身はこちらのオンライン記事一覧、またはハンディな一冊にまとまった雑誌版でチェックしてほしい。