LASER FUSION

核融合技術は基礎研究からいよいよ商用利用へ──特集「THE WORLD IN 2024」

レーザー核融合技術はいま、商用利用を見据える段階に達した。各国の核融合スタートアップには資金が集まり、未来のクリーンエネルギーとしての期待が高まっている。
核融合技術は基礎研究からいよいよ商用利用へ──特集「THE WORLD IN 2024」
Illustration: Davide Spelta

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世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2024年の最重要パラダイムを網羅した恒例の総力特集「THE WORLD IN 2024」。ドイツを拠点とするレーザー核融合のスタートアップ、Marvel Fusionの共同創業者兼CEOモリッツ・フォン・デア・リンデンは、いまや核融合技術に研究者、政治家、投資家らの関心が集まり、クリーンかつサステナブルなエネルギーの実現可能性が高まっていると期待を寄せる。


2024年、核融合技術はいよいよ基礎研究から商用利用へと移行するだろう。なぜなら、最初の商用核融合実証炉の建設が進み、完成することになるからだ。

この最先端の装置は、核融合発電所よりも小規模なものになる。レーザー核融合の商用の発電所だと200本近いレーザー光が使われる可能性があるところを、実証炉であれば5〜10本ほどのレーザー光で実現するからだ。小規模ではあるが、核融合技術が小規模でうまくいくことを証明し、より大規模な核融合発電所の建設への道を開くという重要な役割を担っている。

24年には、この新たな道が切り開かれ、核融合プロセスの始動に必要なエネルギー利得の達成( 投入したエネルギーを上回るエネルギーを取り出すこと)に成功するだろう。このマイルストーンの実現は、増加を続ける世界のエネルギー需要に対応するための重要な一歩となる。核融合エネルギーは、二酸化炭素を排出しない、カーボンフリー電力を豊富に供給できる可能性を秘めているからだ。

ブレイクスルーから実用へ

カリフォルニア州にある国立点火施設(NIF)の研究者らは22年の実験で、核融合プロセスによってエネルギー利得を生み出せることを初めて示した。

この実験では、高出力レーザーを使って小さな燃料ターゲット(凍結した重水素とトリチウムを含んだ小さなカプセル)にエネルギーを蓄積させ、核融合が起きる条件をつくり出した。2.05メガジュールのエネルギーをターゲットにレーザー照射したところ、結果的に3.1メガジュールの核融合エネルギーが生成されたのだ。

あくまでもこれは科学実験であり、核融合発電の実証炉とは異なる。NIFの設備は、発電所のように継続的に稼働できるようには設計されてはいない。しかし、このような科学のブレイクスルーのおかげで、核融合は研究者、政治家、投資家から大いに注目されている。

米国、英国、日本、ドイツ、そのほかの国々では、国家レべルの核融合戦略が策定され、技術の研究とテストが進められている。現在、この競争をリードしているのは米国と英国だ。米エネルギー省は年間約14億ドル(約2,000億円)の予算で核融合研究に資金を提供するとともに、民間企業による商用利用の加速を後押ししている。

英国も同様に、大学や企業の人材による核融合の専門家集団を育て、官民のパートナーシップを促進している。著名投資家たちも核融合技術がもたらすチャンスを認識している。過去2年間で、50億ドル(約7,500億円)を超える民間資本が核融合企業へと流れているのだ。

さまざまな施策がいま、実を結びつつある。米国のCommonwealth Fusion SystemsHelion Energy、カナダのGeneral Fusionをはじめとする世界の複数の核融合企業が、自社の技術的アプローチを実証するための設備の建設を24年に開始する計画を発表している。

核融合産業協会(FIA)の最新の報告書によると、全核融合企業の半数以上が、30年代中に核融合エネルギーによる電力が公共送電網に供給されると考えているという。

23年5月、マイクロソフトはHelion Energyと電力購入契約を締結し、28年までに核融合発電による電力供給の開始を確実なものにした。同年8月には、Marvel Fusion(わたしが共同創業した核融合エネルギー会社)がコロラド州立大学と1億5,000万ドル(約220億円)規模の提携を発表した。これは、過去最大の官民パートナーシップだ。今後Marvel Fusionが構築していくのは、商用利用にフォーカスした唯一のレーザー核融合設備であり、それは世界で最も強力な超短パルスレーザーシステムを備えたものになる。

このような進歩のなか、さまざまな取り組みが実施されていく2024年には、核融合が遠い夢ではなく、未来のクリーンかつサステナブルなエネルギーとして実現可能なものであることが示されるだろう。

モリッツ・フォン・デア・リンデン|MORITZ VON DER LINDEN
シリアルアントレプレナー。ドイツを拠点とするレーザー核融合のスタートアップ、Marvel Fusionの共同創業者であり、最高経営責任者(CEO)。

EDIT BY MAMIKO NAKANO

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.51 特集「THE WORLD IN 2024」より転載。


雑誌『WIRED』日本版VOL.51
「THE WORLD IN 2024」

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