GOODBYE TO SCREEN

AI活用に特化したポスト・スマートフォン時代のデバイスが登場──特集「THE WORLD IN 2024」

スマートフォンの時代が終わり、画面のないAIデバイスが普及する未来がやってくる。スタンドアローンのウェアラブル端末「Ai Pin」が、その第一歩になるだろう。
AI活用に特化したポスト・スマートフォン時代のデバイスが登場──特集「THE WORLD IN 2024」

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世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2024年の最重要パラダイムを網羅した『WIRED』恒例の総力特集「THE WORLD IN 2024」。アップルを退職し、ウェアラブルデバイス「Ai Pin」を開発する企業Humaneを共同創業したイムラン・シャウドリとベサニー・ボンジョルノは、AI技術が引き起こす広範なパラダイムシフトによって、スクリーンのない未来がついに到来すると言う。


スマートフォンは、わたしたちとテクノロジーとの関係に転機をもたらした。コネクティビティ(接続性)とコンピューティングがあらゆる場所に浸透するだけでなく、非常にパーソナルなものになる新たな時代の到来を告げたのだ。現時点で約69億2,000万人という驚くべき数の人々がスマートフォンを使っており、これは世界人口の86%に相当する。これだけの数の人々が、コミュニケーションや仕事、遊びの在り方を大きく変えることになったのだ。

一方で、どんな技術にも一度は立ち止まって考える時期がやってくる。市場全体が飽和すれば自然と売り上げは頭打ちになり、イノベーションは小休止に入る。期待されていた毎年のアップデートはわずかになるだろう。わたしたちはS字カーブの頂点に達して、「次は何だ?」と問いかけるわけだ。そんな2024年、わたしたちはポスト・スマートフォン時代の到来を目の当たりにします。新世代のデバイスは人工知能(AI)の力を活用することに特化してつくられるだろう。

AIの可能性は非常に大きいものだが、スマートフォンは根本的にはAIを念頭に置いてつくられていない。わたしたちは「ChatGPT」などの登場によってその能力を目の当たりにしたが、こうした進歩を消費者向けデバイスに反映させるには、設計思想の全面的な見直しが必要だ。

アップル複合現実(MR)ヘッドセットを通して未来を見ており、「Vision Pro」では周囲に浮かぶウィンドウにデジタルなインタラクションが重ね合わされる。これに対してメタ・プラットフォームズは、最先端の仮想現実(VR)を推進している。VRの世界で人々がバーチャルコンサートに参加したり、没入型の教育コースを受講したり、完全にデジタルに描画された空間で会議を開いたりするわけだ。

どれも、ここ数年でテック企業がもたらした最も印象深く重要な変化の一例だ。しかし、本質的には依然としてユーザーをスクリーンに縛り付けている。つまり、ポケットや手の中にあったものが、眼球から数mm先のところまで迫ったにすぎない。その意味で、進歩を追求しながらも、実際にはわたしたちと現実世界との間に障壁を増やしているだけではないだろうか?こうしたテクノロジーは、日常的にそれを使うユーザーのためにAIの力を最大限に引き出しているだろうか?

環境に溶け込むデバイス

いま必要なのは異なるアプローチです。わたしたちが共同創業したテクノロジーとAIの企業であるHumaneは、スタンドアローンのウェアラブルデバイス「Ai Pin」を開発した。Ai Pinはスクリーンをもたずに光学認識を使用し、音声コマンドに反応する。その目的とは、ユーザーのそばで周囲の環境を注視しながら、AIがもつ能力のすべてを提供することにある。

スクリーンのない未来を信じているのは、わたしたちだけではない。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究部門は、特に健康分野向けにスクリーンではない表示装置の開発に取り組んでいる。AIと一体化したスマートデバイスが周囲の環境に溶け込むような技術は、今後さらに広く普及していくことだろう。アマゾンの無人スーパーを利用したことがあれば、すでに体験したコンセプトかもしれない。

拡張現実(AR)やVRはデジタルなレイヤーを通して現実をつくり変えることに重点を置いているが、AIファーストのアプローチはデジタル技術の介入を最小限に抑えながらも人間の体験を拡張するものだ。実際のところ、これは何を意味するのだろうか。

例えば、ランチに行けるかどうか友人に尋ねるようデバイスに指示すると、その友人と話すときの口調を再現したメッセージをAIが送ってくれる。外国で現地の人と会話する際には、AIに自分の声で同時通訳させることも可能だ。チョコレートバーをデバイスにかざせば、自分の健康状態を考慮して食べても問題ないか確認することもできる。こうしたインタラクションはスマートフォンでは不可能か、あるいは面倒な手順を踏まなければならない。

こうした新しいデバイスが約束することは、障壁をなくしたりプロセスをスピードアップしたりすることだけではない。AIの活用に特化して設計されたデバイスは、人間の能力をさりげなく拡張する役割を果たす。文脈を理解し、人々のインタラクションを促進するのだ。これから訪れるコンピューティング技術の波は、間違いなくこれまでで最もパーソナルかつパーソナライズされたものになることだろう。

スマートフォンが一夜にして姿を消すことはない。しかし、よりエキサイティングで新しいインタラクションの在り方が主役になるにつれ、徐々に影を潜めていくはずだ。2024年は、AIがわたしたちとテクノロジーとの関係により広範なパラダイムシフトをもたらす年になる。それはAIありきで設計されたポスト・スマートフォン時代のデバイスによって実現することだろう。

イムラン・シャウドリ|IMRAN CHAUDHRI
Humaneの共同創業者。1995年にインターンとしてアップルに入社、2017年までiPhoneなど多数の製品のインターフェイスとインタラクションのデザイナーを務めた。

ベサニー・ボンジョルノ|BETHANY BONGIORNO
Humaneの共同創業者。以前はアップルでソフトウェアエンジニアリングの担当ディレクターを務め、iOSとmacOSのすべてのソフトウェアプロジェクトを管轄した。

Edit By Daisuke Takimoto

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.51 特集「THE WORLD IN 2024」より転載。


雑誌『WIRED』日本版VOL.51
「THE WORLD IN 2024」

アイデアとイノベーションの源泉であり、常に未来を実装するメディアである『WIRED』のエッセンスが詰まった年末恒例の「THE WORLD IN」シリーズ。加速し続けるAIの能力がわたしたちのカルチャーやビジネス、セキュリティから政治まで広範に及ぼすインパクトのゆくえを探るほか、環境危機に対峙するテクノロジーの現在地、サイエンスや医療でいよいよ訪れる注目のブレイクスルーなど、全10分野にわたり、2024年の最重要パラダイムを読み解く総力特集!詳細はこちら


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