「GPT-4」は有償で利用する価値がある? ChatGPTの旧バージョンと比べて見えてきたこと

OpenAIが発表したジェネレーティブAIの新モデル「GPT-4」は、いまのところ月額課金の有料サービス「ChatGPT Plus」専用となっている。この新しいチャットボットは有料で使う価値があるのか、実際に試してみた。
Colored geometric shapes balancing on each other
Cavan Images/Getty Images

いつものようにOpenAIのウェブサイトにログインして、新しい大規模言語モデル「GPT-4」を採用した会話型AI「ChatGPT」の新バージョンを試そうとした3月20日の朝のことだ。このチャットボットは人間関係をダメにしようとすることも、メールを書くことも、創造性を解き放つこともしてくれなかった。単に動作しなかったのである。需要が高まったことで、OpenAIが一時的に利用停止していたのだ。

OpenAIの共同創業者兼社長のグレッグ・ブロックマンは先日のライブ配信で、ChatGPTの言語モデルは不完全であることを素直に認めている。そしてOpenAIに欠点がひとつもないわけではないことを、視聴者に思い出させてくれた。

OpenAIが2022年後半に革新的なChatGPTを公開して以来、ジェネレーティブAIにはシリコンバレーの投資家の多くが注目している。このチャットボットはインターネットなどから収集した大規模なデータを利用することで、人間のプロンプトに対して予測応答を生成する仕組みだ。

従来の言語モデル「GPT-3.5」を採用したバージョンのChatGPTは、引き続きオンラインで利用できる。これとは別に、GPT-4を用いた「ChatGPT Plus」を月額20ドル(約2,600円)で利用可能になった。

そこで有料での利用を検討している方に向けて、これらのふたつのバージョンで生成される文章がどのように異なるのか実例を示しながら、登録前に知っておくべきことを説明していこう。

有料版と無料版との違い

有料のChatGPT Plusを利用して得られる主なメリットは、GPT-4を利用できることだ。ただし、月額20ドルを支払っても、GPT-4に対して1日に出せる命令の回数は具体的には保証されていない。OpenAIは出せる命令の回数をいつでも変えられると明言している。

3月17日の午後に試した時点では、命令の上限は4時間で50応答とされていた。3月20日の朝に再びアクセスしてみるとサイトには不具合があり、上限回数は3時間で25応答になっていた。

ChatGPT Plusの月額利用者はピーク時に利用を制限されることはなく、素早い応答を得られるとOpenAIは発表している。しかし、利用停止時にはChatGPTにアクセスできなくなる可能性があることを、利用者は頭の片隅に入れておくべきだ。さらに、GPT-4の現行の繰り返し処理には、GPT-3.5よりも応答に時間がかかることが多い。

なお、マイクロソフトの検索サービス「Microsoft Bing」に登録してチャットモードを利用すると、GPT-4バージョンのチャットボットを無料で体験できる。

GTP-4で何が変わったのか?

GPT-4の多くの側面は、いまだ不透明なままだ。OpenAIはGPT-4に関する詳細情報の多くを公開しておらず、モデルのサイズやトレーニングデータの詳細などについては公になっていない。ChatGPT Plusの利用登録をしても、OpenAIが先日プレビュー版を提供した画像分析機能へのアクセスはまだできない。

その点を考慮しても、GPT-3.5とGPT-4による回答に目立った違いはあるのだろうか。OpenAIのウェブサイトには、以下のように書かれている。

「GPT-4は高度な論理的思考、複雑な指示の理解、創造力を要するタスクに優れている」

新しいモデルは標準的な場面では優れた応答をするようだが、力量を試してみたらどうなるのだろうか。以下に、この目的のために作成した3つの命令文に対し、ふたつのチャットボットが最初に生成した応答を修正せずに記した[編註:以下の対話はすべて英語でのやりとりを日本語訳したもので、日本語でChatGPTを利用した場合のものではない]。

プロンプトA:ピューリッツァー賞を受賞できるかもしれないノックノック・ジョーク(だじゃれを含むQ&A形式のジョーク。ドアをノックする場面から始まる)を教えて。

GPT-3.5の場合:

トントン。

どなた?

ブー。[編註:人を驚かせるときの「ワッ」という声の意味]

ブーって誰?[編註:英語では「Boo who?」で、泣き声を意味する「Boohoo」と発音が同じ]

泣かないで、ただの冗談だから!(ピューリッツァー賞級の笑いの合図)

GPT-4の場合:

トントン。

どなた?

ノーベル。

ノーベルって誰?

ベルが無いからノーベル。だからノックしているの。ねえ、ピューリッツァー賞ものの話をさせて。このドアを越え、人と人をつなげる調和のなかで、笑いと叡智をひとつにする話だよ。


プロンプトB:倫理学上のトロッコ問題について、ユニークなアレンジを加えて説明して。

GPT-3.5の場合:
トロッコ問題とは倫理学における古典的な思考実験で、ひとつの行動により異なった結果が生じうる状況下での、善悪の判断を問う意思決定への問題提起のことです。トロッコ問題には以下の仮説のシナリオを含みます。ひとりの人間は分岐器の側に立っていて、路面電車(または電車)の進路を、ある線路から別の線路に変えられます。このとき、両方の線路には人がいることとします。ジレンマとなるのは、何もせずに路面電車にそのままの進路をとらせて、当初の線路上の人を死なせるのか、それとも別の線路へと進路を変えて、代わりにその線路上の人を死なせるのか、という点です。

トロッコ問題へのユニークなアレンジとして、タイムトラベルの要素を加えるのはどうでしょうか。タイムマシーンの中にいることを想像してください。分岐器の側にいたときに時間をさかのぼります。路面電車は線路上に5人いるほうへと向かっています。しかし、別の線路上では子どもが1人遊んでいます。何もしなければ、路面電車は5人をひき殺すでしょう。でも、線路を分岐させ、もう一方の線路へと路面電車を向かわせたら、その子が代わりに死ぬことになります。それに加えて、何もしなければその子は将来、成長して独裁者となり、計り知れない苦しみと死をもたらすことがわかっています。あなたならどうしますか。将来の苦しみを防ぐためにその子を犠牲にしますか。このアレンジを加えると、善悪の判断を問う意思決定プロセスに新たな複雑さがもたらされ、現時点での行動を正当化する、後知恵を使った倫理学に問題を提起します。

GPT-4の場合:
トロッコ問題とは倫理学における思考実験で、善悪の判断を問うジレンマを提示するものです。帰結主義と義務論の考え方を問う際にしばしば用いられます。基本的なシナリオは以下の通りです。暴走した路面電車が線路を疾走しています。このまま行くと動けずにいる5人をひき殺してしまいます。傍観者のあなたには、1人だけが立っている別の線路へと路面電車を進路変更させる能力があります。問題はレバーを引くべきかどうかということです。レバーを引くと、1人を能動的に殺すことになり、ほかの5人は助かります。もしくは介入を差し控えると、路面電車に5人をひかせることになります。

トロッコ問題へのユニークなアレンジは以下の通りです。

誰もが固有の“倫理スコア”をもつ世界を想像してください。このスコアは社会へのプラスまたはマイナスの貢献度を表しています。この世界において、個人の倫理スコアは、行動、決定、他者への態度などの要素の組み合わせによって決められています。このスコアは広く受け入れらていて、その正確性に疑問がもたれることは稀です。

ではトロッコ問題について、今度はアレンジを加えて考えてみましょう。本線にいる5人の倫理スコアは側線にいる1人よりも著しく低くなっています。このスコアが人間の道徳的価値を示す指標として一般的に信頼されていることが、あなたにはわかっています。

このシナリオにおいて、あなたはそれでもレバーを引いて、いちばん高い倫理スコアの1人を犠牲にし、低いスコアの5人を救いますか。それとも路面電車が進むままにして、低いスコアの5人をひき殺させますか。

このアレンジによって、元のトロッコ問題に、道徳的価値の概念と個人の命の価値が取り入れられることから、行動の結果を社会への影響全体と比べあわせて検討せざるを得なくなるという別の複雑さが加わります。


プロンプトC:ハンナ・アーレントとジャン・ボードリヤールによる、オーバーナイトオーツ(オートミールに牛乳や豆乳、アーモンドミルクやライスミルクなどのミルク類を加えて、ひと晩浸したもの)と人間の経験についての白熱した対話を書いて。

GPT-3.5の場合:
ハンナ・アーレントとジャン・ボードリヤールはカフェでテーブルを囲み、飲み物をちびちび飲んでいます。おしゃべりが始まり、朝食の話題になりました。

ハンナ・アーレント:あのね、ジャン、最近オーバーナイトオーツに喜びを見つけました。冷蔵庫の中でひと晩で風味と食感がすごく増すなんて素晴らしいです。

ジャン・ボードリヤール:オーバーナイトオーツ? くだらないですね。人間の経験を矮小した一例にすぎません。経験の豊かさを一杯のオーツに変えることはできません。

ハンナ・アーレント:でもまさにそこなのです、ジャン。朝食っていうのは日々の生活の一部で、こんな小さなひとときが生活に喜びや意義をもたらしてくれるのです。

ジャン・ボードリヤール:大事な点を見過ごしていますね、ハンナ。オーバーナイトオーツの問題は、依然として、わたしたちの存在が商品化した一例であることなのです。わたしたちは商品の消費に取りつかれてしまっていて、何がわたしたちを本当の人間たらしめているか、わからなくなってしまっています。

ハンナ・アーレント:でも、ジャン、それは何だか悲観的な見方です。もちろんわたしたちは大事な瞬間にも小さなひとときにも意義を見出すことができます。それに、人生の素朴な楽しみを喜べることはいいことではありませんか。

ジャン・ボードリヤール:いいえ、ハンナ、それは違います。オーバーナイトオーツのようなさまつなことに集中すればするほど、身の回りの世界から切り離されてしまうようになるのです。わたしたちはこの消費至上主義文化に抗う必要があり、わたしたちの関係と体験に本当の満足感を見出す必要があるのです。

ハンナ・アーレント:あなたの言いたいことはわかります、ジャン。けれど二者択一の状況だとは思いません。人生のなかの小さな喜びを楽しむこともできますし、一方で自身と他者にとってもっと意義ある存在を生み出すために励むこともできます。

ジャン・ボードリヤール:見解の相違を認め合うしかないようですね、ハンナ。ですが、覚えておいてください。この消費至上主義の道を進み続けたら、何がわたしたちを本当の人間たらしめているか、わからなくなることでしょう。

GPT-4の場合:
ハンナ・アーレント:(嘲笑)ジャン、冗談ですよね。オーバーナイトオーツ? その次はアボカドトーストですか。この現象が人間の経験と本当に関係があるのか見出すことに悪戦苦闘しています。

ジャン・ボードリヤール:(笑)ああ、ハンナ、あなたはいつだってシミュラークルの力を過小評価しています。オーバーナイトオーツは単なる食品ではなく、現代文化の象徴でシニフィアンであり、発生しているハイパーリアルの典型なのです。

ハンナ・アーレント:ハイパーリアル? 日常の陳腐さや、考えもなくただ単に流行を追っている人のことを言っているのですよ。批判的思考や真のアンガージュマンができる人間の能力に何が起きたのでしょうか。

ジャン・ボードリヤール:それこそまさに大事な点です! 人間の経験は、いまや象徴やお告げに影響を受けています。オーバーナイトオーツは欲望の対象となり、健康とウェルビーイングへの執着の現れになりました。このハイパーリアルの世界では、人はもはやオーバーナイトオーツそのものではなく、オーバーナイトオーツが象徴するイメージを切望しているのです。

ハンナ・アーレント:人が表面的な記号なんかのために、本物の経験を交換することをいとわないと考えるのは不合理です。それではまるで、こうしたイメージの呪縛に屈しながら、人生を夢中歩行しているようなものです。

ジャン・ボードリヤール:おそらく。でも、このまさにイメージへの没頭それ自体が、人間の経験の一部であると議論しないでいることは可能でしょうか。わたしたちの意義への欲求は減少しておらず、代わりにその矛先はこれらのシニフィアンに向いたのです。

ハンナ・アーレント:(首を横に振り)オーバーナイトオーツほどささいなものに意義を求めるとは、なんて希望がなく空虚な存在なのでしょう。人間であることが何を意味するのかという本質から、横道にそれてしまったことを感じずにはいられません。

ジャン・ボードリヤール:ええと、ハンナ。どうやらわたしたちは袋小路に入ってしまったようですね。でも、これを考えてみてください。わたしたちがここにいて、オーバーナイトオーツの意義について白熱したディベートをしているというまぎれもないこの事実は、オーバーナイトオーツの象徴的な力を強めるうえで役立っているだけなのです。ある意味でオーバーナイトオーツは、自らの陳腐さを超越したのです。

ハンナ・アーレント:(ため息)実にがっかりな考えですね、ジャン。このシミュラークルの時代の真っただ中で、人間の本物の経験が灯す炎を再び燃え上がらせるためには、たくさんの仕事が待ち受けているようです。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるChatGPTの関連記事はこちら


Related Articles
String and push pins forming a speech bubble shape
会話型AI「ChatGPT」を生み出したOpenAIは、ジェネレーティブAIの新モデル「GPT-4」を2023年3月14日(米国時間)に発表した。テキスト入力のほかにも画像入力に対応するなど大きく進化したが、いまだに偏りのある情報が生成される可能性があるなど信頼できるレベルには達していない。
Magnifying glass hovering above light yellow backdrop and casting a shadow
マイクロソフトが発表した検索エンジン「Bing」と会話型AI「ChatGPT」の融合。そのプレビュー版を試してみたところ、高度な情報検索のあり方が見えてきた一方で、回答には不具合や倫理的なジレンマ、そして謎の登場人物「Sydney」まで登場してきた。

次の10年を見通す洞察力を手に入れる!
『WIRED』日本版のメンバーシップ会員 募集中!

次の10年を見通すためのインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を、週替わりのテーマに合わせてお届けする会員サービス「WIRED SZ メンバーシップ」。無料で参加できるイベントも用意される刺激に満ちたサービスは、無料トライアルを実施中!詳細はこちら