フロッピーディスクは絶滅しない? いまも世界中で現役という驚きの事実

かつてコンピューターの記憶媒体として広く使われていたフロッピーディスク。実はいまも旧式の航空機や産業機械、刺しゅう機器などに使われているが、ディスクの供給は確実に先細っている。
Floppy disk balancing on one corner against a purple background
Javier Zayas Photography/Getty Images

ミシシッピ州で2023年2月に開催されたロデオ大会の会場で、マーク・ニケイズは手持ちのフロッピーディスク(FD)がついに最後の4枚になってしまったことに不安を覚え始めた。

ニケイズの仕事は、州内の各地で開かれるホースショーに足を運び、特注の刺しゅうを施したジャケットやベストを売り込むことだ。「優勝者全員に贈られるジャケットに、所属するファームや馬の名前など、どんな刺しゅうでもお入れしています」と、彼は言う。

ニケイズは5年前に18,000ドル(約246万円)で中古の刺しゅう用ミシンを購入した。日本の刺しゅう機器専門メーカーであるタジマ工業が2004年に製造したミシンだ。コンピューターで作成した図案をこのミシンに転送する手段は、FDを介する以外になかったという。

「最初に8枚あったディスクのうち4枚が故障し、ひどく不安になりました」と彼は言う。「再フォーマットして正しく作動させようとしましたが、うまくいきませんでした。刺しゅうビジネスを続けられなくなるのではないかと心配でたまらなかったのです」

ニケイズの所有するタジマのミシンが製造された時期は、FDがまだ大量生産されていた時代である。日本では特にFDが広く普及しており、22年まで行政上の事務作業にも使われていたほどだ。

最後の1社となった大手メーカーは、11年にFDの生産を終了している。それでも刺しゅう用ミシンをはじめ、プラスチック成型機や医療機器、航空機に至るまで数多くの機械類が、先細りの末にいつの日か尽きるはずのディスクの供給を頼りに働き続けている。

作家で映画監督のフロリアン・クラマーは、ハリウッドのデジタル著作権侵害撲滅運動に関するコメントとして、「個人的にはフロッピーディスクは消えてなくなるべきだと思います」と発言している。クラマーは09年に同年のアカデミー賞ノミネート作品すべてをGIF動画に短くまとめ、2枚のフロッピーディスクに収めたアート作品を作成した人物だ。「客観的に見て、フロッピーディスクは環境に害を与える記録媒体です。しょせんはプラスチックごみなのですから。もはや存在さえ許してはいけないと思います」

旧式のジェット機にも欠かせないFD

いまだにFDを使っている企業の大半は、利幅の小さい事業を営み、時間的にも資金的にも機材を一新する余裕などない小規模な会社ばかりだ。

ジョージアの首都トビリシを拠点とする貨物航空会社Geoskyの保守担当マネージャーを務めるダヴィット・ニアザシュヴィリも、いまだにFDを使用している。Geoskyが所有する2機のボーイング747-200型機は、もともと英国航空(ブリティッシュ・エアウェイズ)が1987年に購入した航空機を譲り受けたものだが、製造から36年が経つこの中古機に重要な更新作業を施す際に、FDが必要なのだ。

「更新データがリリースされるたびに、3.5インチのフロッピーディスクにダウンロードしなければなりません。FDドライブ内蔵のコンピューターはもうどこにもないので、外付けのドライブを探さなければなりませんでした」と、ニアザシュヴィリは言う。「データの取り込みが終わったら、ディスクを機内に持ち込んでフライト管理システムを更新します。その作業には1時間ほどかかります」

更新内容には滑走路や航路標識の変更といった極めて重要なデータが含まれる。更新頻度は世界共通の日程で28日ごとと定められており、すでに29年まで日付が確定している。

「昨今はフロッピーディスクの確保が非常に難しくなっています。実はAmazonで購入しているのです」と、ニアザシュヴィリは明かす。「とても繊細で不具合を起こしやすいので、1枚を3回くらい使えればいいほうで、その後は廃棄することになります。そうするしかないのです。しかし、そのこと自体は問題ではありません。ディスクが入手できるうちは、まだ安心していられるのですから」

いまだ稼働中のボーイング747-200型機は世界全体で20機に満たず、その用途は貨物機か軍用機に限られている。米空軍が所有する6機のうち2機は大統領専用機のエアフォース・ワンとして運用されている。その6機にもまだFDが使用されているかどうかは不明だが、米軍が3.5インチ(幅90mm)のタイプよりさらに旧式の8インチ(幅200mm)のFDを核兵器の武器庫内で19年まで使用していたことは事実だ。

1980年代まで使われていた5インチ(正式には5.25インチ=幅130mm)のフロッピーディスク。3.5インチ(幅90mm)とは異なり硬いケースには覆われておらず、中央に磁気ディスクがむき出しになっていた。これよりさらに大きい8インチ(幅200mm)のディスクもある一方で、「クイックディスク」など小型のディスク規格も存在していた。

Photograph: Science & Society Picture Library/Getty Images

ボーイング747767シリーズの新型機、エアバスA320の旧型機、90年代まで製造されていたガルフストリームの一部のビジネスジェットなど、民間航空機のなかにもFDを使用する機種がいくつか存在する。データ転送手段をFDからUSBスティックやSDカード、あるいはワイヤレス送信へと変更することは可能だが、1機につき数千ドルのコストが必要になる。しかも旧式とはいえ問題なく機能しているものに、わざわざ変更を加えることになってしまう。

「技術の進化によって生まれた奇妙な袋小路で身動きがとれなくなる現象は、ほかにもいくつか起きています。航空業界で何より重んじられるべきは信頼性だからです」と、カリフォルニア州を拠点とする航空機整備の専門会社ACI Jetのブライアン・フォードは語る。「PCカードZIPディスクといった記憶媒体もいまだに使われていますが、これらも徐々に入手しづらくなっています。航空機は設計サイクルがかなり長いので、ほかの一般的な電子機器に大きく後れをとっている印象を与えがちですが、その差は縮まりつつあります」

注目されるFDドライブのエミュレーター

ロデオ大会で不安を覚えたことをきっかけに、ニケイズはついに設備の更新を決意した。といっても、ミシンを丸ごと新品に交換したわけではない。USB接続のFDドライブ・エミュレーターを導入したのだ。1台275ドル(約37,000円)ほどのこの装置は、シンプルなUSBポートでFDドライブを代用する仕組みだが、製造はカスタムメイドの受注生産に限られ、扱う企業はごくわずかである。

「わたしたちの主な販売先は、刺しゅう用ミシンや、金属や木材の切断に使われるCNC切断機を扱う企業です」と、テキサス州を拠点とするエミュレーター販売企業であるPLR Electronicsのジョシュア・パスカルは言う。

PLR製のエミュレーターは、数種類の基本モデルで600種近い機械類に対応できるという。使用可能な機械には、数十種類に及ぶ刺しゅう用ミシンやCNC切断機のほか、織機、舞台照明操作盤、回路基板プリンター、オシロスコープ、デジタルプリンター、心電計、ベクトル信号分析器、射出成型機、チューブやパイプ用の曲げ加工機、ダイシングソー、ワイヤー切断機、プラズマ切断機、金属プレス機、サンプリング音源再生装置、ピアノやキーボード等の楽器、ソニー、パナソニック、NECといったメーカーのコンピューター用FDドライブなどが含まれる。

こうした機械の大半は価格が数千ドルもするうえに、ものによってはさほど古びていないので、持ち主はできるだけ長く使いたいと思うだろう。「USBが優勢の時代になっても、こうした機械の多くはUSB接続に変更されていませんでした」と、パスカルは言う。

「FDドライブはしぶとく存在し続けています。刺しゅう用ミシンはその最たる例です」と、パスカルは続ける。「結果的にこうした機械の持ち主たちに設備更新を促すという大きなビジネスチャンスが、市場に残されたのです」

客がPLRに依頼して設備を改善しようとする理由は、FDが買えなくなったことだけではない。交換用のディスクドライブも入手できなくなっているのだ。

「エミュレーターの販売を始めた12年前でさえ、FDドライブはかなり入手困難になっていました。いまの状況はまったく予想外です」と、パスカルは言う。売り上げは徐々に減っているものの、エミュレーターはいまでも年間2,000~3,000台も売れているという。

この世から消えることはない?

フロッピーディスクが、この世から消えることはないのかもしれない。「1910年につくられた蓄音機を探し出しては修理やメンテナンスに精を出す人たちがいることを考えると、フロッピーディスクが完全に姿を消してしまうとはどうしても思えないのです」と、コロラド大学ボルダー校の教授でメディア考古学研究所(MAL)の設立者でもあるロリ・エマーソンは言う。

FDを頼りに稼働している産業機械の耐用年数は30~40年だが、その多くはまだ20年ほどしか使われていないと、さまざまなフォーマットのFDの調達と販売に特化したウェブサイトFloppydisk.comを運営するトム・パースキーは語る。

パースキーはカリフォルニア州の倉庫に数十万枚のFDを保管しており、そこから1日に約1,000枚を売り上げる。大半が3.5インチ型で、新品も多いという。20~25年前には1枚わずか0.07ドル(約10円)のFDを箱買いしていたと語るパースキーだが、いま彼が販売しているFDの価格は最も一般的な3.5インチ型でも1枚1ドル(約137円)だという。

供給が滞れば当然の結果として価格は上昇するが、この状況がさらに進めば供給そのものが大きく制限されるだろう。そうなると、経済的な理由から設備の改善や交換を余儀なくされる人が増え、結果的に市場が自壊することになる。

こうしたなか、“絶滅寸前”のFDが少なくとも1種類はありそうだ。IBMが1971年に販売を開始した旧式の8インチFDである。「もういくらも残っていません。在庫を10枚1組にして、1枚当たり5ドル(約685円)で売っている状況です」と、パースキーは言う。ただし、3.5インチFDに関しては、世の中にあと何枚残っているのかまったくわからないという。

「10~30年前に製造されたディスクの在庫が世界中に存在するはずです」と、パースキーは言う。「在庫の数はもう決して変わりません。わたしたちはそれを毎日ひたすら消費しています。どれだけ大量に残っているのか見当もつきません。おそらく驚くほど膨大な数のディスクが存在するはずですが、残念なことにそれらは分散しています。ひとりで50万枚のディスクを所有する人はいませんが、10枚入りのボックスをもっている人が50万人いてもおかしくはありませんよね」

パースキーは、シンギュラリティが起きる日まで待つつもりはない。現在73歳の彼は、仕事を続けるとしてもせいぜいあと5年だろうと語る。それに自分の会社を継ごうとする“大ばか者”がいるとも思っていない。「空港まであと数十キロメートルの地点で飛行機の燃料が尽きたとしても、乗ってしまったからには着陸させることが自分の務めだと思っています」と、彼は言う。

WIRED US/Translation by Mitsuko Saeki/Edit by Daisuke Takimoto)

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