Web3、クリエイターエコノミー、リアルメタバース……その実装への一歩が踏み出された:WIRED CONFERENCE 2022完全版レポート DAY2

「REALITIES(複数化する現実)」をテーマに掲げた「WIRED CONFERENCE 2022」DAY2は、台頭するWeb3テクノロジーを手に、目前に迫ったミラーワールド/メタバース時代に求められるインフラやツールを実装していくハンズオン型カンファレンスとして、深夜までその盛り上がりが続いた。
Web3、クリエイターエコノミー、リアルメタバース……その実装への一歩が踏み出された:WIRED CONFERENCE 2022完全版レポート DAY2
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「手を動かし、いざ実装!」を掲げ、2日間のワークショップフェスティバルとして開催された「WIRED CONFERENCE 2022」。『WIRED』日本版が長らく掲げてきたタグライン「IDEAS + INNOVATIONS」を、未来を想像し(IDEAS)、実装する(INNOVATIONS)と読み替え、その一歩を踏み出すきっかけとしての数々のトークセッションに続き、ワークショップでは参加者一人ひとりがアイデアをかたちにすることで、自らの手に「未来」を取り戻す一日となった。

リジェネラティブな地球の未来を実装するためのアイデアを探ったDAY1「FUTURES 〜 Regenerating the Whole Earth」に続き、DAY2のテーマは「REALITIES 〜 Building Resilient Multiverse」。メタバースミラーワールドがますます日常となり、社会を支える分散型の意思決定システムや、公共やコモンズを豊かにするWeb3テクノロジーの実装が求められていくなかで、「REALITY(現実)」が複数化/多層化するマルチバースの時代に必要なテクノロジー、ツール、インフラを考えていった。

Web2.0以前より連綿と続いてきた自律分散型社会への希求、あるいは次なるフロンティアとして期待されるメタバースやミラーワールドの前景化を前にして、いまわたしたちは何を、いかにして実装するべきなのか? 「REALITIES」というテーマに多角的に迫ったDAY2を振り返っていこう。

クリエイターの黄金時代が(再び)やってきた

情報が氾濫する時代において、究極のラグジュアリーとは「意味」と「文脈」である──。1993年に米国西海岸のサンフランシスコで産声をあげた『WIRED』の創刊の辞を引きながら、「新しい文脈をどう伝えるか。それは『WIRED』の使命だ」と語った編集長・松島倫明のOPENING TALKでDAY2は幕を開けた。

(写真左より)本カンファレンスの企画を担当した『WIRED』日本版エディターの岡田弘太郎、編集長の松島倫明。松島による挨拶とともに、一日の楽しみ方が語られた。

PHOTOGRAPH: TIMOTHEE LAMBRECQ

かつて20世紀前半に哲学者ヴァルター・ベンヤミンが『複製技術時代の芸術』で提起したものと同じ問いが、いまメタバースやミラーワールドで生起しているのではないか? つまり、誰もが複数の現実を抱えながら、それらを一つにまとめることなく暮らしていくためには、どうすればいいのか?

「REALITIES〜 Building Resilient Multiverse」というテーマで考えたい問いを松島が提示したのち、DAY2最初の目玉であるKEYNOTEへ。クリエイターエコノミーに関する世界で最も優れた思想家/オピニオンリーダーとして知られるベンチャーキャピタリストのリ・ジンによる特別セッション「100 TRUE FANS & THE OWNERSHIP ECONOMY──Web3が書き換える、クリエイターの生存戦略」だ。

そしてここでスペシャルゲストとして、会場に『WIRED』創刊エグゼクティブエディターのケヴィン・ケリーが登場。松島が創刊の辞を紹介した矢先、その当事者が登場することになった。

デジタルテクノロジーにかつて託された夢のひとつは、中間業者がいなくなり生産者(ここではクリエイター)とファンが直接つながり、収益化を図れることだ。その様相を、稀代のビジョナリーであるケヴィン・ケリーは、「 芸術家であれ、ミュージシャンであれ、作家であれ、起業家であれ、幅広い人々がインターネットにより、自分たちの創造したもので生計を立てることができるようになるだろう」と予言していた。その“予言の書”となったエッセイ「1000人の忠実なファン」は広く読まれ、リ・ジンはその論考をアップデートするかたちで2020年に「100人の忠実なファン」を執筆した。

いま、クリエイターにとっての黄金時代がWeb3やNFTというツールによって再び訪れようとしている。そんななか、ふたりの邂逅はインターネットとクリエイティブを取り巻く最も重要な論点を考える場になることを意味していた。

関連記事:1,000人の忠実なファンから100人の忠実なファンへ:SZ Newsletter VOL.156[WIRED CONFERENCE]

(写真左より)松島倫明(『WIRED』日本版編集長)、リ・ジン(ベンチャーキャピタリスト)、ケヴィン・ケリー(『WIRED』創刊エグゼクティブエディター)

PHOTOGRAPH: TIMOTHEE LAMBRECQ

ケヴィン・ケリーは08年に自らが書いた論考を振り返りながら、「昨今は当時想像もできなかったスケールで、少なく濃いファンたちがクリエイターを支えるかたちが実現している」と語る。これにリ・ジンも「1,000人なのか100人なのかが重要なのではなく、複層的でレイヤーがより増えているということだと思います」と応答しながら、Web3テクノロジーによって後押しされる、クリエイターエコノミーの現在地と可能性について議論が交わされた。

議論はクリエイターエコノミーの課題にも及ぶ。Web3テクノロジーと結びつくことにより、投機的なモチベーションで支援する人が増え、クリエイターのバーンアウトにつながる問題も指摘。

そうしたネガティブな側面にもしっかり目配せしつつ、少数のトップクリエイターによる独占ではなく「クリエイティブ・ミドルクラス」が登場することへの期待に議論は及んでゆく。最後はWeb3テクノロジーによってファンが「コラボレーター」としてクリエイターと関わることが可能になり、リ・ジンの言葉を借りればユーザーがオーナーになれる「オーナーシップエコノミー」が実現していくだろうという展望を共にした。

「ユーザーの好みもクリエイターも、より多様になるべきです。しかし、現行のプラットフォームの多くは、少数のクリエイターによる寡占を促すデザインになっていしまっている。Web3テクノロジーを活用し、クリエイターたちがもっと効果的にニッチな関心に対して訴求していけるようになるべきですし、わたしは『オーナーシップエコノミー』の推進によりそれを後押ししているのです」(リ・ジン)

「リさんの取り組みは非常に重要です。ユーザーがクリエイターと一緒になって創作に参加できる、コラボレーションを誰もがアクセス可能なものとしていくか。今後はそれが問われていくでしょう」(ケヴィン・ケリー)

関連記事:クリエイターエコノミーは100人で成り立つ:リ・ジン──特集「THE WORLD IN 2023」

ゲームで遊びながら「観察」の技法を体得する

リ・ジンとケヴィン・ケリーによるセッションの後は、「SPECIAL SESSION:GAME SAMPO!──出張!ゲームさんぽ ×『WIRED』日本版公開セッション」。

「世界の新しい見方を獲得する」をテーマに、多分野の専門家とゲームをプレイするYouTubeの人気企画「ゲームさんぽ」とのコラボ企画だ。主宰のなまぐさ坊主「なむ」と編集者「いいだ」、さらにはアーティストのなみちえとブロックチェーンエンジニア/思想家の落合渉悟も参加。アクションゲーム『ウォッチドッグス レギオン』をプレイしながら、ゲーム空間における違和感や気付きを発見していく体験を会場で共有し、世界を観察する目を養おうという趣旨だ。

「観察」によって見えてくる違和感や気付きが、新しい事業やサービスの種となるからこそ、実装に挑む前にまずはその練習をする必要がある。いまオープンワールドゲームを筆頭としたゲームが「メタバース」と読み替えられるなかで、今回はゲーム空間がその観察の舞台となった。

(写真左より)なむ(ゲームさんぽ)、いいだ(ゲームさんぽ)、落合渉悟(ブロックチェーンエンジニア)、なみちえ(アーティスト)、岡田弘太郎(『WIRED』日本版エディター)

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近未来のロンドンの街を舞台に、街を行き交う人々を自由に仲間に加えてレジスタンスを築き、ハッキング、潜入、戦闘を繰り広げるこのゲーム。前セッションとは打って変わって、終始和やかでリラックスした雰囲気で進行しつつも、カルチャーやエスニシティ、またセキュリティや格差、市民自治といった観点から、なみちえと落合はゲームのディテールに鋭く切り込んでゆく。

例えば、スカウト候補の人々の属性やデータを覗ける画面を見ながら、こんなやり取りが起こった。

「中央管理されたサーバをハックしてスカウト対象のデータを見ているはずですが、これだけ管理されていたらカルチャー統制も強そうですよね。例えば市民のファッションはどうなっているのか、見てみたいです」(落合)

「わたしとピアスを空けている位置が同じですね(笑)。現代的でリアリティのあるファッションで、友だちになれそうです。ストリートアーティストもいるのですね。抗議運動や学生運動が盛んではない日本とは対照的です」(なみちえ)

いまこそ“コーディネーションの失敗”にアプローチせよ

白熱のあまり、早くも時間は押し気味に。予定より短い時間のLUNCH BREAKを挟み、午後は怒涛のトークセッション3連続。40分×3の濃密な議論が畳み掛けられ、来場者は「実装」のためのインプットをインテンシブに行なうことになった。

まずは「公共」というレイヤーから考える、「TALK SESSION 1:REGENERATIVE CRYPTOECONOMICS──『公共』のためのWeb3テクノロジーの実装」。経済や投資の側面ばかりが注目されるWeb3において、格差や気候変動といった社会レベルでの“コーディネーションの失敗”にアプローチする「リジェネラティブ・クリプトエコノミー」の分野において、新しい公共システムの構築を目指すプレイヤーとともに「Web3革命」の真価を探っていった。

(写真左より)落合渉悟(ブロックチェーンエンジニア)、安田クリスチーナ(マイクロソフト)、高木俊輔(Civichat)

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先のセッションにも登場した、DAO型自治プロトコル「Alga」ファウンダーの落合、分散型IDなどデジタルアイデンティティ事業に長く取り組んできた​​安田クリスチーナ、チャットボットの質問に答えていくだけで自分に合った公共制度が分かる「Civichat」を立ち上げ、近年は“行政府としてのPubic chain”をテーマに活動する高木俊輔が集結。最前線で試行錯誤するトップランナーたちの目線から、公共システムの構築に向けたWeb3テクノロジーの活用可能性について、手加減なしの激論が交わされた。

関連記事:DAOによる、政治家のいない民主主義へ:落合渉悟が描く、行政DX・立法DXへの道筋

DID(デジタル分散型ID)実装にあたっての難点、混同されやすいDIDと「分散型ID」の違い、「公共財」としてのブロックチェーンの可能性、国家がデジタル公共財に投資することの難しさ、​​二次の資金調達(Quadratic Funding)の意義、公共領域のWeb3テクノロジー活用の最新事例……最前線で実践する3人ならではの濃密な議論が展開されたが、とりわけ最後に安田が投げかけた問い──「DAO(分散型自律組織)の世界は、インセンティブとして使える資産と知識量の勝負になっていて、参入障壁を感じることもある」──と以下の応答は、とかく礼賛されがちなWeb3テクノロジーとの向き合い方を再考させられるものだった。

「DAOでやろうとしているのは、エージェンシーリスク、つまり何かを任せたときに必ず生じてしまうリスクをどう処理するか、ということだと思っています。クリプト技術の現在地は、任せていくためにリスクテイクをしようとしている段階に見える。ただ、ぼく個人としては一人一票の世界しか興味がないので、少し横目に見ているかたちにはなりますね」(落合)

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ミラーワールド、あるいは「リアルメタバース」実装に向けた道筋

次に、身近な「街」を起点とした、「TALK SESSION 2:REAL METAVERSE──2030年、リアルメタバース実装完了。XRが拡張する都市や地域の未来像」。

本セッションでは、リアルな身体や空間とテクノロジーを結びつけ、メタバースをリアル世界に開いていく──そうした「リアルメタバース(『WIRED』的な表現で言えばミラーワールド)」が実現する未来像が探索された。

(写真左より)長谷川倫也(Snap日本代表)、熊谷俊人(千葉県知事)、渡邊信彦(Psychic VR Lab取締役COO)、小谷知也(『WIRED』日本版副編集長)

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登壇したのは、まちづくりのDXなどにも関わってきたPsychic VR Labの取締役COO・渡邊信彦、実際に行政府を統べる千葉県知事の熊谷俊人、カメラを通じてわたしたちの暮らしをリアルメタバースへとつなぐSnap日本代表・長谷川倫也の三氏。「そもそも民主主義とは?」というラディカルな問いにまで潜りながら、XRによって拡張された地域や都市空間が、人口減少や気候変動といったさまざまな課題に対して、いかにしてアプローチ可能かを議論した。

バーチャルに没入する体験である「バーチャルメタバース」ではない、日常にバーチャルをもってくる「リアルメタバース」。渋谷の街におけるその実装に取り組むPsychic VR Labの実践を起点として、政治に対する「手触り感」を醸成する方法、選挙以外の政治回路の実現、災害時の危機対応などとメタバースの掛け合わせによる可能性が論点となった。

「Web3と公共」について語られたTALK SESSION 1と対になるようなセッションで、とりわけ行政サイドから熊谷が提示した議論は、現実的な実装方法を考えるうえで示唆深かった。

「いま住民のみなさんが積極的に行政の情報にアクセスしない限り、どこの議会でどんな議論が行なわれているのかはわかりませんよね。でも、XR技術を活用すれば、例えば公園で遊んでいるときに、そこの遊具に関する議論が空間にひも付いて表示され、自分も議論に参加する体験を提供できるかもしれません。人々が暮らしているリアル空間を起点に、住民と行政の距離を縮めていけるかもしれないと思うんです」

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「100人の忠実なファン」への応答

WIRED.jpでも人気連載『Let's Meet Halfway』を執筆する音楽プロデューサーのstarRo。

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そして最後は、リ・ジンとケヴィン・ケリーのKEYNOTEに呼応する、「TALK SESSION 3 CREATOR ECONOMY『100人の忠実なファン』の時代へ:ファンダム、Web3、経済をめぐる対話」。

なみちえ、音楽プロデューサーのstarRo、哲学・キリスト教思想を専門として昨今は「何かを神聖視する心理」に注目する研究者・柳澤田実が登壇した。KEYNOTEの内容を受けて、主にアーティスト側の視点からリアリスティックな実感に基づき、これからのアーティストとファンの関係性のあり方を探る。

哲学やキリスト教思想を専門としながら、現代のポップカルチャーを鋭く批評してきた関西学院大学准教授の柳澤田実。

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アーティスト目線で考える「True Fan(忠実なファン)」の意味から、一人の人間としての多面性とアーティストとしての見え方の相克など、実存的な議論が展開された。さらにはWeb3テクノロジーも踏まえた、「True Fan」とつながるための経済モデルについての議論へと発展していった。そこでなみちえはコンテンツ提供者とファンを直接つなぐソーシャルサービス「OnlyFans」を使っている実感も込めながら、「True Fan」とつながるためのコンテンツに関して、こんな示唆的な発言を残した。

アーティストのなみちえは、2年ぶりのWIREDカンファレンスへの出演となった。

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「OnlyFansでの支援者は数人ですが、とても濃密なかかわりになっています。このサービスはアダルトコンテンツに寄りがちな構造的問題を抱えていますが、わたしは普段メディアで見せる外向的な自分とはギャップのある、パーソナルな内面の語りを見せている。言わば“魂のアダルトコンテンツ”を提供している感覚があるんです」(なみちえ)

関連記事:「ファンダム」の未来はどこにある? 「聖なる価値」からその課題と展望を考える──柳澤田実・特別寄稿

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手を動かして学ぶ、3時間のワークショップ

会場も着実にヒートアップしていくなか、COFFEE BREAKを挟んで少しクールダウンしたら、そのインプットをアウトプットに変換してゆく「実装」の時間だ。

3つの部屋にわかれ、講師やファシリテーターとともにワークショップは進行していった。

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本カンファレンスのワークショップ設計を手がけたワークショップデザイナーの淺田史音が、「楽しむための心得」(①思考と言葉にブレーキをかけない ②複数化する未来を身軽に乗りこなす ③次の一歩を踏み出すための燃料を掴む)を共有したのち、参加者たちは自ら申し込んだワークショップのブースへと散らばった。3時間という、長いようで短い時間で、「実装」の足がかりを探る。

先のTALK SESSION 1を下敷きにしたのが、「WORKSHOP 1 BUILDING THE NEW COMMONS:誰のためのWeb3? 『公共』と『コモンズ』を豊かにするブロックチェーンを体験し、実装せよ!」。落合によるインプットを行なったうえで4〜5人ずつのグループに分かれ、Web3テクノロジーを活用し、公共財やコモンズを豊かにする事業プランをそれぞれ考案。日本酒、カツオ漁業、SNS発言への署名、ファクトチェック、下水道……多種多様な来場者属性を反映したさまざまなアイデアが生み出された。

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特筆すべきは、各グループのアイデアをプレゼンした後にワークショップの参加者全員で行なった、事業プランへの投票だ。多数決、二次の投票(Quadratic Voting)、熟議の3パターンで、最も優れたアイデアを審議。奇しくも1位はすべて同じ結果となったが、2位以降の内訳は異なり、それぞれの意思決定手法の特性を身をもって実感することとなった。

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TALK SESSION 2の議論の延長線上として行われたのが、「WORKSHOP 2:REAL METAVERSE 2030 SPONSORED BY PSYCHIC VR LAB 2030年の渋谷をXRで拡張せよ!『リアルメタバース』実装後の都市を描くワークショッププログラム」。「リアルメタバース」の世界が実現したとき、渋谷という街でいかなるXR活用がありうるか、こちらも3〜4人ずつのグループに分かれてプランを練った。

各グループには渋谷の街の写真数枚が配られ、それを契機に具体的なイメージを膨らませたのに加え、折り紙を使って手を動かしながら、立体的なイメージも探る。「シナリオ担当」によって、活用時のストーリーも考案。屋上庭園や危険予測の脱出ゲーム、歴史や文化を学ぶコンテンツ、SNS映えなど、参加者たちの実感に基づいたユニークなアイデアがたくさん生み出された。

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そして「WORKSHOP 3:MUSIC NFTs 101 FOR ARTISTS もしもあなたがミュージシャンの『Web3プロデューサー』だったら?」は、TALK SESSION 3の内容をもとにしたワークショップだ。アーティストやクリエイターを真にエンパワーするためのWeb3テクノロジーの活用法を探るべく、先にセッションで登壇したばかりのstarRoのWeb3プロデューサーになりきり、本人の目の前でプロデュースプランを考案するというもの。

関連記事:Web3による「音楽」の進化。その3つの方向性:starRo連載『Let's Meet Halfway』番外編

まずはstarRo自身の生い立ちや経歴、アーティストとしての価値観についてじっくりインタビューしたうえで、3〜4人ずつのグループに分かれ、アーティストとファンの深いつながりを構築するためのNFTの活用について参加者たちはアイデアを議論した。フィジカルとデジタルをつなぐアイデアから、ライブ中のアーティストとファンの心拍数が同期したらNFTをゲットできるというシステムまでユニークなものが飛び出した。

プレゼンにあたっては、演劇や紙芝居、イラストといった非言語的な表現も最大限に活用された。starRo自身も「自分が本当に伝えたかった『結局、何がしたいか』がしっかり伝わっており、よく理解してもらえたと感じる」と振り返る。

祭りは深夜まで続く。激論と音楽に身を委ねるアフターパーティへ

ワークショップが終わると、CLOSING TALKへ。松島はカンファレンスをこう締めくくる。

「『WIRED』読者の中には、2016年刊行のブロックチェーン特集を学生時代に読んでいまやWeb3スタートアップを始めて活躍されている方もいて、アイデアとイノベーションを受け取った人々が『実装』にも取り組んでいることを何よりも嬉しく思っています。2〜3年後かもしれないし、もしかすると30年後かもしれないけれど、今日もこれだけ多様なアイデアと交流が生まれ、その熱狂からは将来何かが生まれていくだろうと確信できるカンファレンスになりました」(松島)

カンファレンスはこれで終了となったが、この後にはさらなるイベントが用意されていた。

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カンファレンスホール「Dragon Gate」を後にし、向かう場所は同じ渋谷パルコ内のクリエイティブスタジオ/イベントスペース「SUPER DOMMUNE」。現代日本のアートシーンのなかでも際立った存在感を放つ宇川直宏が率い、世界に溢れているサウンド&アートストリーミング、また、カルチャーストリーミングの雛形をつくったと言える日本初のライブストリーミングスタジオ「DOMMUNE」がリニューアルオープンされた場所だ。

starRoが参加したトークセッションを聞き、ワークショップではそのマネージャーになりきりながらもアーティストとしての哲学に深く触れたからこそ、DJパフォーマンスの聞こえ方も大きく変わったはずだ。

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渋谷の街を一望できるひらけたカンファレンスホールから一転、キャパ100人の小さなハコへ。starRoによるDJに身を任せ、ドリンク片手に思い思いに身体を揺らすところから、パーティーはスタートした。

なみちえのライブパフォーマンスには、さまざまなゲストが登場。コラボレーターのRICK NOVAが登場し、 「Bye-Bye King」が披露されたのち、Marukidoとあゆが登場し「イリーギャル」のパフォーマンスも。

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DJが終わると、どこからかさざ波の音が聴こえてくる。さらには、力強い女性ボーカルの歌声も乗っかる……トークセッションにも登壇した、なみちえによるライブパフォーマンスだ。1年半ぶりだという単独ライブ、しかも『WIRED』に向けた特別な選曲、小さなハコでの至近距離のパフォーマンスという贅沢な体験。

PHOTOGRAPH: TIMOTHEE LAMBRECQ

スペシャルライブが終わり、パーティーの空気感もだいぶ温まってきたタイミングで、トークセッションが幕を開けた。starRoとなみちえはもちろん、柳澤田実、川崎和也といった登壇者、編集部メンバー、そしてこの場のオーナーである宇川がかわるがわる登場。カンファレンスの“応用編”ともいえるライブ感溢れる時間となった。

そしてもうすぐで日付も変わるという頃、再びDJタイムが始まる。ヒップホップユニット・Dos Monosのトラックメイカー/ラッパーの荘子itによるDJだ。深夜の渋谷PARCOで、登壇者と運営、来場者が入り混じって再び音楽に身を任せながら、カンファレンスは幕を閉じた。

荘子itによるDJは、なんと「WIRED CONFERENCE 2020」のコンセプトムービーのために描き下ろしてくれたトラックからスタート。約1時間ほどのトライバルなビートライブが披露された。

PHOTOGRAPH: TIMOTHEE LAMBRECQ

「未来を実装するメディア」をタグラインとして掲げてきた『WIRED』日本版が、この時代に最も重要だと考えるテーマやコンセプトについて参加者とともに考え、実装への一歩を踏み出した2日間のカンファレンス。

参加者一人ひとりのアイデアやイノベーションがかたちになり、カンファレンス会場の熱狂から次なる社会を準備する何かが生まれるのではないか──。そう未来に期待を寄せたくなる2日間であった。ミラーワールドやメタバースの実装が目前に迫っているからこそ、その日は思いのほか近いのかもしれない。

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カンファレンス会場のMEETUPブースでは、サプライズゲストのケヴィン・ケリーに自らの事業について説明する方も。

PHOTOGRAPH: TIMOTHEE LAMBRECQ

(Text by Masaki Koike/Edit by Kotaro Okada)


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