Web3“バブル”が弾けたら何が残る? 「公共」と「コモンズ」を豊かにするWeb3の真価を体験できるワークショップを開催

投資や金融の側面ばかりが注目されるWeb3だが、その真価は「民主主義」から「オープンソフトウェア」の開発まで、人々の協業の仕組みを再設計できる点にあるはずだ──。WIRED CONFERENCE 2022にて「『公共』と『コモンズ』を豊かにするWeb3テクノロジー」をテーマにトークセッション及びワークショップを担当するブロックチェーンエンジニアの落合渉悟と考える、Web3革命の真価とは?
Web3“バブル”が弾けたら何が残る? 「公共」と「コモンズ」を豊かにするWeb3の真価を体験できるワークショップを開催
PHOTOGRAPH: Daniel Grizelj/Getty images

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WIRED CONFERENCE 2022 開催!

【10月14-15日開催】WIRED CONFERENCE 2022
手を動かし、いざ実装! ハンズオン型カンファレンス開催!

ウェルビーイング、ミラーワールド、リジェネラティヴ、Web3……「未来を実装するメディア」を掲げ、そのための最重要コンセプトをいち早く社会に問うてきた『WIRED』日本版が満を持して開催する、「学び、手を動かし、仲間をつくる大人のためのワークショップ・フェスティバル」。

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コーディネーションの失敗を乗り越えろ

投資や金融の側面ばかり注目されるWeb3だが、いま気候変動や格差といった課題や、公共課題を解くべくWeb3のテクノロジーを活用するプレイヤーが登場している。

例えば、オープンソースのWeb3プロジェクトに資金提供を行なう組織GitCoinの創設者ケヴィン・オウォッキは、2022年に出版した著書『GreenPilled: How Crypto Can Regenerate the World』にて「リジェネラティブ・クリプトエコノミクス」という考え方を提示する。

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オウォッキは、環境問題や民主主義の実践といった現代のウィキッド・プロブレム(厄介な問題)の原因は、人々が公共財へアプローチする際のインセンティブ設計が整備されていないこと(=コーディネーションの失敗)にあるという。

本来は、民主主義の実践からオープンソースソフトウェアの開発まで、当事者性が高い人々が意思決定権を多くもち、課題解決に取り組むのが理想である。しかし現行の社会システムは既得権益や汚職、ポピュリズムの台頭などさまざまな課題が発生する可能性をはらんでいる。Web3やDAOは公共財やネットワーク財へ取り組むためのインセンティブを再設計することで、これらの課題を解決し、分散型社会の理想像が実現できると主張したのだ。

2013年登場した汎用型ブロックチェーンプラットフォーム「Ethereum(イーサリアム)」も、それに近しい思想をもっている。イーサリアムファウンデーションのエグゼクティブディレクターを務める宮口あやは『WIRED』日本版のインタビューにて、次のように述べる。

「身の回りにあるインフラや生活に根付くソリューションは、いままでは政府に頼るか、少なくとも大企業のプラットフォームの影響を受けながら制限される状況での開発や利用しかできなかった。それがイーサリアムでは、外からの政治的・経済的な干渉を最小限に、ガバナンスも自分でデザインできる。つまり一個人で、技術とソリューションの間にある人間のコーディネーションをつくりあげることができる」

イーサリアムは、誰もがその上にさまざまなプラットフォームやソリューションを展開できる一種の「公共財」であり、イーサリアムを人間のコーディネーションのプロトコルとして利用することが重要なミッションである、と宮口は述べているわけだ。

関連記事社会の仕組みを変える。そのために、技術の裏にあるマインドセットを広めたい:連載 The Next Innovators(4)イーサリアムファウンデーション 宮口あや

「公共」のためのWeb3?

10月14日-15日に開催される「WIRED CONFERENCE 2022」では、そんなWeb3やDAOによるコーディネーションの再設計を体感できるワークショップを開催する。

「誰のためのWeb3?『公共』と『コモンズ』を豊かにするブロックチェーンを体験し、実装せよ!」と題された本ワークショップを担当するのは、ブロックチェーンエンジニアの落合渉悟だ。

落合の開発する小さい公共(マイクロパブリック)の構築を目指すアプリケーション「Alga(アルガ)」は、誰もがスマホ一つでリーダー不要な公共システム(DAO)を立ち上げられ、議案の提案・議決から資金の管理・運用まで、自治にまつわる全てのデジタルインフラを備えるサービスだ。Webサイトに書かれたAlgaの説明は、まさにWeb3の真価に迫るものだ。

熟議の質と安全性を向上させるために、スマートコントラクト技術と高度な暗号学プロトコルが使用されており、行政のDXやWeb3時代の健全なDAOのインセンティブ設計が可能です。

また、2022年に出版した書籍「僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた」では、「戦争も、貧困も、搾取もない世界をブロックチェーンで実現する」と唱え、リーダー不要の公共システムとしてのDAOの可能性を探求した。

そうした実践を続けているのは、落合だけではない。新潟県の山古志地域にて実践されているNFTプロジェクト「Nishikigoi NFT」も同様の思想に基づくものだ。

急激に人口減少が進む山古志地域の電子住民票を兼ねたデジタルアートである錦鯉をシンボルにしたNFTアート「Colored Carp」を山古志住民会議が発行し、NFTを購入した世界中の人々は専用のDiscordコミュニティ(DAO)に入ることができる。コミュニティに参加したデジタル住民は、山古志地域を存続させるためのアイデアや事業プランに関するディスカッションや投票に参加可能だ。

「投票」や「資金調達」のあり方を変えるガバナンスの仕組み

落合が“社会を支える新しいガバナンスの仕組み”として注目するのは「二次の投票(Quadratic Voting、以下QV)」「Quadratic Funding(以下QF)」「レトロアクティブ・パブリックグッツ・ファンディング」などの考え方だ。適材適所ではあるが、これらの仕組みを公共財の運用にまつわる意思決定プロセスに採用することで、分散型社会の実現に一歩近づくはずだ、と落合は考えている。

QVは、今回のカンファレンスのキーノートスピーカーも務める経済学者グレン・ワイルが書籍『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』にて提唱した合意形成のための投票制度だ。

QVの特徴は、同じ議案に複数票を投じられることだ。人々はボイスクレジットという(仮想的な)予算を受け取り、それを使って投票を行なう。同じ議案に複数投票することもでき、その場合に必要なクレジットは1票なら1、2票なら4、3票なら9というように累乗で増加する。人々は自分にとって当事者性の高い重要な問題であれば、そこにより多くのクレジットを費やして票を投じる選択ができるのだ。この革新的な投票制度は、コロラド州政府や台湾、シンガポールで採用されている。

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そして、このQVに着想を得て生み出されたのが、公共財を対象とするプロジェクト(主にオープンソースソフトウェアの開発プロジェクト)への資金調達のアプローチとして注目されるQFだ。GitCoinが運営するオープンソースソフトウェアプロジェクトへの助成プログラムGitcoin GrantsにてQFは採用されており、これまでに約6,710万ドルもの資金を提供してきた

Gitcoinを利用し資金調達を行なうプロジェクトは、Gitcoinを経由して個人の支援者からの寄付を受け取れるだけでなく、マッチングプールと呼ばれるGitcoinが所有する資金プールからも資金提供を受けることができる。マッチングプールからの資金の割当にはQFが活用される。

具体的な計算方法としては、プロジェクトに対する個人の支援者からの寄付額のルートをとって足し合わせて、その二乗を計算。この値に比例して、プロジェクトは資金を受け取ることができるのだ。(WTF is Quadratic Funding?では、QFの仕組みをシュミレーションできるので、実際に数値を入力して試してみてほしい)

この計算式に従って資金を配分すると、寄付の金額よりも、寄付をしている人数を重視して資金を配分できる。これにより、プロジェクトのガバナンストークンを大量に保有している1人の金持ちが意思決定権を独占することを避けられるわけだ。

QFと同じく公共財を対象とするプロジェクトへの資金提供アプローチとして注目されるのが「レトロアクティブ・パブリックグッツ・ファンディング」だ。イーサリアムのセカンドレイヤーOptimismが発表したレトロアクティブ・パブリックグッツ・ファンディングは、スタートアップがエクイティにより先行投資、雇用、モチベーションといったインセンティブを獲得するのと同じように、公共財を対象とするプロジェクトにもリスク軽減の施策(エグジット)を与える。

レトロアクティブ・パブリックグッツ・ファンディングはプロジェクトの将来性ではなく、これまでの実績を評価することで資金配分を行なう手法であり、Optimismの運営するDAO「Results Oracle」にて実験的に実装されている。既に成果を出したプロジェクトへ優先的に資金提供を行なうため、DAO内や資金提供者間の意思決定がしやすいのが利点だ。

この手法のもう一つの特徴は、資金提供のプロセスだ。資金提供者はまず公共財プロジェクトのアドレスに対して資金を送り、その後分配した資金を使い資資金提供元が発行する価格の下限が設定されたプロジェクトトークンへの買い注文をつくる。これにより、公共財プロジェクトはトークンを売って収益化できたり、価格を押し上げたりすることもできるわけだ。

後世にまで残る社会インフラをつくる

落合は一連のガバナンスの仕組みに注目すべき理由を次のように話す。

「過去にもクリプトは何度か冬の時代を経験してきました。新たなテクノロジーが登場すると過剰なお金が集まり、バブルが発生し、それが弾けたあとに成熟期を迎える。現在のように即座に莫大な資金が得られることはなくなるものの、いま注目されているWeb3に関するインフラとなる技術は、そうした冬の時代に開発が進められてきたものです。だからこそ、後世にまで価値の残るような社会のインフラ(スケーリングソリューション)とは何かを考え、その実装に向けて手を動かし続けることがいま重要ではないかと思うんです。

そう語る落合が講師となり、WIRED CONFERENCE 2022で開催されるワークショップでは、ある架空の地域を設定し、その地域が抱える公共課題に対して、Web3のテクノロジーを用いたアイデアを検討していく。

そして、ワークショップの終盤ではその地域の町内会を開催。地域住人になりきって参加者が考えたアイデアに対し、QVなどの手法を用いて投票を行なう。そうしたワークショップの建て付けを検討した背景について、落合は次のように語る。

「Web3テクノロジーの発展に伴って、コモンズにアプローチする方法は格段に広がっています。だからこそ、まずはその仕組みを体感してみることが重要です。自らの手で実装することで、なぜ『コモンズの悲劇』が起きるのか、いままでの単純化されたガバナンスの脆弱性はどこにあるのか、を再認識できるとともにWeb3が実現する分散型社会の真価も見えてくるはずです」

今回のワークショップの目的は、長期的な視野でWeb3を捉え、後世まで残り続ける価値を探求することだ。そのひとつの方向性として「公共」と「コモンズ」へのアプローチがあり、多くのイノベーターたちが実装に向けて邁進している。皆さんにも今回のワークショップに参加いただくことで、イノベーターの一員として、よりよい未来をつくるための第一歩をともに踏み出していただきたい。


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