改めて言うまでもないが、「4K」や「有機EL」は色表現の正確さや画質の高さと必ずしも同義ではない。4Kとは3840(約4000=4K)のピクセルが横に並んでいるという「解像度」を表したものであり、有機ELとは「有機物を使って電気で発光させる」という現象のことを指している。

つまり、あくまでディスプレイの性能の前提となる規格や仕組みに過ぎず、むしろ重要なのは、それらによってどのような描写を実現し、そのためにいかなるテクノロジーを(ソフトとハード両面で)最適化しているかということ。4Kも有機ELも前提条件のひとつで(というには高度な技術が必要ではあるのだが)、メーカーがそれをどのように生かし切れているか、技術的な成熟度や描写に対する思想が問われると言い替えてもいいかもしれない。

その点、LGには有機ELパネルのメーカーとして明らかに一日の長がある。なにしろ大型パネルは世界においても人気があり、日本国内においても、4K、ゲーミング、大型(30インチ以上)など液晶も含めたハイエンドなディスプレイのマーケットにおいて、すでに高い支持を集めている。

今回、訪問したのは都内にある写真家の原田教正のアトリエ。2010年代初頭、学生の頃から活動をスタートし、フィルムからデジタルへというフォーマットの移行も体験。現在は雑誌から広告、ムービーにも活動の範囲を広げながら、それでもなお原初的な写真としての表現も追求している。昨年刊行した、東北の濃密な自然をモチーフとする写真集『An Anticipation』は、その成果のひとつだった。

さて。かように多彩に活躍するアーティストは、高品質なプロユースのモニターに何を見るのか。LG UltraFine Display OLED Proというサブブランドがつけられた「32EP950-B」は、アトリエのデスクの上で、たちまちセットアップされた。

原田教正 | KAZUMASA HARADA
1992年東京都生まれ。武蔵野美術大学在学中より写真家として活動を開始。 雑誌、広告、カタログに加え、近年はムービーの撮影も行っている。写真集『Water Memory』(2020年)、『An anticipation』『Obscure Fruits』(ともに2021年)を刊行。企画・編集を手がけるユニット「点と線」の主宰でもある。

解像度とコントラストの本質

椅子に腰掛けた彼は、ディスプレイの角度や高さ、アスペクト比をまずは調整する。USB Type-CやHDMIなど、豊富な端子が備わっているので接続もスムーズだ。ずいぶん慣れた手つきなのは、LGのモニター(フルHDの液晶)をすでに使用しているから。「慣れる必要もないくらい、操作は簡単ですけどね」などと話しながら、アプリケーションを起動し、自身の写真作品を映し出した。草花が生い茂る湿地帯が広がり、遠方には山並みがのびている。先に挙げた昨年刊行した写真集からの1カットだった。

「ああ、これはすごい」。しばらく眺めて原田は言った。

「解像度の高さがまったく違います。高精細やハイコントラストを掲げるようなものはけっこうあるんですが、なかにはただシャープネスを効かせすぎていると感じるものもあるんです。あるいは過剰に固くして、彩度を強調していたり。一見するとキレイに見えるかもしれませんが、それでは正確な描写にはなりません。このモニターはそういうタイプではないですね。細かな粒子がそれぞれ色をひろっているというか、色の濃度の階調がとても豊かです」

『An anticipation』に収められたカットのひとつ。濃密な緑のグラデーションが美しくディスプレイに浮かび上がった。

早くも有機ELパネルのメリットのひとつを見出したようだ。バックライトが発光しカラーフィルターを通過させる液晶とは異なり、ピクセル自体が発光して、調光しながら色を再現できるという点だ。しかもこちらは4K(つまり830万のピクセルがある)という高解像度なので、必然、色彩のグラデーションは極めて滑らかになる。ちなみにカタログ値によれば、RGB各1,024諧調の約10.7億色という色域(DCI-P3、AdobeRGBを99% *標準値)をカバーするという。

そのうえ、有機ELは黒がとことん黒くなる。さらに専門的な数値になるが、輝度のレンジは暗部0.0005 cd /m²以下〜最大500cd/m²(つまりコントラスト比は1:100万)。一般的な液晶モニターのそれが0.15cd/m²程度〜400cd/m²程度と言われているので、暗さは300倍も異なることになる。

「確かに。暗部の色域は特に豊かに見えますね。いや、明るいところもそうですね。ぼくはフィルムでやっていた写真となるべく遜色ないかたちで表現したいと考えているので。色彩にねばりを出したいというか、階調をゆっくり丁寧に出したいと考えるほうなので、このモニターのように、色の許容値が高いとすごく参考になります」

LGの4K有機ELディスプレイのスペックの高さ、というか描写の力に、早くも感心している様子である。一方で、デジタルならではのジレンマもある。カメラのセンサーはますます高精細となり、それを表示するためにモニターの解像度やテクノロジーも進化する。目を転じれば、Netflixはすべてのコンテンツを4KとHDRに再エンコードし、8Kや16Kのディスプレイもすでに登場している。

「なんていうかイタチごっこですよね。カメラのスペックが上がれば、それに対応した画面が必要になる。グラフィックボードとかアプリケーションも関わってくる。フィルムと印画紙でやっていた頃は、基準はそこにしかなかったのに。それに比べると、撮ってから作品になるまでに、通過しなければならない段階が多くなったと感じます。

デジタルで写真や動画をやってきて感じているのは、全体のバランスが大事だということ。選択肢はたくさんあるし、解像度の数値やスペックの高さをあれこれと追うよりも、自分にとって最適な組み合わせを整えるのがいいんだと思います。心地よい音響を出すために、プレーヤーとアンプとスピーカーのセットを考えるみたいに」

「もちろん、このモニターはそのひとつになる。いまからでも使いたいくらいです」。彼が写真に求めるものと、どうやらとても相性がよいようだ。それでは、ムービーにおいてはどうだろう。

「見える」から生まれる可能性

マウスを操作して、彼はかつて手掛けた動画を再生する。ファッションブランドのイメージムービーや、写真集と合わせて制作した、十和田湖や八甲田の景色を収めたものだ。湖面に映る空、朝露をまとった草、深い深い森。国有林として保護された、自然のありのままの姿が淡々と紡がれていく。気づいたのは初夏の緑の濃淡の美しさ。

「フィルムに比べると、デジタルはどうしても緑と赤の描写が苦手といわれています。昔に比べれば進歩しているけど、まだまだだと思っていました。でもこのモニターで見ると、そこまで緑が弱いとは感じませんね。それに、なにしろ動きが滑らかです。アウトフォーカスした部分なんか特にすごい。ディスプレイの性能によっては、残像が出てきたりして、ここまで自然でスムーズには映せませんから」

なるほど。1ms(GTG)というハイエンドなゲーミングモニタークラスの応答速度を備えているからだろうか。あるいは事後的にコントラストを強調したりしていないせいか。いずれにしても森の奥の方や、手前に映り込む草木など、ピントが外れた部分はとても滑らかに動き、描写はずっと安定している。

映像制作の現場のニーズに応えるために最適化された性能は、このほかにもさまざまあるようだ。例えば商用のカラースタンダードである「BT.2100PQ」、「P3 PQ」のピクチャーモードを搭載していること。これにより映像制作者の意図した色を、正確かつ安定して表示することができる。さらにハードウェアキャリブレーション(校正)にも対応し、経年的な色変化の調整や精度をメンテナンスを可能にするほか、工場出荷前にもキャリブレーションが実施されているため、個体差や描写のばらつきなどの心配もない。

つまるところようするに、徹底的にプロフェッショナルのためのベストを追求したモニターだ。ゆえにそれなりの価格はするが(市場想定価格は50万円前後)、明確な裏付けがある。体験すればわかる。

「こうして短い間、使っているだけでも、それだけの価値があるのはわかります。写真や映像に対する考え方すら変える可能性がありますから」

その可能性について、さらに訊ねる。

「いままで見えていなかったところが、見えているということです。このディスプレイを通すと、視覚的な情報量がすごく多く感じます。表現としてできることが、まだまだあると思わせるというか。いいところも、気に入らないところも、見えなければケアすることはできませんから。ただ、このモニターを基準にするのはまだ早いのかもしれません。あまりレタッチなどはしないほうですが、この画面で写真や動画の色彩を突き詰めたとき、ほかのPCやスマートフォンの画面で、どう表示されるのかは未知数ですからね。みんながこのモニターを使ってくれたら、いいんですけど」

見えるか、見えないか。それがまさしく大きな違いなのだった。単純だが、写真家にとってはとても切実な問いである。LGの4K有機ELディスプレイは、もちろん見える。写真も動画も変えてしまうかもしれないほどに。

LG UltraFine Display 32EP950-B ]

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