琵琶法師により語り継がれ、後世の文学や演劇に大きな影響を与えた古典『平家物語』。2022年にテレビアニメ化され、監督を山田尚子が、キャラクター原案を高野文子が務めた。この作品の魅力のひとつは美麗な背景美術だ。

なかでも美しいのが作品を彩る風景や植物たち。版画的表現ながらも、奥行きを感じさせる草花が揺れる。アナログの質感と、デジタルならでは淡い美しい光が融合した豊かな空間表現に目を奪われる。

この作品の美術監督を務めたのは久保友孝。デジタルとアナログのハイブリッドとなる本作はどのようにして生まれたのだろう。

久保の自宅兼作業場には、水彩絵の具の横にワコムの液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 16」が配置されている。普段、液晶ペンタブレットは持ち運んで使うことが多いために16インチを使用しているという久保。今回はワコム史上最高のこだわりを結集したという大型液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 27」にトライしてもらった。

絵が好きな学生が背景美術の仕事に就くまで

──久保さんはどのような経緯で背景美術に携わるようになったのでしょうか。

ぼくは広島県の島の出身で、小学生のころから絵を描くのが好きでした。学校での勉強が嫌いというのもあったのですが、高校生で進路を考える時期に、絵を描いたり、ものをつくる仕事ができたらいいなと漠然と夢を見ていました。そんなときに、ジブリの背景を描いていた男鹿和雄さんの画集 (『男鹿和雄画集』ジブリTHE ARTシリーズ〈徳間書店〉)をたまたまジブリの公式サイトで見つけて、島に一軒だけある書店に取り寄せてもらいました。

──わざわざお取り寄せしたのですか。

はい。この画集を開くまでは、どうして自分が子どものときからジブリ作品が好きなのかをわかっていなかったのですが、「いいな」と思っていた風景がこの画集にすべて載っていました。それで「ぼくはジブリ作品の風景が好きで、その好きな世界を描いていたのはこの人だったんだ」とわかると、パアッと世界が開けた気がして。「これだ!」「この仕事をやりたい!」「この人のような世界に入ってみたい!」と思ったのが、いまの仕事につながっています。

──画集からものすごい衝撃を受けたのですね。

ただ、画集ではどんな画材を使っているのかわからなかったので、『「もののけ姫」はこうして生まれた。』という当時VHSで発売されていたドキュメンタリーを買い、それを擦り切れるくらい観ました。当時は高校生でお金もないのに(笑)。

久保友孝 | TOMOTAKA KUBO
広島県生口島出身。小林七郎に師事し、背景美術の世界へ入る。『虹色ほたる〜永遠の夏休み〜』『コクリコ坂から』『かぐや姫の物語』『思い出のマーニー』『この世界の片隅に』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』等に背景で参加。『メアリと魔女の花』『プロメア』『平家物語』で美術監督を務める。

特に美術部のシーンを何度も停止と再生を繰り返して、「何を使っているんだろう?」って目を見開いて観ましたね。ポスターカラーを使っていることがわかると、広島の本州の画材屋さんに行って、お金がないから三原色と白と黒だけ買いました。それで、いま思えば大胆ですけど、『千と千尋の神隠し』の冒頭に出てくる杉の木の絵を模写したものをスタジオジブリに送りました。

──すごい!

島に住んでいて、ちゃんと絵というものも学んでこなかったので、距離的にも実力的にも憧れの世界から遠く離れているという不安からの行動だったと思います。そうしたら美術部に届いたようで、お返事やアドバイスを頂いて。いろいろ拙い自分に対して、絵を通じてちゃんと接してくれる方々がいるんだと本当に感動して、高校時代はそれを壁に貼って「絶対この世界に入りたい!」と思っていました。

──お返事が来たのもすごいです。そこから美術大学への進学もありそうですが、進学せずに小林七郎さんが代表を務める小林プロダクションに就職したのですね。

はい。やりたい仕事が決まっていたので、なるべく早くそこにリンクできないかと考えていました。高校の先生も普通なら進学を薦めると思うのですが、むしろサポートをしてくれました。

小林プロダクションは、男鹿さんの画集の奥付に社名が出ていまして「ここだな」と思い電話したら、小林七郎さんにすぐつないでくれて。「募集していますか」と聞いたら、学歴も年齢も不問で「面接に絵を持って来週来なさい」と言われて、当時まだあった夜行列車に乗って初めて東京へ行きました。

──高校生からの連絡に驚かれたのではないでしょうか。

七郎さんは「若いね」とすごく喜んでくださった感じでした。拙い絵でしたから、絵というよりも若さと熱意だけで採用していただいたと思います。それで「来年から来なさい」と言ってくださり、晴れてこの世界に入ることができました。

──ものすごい情熱と行動力ですね。小林七郎さんからはどのようなことを学びましたか。

ぼくの場合は、絵の技術的なところというよりは、考え方だったり絵との向き合い方でしょうか。迷っていたり、悩んだりして自信がないところが絵からにじみ出てしまうんです。だから絵を描く姿勢というか、描く対象との向き合い方を指摘されることが多かったです。もちろん、筆使いや色使い、線の使い方といった技術的なところも多く学びました。

──「迷う」というのはどのようなことなのでしょうか。

迷ったり悩んだりしていると、どうしても手数が増えたり、ディテールでのごまかしが絵に出てしまいます。結果、絵の鮮度というか生(なま)の魅力が薄れてしまうので、そういう点を小林さんから指摘されていました。「きみは器用だから、小手先の技術に頼ってしまう心配がある。不器用な方が本当はいいんだ」と言われたことは、これからも向き合い続ける課題です。

──小林プロダクションには6年ほどいて、その後もたくさんの作品に携わっていますね。

本格的に絵を学んだのは小林さんが初めてなので、ぼくの大きな根っこには小林さんの影響があり、これは逃れられないインプリンティングだと思っています。土台には小林さんがあり、男鹿さんをはじめ多くの先輩方の絵から影響を受けましたが、一緒に机を並べて仕事をしたみなさんからの影響もとても大きいです。同じ環境で絵を描き、それを見せ合うことはとても刺激になりました。

Wacom Cintiq Pro 27
について詳しく見る

小林プロダクションを辞めたあとは、作品ごとにいろいろなスタジオに身を寄せていました。辞めた直後は、この職業を客観的に見たくなり、半年くらい仕事をせずバックパッカーとしてヨーロッパを一周したり。そんなときにスタジオパブロの秋山健太郎さんに「今度映画をやるからやらない?」と誘われて、東映の劇場作品をやり、その後も小林プロダクションの大先輩の水谷利春さんから誘っていただき、水谷さんの会社で1年程お世話になるなかで『コクリコ坂から』にも参加させていただきました。ジブリでは『かぐや姫の物語』や『思い出のマーニー』にも携わりましたね。

──先輩方とのご縁でお仕事がつながっているのですね。

そうですね。『思い出のマーニー』のとき、シン・エヴァンゲリオン美術監督の串田達也さんと席が近くて、マーニーが終わった後にスタジオカラーに誘っていただいて『日本アニメ(ーター)見本市』にも参加しました。と、そのころにちょうど「でほぎゃらりー」ができて参画し、ほぼ同時期に『メアリと魔女の花』の企画の話もいただきました。

言葉ではなく、見る人にどう映るのかを決める

──そもそも「美術監督」というのはどのようなことをするのでしょうか。

美術監督は、作品の“ルック”というか世界観の大きな部分ををつくっていきます。ルックというのは、映像のビジュアルや空気感のことで、作品世界の表現手法、光、細部の小物なども含まれます。このルックをつくったうえで、実際に描かれてきた背景に対して、それを逸脱していないかをコントロールします。テレビシリーズで300カットくらいあるとしたら、全カットを自分で描くわけではないので、描いてくださる美術スタッフの方にシーンやカットごとの意図を伝えたり、一緒に意見を出し合いつくりあげていきます。

──背景でルック=世界観が決まるのですね。

キャラクターの演技だけでは表現できないところを美術で表現することもあると思います。この人はどういう家に住んでいて、どういう生い立ちで、どういうものが好きなのか。部屋に置いてある本棚や、かけてある服、小物や建物の雰囲気でどういう人物なのかを表現します。画面の多くは背景が埋めるわけだし、言葉ではなく観る人の目にどう映るのか、世界観を決める大きな役割を担っていると思います。

──監督とはどのようなやりとりをされるのでしょうか。

基本的に監督や演出さんがもたれているイメージをなるべく聞いて、具現化することが第一かなと思います。細かく小物まで指定されるわけではないので、どういう人なのかをまずお聞きして、描いたものに対して「こういうものを入れてもいいんじゃないか?」というやりとりをします。

また、そのカットを担当する美術スタッフさんに委ねることも多くあります。カットごとに美術設定があるわけではなく、設定があっても狙ったところでカメラを構えるわけではないので、設定で入れたものが映らないこともあります。なので代わりに別のものを入れたり、同じような雰囲気だけどものを変えて配置したりと、美術は実際に背景を描く最後まで、どうするか考えています。

──実写とは違い、「ないものを描ける」のがアニメーションのいいところでもありますよね。

そうかもしれません。例えば、実写の美術さんはものをデザインし、つくり上げるけれど、光については照明さんが決められます。アニメーションの美術は光も美術で決められるのことが多いので、違和感がない範疇で「光をこうしたい」「ものの大きさを実際より大きくしたい」「狙った形で草木を生やしたい」といったある種の“演出”ができます。そのような1カット、1カットの演出が、アニメーション美術では可能です。そして、“絵”なので多種多様な表現手法により、作品ごとに合うさまざまな世界を描けることも大きな魅力です。

デジタル+アナログでつくり上げた『平家物語』

──テレビアニメ『平家物語』の背景美術は緑が美しく、アナログの要素も大きいと思うのですが、監督の山田尚子さんとはどんなお話をして世界観をつくったのでしょうか。

山田監督からは、具体的に「この絵のこの通りにしたい」というのではなく、「久保さんなりに咀嚼してこの作品に落とし込んでほしい」とおっしゃっていただいたので、一緒につくり上げていった感じです。世界観をつくるときは、気を遣って受け入れられてしまうのは作品のためによくないので、「本当に気を遣わずに言ってください!」とお伝えして、反応を見ながらつくっていきました。

美術スタッフさんからも素晴らしい光るものが生まれてくるので、そこから刺激をもらって作品に還元しています。どの作品もいろいろな人の意見と技術が集まってできたスタイルだと思っています。

──『平家物語』は手描きのような淡い色合いの世界観ですが、例えば久保さんがこれまで担当してきた『プロメア』や『かぐや姫の物語』ともルックがまったく違いますよね。こうした描き分けは、スイッチが切り替わる感じでしょうか。

確かにいきなり違う作風の絵を描いた後に『平家物語』を描くのは時間がかかります。でも手を動かしていると、その世界観になじんできます。その器用さは美術監督だけでなく、スタッフのみなさんもっています。ただ、ある程度スタイルは決まっていても、その人らしさはどこかに残るので、どんなスタイルの作品でも「あの人っぽいね」というのは残ります。

──アニメーションはたくさんの人がかかわっているので、個性を出すのは難しそうですね。

映像をつくる、すべての部署が溶け合ってひとつの作品になると思っています。目指すものが決まっていて、それぞれの部署がそれを目指した結果、まとまった美しい映像になる。美術がいい、作画がいい、ではなく、「いい映画だったね」となることが素晴らしいと思います。もちろん、やるからには美術を担当した「その人らしさ」を汲み取っていただいて、評価していただけたたらうれしくはあるのですが。

TVアニメ「平家物語」 FOD・Netflix・Amazonプライムビデオ・U-NEXTほか各種配信サービスにて好評配信中 Blu-ray BOX発売中

デジタル作画とアナログ作画の表現

──『平家物語』の美術はどのようにつくられたのでしょうか。

近く寄った植物の葉などは一部アナログで描いています。アナログは情報量も多く、絵の具で紙に描いたニュアンスというか、味が、とても豊かだと思います。ぼくはアナログでやってきたので、アプローチが早いし、扱いやすいです。

──デジタルとアナログの違いはどのような点だと思いますか。

ぼくの場合は組み立てる順序が違うので、使う脳みそが違う感じです。フルデジタルで描くことは多くないので、デジタルで表現に詰まったら、アナログに戻ることもあります。

デジタルではフラットな塗りや、レイヤーを分けられるのでボケなどの被写界深度のコントロールができたり、版画的な表現など、デジタルでしやすい表現もあると思います。アナログの紙一枚でそこまで表現することは大変ですし、レンズを意識したボカシ表現ができると監督へのルックの提案がより幅広くできます。

©「平家物語」製作委員会

例えば奥の五重塔は空気遠近的にフラットに表現したいのでデジタルで、手前の木のモヤモヤはアナログで描いています。

絵の具のにじみがあると同じフラットな表現でもより豊かに見えます。人工物だとしてもニュアンスを出したいときはアナログのほうがいいかなと思います。

©「平家物語」製作委員会

この水辺の絵は、完全にデジタルで描いています。こういうフラットな表現には向いていると思います。デジタルは「後からレイヤーごとに調整もしやすい」というメリットもあります。

©「平家物語」製作委員会

これは花と葉を別にアナログで描いています。葉脈の線はデジタルで描いています。今作は版画的表現を目指したので多くをデジタルで描きましたが、植物の葉や幹、土などを近距離で描くときはアナログで描いた素材を使っています。実際の自然がもっている豊かな表情は、アナログで表現したくなりますね。

これはもともとスタイルボードで、「こういうスタイル、作風にしませんか」という提案のために描いたのですが、せっかく描いたから、ということで本編でも使っていただきました。

──普段、デジタルの作業は「Wacom Cintiq Pro 16」を使用しているのですよね。

そうですね。Wacom Cintiq Pro 16が初めてのワコム製品で、バックパックに入れられるサイズなので移動先でも作業できるのがいいなと思い選びました。PCもmac book pro16インチを使っていて、Wacom Cintiq Pro 16と併せてバックパックで持ち運んでいます。重いので長距離移動が大変ですが。ぼくはフルデジタルで描いたのが『プロメア』が初めてで、みなさんにアドバイスをもらい、支えていただいてつくりました。

──『平家物語』のように、デジタルとアナログのハイブリッドで描く場合、どのくらい仕上がりをイメージして描き始めるのでしょうか。

仕上がりのイメージは頭の中にあって、それに近づけるのにデジタル、アナログのどちらがいいかをまず考えます。アナログで別々にパーツを紙に描く場合、ある程度仕上がりを想定して描きますが、重ね合わせてみると微妙に違うこともあります。デジタルの場合、例えば『平家物語』の花の表現では、手前の花、奥の花を別々に描くので、それぞれをレイヤーに分けて組み合わせるので、見え方をコントロールできます。基本はデジタルで見え方のコントロールをして、テクスチュア素材的にアナログの味を足すといった工程でした。

──アナログのよさはどんな点ですか。

紙に絵の具と筆を使って描くので、楽しいです。特に植物を描くとき、筆の勢いや絵の具の水分量などいろいろな作用で、想定外の表現が出てきたときがうれしいです。偶然できた形や絵の具の溜まりを活かして描けると、自分の頭の中になかったイメージが足された感じがして、コントロールされ切っていない力が宿った気がします。デジタルとの対比でいえば、映像には出ないところかもしれませんが、元に戻れない緊張感と集中力でいちから自分で築き上げた達成感があります。ものとして残るので、ひとつの工芸品のような感覚に近いかもしれません。そしてよくも悪くも自分らしさが出やすいとも思います。

アナログで描く場合の最初の工程で、紙を水で濡らした状態で広い面積を塗り、湿った状態でかなりの部分まで描く“地塗り”という作業は集中力が必要で、ものによっては1時間近く立ちっぱなしで描くこともあります。ですから制作現場では「あの人、いま地塗っているな……」という場合は、周りの人も静かにして話しかけないでくれますね。

──では、デジタルのよさはどんな点でしょうか。

デジタルで好きなのは版画的な表現をするときですね。フラットな表現をしたいとき、アナログできれいに塗るのは本当に大変で、どうしても手間と時間がかかってしまいます。多層的に空間表現するのはデジタルのほうが早いですし、映像表現としてもデジタルだからこそできることが増えたのは間違いありません。

デジタルでの新しい表現を見るたびに、はっとさせられ刺激を受けています。

そして、よくも悪くもかもしれませんが、失敗した場合元に戻れることです。元に戻りながら部分的な調整もしやすく、試行錯誤しながらつくっていけるので、アイデアをいろいろ出していくときなどに強みを感じます。

──今回使っていただいた「Wacom Cintiq Pro 27」は、液晶自体は4Kで、色域でいうとDCI-P3 カバー率 98%(CIE 1931)(標準値)、Adobe RGBカバー率 99%(CIE 1931)(標準値)となり、精細で色鮮やかに映し出すことができます。

デジタルは絵自体が発光しているので、デジタルに慣れてくるとアナログが寝ぼけて見えてしまうこともあるくらいです。デジタルはアナログではできない光の種類が多いのがいいなと思います。

──今回の「Wacom Cintiq Pro 27」の使用感はいかがですか。

本体外側のベゼルエリアが狭くなりスマートになったなという印象です。より画面に集中できるようになった点がいいなと思いました。

──「Wacom Cintiq Pro 27」では、いままで最大60Hzだったペンの追従性が最大120Hzに上がり、応答速度10msで素早いストロークでもカーソルがしっかりと追従するようになりました。さらに、従来よりもペン先が細くなり、芯も長くなりました。ペンの使い心地はいかがですか。

斜めにペンを倒してもペン先が見やすくサラサラ描けるのが素晴らしいです!斜めの感知がすごいですね……。

──ペン先の視差も狭くなったので、よりアナログに近い使用感になりました。また、サイドスイッチのボタンは3つになっており、カスタマイズ性も向上しています。またボタンをあまり使用しない方のためにボタンのないパーツに付け替えることもできます。

ぼくは、サイドスイッチありにします。本体側面のエクスプレスキーもいいですね。グリップ感もあり、ボタン配置も数も自分に合っています。普段ショートカットキーを操作するために左手デバイスを使用していますが、これがあれば左手デバイスはなくてもいいかもしれません。

──ちなみにペンの後ろにバランスウェイトを入れられるので、ペン先やペンの後ろなど、ペンの重心を変えることもできます。

おお。ぼくの場合は、重心はお尻が重いと少し描きづらいので重りを前に入れるとちょうどいい。筆圧が気張らなくていいです。自分の好みでカスタマイズできるのはいいですね。

──「Wacom Cintiq Pro 27」は描き味のさらなる追及を行なったわけですが、今後もこうした作画のためのツールはどんどん進歩していきます。久保さんはアニメーションの表現で、どんなことにチャレンジしていきたいですか。

アニメーションのスタイルが同じような作品で、登場する場所が似ていても、カットは常に新しいものです。そのカットごとに「新しくどうしようかな?」と考えますし、前と同じことはやりたくない。「前はうまくいかなかったから、今度はこうやってみよう」という思いはカットごとにあります。

ただ、欲をいえば、新しいルックを目指せる作品と出会えるといいなと思いますね。小林プロダクションもそんな会社でした。小林七郎さんは、古臭いこと、同じことをやるのが嫌いな人でしたから。だから小林さんだけでなく、描き手、スタッフ一人ひとりのなかに新しいものをやりたいという思いが常にあったと思います。

──背景美術という仕事の楽しさはどんな点だと思いますか。

絵だけではなくアート全般好きですし、映画も好きなので、それらの欲を満たしてくれます。展覧会や映画を観て刺激を受け、それを仕事に生かせますし、逆に仕事を通じていままで知らなかったことを知ったり、景色を見られたり、新しい興味を見つけられたりできて、とにかく生活の多くがすべてこの仕事につながっていて、この循環がとても幸せです。ただ、そんな楽しさ、幸せがある一方で、ぼくはずっと不安と隣り合わせでやっているように思います。かかわった作品が評価されて次の作品につながることは非常にうれしいですが、それで安心というよりは、それに応えないといけないというプレッシャーで常に安心できない状態です。

だから、この仕事を続けられるという自信と、明日「いらない」と言われたらおしまいという不安と、常に闘っています。本当に不安定だと思いますが、その刺激も含めてこの仕事は楽しいし、好きな絵を描いて、いまこうしてご飯を食べられるのは幸せだなと感じています。

Wacom Cintiq Pro 27
について詳しく見る

Wacomのサイトを見る