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みんなで遠くへ行こう

「リスクを冒さなければ、新しいものはつくれない」───『WIRED』日本版クリエイティブディレクターであり、PARTYのチーフクリエイティブディレクター兼CEOの伊藤は言う。『つくる群れ』を標榜するPARTYが手がけるプロジェクトでは、会社を超え、国境も越えて、アイデア、デザイン、テック、ビジネスといったジャンルやフィールドすら華麗に越境。さまざまな才能をもった“パーティ(集団)”が一丸となることで、美しくも楽しく新しい、未来の体験を社会にインストールしてきた。

「PARTYっていうのは、徒党を組んで戦おうっていう意味のネーミングなんです。異なるスキルをもつ者同士がひとつの集団を形成し、協力しながら“敵”と戦うというのがコンセプト。ですから自分のようなクリエイティブディレクターからデザイナー、エンジニア、弁護士、プロデューサー、コピーライター、ディレクターなどなど、さまざまな職種の人が協力し合って、プロジェクトに取り組んでいます」

伊藤はクリエイティブディレクターであると同時にアーティスト、デザイナー、大学教授といった多数の肩書をもつ“スラッシャー”。自分にない能力をもつ人材の力を借りるのは当然として、個人での活動ではプロジェクトに合わせて自身のかかわり方も、業務内容も大きく変わるというのがユニークだ。そして彼はPARTYのリーダーではあるのだが、強烈なキャプテンシーで集団をグイグイ引っ張るというタイプではなさそうだ。

「これからは、個人の時代。そしてプロジェクトの時代だと思うんです。集団は固定させるのではなく、プロジェクトごとに必要な個人が集まるのが理想的。そういう場合のチームというものは、特定の誰かが強くなり過ぎたり、権力が集中しないことが大切です。それはWeb3でいうところの、非中央集権化のようなもの。誰かが引っ張っていくのではなく、みなで遠くに行くという感覚が重要だと思っています。

自分だけ偉そうに振る舞っていたら、遠くに行くことはできない。いかに個人がそれぞれの実力を発揮できるかということを、常に意識していますね」

伊藤直樹 | NAOKI ITO
クリエイティブ集団「PARTY」代表/クリエイティブディレクター。2011年、クリエイティブ集団「PARTY」を共同設立し、代表を務める。「未来の体験で世界を変える。」をモットーに、広義のクリエイターエコノミー発展のために活動するクリエイティブディレクター、アーティスト、起業家、大学教授である。WIRED日本版クリエイティブディレクターとしてWIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所を設立。アートの民主化プラットフォームThe Chain Museum CCO。京都芸術大学情報デザイン学科教授。デザイン・テクノロジー・起業家精神の三位一体教育を掲げて「モノをつくる力で、コトを起こす人」の育成を目指す神山まるごと高専のカリキュラムディレクターを務める。文化庁メディア芸術祭優秀賞、グッドデザイン賞金賞、カンヌライオンズ金賞など、これまで300以上の国内外のデザイン賞・広告賞を受賞している。代表作に、「成田空港第3ターミナル」の体験デザイン・3D写真館「OMOTE 3D」・バイラルキャンペーン「Nike Cosplay」・体験できるOOH「BIG SHADOW」・ブランデッドコンテンツ「LOVE DISTANCE」などがある。

そんな伊藤がいま特に心を傾けているプロジェクトが、教育だ。京都芸術大学では情報デザイン学科の教授。そして新設された神山まるごと高専では、カリキュラムディレクターという立場で人材育成に貢献し、教育によって “未来”をデザインすることに大きな喜びを感じている。

「ぼくは植物が大好きでオフィスでもたくさんの観葉植物を育てているのですが、なぜ好きなのかといえば、成長を感じられるから。教育も同じで、子どもたちの成長がうれしいんです。美大で教えていても、入ったばかりの1年生の時に何もつくれなかった子が、卒業するころにはすぐ活躍できそうなくらいの実力を身に付けていたりする。人って4年間もあれば、ものすごい成長できるんですよ。それを見届けられるのが本当に楽しいですね。だから自分にとっては、植物に手をかけ愛でることと、子どもたちの成長をサポートすることは、案外近しいことなのかもしれません」

京都芸術大学で教鞭を執ること10年、世に送り出した学生の数はすでに1000人を超え、さまざまな分野で活躍している。

「自分やPARTYが直接的に社会貢献できることもあるんですけど、やっぱり教え子たちが100人、1000人って社会に出ていく影響力ってケタ違いなんですよ。その多くが自分の手が届かない、目が行き届かない領域に行ってくれて、それぞれ世界を舞台に活躍し、社会への影響力を行使してくれている。僕個人の“未来”はせいぜい50年先までですが、彼らとその先の世代の“未来”は100年を超えます。そういう感覚を、教育ではダイレクトに得ることができますね」

その集大成ともいうべきプロジェクトが、神山まるごと高専だ。一時は消滅可能性都市にも指定されつつも、いまや「地方創生の聖地」ともいわれる徳島県神山町。こののどかな田舎町に開校した、全寮制の高等専門学校である。

神山まるごと高専
「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、をミッションに、2023年4月に開校するのが徳島県神山町の全寮制高等専門学校。テクノロジー、デザイン、起業家精神という3つの力を育むため、インプットだけでなくアウトプットを重視。さまざまな分野を学問として学ぶだけでなく、実践的な知識やスキルを身に付け、15歳から20歳までの5年間で未来を変える力を身に付けた独自の人間像を目指している。伊藤は同校のカリキュラムディレクターに就任し、バウハウスがかつて実現したように、「教育が時代を動かす人の育成」に取り組む。PHOTOGRAPH BY KOJI FUJII

「デザイン、テクノロジー、起業家精神の融合を目指し、カリキュラムディレクターという立場でまったく新しいカリキュラムを作成しました。いままでなかった“経路”をつくってあげることで、われわれの想像を超えるような人材が生まれるんじゃないかという期待がありますね」

伊藤の考えにより、学生たちはデザインやテクノロジーの基礎から実践までを学びながら、並行してフィジカルに土に触れる機会をもつようになるという。それはいったい、どういうことなのか。

「以前にWIREDの記事で、人間は土から離れてしまうとアレルギーやメンタルヘルスの障害が増えるというデータがあることを知りました。土の中にいる無数の細菌やバクテリアと触れ合うことで、人は健全な免疫システムを構築しているのではないか、と。だからぼくは原初的な里山のように、人類がかつての暮らしに立ち返りつつ、テクノロジーも併せて勉強するという新しい環境をつくりたいと考えました。

自分自身で植物や土をいじりながら感じるのは、土って爪の中に入り込んじゃったり、指先が切れたりすることもあって、結構大変だなって(笑)。でもそれが、何か生々しいというか、非常にリアルで。デジタルなテクノロジーを扱ううえでも、大切な感覚が得られることに気がついたんです」

体験を追求すること、境界を超えていくこと

伊藤が手がけるプロジェクトは、どれもデジタル分野の最先端テクノロジーを駆使しているという印象が強い。そんな彼が“土いじり”を趣味とし、デジタルネイティブたちの教育現場にも取り入れているという事実は非常に興味深く、また示唆に富んでいるともいえないだろうか。

「ぼくはデジタル分野のクリエイターのなかでも、特に“質感”にこだわる人間だと思っています。例えば衣服なら、色を黒だとしたら、あとこだわる余地は生地やデザイン、機能性くらい。でもデジタル表現ではいくらでも派手な演出ができてしまうので、新しい技術を使うだけでそれなりに見えてしまいます。だからこそ“質感”の足りない表現がとても多くなり、皆さんが物足りなさを感じる要因になっていると思うんです。

『このプロジェクションマッピング、いいとは思うけど、なんかリアルじゃないんだよな』という声があるとしたら、それは“質感”へのこだわりが足りないせいだと思いますね」

触れて感じることのない、デジタル分野における“質感”とはどんなものか───伊藤は身近な例を挙げて教えてくれた。

「大型のスーパーマーケットに行くと、バナナだけで5つも6つも種類があるじゃないですか。その産地によっても値段によっても、味や“質感”が違いますよね。残念ながらデジタルはそこまで到達できていなくて、『バナナはバナナ』というところで止まっている。意識と表現が現実に追いついていないんです。人間には五感というものがあって、もっと敏感に“質感”を感じ取ることができる生き物なのに、って思ってしまうんですよ」

デジタルサイネージやプロジェクションマッピングの普及が進み、モニターの性能や自由度、表現の多様性が高まってきているいま、そろそろ“質感”に意識を向ける人も増えてくることだろう。

「メディアが成熟してくると、次は“質”が問われてきます。多くのクリエイターが取り組んでいるものであればあるほど、後世まで語り継がれるのは、その“質”が出せる人。日本の絵師には本当にたくさんの作家さんがいらっしゃいますが、円山応挙とか葛飾北斎のようなレベルになるには、質を高めるしかありません。ぼくらはデジタル分野で、そのステージを目指している。だから徹底的に“質感”を追求し、“質”を高めるチャレンジをしているんです」

リスクを恐れず、徹底的に体感的な“質”を求めるあまり、最上質の新雪を求めて雪山でのバックカントリースキーを楽しんでいたこともあるという、伊藤。しかしそれは文字通り“命がけ”の探求であり、決して踏み込んではいけない領域だ。

「こだわり過ぎてしまうと、それぐらいのリスクを負わなきゃいけなくなってしまう。ギリギリの危機管理を行ない最善を目指すため、日ごろからリスクに対するセンサーを鍛えておくことは大切だと思いますね」

一方、伊藤が手がけた直近の代表的プロジェクトとして、NewsPicksやSPEEDAを展開する株式会社ユーザベースの丸の内本社オフィスの内装デザインがある。ここでは「デジタルサイネージで経済情報を流したい」というクライアントの要望に対し、オフィス周辺の丸の内には厳しい景観条例があり、建屋内であってもデジタルサイネージを設置できないという高い壁があった。

Ambient Digital Signage “Duct Mimicry” 
ユーザベースの新社屋のデザインは、「共創が起こる場所」「熱を生む場所」「象徴となる場所」という3つのコアバリューに加え、働き方の未来と経済合理性を考えた「可動産」も取り入れながら、ポストコロナ時代におけるオフィスの体験を追求。「ダクトを擬態」したLEDサイネージは、ユーザベースが提供するSPEEDAやNewsPicksの経済情報をリアルタイムに毎日更新。ダクトの中を水とともに流れ、日本経済の中心地のひとつである丸の内という都市のなかを駆け巡る様子をイメージしている。

「このプロジェクトのコンセプトは、『共創・熱・象徴』。でもそれとは異なるレイヤーのリクエストとして、デジタルサイネージに経済情報を流したいというものがありました。皇居周辺、特に丸の内エリアには厳しい景観条例があって、屋内外を問わずデジタルサイネージは設置できないにもかかわらずです。でもぼくは法学部出身であることもあって、法令を読み解くのが大好き。法というのは解釈に基づくものなので、ダメとされているものでも条件さえ整えて、行政の理解さえ得られればOKになるものが多いんですよ」

そこで伊藤がPARTYの弁護士と協力し導き出した答えは、一見すると排気ダクトにしか見えない、世界初のデジタルサイネージをつくり出すことだった。

「あの場所でサイネージが禁止されているのは、交通の安全を維持すると同時に、街の美観と品位を守るため。カラースキームや照度についても、細かい規定があることがわかりました。でも逆に、そこさえ外さなければ、設置は可能というわけです。確かに自由度は極端に低いけれど、そのなかでどんなことができるかという、ハードなチャレンジでしたね。

考えたのは、どこのビルにもある排気ダクトに擬態したデジタルサイネージ。それを自分たちで内製し、オフィスに入り込む1年分の日照時間や角度まで、すべてをシミュレーション。環境光に併せて表示のオンとオフや照度調整することにより、目立ち過ぎたり人が注意を奪われたりすることの少ないCGを表示することができるようになりました」

ダクトにしか見えないそのデジタルサイネージは、管轄する千代田区の担当者も「素晴らしい。これならOK」と認めるものに。めでたく施工に着手することができた。ただ実際には「言うは易し」で、千代田区側との折衝は1度や2度ではない。高い志と折れない熱意、粘り強いコミュニケーションの賜物なのだ。

「京都が好きで毎週のように訪れるのですが、景観を守るために主張し過ぎない資本主義って、とても素敵だな、といつも思います。丸の内も同じくらい景観が大事な街なので、やっぱり商業的なものと環境とのバランスというのは非常に重要。わたしはその考え方にすごく賛同できるから、厳しい条例や千代田区と、まったく“敵対”することはありませんでした。どちらかというと、勉強させてもらった感じですね」

結果的にユーザベース側も大満足のオフィスが完成し、環境に配慮したSDGs時代のデジタルサイネージとして大きな話題となった。伊藤はその柔軟な発想と解釈の拡張によって、道なき道を駆け抜ける野性的な能力を有している。だがその佇まいは、いたってスマートだ。

Work Tools 
「移動」を前提としたワークスタイルを反映した、仕事道具の一部。ミラーレスカメラ、バッテリー、水筒(自らドリップしたコーヒーを入れることが多い)、Apple Watch Ultraなどがある。必要最低限のツールを吟味し、軽量かつ丈夫なひとつのバックパックに入れて持ち運ぶ。無駄な荷物がなく、軽ければ軽いほど、遠くへ歩いていける、というウルトラライト(UL)トレッキング(ULトレッキングもまた、伊藤の愛好するアクティビティのひとつだ)の思想が、ここにも生きている。

挑戦し続けるから、新しい何かが生まれる

シティとアウトドア、Macの操作と土いじりをシームレスに行き来し、オフィスにも自宅にも長くはとどまらない。回遊魚のように移動し続け、思いついたらいつでも外泊ができるようなエッセンシャルズを常に携帯しているという伊藤にとっては、デジタルサイネージの質も雪の質も、まったく同じ意味と価値をもつ。そんな伊藤から見ても、RANGE ROVER SPORTのキャラクターは見事に自身のスタイルにフィットしていると感じるようだ。

「このクルマにはアウトドアのタフさと都会のスタイリッシュさが融合している感覚があって、自分のライフスタイルがまさにそれ。例えば僕は、自宅では裸足でリラックスしながら土をいじったり、木の剪定をしたり、スキーにワックスしたりして過ごしてますが、仕事に出るときは大体全身黒1色で、ある意味仕事モードの戦闘服に身を包んでいます。この両方にハマる感じで、どんなシーン、シチュエーションでも使ってみたいと思わされますね」

何より“質”と“質感”、そしてユーザーインターフェイスと実用性にこだわる伊藤だからこそ、エクステリアにもインテリアにも妥協はしない。

「ミニマリズムにも似たリダクショニズムという考え方で設計されたデザインが、素敵だなと思いますね。出っ張りのないドアノブひとつとっても、無駄なものを削ぎ落とすマイナスの美学というか……。そのフィロソフィーがしっかりと表現されています。さまざまな要素がありながらそれぞれが主張し過ぎず、全体がきちんとまとまってると感じます」

スキーが趣味でロングドライブをする機会も多いという伊藤にとっては、乗り心地や居住性、運転サポート技術も見逃せないポイントだ。

「家からスキー場まで片道4時間、往復8時間のロングドライブを、日帰りですることもあります。だから車内の快適性って、かなり重要なんですよ。シートの座り心地、ホールド感、振動の伝わりなどは気になりますし、あとは音楽がどれくらい聴きやすいかも大事。それと高速走行時の運転サポートですね。これがあるかないかで、だいぶ疲れ方が変わります。優秀な運転サポートがあれば、通常の半分以下に軽減されると感じます。これがないと、日帰りは難しいんじゃないかな。そういう意味でも、RANGE ROVER SPORTはお世辞抜きで素晴らしいですね。EVモデルが発売されたら、手に入れたいと思います」

「リスクを冒さなければ、新しいものはつくれない」と、伊藤は言う。

「これはもう、生き方みたいなものですから(笑)。リスクがありそうな場所を避ける生き方もあるとは思うんですが、やっぱりそういう場所に行かなければ、新しいことはできません。われわれはよく越境という言葉を使いますが、ある領域とある領域の間にこそ面白いこと、新しいことが潜んでいる。デザインとテクノロジーの間とか、旅行でも国境沿いとか県境とか面白いじゃないですか。

ふたつの要素が融合することで、化学反応的に何かが生まれる。われわれはそういうことにあえて突っ込んできました。これからもどうやってリスクを取るか、そういう“挑戦”を忘れずにやってきたいと思いますね」

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