2020年代以降、コンサルティングファームは大きな転換点を迎えつつある。急速に変化するテクノロジーや市場環境に合わせて、従来型の戦略立案だけでなく、自らが変化の旗振り役として渦中に身を置き、新規事業の開発や既存事業の改革をも推進する役割が求められているからだ。

ボストン コンサルティング グループ(BCG)も例外ではない。既存のデジタル組織を再編統合して新たにスタートした「DigitalBCG」は、デジタルテクノロジーにかかわる専門家集団「BCG X」と、デジタル戦略に特化したコンサルタントが集う「BCGテクノロジー&デジタルアドバンテッジ」の2組織が密に連携してクライアント企業を支援する体制を敷いている。

BCG X北東アジア地区共同リーダーの平井陽一朗と、BCGマネージング・ディレクター&パートナーの有本憲司に取材した前回の記事では、ビジネス、テクノロジー、デザインを深く理解しつつ、異なる専門性をもつ人々を巻き込みながら、プロダクトやサービス開発を推進してイノベーションを起こすDigitalBCGの“越境”人材について聞いた。

その最前線でクライアント企業の変革に向き合うDigitalBCGのメンバーには、いかなる景色が見えているのだろうか。今回は、“越境”人材たちの声からDigitalBCGの流儀を明らかにしていく。

多国籍展開が可能にする、人材と情報のグローバルな流通

大企業の組織課題解決から新規プロダクトやサービスの開発、既存事業の改革、最新テクノロジーの調査まで、DigitalBCGに寄せられる相談は幅広い。クライアント企業のニーズをくみ取り、それに柔軟に応えていく挑戦しがいのある仕事ばかりだ。

改めて、DigitalBCGで仕事をすることの魅力とは何だろうか──こうした問いかけに対して、3人のメンバーはそれぞれ「人材と情報のグローバルな流通」「ステークホルダーとのアラインメント(連携)」「経営層(CXO)からの組織改革」だと説明する。

「人材と情報のグローバルな流通」についてまず語るのは、BCGテクノロジー&デジタルアドバンテッジ(以下、TDA)で活躍するコンサルタントのソ・スヨンだ。

B2CやB2Bサービス、メタバース、生成AI、Web3……ソは幅広いテクノロジーの案件を担当し、こうした最先端のテクノロジーの現場実装の専門家としてクライアント企業の要望に合わせた最適解を提案する。その際、日本にはまだ前例のない依頼を前にして、海外の事例を探して参照することも多いという。

DigitalBCGでは世界各国にさまざまな分野の専門家が在籍し、国を超えて知見が共有されている。日本ではまったく新しい案件でも、海外の専門家に訊けばすぐに関連する事例などの情報をシェアしてもらうことが可能で、スピード感をもって顧客のビジネスに付加価値を生み出せるという。

こうした情報流通は「海外の先進事例を日本に持ち込む」だけにとどまらない。海外に日本の事例や情報をシェアすると、喜ばれることも多いとソは語る。

「グローバル、とりわけアジア地域で見ても、日本の人口は約1億2000万人とトップクラスです。かつ、公共も民間もインフラが整備されており、さまざまなデータが整理された状態で利用できる。また、日本はデジタル導入において先進的な事例が数多くあり、特に少子高齢化のような社会課題に関しては各社がこれまで取り組みを続けてきた蓄積があります。課題に対応した事例やサービスを海外に展開できるだけでも、大きな付加価値が生まれるんです」

その際、グローバルに各領域のエキスパートがいることも強みとなる。日本の先進事例を別の国にそのまま持ち込んでもうまくいかないことが多いが、DigitalBCGの場合は現地のことは現地を最もよく知るエキスパートに任せられるからだ。日本の知見をもつ人材と、現地のエキスパートがチームを編成することで、最適なローカライズと素早いサービス展開が可能になる。

グローバルな人材移動やキャリア構築を積極的に後押しするDigitalBCGの文化は、ソにとって大きなモチベーションになっているという。

「わたしはアジア圏を中心に、“テクノロジー”と“グローバル”を軸にコンサルタントとして働いていきたいと考えています。今回、入社から1年が経過したタイミングで、アジアのデジタル導入事例を学ぶために香港オフィスに異動する機会を得られました。それ以外にも、DigitalBCG内に蓄積された知見を他国のメンバーから教えてもらえたり、海外のMBA留学支援制度もあったりと、グローバルなキャリアデザインができることが大きな魅力だと感じています」

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ソ・スヨン|SUYEON SO
日本電気株式会社、アクセンチュア株式会社を経て2021年にBCGに入社。BCGテクノロジー&デジタルアドバンテッジグループに所属。国内外の通信会社やメディア会社に対し、主に新規デジタルビジネスの戦略やIT戦略の策定を中心に支援に携わっている。

ステークホルダーとの“アラインメント”の重要性

DigitalBCGのなかでもビジネス・プロダクトビルディングの専門家が集まるBCG Xにおいて、とりわけその重要性に注目が集まっている職種がある。プロダクトマネジャーだ。

マーケター、データサイエンティスト、エンジニア、デザイナー……クライアント企業の課題に合わせてさまざまな職種から編成されたチームをまとめあげ、よりよいプロダクトやサービスづくりを推進する役割を担うプロダクトマネジャーに求められているのは、多様なステークホルダー間での“アラインメント(連携)”だという。

BCG Xのなかでも新規事業開発に特化した「X.Ventures」でリードプロダクトマネジャーを務める岡田貴裕は、ソニー・エリクソンやユカイ工学を経てエンジニアとしてBCG Digital Ventures(現BCG X)に入社。その後、IoTサービスの開発企業を経験してからリードプロダクトマネジャーとして再入社している。

新規事業の立ち上げやWeb3、生成AIなど先端技術の事業への実装を担い、ヘルスケア・保険・エネルギーまで多種多様なクライアントと新しい技術をビジネスに接続する経験を積んだという岡田は、印象的だった案件として米国・ロサンゼルスに1年間常駐し、IoTプロダクトの新規開発から新会社の設立までを手がけた経験を語る。

「海運業界のDXをテーマに、グローバルチームで新しいプロダクトや事業開発を進める貴重な経験ができました。最初は面白そうな案件だなと思い『やってみたい』と手を挙げたところ、ロサンゼルスのプロジェクトリーダーから『じゃあ来てみる?』と声をかけてもらいました。現地では船に乗り込んで乗務員の行動や彼らが抱える課題を観察し、解決するプロトタイプを短期間で開発した後、PoCを実施しながら事業化まで磨き上げていきました」

クライアント企業に伴走し、アセットを生かしながら新しいものをつくる。同時に「ユーザーに本当に喜ばれるもの」を探り、それをスケールさせていく……こうした仕事に夢中になるうち、岡田は「つくる人がその価値を信じているプロダクトでないとよいものにならない」と気づき、クライアント企業との関係性構築の重要性に思い至ったという。

「自社ではできることに限りがあるとき、他社とのコラボレーションが重要になります。その際に大切なのは、ステークホルダーをいかに幸せにするか。よい製品やサービスをつくることだけではなく、『いかに全員が気持ちよく働ける環境をつくるか?』という点までをプロダクトマネジャーは考慮すべきだと思っています」

事業開発を進めるうえで、協力会社やクライアント企業など多様なステークホルダーが存在する。岡田は、その全員が受発注の関係性を超え、一緒にプロジェクトを進めていく「当事者」であると再定義することが重要だと語る。全員が同じ方向を見ながら一緒に考えられる体制を整えるため、例えばプロジェクトの最初に「わたしたちはひとつのチームです」と宣言する。また、クライアント企業の社員がDigitalBCGのオフィスに常駐するかたちで共に時間を過ごし、プロダクトのデモを見ながら対等に議論を重ねることも多いという。

「社内外の人々を“アラインメント”することで、プロダクトマネジャーはよりよいものが生まれる土壌をつくれます。従来のコンサルタントは、戦略の全体像を俯瞰して自分たちの役割を考える動きを担っていました。その役割に加えて、“ミニCEO”としてチームのなかで責任をもって意思決定し、よりよいプロダクトやサービスが生まれる環境を整えていく。DigitalBCGの支援が生み出す付加価値はそこにあると思います」
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岡田貴裕|TAKAHIRO OKADA
BCG X リードプロダクトマネジャー。ソニーモバイル、ユカイ工学を経て、2017年にBCG Digital Ventures(現BCG X)にエンジニアとして参画。その後、IoT開発企業のJENESISのCTOとして経験を積み、22年にプロダクトマネジャーとして再入社。大企業における大規模プロダクト開発・全社アジャイル導入や、スタートアップにおけるゼロイチでのプロダクト開発・技術戦略策定の経験が豊富。

経営層(CXO)と同じ目線で組織改革にかかわる

一方で、大企業の組織変革や既存サービスのピボット(方向転換)などの支援を手がけてきたプリンシパル – プロダクトマネジメントの近藤あやのは、ヒエラルキーのある組織内で全員の目線を揃えることの難しさと、その重要性について指摘する。

「大企業においては、経営層が熟慮の末に意思決定をしても、現場に意図が理解されない状況がよく起こります。全員で話し合うことができれば理想的ですが、大きな組織ではそれが難しい。だからこそDigitalBCGが介入し、組織全体で起こる認識のギャップを調整し、議論を重ねながら、適切な“落としどころ”を一緒に考えていく。それが組織改革の上でわたしたちが担う、重要な役割だと思うんです」

このように語る背景には、とある苦い過去がある。近藤は事業会社でプロダクトマネジャーやUXデザイナーとして働くなかで、大企業のデジタル組織の在り方に改革の必要性を強く感じるようになった。だが、組織改革のプロジェクトに志願し渦中に飛び込んでみると、その難しさに直面した。

「わたしが以前いた企業ではDXに注力していたのですが、デジタル組織を後から立ち上げたため、既存のビジネスや組織との接合に大変苦労しました。UXデザイナーやプロダクトマネジャーといったデジタル組織に必要な役割は、日本企業の伝統的な文化と合わないこともある。組織改革の推進という大きな役割を与えられ、期待感をもって入社したデジタル人材の多くが、権限移譲の問題などで『やりづらさ』を感じて活躍できず、短期で離職してしまったんです」

才能ある人々が集まり、会社をよくするために頑張っていても、組織課題が解決されなければ疲弊して辞めてしまうことに、近藤は心を痛めていたという。

大企業とデジタル組織のカルチャーギャップや環境の差はどうすれば埋められるのだろうか──そう考えた末に、会社内から組織を変革するより、会社外から働きかけるほうが組織全体を動かしやすいと考えて、DigitalBCGへの転職を決めた。現在は、抱き続けてきたモヤモヤの根本に正面から取り組めている、と近藤は語る。

「コンサルティングファームの一員として社外から組織改革を支援してみると、これまで自分が事業会社で見ていたものは“いち担当者の目線”から見えるものでしかなかった、と気づかされました。CXOと呼ばれる経営層の方々と話していると、経営層ならではの視点で組織改革に取り組んでいる。『わかっているからこそ踏み切れない』という事情に寄り添い、一緒に解決しなければ、一朝一夕には組織改革は成し得ないのだと理解が深まりました」

外部コンサルタントの立場で、大企業内のCXOの相談相手となれること。CXOクラスの人々と強いリレーションを築き、一気通貫で物事を進めていけること。これこそが、DigitalBCGの強みであり魅力だと近藤は語る。

「経営層やCXOクラスの方々と共に、トップダウンで大きな変革を推進できる会社は、コンサルティングファームのなかでも数が限られています。優秀な戦略コンサルタントと、多種多様なケイパビリティをもつメンバーが揃っているからこそ、挑戦できることなんです。前職で実現できなかった、パッションのある優秀な人々を迎え入れ活躍できる環境をつくることが、いまならできそうだと手応えを感じています」

近藤あやの|AYANO KONDO
BCG X プリンシパル – プロダクトマネジメント。複数の事業会社で、新規サービス・大規模リニューアルなど、大型案件でのプロダクトマネジャー・UXデザイナーを経験し、2020年にBCGに参画。WEBサービス、アプリ開発を得意領域とし、O2Oのプロモーション、新サービス立ち上げも多数経験。

「多様性」と「チームワーク」を両立させる秘訣

エンジニア、デザイナー、プロダクトマネジャー、コンサルタント……多様な人材を擁するDigitalBCGのメンバーは、同時に「チームワーカー」であることをモットーとしている。

「バックグラウンドが異なるメンバーが集まると、各自が頭のなかで思い浮かべることが異なるケースが多々あります。それでも、互いのズレを多様性の一部として認めた上で、チームとして前進できる。好奇心が強く、相手の考え方や知識に興味をもち、貪欲に吸収しようとする方が多いからかもしれません。その結果、各自がエキスパートとして専門性を生かしつつも、お互いの違いを尊重し、チームが早い段階で“アラインメント”できるんです」

人材の多様性を前提にしているが故に、働き方の多様性にも配慮がなされている。例えば、各プロジェクトでは「チーム・ノーム(チームとしての働き方の方針)」を定め、お互いの働き方を尊重し合いながら仕事することが奨励されている、とソは語る。

「BCGにはTeaming@BCGという仕組みがあります。毎回新しいプロジェクトに入るたびに、チーム・ノームを定めるんです。具体的には、チームミーティングを実施する時間帯、出社して顔を合わせる曜日、メールやSlackの使い分けなどのコミュニケーションスタイルについて話します。 例えば、お子さんがいる方は、仕事と家庭の都合がバッティングしてしまうことがあります。その場合、『この時間はお迎えなのでミーティングを避けよう』など、チーム内でお互いの働き方について認識をすり合わせるのです。『チームワークは多様性を認めた働き方から始まる』という考え方をもとに、プロジェクトごとに独自のワークスタイルを定めます」

プロジェクトが開始した後は、チーム・ノームが守られているか、プロジェクト責任者のマネジメントはどうか、オーバーワークが発生していないか等、専任のスタッフが各メンバーの負荷やチームの状態を毎週確認し、見守る仕組みも整えられている。

このような環境下で働くDigitalBCGの仕事について、いちばんの魅力は何かと尋ねると、岡田は「とにかく楽しいですね」と笑顔で答えてくれた。

「楽しいからこそ、このいいチームで長く働き続けたいと思っています。わたしたちが支援する日本の大企業には、優秀な人材やユニークな技術・知的財産、長年かけて蓄積されたオペレーションなどのよいアセットが多い。これらをデジタルとかけ合わせることで、新しい可能性を開花させる仕事をこれからも続けていきたいですね」

DigitalBCGについて
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採用イベント開催のお知らせ~ボストン コンサルティング グループ主催
現役コンサルタントによるTDA小規模セッションを開催!

開催概要
日時: (1)2023年9月1日(金) 18:30~/(2)2023年9月6日(水) 19:30~/(3)2023年9月19日(火) 19:00~
形式: オンライン開催(Zoom)
対象: 社会人経験3年以上かつIT/Digitalバックグラウンドもしくはアスピレーションをお持ちの方
服装: 自由
参加特典: セミナーご参加後2ヶ月以内のご応募で書類選考免除 及び適性試験一部免除
※応募締め切りは、開催営業日の2日前までとなります。 日程のご希望が集中した場合は、抽選とさせていただく可能性がございます。

内容(予定)
1. 会社・組織概要紹介
2. Q&Aセッション

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