フラヴィ・ハライス

フランスの田舎育ちだが、活気ある大都市のほうが落ち着く。モントリオールを拠点に、コロンビアのメデジン市の都市再生、ルワンダのスペシャリティ・コーヒー産業、ケニア難民キャンプの活発な経済活動、カナダの多文化主義などをテーマに、『ガーディアン』、『ル・モンド』、『ザ・コレスポンデント』、『デベックス』に記事を執筆。

公共交通には性差別がある。悪意はなく露骨でないかもしれないが、いたるところに見受けられる。世界各国の女性は男性と比べて家族の世話や家事を担っている場合が多く、日々の移動ではたいていの交通システムによって不便を強いられている。こまごまとした用事や子どもなどの世話のため、バスに何度も乗り降りしなければならず、多額の乗車料金を払っている。しかも、ベビーカーや買い物袋を持っての移動は厄介だ。

『ニューヨーカー』誌による2018年の調査では、女性は男性よりもはるかに頻繁に地下鉄で嫌がらせを受けており、その結果、公共の交通機関を避けてタクシーやライドシェアを利用するので、金銭的な負担が大きいことが明らかになった。

具体的な状況は地域によって異なるが、世界の国々や都市は似たような傾向にある。研究者は数十年にわたって女性が普段どんな移動手段を利用しているかを調査し、交通システムは女性のニーズに合っていないという結論をたびたび出しているのだ。

「ほとんどの公共交通がひとりで通勤する男性のためにつくられたものであることは明白です」。そう話すのは、都市と協力して持続可能な交通ソリューションを推進するNPO、交通開発政策研究所(Institute for Transportation and Development Policy)の広報、ジェミラ・マグヌッセンだ。

交通機関の運行スケジュールはたいてい、朝9時から夕方5時まで働く人々に便利なように決められ、ピークの時間帯以外に乗る人たちの待ち時間は長くなる。地下鉄にはベビーカーを歩道からプラットフォームに運ぶためのエレヴェーターがない駅が多い。公共交通サーヴィスが統合されていない都市──例えば、地下鉄とバスの運営会社が異なる場合──では、「トリップ・チェイン[編註:さまざまな交通手段を使い、複数の目的地に連続して移動すること]」する人は移動のたびに運賃を支払わなければならず、交通費がかさんでしまう。

利用者データから抜け落ちたジェンダーに対する視点

多くの公共交通機関当局は長年、(運動障害のある人々はもちろんのこと)女性にもっと適したサーヴィスを提供すべく努力してきた。ニューヨークのメトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ(MTA)は、2020~2024年までを期間とする総額52億ドル(約5600億円)のキャピタルプログラムの一部をアクセシビリティ強化のためのプロジェクトに投じている。女性の安全に対する懸念から、地下鉄やバスの女性専用車両などの整備が進み、苦情申し立ての手順が改善され、防犯カメラが増設された。

しかし、利用者データの収集に際し、ジェンダー(所得や民族性も同様)を考慮に入れている政府や交通機関はまれであるため、さまざまな策を講じて多様な問題にどう対処するにはどうすればいいかを知るのは難しい。さらに、移動中における女性の体験を考慮したデータ収集となると、ほとんど行なわれていない。

『グローブ・アンド・メール』が最近実施した調査によれば、カナダの大半の公共交通機関はバス停や待合所で発生する性的暴力事件を記録していない。そうした事件の管轄は地方自治体にあると認識しているからだという。問題の実態を明らかにせずに、交通機関が適切な対応策を講じることは不可能だ。

公共交通機関のなかで最も先を見据えていると言っていいのが、ロンドン交通局だ。同局は何年もの間女性その他の利用者グループの移動パターンを調査し、データの概要を毎年公表している。加えて、職員と利用者のための機会向上に関する明確かつ測定可能な目標を含む、平等と包括性についての方針も採用した。

ロンドン交通局は特別な例だが、それに倣おうと動き出した都市もある。ロサンジェルス郡都市圏交通局(LAメトロ)は、性別データの収集および解析を2019年までに開始した。当時、北米には参考にできる都市がなかったことから、LAメトロはそれまでの顧客調査のデータに、新たなアンケート調査、フォーカス・グループ、ワークショップを取り入れた独自の調査計画を策定した。