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──あなたはどのようにして労働者階級としてのアイデンティティを手放さずにいられたのですか。一流大学に進学して、学士より上の学位を取得している多くの人は手放してしまうものなのに。

そのことは自分でもよく自問します。いずれにせよ、実家がもともとブルーカラーだったから、そのカルチャーに染まっているんですよ。ところで、あなたがマヨネーズを嫌いなのはどうして?

──うーん、マヨネーズが好きだったことは一度もないですね。母は大好きだったのですけれど。ただ、決め手になったのは、16歳のとき、大学進学のためのお金をゲットしようと、リアリティ番組に出演したときの体験です。勝ったら5万ドル[編註:約540万円]が手に入るはずだったんですよ。最初のチャレンジは大食い競争でした。シルバーのベル型カヴァーをかぶせたお皿が並んでいました。で、カヴァーがとられると、お皿の上には、山盛りのホットマヨネーズがのっていたんです。

で、それをどうすることになっていたの?

──そのまま食べるんです。なので、ホットマヨネーズを山のように食べるはめになりました。

そうだったのね。じゃ、許してあげる。

──マヨ嫌いもPMC(専門管理階級)的なスノビズム(上流気取り)だと?

ええ、きっとそうよ。マヨネーズはちょっと低級感があるしね。

──マヨネーズはこと白人労働者階級のシンボルのようなものになっていますが、それはなぜだと思われますか。

退行的な感じがするんじゃないかな。進歩的な人は見向きもしなくなったものの一種というような。

おっと、マヨ問題に深入りしてしまいましたね。何を話していたのだっけ?

──階級の連帯についてです。わたしたちも含めて、PMCに属する人の共感がどのあたりにあるのかを見分けるひとつの方法は、便利な経済についてどう見ているかという点ではないかと思うんです。あなたの著作『Fear of falling(邦訳=「中流」という階級〈晶文社〉1995)』のなかに、昔から大好きな一節があります。

それでも、モノは違ったふうに「読む」こともできる。それはもち主のステータスを物語るモノだけでなく、目に見えない人たちの労働が凝縮されたモノでもあるのだ。

アマゾンや(食料品配達サーヴィスの)Instacartに即して言えば、彼らが消費者のためにしていることから見るか、それとも労働者のためにしていることから見るか、という問題になるでしょう。

そのことは私生活でも問題になっています。わたしはもう、クリスマスの時期であってもショッピングモールには出かけないんです。ですから、必要な物は注文することになり、家に段ボール箱が山積みになるわけです。アマゾンの“フルフィルメント”センターとはよく言ったものですが[編註:フルフィルメントは商品の管理から受注、出荷、配送に至る一連の業務を指すが、「要求を満たす」「職務を果たす」といった意味もある]、そこでは従業員が失神することもあると聞きます。ただ、本当かどうかは知らないし、知ることもできません。

実は、腕を折ったせいで、前の夫たちが動いてくれたんです。ひとりは先週、うちに来てくれました。もうひとりはあした来てくれることになっているのですが、彼は半ば引退した組合オーガナイザーをやっていて、組合をつくろうとしているアマゾンの従業員たちのアドバイザーを務めています。この問題については、わたしたちもいろいろ話しているのですが、正直なところやはり解決策を見出せていません。自分としては、基本的になるべく物を買わないようにしているのだけれど、クリスマスにはつい散財してしまいますね。