食とウェルビーイングとの関係を、哲学からサイエンスまで多角的な切り口で考察する、WIRED SZメンバーシップの連載「フードイノヴェイションの未来像」。そのウェビナー第2回には、ガストロフィジクス(食の物理学)を牽引するオックスフォード大学の実験心理学者チャールズ・スペンスが登場する。パンデミックでわたしたちが経験した「食べる」を巡る新たな分断や、その“味気なさ”の正体とは何なのか? 味覚だけではない、マルチセンサリー(多感覚)な食体験の可能性を改めて2020年代に拡張する。9月30日19:00〜21:00にウェビナーを開催。
※本シリーズの記事:(1)先見の明、(3)パニックと無視のサイクル
ミュンヘン再保険会社のギュンター・クラウトのメールが2013年にメタバイオータの受信トレイに着いたとき、ウルフはすでにパンデミックがビジネスにもたらす大きな影響について考え始めていた。当時のウルフは、世間からはインディー・ジョーンズばりのウイルスハンターと見られるようになっており、CNNでとりあげられたり、当然TEDトークにも登場したりしていた。
カリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)での終身雇用の地位を捨てたウルフは、サンフランシスコに移ってメタバイオータを設立。研究で培った成果を民間企業に注ぎ込み、研究拠点のネットワークから得たデータを使って顧客の要望に即した感染症の監視を行なおうと考えたのだ。
当初かなり長い間、メタバイオータの収益を支えていたのは、主に政府との契約だった。国防総省や感染症の発生の管理にかかわる支援機関との契約額は2,000万ドル(約20億円)を超えていた。また国際支援機関である米国国際開発庁(USAID)と提携して「Predict」というプロジェクトにも取り組んだ。
これは動物の宿主が保有するウイルスを網羅し、人間に伝染する可能性のあるウイルスを予測するデータベースをつくるというものだ。「ある程度の成果は得られました」とウルフは言った。「予測と予防にいくらかの予算が使われました。もちろん、全く充分な額とは言えませんでしたが」
コウモリなど野生動物の中に数多く存在するコロナウイルスのうち、いったいどれがヒトに害を及ぼしうるのか。ここに、パンデミックの脅威を将来的に予測できるようにする鍵を見出した研究者がいる。ウイルスの特徴を示すシステムの構築を進め、世界中の研究者に利用してもらって、タンパク質の相互作用に関するデータベースが出来上がれば、新しい病に迅速に対応できる可能性があるからだ。>>本文を読む。
財政的な錬金術で旅行・サーヴィス業界を救う
ビジネス界のリーダーたちと出会う機会を得るようになったとき、ウルフは彼らが感染症の流行のリスクをほとんど真剣に考えていないことに気づき始めた。2010年ダヴォスで開かれた『パンデミックに備える』という会議に呼ばれた彼は、登壇前に主催者からある調査結果を見せられる。
それによると、最高経営責任者(CEO)の60パーセントはパンデミックの発生を現実に起こりうるものと考えているが、それに対処する緊急プランを準備していると答えたCEOは20パーセントにすぎなかった。同じ年、ウルフはクルージング業界の会議にも招かれた。そこで業界の幹部たちに、メタバイオータは感染症流行のもたらす大惨事を防ぐことができると訴えたのだが、いい反応は得られなかった。「誰もわたしの言うことに興味などないようでした」とウルフは言う。
そこへ届いたのがギュンター・クラウトのメールだ。クラウトとウルフはミュンヘンの会議で顔を合わせ、すぐに打ち解けて話すようになった。ほどなくメタバイオータは、ミュンヘン再保険会社の生命保険部門に感染症監視プログラムを提供することになった。