【まもなく締切! 】 食体験の“分断”を越境するガストロフィジクスの可能性:チャールズ・スペンスが語る「フードイノヴェイションの未来像」

食とウェルビーイングとの関係を、哲学からサイエンスまで多角的な切り口で考察する、WIRED SZメンバーシップの連載「フードイノヴェイションの未来像」。そのウェビナー第2回には、ガストロフィジクス(食の物理学)を牽引するオックスフォード大学の実験心理学者チャールズ・スペンスが登場する。パンデミックでわたしたちが経験した「食べる」を巡る新たな分断や、その“味気なさ”の正体とは何なのか? 味覚だけではない、マルチセンサリー(多感覚)な食体験の可能性を改めて2020年代に拡張する。本日9月30日19:00〜21:00にウェビナーを開催。

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※本シリーズの記事:(1)先見の明(2)恐怖のカタログ

エヴァン・ラトリフ

長年にわたって『WIRED』US版に執筆してきたジャーナリスト。著書に『魔王 奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男』。

疫学者のニタ・マダフは2019年12月31日、オレゴン州ポートランドでいとこの結婚式に出席していた。4年にわたって感染症データ分析チームを率いてきたマダフは、その夏メタバイオータの最高経営責任者(CEO)に就任していた。

その日は60人以上の従業員を擁する会社のトップに立つ重責からしばし離れ、休日を心から楽しんでいた。米国中やそのほかの土地からも家族がその結婚を祝うために集まり、2019年最後の瞬間を共に過ごしながらカウントダウンをする計画だった。

だがその日の朝、式の直前に、同社の製品・方針・事業提携担当副社長であるベン・オッペンハイムから何通ものメールが届き始めた。珍しい肺炎に似た症状を起こす感染症のクラスターが中国の武漢で発生したらしい。メタバイオータの早期検知システムは、感染症流行のニュースを解析してピックアップするアルゴリズムを備えているのだが、そのシステムにより武漢はホットスポットになる可能性のある場所だと指摘されたという。

チームは普段から週に何百もの報告に目を通しており、新規の報告には慎重に対応する。マダフは披露宴の最中にオッペンハイムとメールで連絡をとりあった。「呼吸器系の感染症なら、病原は鳥インフルエンザのH7N9のようなもの? それともSARS-CoVのようなコロナウイルス?」

次の日マダフは部下に連絡をとり、その感染症が伝播する可能性のある場所を予測するのに必要なデータを早急にまとめるよう指示した。「その時点ではできる限りの情報を集めようとしてはいましたが、まだ総力を挙げているわけではありませんでした。確実に総力モードに入ったのは、1月の3週目ごろです」

燃えている家に火災保険を売るようなもの

世界中の地域で感染と経済的な被害が地続きに拡がっていくにつれて、メタバイオータの社員たちは、自らがつくり上げた感染モデルのまっ只中に自分たちが突如立っていることに気づいた。同社ではちょうど2年前、新型のコロナウイルスが全世界に拡がった場合の結果を予測する大がかりなシナリオのモデリングを行なっていたのだ。

「わたしがいま自分のなかで感情的な葛藤を感じているのは、おそらく自分たちもお決まりの展開から逃れられなかった部分があるからだと思います」とオッペンハイムは後に語ってくれた。「実際いつどこでどんな規模でパンデミックが起こるのか、誰にも予想はできません。しかし大まかなかたちを見れば、人類が前にも通ってきた道であることは明らかなのです」

NW

メタバイオータの製品・方針・事業提携担当副社長であるベン・オッペンハイムはセンチメント指数(恐怖のカタログ)の開発に携わった。

目の前で自分たちが予測したモデルが繰り広げられていくという悪夢のような事態をメタバイオータが経験していたころ、ミュンヘン再保険会社のギュンター・クラウトはシンガポールで別の問題に直面していた。同社の感染症対策事業部が未来の顧客の興味を惹こうと悪戦苦闘してきたその地域で、保険を購入したいという企業が大挙して押し寄せてきたのだ。