「フードイノヴェイションの未来像」ウェビナー開催!
ゲスト:サラ・ロヴェルシ(Future Food Institute創設者)

最新回のテーマは「“食の主権”をコモンズによって取り戻す」。自分たちが食べるものを自らのコミュニティが選び、生産・流通するといった「食料主権」を再び自分たちの手に取り戻すことはいかにして可能なのか?詳細はこちら。
ギラッド・エデルマン

ワシントンD.C.を拠点に活動する『WIRED』US版の政治ライター。『ワシントン・マンスリー』元編集長。イェールロースクールで学位を取得。

わたしたちはマニピュレーションの時代に生きている。商業監視の大規模なネットワークに一挙手一投足を追われ、思考もずいぶん追跡されている。高度な人工知能(AI)に供給されるそれらのデータは、絶妙な売り文句とタイミングで個人向けの宣伝に使われ、歯ブラシを買ったり、ミールキット(食材セット)に申し込んだり、何かのキャンペーンに寄付したりするよう促す。

行動ターゲティング広告と呼ばれるこの手法は、高度にパーソナライズ化されたマインドコントロールの対象にわたしたちがなっているという、恐ろしい可能性を浮上させる。あるいはその恐怖は逆かもしれない。デジタル広告の当の問題(と、わたしたちの生活により直結する危険)は、それがうまく機能しないことだとグーグルの元従業員ティム・ファンは語る。

Subprime Attention Crisis: Advertising and the Time Bomb at the Heart of the Internet

TIM HWANG / FSG ORIGINALS PHOTOGRAPH BY MACMILLAN

ファンは新刊『Subprime Attention Crisis: Advertising and the Time Bomb at the Heart of the Internet(仮訳=サブプライム・アテンション・クライシス:広告、そしてインターネットの中心にある時限爆弾)』のなかで、新たな広告ビジネスはフィクションのうえに成り立っているという主張を展開している。マイクロターゲティングは正確性も説得力も、当初の狙いよりは格段に劣るが、それでも現代のインターネットの基礎──世界最大手かつ最も重要な企業の富の源泉であり、大半の「無料」ウェブサイトやアプリがもうかるメカニズム──であることに変わりはないという。

この不安定な基盤が崩れたら、経済全般にどれほど影響が及ぶか予想もつかない。ファンは、2007年以前の住宅バブルと、今日のデジタル広告市場の間にある広義の類似性を描く。

大不況が訪れる前の数年間、米国のレンダー[編註:融資を行なう金融機関]は(いま思えば)返済能力の低いと見込まれる人々にも住宅ローンを組ませるなど、かなり度を失っていた。この悪名高い「サブプライム」住宅ローンはその後、危うい原資産を隠すため、複雑な金融商品としてパッケージ化された。投資銀行などの金融機関は、中身もよく知らずにその商品を購入することとなる。そして住宅市場が低迷すると、世界経済を揺るがすパニックの引き金となった。

金融市場の大混乱前に住宅が果たした巨大な役割のように、デジタル経済においては広告が同様の役割を果たしている。グーグルは収益の80%超を広告から得ており、フェイスブックにいたっては99%が広告による収益だ。また広告費は、アマゾンの収益シェアにおいても急成長を遂げている。

2019年のデジタル広告の世界市場は3,250億ドル(約34兆円)で、2024年には5,250億ドル(約54兆円)まで成長すると予測されている。こうした収益は、AIやクリーンエネルギーの最先端研究をはじめとする無数の事業に注がれており、広告費という蛇口が閉まれば、これらの事業は枯れてしまうかもしれない。

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人間はほとんど関与していない広告枠

2000年代の金融市場が危険なほど不透明だったというなら、現代のインターネット広告も同様だろう。オンライン広告の黎明期、ブランドはウェブサイトの所有者と契約を結んで有料バナーを掲載した。

広告インヴェントリとして知られるオンライン媒体の広告枠は、パブリッシャーが直接販売していた(あなたがいま読んでいる『WIRED』でこうした取引が最初に行なわれたのは1994年)。今日、そのプロセスははるかに複雑になり、人間はほとんど関与していない。

「現代の資本市場を支配するように、マシンは現代のウェブ広告のエコシステムも支配している」とファンは記している。いまではウェブサイトを読み込んだり、ソーシャルメディア上でスクロールしたり、グーグル検索でEnterを押したりするたびに、何百、何千もの企業が競って自社の広告を次々に表示する。