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ACTING CLASS」|ニック・ドルナソ
一台のクルマに同乗した家族と思しき白人の老若男女5人。だが、一行は家族ではなく、赤の他人だった。唯一の共通点は、ある場所で開かれるセミナーに参加するということ。それぞれに耐えがたき思いを抱え込む彼/彼女たちはセミナーの主催者の男を盲信し、横たわり、それぞれの想像する世界を忠実に頭のなかで描いていく。現実から目を背けた彼らの代償とは。同誌2020年12月28日号掲載作品。
新元良一|RIYO NIIMOTO

1959年生まれ。作家、コラムニスト。84年に米ニューヨークに渡り、22年間暮らす。帰国後、京都造形芸術大で専任教員を務めたあと、2016年末に、再び活動拠点をニューヨークに移した。主な著作に『あの空を探して』〈文藝春秋〉。ブルックリン在住。

すぐれた小説、ジャーナリズム、評論で知られる『ニューヨーカー』誌だが、カトゥーン(漫画)という“顔”もある。古いところではジェームス・サーバーやピーター・アーノ、最近ならロズ・チャストなどお抱えのアーティストの作品が表紙や挿絵で紹介され、ほかにもクリス・ウェア、エイドリアン・トミネといった人気作家も起用される。

2020年12月28日号の同誌は、恒例のカトゥーン特集で激動、多難な2020年を締めくくった。ドナルド・トランプと彼の顧問弁護士で元ニューヨーク市市長のルドルフ・ジュリアーニをあしらった風刺画の表紙はハリー・ブリッスが手がけ、先のチャスト、ジュリアン・タマキなど、そうそうたる顔ぶれで目を楽しませてくれる。

ページをめくる手が止まったのは、「FICTION」の欄である。普段なら本連載でも取り上げる短編小説がここに載っているが、今回はコマ漫画が17ページにもわたり埋め尽くされた。

ニック・ドルナソ|NICK DORNASO

1989年生まれ。2016年にクリス・ウェア、エイドリアン・トミネといったオルタナティヴ・コミックスの人気作家の作品や、バンド・デシネ、日本の劇画の英訳などを手がける国際的に有名な出版社「ドローン・アンド・クォータリー」から『Beverly』を出版。デビュー作である同作品が「アングレーム国際漫画フェスティバル2018」で新人賞を受賞。2作目となる『サブリナ』〈藤井光訳、早川書房〉は、グラフィック・ノヴェルとして初めてブッカー賞にノミネートされた注目の若手作家。

カトゥーンの特集号だから、それだけなら驚く必要もないだろう。しかし掲載されているのが、2018年に発表された『サブリナ』がすこぶる高い評価を受け、グラフィック・ノヴェル初のブッカー賞の候補になったニック・ドルナソの新作となれば、見逃すわけにはいかない。

漫画というメディアの特性から、いつもより早く読了したその「ACTING CLASS」であるが、充分に理解し読みきった感触はない。余韻を残し、思考を促したあとに再読し、浮かんできたのは、「信じる」という現在の社会問題だ。

そう聞くと、よく話題に上がるフェイクニュースを思い浮かべるかもしれない。確かに米国の分断は、マスメディアやソーシャルメディアから発せられる情報が原因のひとつとされ、事実に反した内容が多数の市民の怒りをあおったとされる。

しかしフェイクニュースを含めて、われわれはなぜ信じることに執着するのか、そう思う機会が最近増えた。いくつかの指摘があるなかで、複雑な社会への不安を取り除くため、わかりやすく現状を解き明かしてくれる話に飛びつきたくなる、という知見は確かに説得力がある。

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一方でなぜそこまでして、自分も含めて現代人は知ることに没頭するのか、とも思う。