※ 毎週木曜日のSZ会員向けのオンラインイヴェント「Thursday Editor’s Lounge」のアーカイヴ動画を文末に掲載しております。ぜひお楽しみください。

「フードイノヴェイションの未来像」ウェビナー開催!
ゲスト:サラ・ロヴェルシ(Future Food Institute創設者)

最新回のテーマは「“食の主権”をコモンズによって取り戻す」。自分たちが食べるものを自らのコミュニティが選び、生産・流通するといった「食料主権」を再び自分たちの手に取り戻すことはいかにして可能なのか?詳細はこちら。

ロンドンの中心に位置するハイドパークは、出張のたびにランニングするのを楽しみにしている公園だ。SOHOの定宿からオックスフォード・ストリートの喧騒を駆け抜けると、そこにはメタヴァースかのごとく非現実的なほど美しい芝生とイングリッシュガーデンが拡がっている。その広大な公園の北東、マーブルアーチに面する所にスピーカーズ・コーナーという一角があって、そこは誰もが通りかかる人々に向かって熱弁を振るうことができる場所だ。もともと19世紀の労働者運動の高まりのなかで「演説する権利」を具現化したもので、マルクスやオーウェルも弁舌を披露した。もちろんいまでも、誰でも自由にそこに立って語り始めることができる。

昨夏にシリコンヴァレーで話題となった音声SNS「Clubhouse」がやっと日本でも展開され、今週は招待を請う声が各種タイムラインを埋めていた。それ自体はFOMO戦略(「自分だけ取り残される不安」を成長のドライヴァーにする)の典型で、アプリの通知をオンにしていると、「誰々と誰々が〜について会話しています」とご丁寧に教えてくれて、例えば職場や学校など、リアルな場での友人や知り合いの立ち話についつい耳をそばだてるようなFOMOのオンパレードになりそうでそっと通知はオフにした。

でも、緊急事態宣言によってそうしたリアルな場を失った人々にとっては、いまはこれが気分なのかもしれない。ちょうど今週木曜日には、日本発の音声SNS「Dabel(ダベル)」を立ち上げた起業家(そしてぼくにとっては永遠に「セカイカメラ」をつくったヒーロー)である井口尊仁さんと弊誌デジタル副編集長の瀧本によるClubhouseでのゲリラトークイヴェント「Clubhouse or Dabel 世界はどっちだ? 「声のソーシャル」が拓く世界を考える」を覗いた方もいらっしゃるかもしれない。SZメンバーシップでも、機会があればぜひ一度開催してみたい(メンバーの方に呼んでいただければいつでも空いていれば馳せ参じます)。

Clubhouseの仕組みは、いまふうに言えばウェビナーの音声版といったもので、感覚チャネルを絞り、アーカイヴを残さないことでよりカジュアルかつ親密な場をつくっていくものだ。でも言ってみれば、一人あるいは仲間でスピーカーズ・コーナーに立って自由に演説を始め、やがて公園をそぞろ歩く人々がそこに集まって群衆となっていく可能性を秘めたものだと言える。もちろん、公園のあちこちでは誰もが連れと気ままな会話を楽しんだり、日光浴やランニングをしている(ロンドンであれば、青空の下でとはいかないかもしれないけれど)。その光景が大切だと思うのは、いまのClubhouseのように選民意識の塊が演台に立って得意げに話すだけでは、カルチャーやライフスタイルとしては根付かないと思うからだ。

新しいSNSプラットフォームの誕生はこれまでも、ちょうどかつての社会運動のように、既存の社会の枠組みや人々のつながりを再編し、階層や既得権の流動化を促してきた(それをぼくは「サマー・オブ・ラヴ」と呼んで歓迎した)。そして歴史のどの局面においても、もちろんClubhouseに限らず音声SNS全般も、そぞろ歩く人々を引きつける「スピーカーズ・コーナー」となって実際に社会に影響力をもちうるかどうかは、大衆の動員、つまりネットワークにかかっている。