インターネットは「与える人(givers)」と「受け取る人(takers)」で構成されている。圧倒的多数のユーザーは後者だろう。壊れたトイレの修理法の動画をクリックしたり、空気清浄機を購入する前にレヴューに目を凝らしたり、昔好きだった子ども向けテレビ番組の映像を誰かがアップロードしているのを見つけて喜んだりする。

こうしたことを可能にしてくれるのが、「与える人」の存在だ。トイレを修理しているところを撮影したり、空気清浄機について1,000語のレヴューを書いたり、VHSテープをわざわざデジタル化してその内容を世界に向けて発信したり……与える人がいなければ、インターネットはこれほど便利で役立つ場所にはなっていないだろうし、多くのトイレはいまだに壊れたままだっただろう。

もちろん、ときおり何かをインターネット上に提供している人はたくさんいる。Facebookのコミュニティページにお勧めのものについての記事を投稿したり、TripAdvisorに新しいレストランのレヴューを書いたり、Twitterの「誰かこういうのを覚えていませんか……」というつぶやきに答えたり。

だが、なかには、毎日欠かさずインターネットに接続し、ひたすら与えて与えて与え続けている人もいるのだ。人々の古い家族写真を無料で修復したり、小さな男の子がなくしたテディベアの製造元を何時間もかけて探したり、つまらないけれど役に立つ製品のために詳細なレヴューを残したり。このような人たちは、何をモチヴェイションとしているのか? なぜ彼/彼女らはこんなにも親切なのか? 他の人たちはただ受け取っているだけなのに、なぜ与え続けるのか? 『WIRED』はそうした人々を見つけ出して、直接話を訊いてみた。

The Finder/見つける人

ある人はヴィンテージの調理用ポットを、別の人は特定のスタイルのラップドレスを欲しがっていた。アーティストを特定する手助けを求めている人や、樹皮のような手触りのユニークなドリンクグラスのセットを探している人もいた。

21年12月のある週に──特別ではないごく普通の週だ──法医学アートを学ぶ学生であるミシェル・スポルディングが、ひとりでこの人たち全員の手助けをしていた。スポルディングはほぼ毎日、「Help Me Find」というReddit(レディット)上のコミュニティ(サブレディット)のリクエストに応えている。

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このサブレディットでは、人々が、ネット上でどうしても見つからないものの出所を突き止める手助けを求めている。あるユーザーが、探していたドリンクグラスへのリンクをスポルディングが投稿したのを見て「信じられない! 一体どうやってこんなに早く見つけられるんだ。ビックリだよ。ありがとう!」と書き込んだが、スポルディングは「どういたしまして」と返しただけだった。

彼女は「Help Me Find」に投稿するだけでなく、「What Is This Thing」という、偶然見つけた珍しいものの写真を投稿するサブレディットでも、謎解きを楽しんでいる。2年前には、あるReddit参加者が裏庭で見つけた指輪を特定する手助けをした。その指輪は約200年前の「モーニングリング」と呼ばれるもので、亡くなった愛する人を記念するものだった。

「あなたはこの24時間で、犬の品種、ネコの品種、たった1本の鹿の骨、非常に特殊な男性用スーツ、そしてこのヴィクトリア朝のモーニングリングを正確に特定し、お絵かきタブレットについて根拠のあるアドヴァイスまでしていますね」と、ある人がコメント欄に記入した。「誤解しないでください、わたしは感心しているんです。でも、一体あなたは何者なんですか?」

コロラド在住のスポルディングは50代で、「アンティーク・ロードショー」[編注:BBCで1977年から放送されているアンティークの鑑定番組]は毎回欠かさず観ている。自身も骨董品を収集していて、芸術家でもある彼女は、パンデミックの間に学業に戻ることを決意した。「ネットにつながる時間があるときは、動画やなんかを観るより、Redditのフォーラムに行っていろいろ見て回ったり、ググって捜し物を見つけたりするのがわたしのリラックス法なんです」と彼女は言う。「宝探しみたいなものですね」

スポルディングにとって、謎解きやモノの出所を突き止めることは、ちょっとした息抜きなのだ。だから人々がお礼の言葉を忘れても、彼女は気にしない。特に思い出の品を探す手伝いをするのが好きで、過去には自分のアートスキルを生かして、見知らぬ人の古くなって傷んでしまった家族写真を無料で修復していたこともあった。「そういうことに感動する性質(たち)なんです」と彼女は言う。「わたしはただ、大好きなオモチャや壊れた装飾品の代わりになるものを探す手伝いができるというアイデアがとても気に入っているんです。心がふんわり温かくなるんです」

他の人たちのようにゴードン・ラムゼイ[編注:ヨーロッパで大人気のカリスマシェフ。テレビ番組でも活躍]のTikTokを見たり、ライヴァルのInstagramをこっそり覗いたりするのではなく、なぜ自分の空いた時間を使ってわざわざ見知らぬ人を助けているのかと訊かれたスポルディングは、まさにそれなんですと答えた──他の人がしないからだと。

「時間を割いてくれる人、時間のある人は、必ずしもそう多くないと思うんです。わたしの生活はそれほど忙しくないし、9時から5時まで働いているわけでも、子どもがいるわけでもありませんから」と彼女は言う。「それにどちらかと言うと自分のためなんです。誰かのほどけた紐を結び直してあげることができたんだという満足感が得られるんです」

The Reviewer/レヴューを書く人

一日の仕事が終わり、妻が眠入ったあと、43歳の土木積算士クレイグ・ローズはiPadを取り出してAmazonのレヴューを書き始める。ローズは現在、Amazon UKで25番目のトップレヴューワーだ。これは、他のユーザーが彼のレヴューを10,873回「役に立った」と評価したことで得られた順位だ。

英国ダービー在住のローズは、ボクシンググローヴから空気清浄機、犬用のおやつ、アーティスト用の絵の具パレットまで、あらゆるものをレヴューする。現在は、レーザー脱毛器を肩に装着して、この器具が数カ月間のうちにどれくらい進歩したかを入念にチェックしている。「何かを極めるためには、時には痛い思いもしなくては」と彼は言う。

ローズは、2001年に初めてAmazonで富士フイルムのデジタルカメラを購入して以来、ずっとAmazonのレヴューを書き続けている。レヴューを書くようになったのは、彼自身がそれを頼りにしていたからだ。「人は何かに夢中になると、お返しをするようになるんですよ」と彼は言う。2年前、ローズは「Amazon Vine先取りプログラム」に招待された。つまり、いまは定期的に無料で商品を提供してもらってレヴューを書いているということだ。ならば、彼のしていることは見かけほど利他的ではないのだろうか? それはタダで商品を手に入れる手段なのだろうか?

実のところローズは、個人的には欲しくない商品をレヴューに選ぶことが多いそうだ。その方が「本物の、適切で公平なアドヴァイス」ができるからだ(おかげで肩甲骨を痛めてしまった)。ほかにも謝礼金や商品を提供するのでレヴューを書いてほしいというメッセージが「1日に最低1通」はメーカーから直接送られてくるが、「断固としてすべて無視している」という。彼を買うことはできないのだ。

では、このハイパーレヴューアーを突き動かしているものは何なのか? ローズは、常時5個から10個の製品を試しているだけでなく、できるだけ詳細なレヴューを書くために、写真や動画の撮影までして添付している。Amazonのレヴューアーランキングの順位を気にしているからではない。もちろん自分の仕事が認められるのは嬉しいが、だからといって1位になることを目指して余分なレヴューを書くことはない(レヴューアーのなかにはそういう人もいるが)。それよりも、ローズはただ人を助けることが好きで、それを楽しんでいるのだ。

「人に自分の意見を聞いてもらえる場があるのはいいことです。わたしが店頭でこんなことを言っても、誰も聞いてはくれないでしょう」と彼は言う。ソーシャルメディアは本質的に論争になりがちなので好んで使う気にはなれないとも言う──「インターネット上で人が壊れてゆく姿をたくさん見ることができますよ」。その代わり、彼はAmazonを使って自分の声を伝えているのだ。政治やスポーツ、ニュースに関しては「インターネット上で誰かの意見を変えるなんてまずできません」と彼は言う。「でも、誰かが何かを選ぼうとして積極的に意見を求めているとしたら、そういうときなら他人の意見に耳を傾けるかもしれないですよね」

The Fixer/修理する人

YouTubeには、電子レンジやパソコンの修理法を紹介するチャンネルが何千とある。これらのチャンネルを運営しているのはもちろん親切な人たちだが、彼/彼女らは動画を通じてお金を稼ぎ、自分の修理ビジネスを宣伝しているので、その動機は完全に利他的なものというわけではない。

それより遙かに興味深いのは、自分が悩んでいたことを解決した後に、単発の動画をアップロードする人たちだ。例えば、「流れの悪いトイレを修理する方法──回りくどいことなしの即答 *動画内に成人向けの用語が含まれています *」という素晴らしいタイトルの動画をつくった謎の人物がいて、この動画は10万回以上再生されている。18年9月には、カリフォルニアに住む35歳の主婦ジェナ・クインランがそんな動画のひとつをアップしてくれている。題して「アイロン台の折り畳みレヴァーの直し方! やっとわかった!」

クインランは、このヴィデオを投稿するためにYouTubeのチャンネルをつくったわけではない。彼女はずっと前に、エッセンシャルオイルへの愛を伝えるためにチャンネルを立ち上げていて、その後の数年間で400人を少し上回るくらいの登録者を集めていた。アイロン台の動画は、彼女の小さなコミュニティでは望まれても必要とされてもいないことはわかっていたが、数カ月間「超イライラした」後にようやく自分のアイロン台を直すことができたとき、彼女はどうしても自分の知識を世界に広めたいと思ったそうだ。

もちろん、前もって自分でもアイロン台の修理法をYouTubeで調べてみたが、そのとき見つけた動画は「暗い画面、実に不明瞭な説明、寄りの絵がなくて何が起こっているのかわからない映像」のものばかりだったという。

「なかには、無理に折り畳もうとして、余計にアイロン台を壊してしまった人もいました」と彼女は言う。「それでも、わたしはなんとかそういう動画から必要な情報を拾い集めることができましたが、ボードを修理している間ずっと、なぜ誰もあの部分について話さないのかしら? とか、ここのところをもう少しちゃんと見せてくれないのかしら? とか、そんなことばかり思っていました。わたしならもっと巧くやれるというアイデアがたくさん出てきて、それで、とうとう自分で動画をつくることにしたんです」

クインランの動画が圧倒的に支持されていることは、コメント欄を見ればわかる。「アイロン台の折り畳み部分を修理する方法を紹介したYouTubeの動画はいくつもあって、質的にばらつきがあるのですが、この動画がダントツで一番です」と書いている人もいれば、「これはすごい! 30年使っていたアイロン台を捨てるしかないと思っていたんです……」という人も。

クインランは、「わたしと同じようにフラストレーションを感じて苦しんでいる人を助けたい」という思いだけでヴィデオを制作したと言うが、多くの人は解決策を見つけても、わざわざ時間を割いてそれを広く一般に紹介したりはしない。彼女はまた、それまでに何度かYouTube動画の作成を経験していたことも、アイロン台の動画をつくろうと思うきっかけになったのではないかと語っている。彼女は、他にも、ディフューザーの修理法やバイクのベルトの修理法などの動画をつくっているが、彼女のチャンネルは収益化できるほど大きくないため、金銭的な報酬は受け取っていない。

彼女は、動画作成については「助けてくれた人たちのためにも、努力する価値はあると思います」と言う。「わたしのモチヴェイションは、『ああ、なるほど』と思う瞬間を経験して、それが誰かの役に立つ貴重な情報であると感じることから生まれていると思います。そういう情報はネット上では簡単に見つけられないので、インターネットにあいた穴を埋めているような気持ちになるんです」

The Problem-Solver/問題を解決する人

ラーラララララーー、この歌なんでしたっけ? こういう場所でこんなことをしているこんな男が出てくる映画を覚えている人、いませんか? これらはグーグル検索することがほとんど不可能な質問だが、ありがたいことに、「Tip of My Tongue」[編注:原義は名前や言葉などが喉元まで出かかっているんだが……という意味]というタイトルのサブレディットでは、200万人近い人が進んで問題解決に協力してくれている。

ここでは、「ドゥ、ドゥ、ドゥ、ドゥー、ドゥー」という音が続く歌や「倒すとアアアアエエエエウウウみたいな音がする棒状の」オモチャ、「マイケル・ダグラスに似ているがもっと髪の毛が多い俳優」などがユーザーによって解明されている。そのなかでもおそらく最も多くの人のために役立っているのが、このサブレディットで5,000件以上の質問を解決してきたひとりのユーザーだ。

icon-picturePHOTOGRAPH: XAVIERARNAU/GETTY IMAGES

たくさんの問題を解決している自身のRedditアカウントとの関係を知られないように苗字を伏せてほしいと『WIRED』に頼んだカレンは、ニューヨークを拠点とする40代の女性だ。彼女が「Tip of My Tongue」を気に入っているのは、「さほどキュートでもフレンドリーでもないことが多いRedditの中にあって、珍しくキュートでフレンドリーな空間」だからだ。

カレンは仕事の合間に一息つくときはいつも、このサブレディットを訪れる。「20年前のメロドラマやゲームショウと同じで、バックグラウンドノイズのようなものです」。80年代の音楽や下らないリアリティ番組に関する質問には心惹かれるが、自分の専門ではないアニメに関する質問は無視するという。そしてこのRedditで4年間、男性が古いホラー映画を探すのを手伝ったり、少ない手がかりをもとにフォントを特定したり、ある種の文学を表すのに驚くほどピッタリな言葉を見つけたりしてきた。

彼女は動機について「いろいろ調べるのは楽しいし、調べているうちに忘れていた自分の記憶を取り戻して、かゆいところにようやく手が届いたみたいな気分になることがあって、そういうときは特に楽しいですね」と話す。「それにわたしの人生や日々に大きな負担がかかっているわけではありませんから。大英図書館で5時間かけてOED(オックスフォード英語大辞典)を調べるようなことではなく、せいぜい2、3分程度のことなんです」。

カレンは、人々が失われた記憶を取り戻す手助けをするとき、それが感傷的な記憶の場合は特に、「ちょっとした興奮」に出合えるのだと言う。「20年間探している映画があるんですとか、おばあちゃんがよくこういう曲を聴いていたんだけどとか言われることがあって……そういうのがわたしは好きなんです。誰かの手助けをすることが。大事なのはわたしが興奮する瞬間ではなく、その誰かが興奮する瞬間なんです」と彼女は言う。

「Tip of My Tongue」では、ユーザー名の横に小さな数字が表示されていて、そのユーザーが解決した問題の数を知ることができる。だが、カレンはこの数字を増やしてゆくことを励みにしているわけではない。「数字は邪魔だと思います……誰でも力を貸すことはできるんです。ついている数字が5,000でも0でも関係ありません。こんな数字がなくなって、みんなが同等な探偵でいられるのが理想的な世界だと思います」とカレンは言う。彼女が望んでいるのは、人々を助け、それを楽しむことのようだ。「コーヒーを飲みながら何人かの人を助けることができれば、それだけで充分幸せです」

WIRED US/Translation by Michiko Horiguchi, LIBER/Edit by Michiaki Matsushima)