エアリアン・マーシャル

自律走行車、交通政策、都市計画、そして人気のテーマ:交通渋滞を打破する方法(実際には無理)などについて執筆。志の高いクルマ通勤のニューヨーカーだが、拠点としているサンフランシスコを贔屓にしている。『WIRED』の前は『The Atlantic』のCityLab、『GOOD』、農業専門誌『Agri-Pulse』に寄稿。

電気自動車(EV)を充電できるガレージのある素敵な家をもつあなたは、未来に生きている。といっても、申し訳ないけれどそれはまったくめずらしいことではない。米国のEVオーナーの90%は自宅にガレージがある。この数字は、都会人にとっては悲劇を意味する。駐車場に充電器が設置されたマンションはごくごくまれなのだ。

しかもそれだけでは足りないと言わんばかりに、充電可能な路上駐車場の競争率は高く、EVは命の源である電源にありつけないでいる。頭上の送電線を拝借して愛車のテスラにつなげたらどうだろう? 身体をカリカリに焼き上げたいなら、それでもいい。でもこの先もっといい方法が登場する。賢い人たちが、干上がった都会のEVに電源をもたらすために取り組んでいるのだ。

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マット・サイモン

『WIRED』US版のサイエンスジャーナリスト。生物学、ロボット工学、カンナビス、環境を担当。著書に『Plight of the Living Dead: What Real-Life Zombies Reveal About Our World—And Ourselves(行きながら死ぬことの苦しみ──本物のゾンビが世界とわたしたちについて暴くこと)』のほか、アレックス賞を受賞した『The Wasp That Brainwashed the Caterpillar(たいへんな生きもの:問題を解決するとてつもない進化)』などがある。

これは朗報だ。というのも、スモッグの多い都市の乗り物を電動にすることは、さらなる気候変動を食い止めるための重要な計画の一部となるからだ。しかし都市に住む人々にEVを購入させるのは難しい。たとえバッテリー容量に対する不安を払しょくできたとしても、住人たちは充電場所が少ないことに気づくだろう。

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誰かがそれを解決しなければならない、と語るのは、持続可能性に焦点を当てた研究機関、ロッキーマウンテン研究所でカーボンフリー・モビリティ・チームの代表として電動化を研究しているデイヴ・マラニーだ。「いまのところはっきりしているのは、まもなくEVの時代が到来し、ガレージをもつ富裕層の市場があっという間に飽和状態になるということです」と彼は言う。「だから市場を拡大する必要があるのです」

目標は明確だ。充電場所を増やすこと。しかし密集した地域での永遠の課題は、その設置場所だ。さらに、アクセスしやすいだけでなく、誰もが利用できる価格を保証するにはどうしたらいいだろう?

「万能の解決法があるかはわかりません」。米国運輸省のポリー・トロッテンベルク副長官は22年1月、メディアとの電話会議でそう述べている。だが彼女ならきっと見つけられるだろう。トロッテンベルクは最近までニューヨーク市の運輸局長を務め、EV充電の実験を数多く監督してきたのだ。

少なくとも問題解決に役立つ資金は配分される。連邦インフラ法案には、この先さらに何十万という公共充電ステーションを整備するための予算75億ドル(約9,200億円)が盛り込まれているのだ。2035年までに新たなガソリン車の販売停止を公約しているカリフォルニア州をはじめとする各州も、充電場所の増設に特化した計画を立てている。

「チャージングデザート」を生み出す可能性

どのような戦略であれ、各都市、そして連邦政府が、(多くの政治家が優先事項として掲げる)公平性、利便性、人種的正義の改善という、大きな目標の達成にこだわるなら、この問題は必ずクリアしなくてはならない。

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結局のところ、手頃な価格の充電インフラを気兼ねなく利用できるようになるまで、低所得者層は従来のクルマからEVへ乗り換えることはできないのだ。資本主義の誘惑により、民間企業はいかに多くの場所に多くの充電ステーションを設置できるかを競うだろう。しかしこれは、すでに米国に存在する「フードデザート」(食品チェーン店が出店しない貧困地区)のように、「チャージングデザート(充電砂漠)」を生み出す危険性がある。

米国の公立学校も、同様の構造的不平等を抱えている──税収が多い地域ほど教育が充実するのだ。そして始まったばかりの充電ビジネスも、現在のところ先行きが暗いのが実情で、EVブームが訪れたら低所得者層が確実にその波に乗れるよう、政府は引き続きリソースや補助金を支給していく必要がありそうだ。

充電を企業の利益ではなく、税金で賄う公共財にすれば、都市部の低所得者層がEVを選ぶ助けになるかもしれない──地域のソーラーパネルで充電するという手もある。ガソリン車が道路から姿を消せば、大気汚染は改善するだろう。貧困層や有色人種の住む地域はとくに大気汚染が著しい。リソース不足の地域に充電器を設置するのはとりわけ重要で、というのも、こうした地域の人々は、バッテリーが古くて燃費の悪い中古EVを購入する可能性が高く、頻繁に充電する必要が出てくるからだ。

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これらの地域の住民を味方につけることはきわめて重要だ。なぜなら有色人種コミュニティは「中立な、あるいは悪意のない傍観にも、完全に悪意のある(交通)政策決定」にも慣れてしまっているからだ、と話すのは非営利団体GreenLatinosのクリーン・トランスポーテーション・コンサルタント、アンドレア・マルピレロ=コロミナだ。EVに馴染みがなく、ガソリンスタンドや従来のクルマ修理工場の仕事で生活する人が多い地域では、充電スタンドの突然の登場は、高級化の前触れに思えるかもしれない、と彼女は言う──自分たちが追いやられる物理的兆候だと。

街角での充電には課題も多い

いくつかの都市部ではすでに新たな充電戦略が実験的に行なわれているが、それぞれに長所と短所がある。ロサンゼルスやニューヨークなどの大都市でも、ノースカロライナ州シャーロットやオレゴン州ポートランドなどの小規模都市でも、ヨーロッパの優れたアイディアを採用し、路上駐車できるスペースのそばや、一部の街灯にも充電器を設置している。

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これらの設備は通常安く設置でき、というのも駐車スペースや街灯は地元の電力会社や市が所有していることが多く、必要な配線がすでに準備されているからだ。またドライバーにとっても、クルマを停めて、プラグを差し込み、歩き去るだけでいいため、ガソリンスタンドで充電するより手軽にできる。

しかし街角での充電には課題も多い。ひとつは、この種の充電器は一般的に時間がかかり、EVを「満タン」にするのに3時間から8時間かかるという点だ。また、トラックやバイクやセダンがその一角にたくさん停まっていると、EVが充電スポットに停められないという、都市生活ならではの不測の事態も発生する。

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さらにはアイシング(ICE-ing)問題もある。EVドライバーは、従来の内燃機関(ICE)車が充電スポットを占領し、充電を妨害することをこう呼ぶ。「路上駐車だとどうしても難しい」と言うのは、EVの充電器の製造と取りつけを行なう企業ChargePointの公共政策副部長、アン・スマートだ。

「駐車場のほうがスムーズです」。スマートの会社は、GreenlotsやElectrify Americaなど、米国に拠点を置くその他の企業とともに、都市のショッピングモールやショッピングセンターと提携して店外に充電器を設置している。

ガソリンスタンド、立体駐車場、ショッピングセンターも

とはいえ、やはり家で充電できるのがいちばんいい。ただ賃貸であれ分譲であれ、マンションの住人は、つぎの引っ越し先に充電器が備えられている保証がほどんとなく、EVへ乗り換えるきっかけがつかみにくい。そのため多くの都市や州では、マンションの開発業者や管理人に、費用のかさむ見慣れぬ充電器をどうやって設置してもらうか、その説得に取り組んでいる。

ロサンゼルスでは、マンションの駐車場に充電ステーションを設置した管理人にリベートを支払い、新築時に充電器を義務付けるよう建築基準法を改正中だ。「ロサンゼルスは何といっても賃貸が多い街です。ですからこうした潜在的な緊張感や、こちらから提供すべき解決策をきちんと意識しなければなりません」と、ロサンゼルス市の最高サステナビリティ責任者(CSO)、ローレン・フェイバー・オコーナーは言う。

また、ガソリンスタンドを充電ステーションに変えるという選択肢もある。ああしたスペースがあれば、すぐにチャージしたいドライバーのために、高速充電器を提供することができる(ただし高速充電器の設置や利用には通常多くのコストがかかる)。「現在の課題は、大量の電気を供給できる主要な充電ステーションを充分に確保できるかどうかです」と述べるのは、パシフィック・ノースウェスト国立研究所の研究員兼システムアナリストで、送電網の研究をしているマイケル・キントナー=マイヤーだ。

電動モペットやクルマの配車サービスを手がけるRevelは、少し変わった充電戦略を取っている。同社はブルックリンに「スーパーハブ」(簡単に言えば、25基の高速充電器を設置した空の駐車場)を建設した(欧州や中国の都市でも、ほかの企業によって同様のプロジェクトが行なわれている)。充電器の数が多ければドライバーは好きなときに充電できるでしょう、とレヴェル社の最高執行責任者(COO)ポール・スーイは言う。

ニューヨーク市のようなスペースに制約のある地域で、こうしたハブ用の新たなスペースを見つけるのは至難の業だが、スーイいわく、Revelは立体駐車場や大きなショッピングセンター付近の土地を検討するなどして、柔軟に考えていくつもりだという。「最初の、そして最も重大な制約が送電網です」と彼は言う。「それにすべてがかかっています」

EVをオンデマンド・バッテリーとして活用

実際、充電のジレンマは電源接続問題よりはるかに深刻で、送電網も考慮する必要がある。電力会社は、使用量と同程度の電力をつくることで需要と供給のバランスを保っている。化石燃料であれば、需要の急増に合わせて燃料を多く燃やせばいいので話は早い。しかし再生可能エネルギーは、断続的なリソースであるため(風がいつも吹いているとは限らないし、太陽がいつも輝いているとは限らない)問題が込み入ってくる。さらに悪いことに需要のピークは通常、みんなが帰宅して電化製品の電源をオンにし、EVの充電を行なう夕方で、ちょうど太陽が沈む時間帯なのだ。

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EVは、需要を安定させる助けになるかもしれない。充電インフラの普及が進めば、これまで通り夜間に自宅で充電する人がいる一方、ソーラーパネルで覆われた職場の駐車場や、食料品店やガソリンスタンドだった場所で充電する人も出てくるだろう。そうなれば、特に太陽光の発電量が多い日中に充電するよう促せば、時間ごとの需要をより均等にできる。

しかもその見返りとして、EVはオンデマンド・バッテリーとして活用できるようになるかもしれない。例えばある会社の駐車場に100台のクルマがフル充電された状態でひと晩中停まっていたとする。そして町の数キロ四方で電力の需要が急増したとする──しかし辺りは暗く、太陽エネルギーは使えない。そこで太陽エネルギーの代わりに、フル充電されたEVの電力を必要な場所に分配するのだ。

充電済みの各車は、(昨冬のテキサスの寒波による停電などの)緊急時に、送電網をサポートする力にもなりうる。「各車両は、仮想発電所のようにひとつになることが可能です」と話すのは、カリフォルニア大学サンディエゴ校再生可能エネルギーと高等数学研究所(Renewable Energy and Advanced Mathematics Laboratory)の所長、パトリシア・イダルゴ=ゴンザレスだ。「実際、このバックアップは四六時中使用可能で、送電網がこの種の助けを必要とする際はいつでも準備ができているはずです」

もし送電網オペレーターが休眠中のEVを活用できれば、非常用電力を蓄えておくためのバッテリーにそれほど費用をかける必要がなくなる。「電力網の運用にかかる総コストを最大30%削減できるかもしれません」とイダルゴ=ゴンザレスは言う。「これは非常に劇的です。EVに搭載されている予備電力を活用できれば、膨大な量の予備電力を貯蔵しなくて済むのです」

もちろん、送電網(そして住民)にとっていちばんいいのは、電力の需要が減ることだろう。充電インフラが整備されれば、大気汚染も改善される。なにしろEVは炭素や微粒子を排出しないのだ。だが、住民全員がマイカーに乗るというのもあまりいいことではない。交通渋滞がひどくなり、歩行者の危険が増し、公共交通機関の需要が低下する。

しかし、自分でEVを買わなくても楽しめるかもしれない。例えばキントナー=マイヤーは、EVを含む配車サービスの会社を構想している。それらのEVは都心の駐車場に停められ、ソーラーパネルで充電する。そしてそのクルマをドライバーがピックアップしたり、自律走行で展開したりするのだ(実際UberとLyftは10年以内にEVに移行すると宣言しており、また一部の政府はそうすることを義務付けている)。

もうひとつの選択肢は、バスや電車を電化し、それにあわせて住民にマイカーを手放すよう説得するというものだ。「公共交通機関はもうひとつの側面です」と言うのはLA市職員、フェイバー・オコーナーだ。同市の交通機関は路線のひとつをすべて電気バスに変えたが、2030年には、ゼロエミッション車のみが運行している予定だという。都市の住民が(電気)バスを利用するようになれば、充電の心配をする必要もまったくなくなるだろう。

WIRED US/Translation by Eriko Katagiri, LIBER/Edit by Michiaki Matsushima)