読むと気分が害されて憂鬱になるのがわかっていながら、ネットで悪いニュースを延々と読みつづける行為は「ドゥームスクローリング」と呼ばれている。そのドゥームスクローリングは、ソーシャルメディアでの嫉妬やFOMO(自分だけ大切な出来事を見逃してしまうのではないかという不安)と同じで、健康にとってこれまで考えられていたよりもはるかに大きなリスクになるようだ。

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全世界で新型コロナウイルス感染症が大流行し、武力紛争が頻発し、不況の波が高まっているこの数年に行なわれた研究から、わたしたちが不安な夜を過ごすことになる原因が、さらにはソーシャルメディアやスマートフォンが無力感を促すという事実が、明らかになりつつある。自分の見た目は人より劣っているのではないか、成功が足りないのではないかといった劣等感を理由にスマートフォンを長時間スクロールしてソーシャルメディアにどっぷりと浸かる人は、鬱や不安症、孤独、自傷行為、あるいは自殺のリスクが高くなるのだ。

しかし、米国人の少なくとも5人に1人がソーシャルメディアからニュースを得ている昨今、人々にデジタルアバターと縁を切って、モバイルコンピューターをどこにでも持っていくのはやめろと言うのはほぼ不可能だろう。人生のほかの要素と同じで、ここでも大切なのは節度なのである。

「基本的に、ドゥームスクローリングは不安に対処するための回避行動なのです。そのため、不安に押しつぶされそうになっている人は健康を害してまでもドゥームスクローリングにふけってしまうのです」と、臨床心理学者としてトラウマと脳の関係を専門にするミーガン・E・ジョンソンは説明する。「そして皮肉なことに、ドゥームスクローリングが健全なメンタルヘルスにとって最も大切な要素を、つまり、健康的な睡眠、有意義な社会交流、仕事における充実感、趣味の時間などを、人から奪っていくのです。悪循環の出来上がりです」

ソーシャルメディアにおいて嫉妬を覚えていることやドゥームスクローリングをしてしまっている事実を自覚することが、この悪循環を打ち破るきっかけになる。習慣を変えれば、悪循環は起こりにくくなるのだ。

大切なのは気持ち

ソーシャルメディアやニュースプラットフォームで行なうヘイトスクローリングやドゥームスクローリング、あるいはわたしが「ねたみのスクローリング」と呼ぶ行為に自分を駆り立てる思いや感情について考えてみることが最初のステップだ。

自分がどうして悪い知らせに関心をもっているのか、他人の意見に過度に感情移入をしてしまっているのかを意識すると、自分の弱さや無力感、あるいは劣等感がその原因であることがわかるだろう。無力感にせよ劣等感にせよ、最初にすべきは、友人や同僚のサポート、パートナーやペットの安心感、メンタルヘルスを大切にして得る癒やしや休息などを通じて、心の穴を埋めることだ。

ジョンソンはこう言う。「職場でストレスを抱えていて、やるべきことのやる気をなくしてスマートフォンを手にドゥームスクローリングにふけっていると想像してみましょう。そのような強迫的な行動に陥っているのに気づいたら、自分が何を考え、どう感じているか、自問してみるのです。自分が何を求めているのかが理解できれば、それを満たすために必要な現実的で適切な方法を見つけることができるでしょう。ドゥームスクローリングやソーシャルメディアに向かう衝動は収まるはずです」

さばききれないほどの仕事量に押しつぶされそうになっているのなら、誰かに助けを求めるべきだ。スマートフォンに目を向けたところで、あなたをサポートできる同僚や友人との距離が拡がるだけなのだから。

「そんなことをしても、一時的に不安な気持ちを紛らわすことができるだけです」とジョンソンは言う。「ですが、そのようなネガティブな感情には原因がありますし、その感情がわたしたちに欠けているものを教えてくれているのですから、いくら気晴らしをしても黙らせることはできません。自分が本当に必要としているのは援助だと自覚できれば、同僚に仕事の一部を引き受けてもらうよう頼む気になるでしょう」

情報は集めても、情報に消費されないこと

この意味では、友人やソーシャルコンタクトのライブブログや投稿はあまり役に立たない。

情報を得ることは、健全な社会交流の要素だと言える。しかし、ニュースや親しい人々の体験談などで過剰に刺激されると、劣等感を覚えたり、自分を世間と比べたりするなどといった危険な習慣に陥りやすくなる。ジョンソンは、不安を覚えたり押しつぶされた気になったりしている人は、さまざまな情報を集めることで自分には物事をコントロールする力があると感じようとしているのだと指摘する。

「事実を集めれば、よりよい決断を下し、危険から自分を守ることができると考えるのです。しかし、そのコントロールや安心は幻想であり、偽りなのです。情報には終わりがありません。いくら集めても、すべてを集めたと満足することがないのです。そもそも、すべての情報を集めることなど、不可能なのですから」

(いわゆる「ダンバー数」を意識しながら)少数に絞った親しい知人と交流することで、そして、メディアの消費に際してニュースや情報の出どころを信頼できる(そして高く評価されている)ものだけに制限することでも、刺激を減らすことができる。情報は多ければ多いほどいいというものではない。情報が増えれば、その分不安が強まることもある。新型コロナウイルスやウクライナにおける戦争に関する情報を探していると、あまりに多くの情報が氾濫していて理解なんてできないという気になることがあるが、それでいいのだ。

「すべての情報を集めようとするよりも、情報をすべて集めるのは不可能だと理解するほうが、そして適度な情報量に意味があるという新しい考え方を受け入れるほうが健全なのです」とジョンソンは語る。

安全のために境界を定める

情報消費とソーシャルメディアに費やす時間を減らし、物理的な方法にも制限を加えることで、デジタル摂取と休養のバランスを効果的に保つことができる。習慣をつくることで、不安を引き起こすストレス要因から距離をとるのだ。

「ニュースは朝食のときにしか読まない」や「仕事終わりの時間にだけソーシャルメディアのプロフィールをチェックする」などといった制限を設けて1週間か2週間過ごせば、日々増え続けるコンテンツによってのしかかる重圧が軽くなるだろう。

「ニュースをどれだけ読み、観て、スクロールしたところで、消費すべきコンテンツは絶えず増えつづけます」と、ジョンソンは言う。「すべての情報を読み、ありとあらゆる事実を知るのは不可能だし、不健全でもあるという事実を受け入れて、そのような行動に上限を設けるべきなのです」

近年、ベッドの中でもスマートフォンが使用されることが増え、日中の注意散漫や不安定な心を引き起こしているが、あらゆるスクリーンを寝室から締め出して、テクノロジーやソーシャルメディアが入り込める空間を物理的に制限することで、夜のドゥームスクローリングを防ぐことができる。

確証バイアスを避ける

英国のサセックス大学が2018年に行なった研究を通じて、食の質と好みは食品の見た目や説明に大きく左右されることが明らかになった。

同調査では、スモークサーモン風味のアイスクリームは人気がなかった。そのアイスクリームのラベルにはクリーミーな舌触りの甘くてフルーティーな味を期待させる説明が書かれていたからだ。その約束が果たされていなかったため、サーモン風味は味が悪いだけでなく、アイスクリームですらないと評価された。その一方で、同じアイスクリームを「冷たくて塩味のきいたムース」と説明して別のグループに提供したところ、人々はその味を高く評価した。

ジョンソンはこう説明する。「この研究から、人の精神にはフィルターがあって、真実だと思い込んでいることに反する情報を受け入れようとせず、自分が同意できる考えに重きを置くことがわかります。ドゥームスクローリングをすると、確証バイアスを強めるだけのひどい情報がいくらでも見つかります」

このことは、脳が物事を合理化する仕組みを浮き彫りにしている。人は、日々の苦難に対する防御策として、知らず知らずのうちに確証バイアスを使ってしまうのだ。確証バイアスがあるということは、自分の世界観が絶対だと信じていることを意味しているので、この態度は自己中心主義とも呼ばれることがある。この確証バイアスを避ける方法のひとつは、自分自身の信念に反論してみることだ。

不安や無力感を覚えるのは正常

バージニア大学心理学教授で臨床研修の責任者であるベサニー・ティーチマンは、ソーシャルメディアの乱用やドゥームスクローリングから生じる感情は正常なものだと説く。そうした感情が、それまで対処されてこなかった既存の感情を強めることもある。

「不安症の人は、世界は危険で予測不能で、自分は弱い存在だと思い込みやすいことがわかっています。そのような信念が、人々につねに警戒を怠らず、危険の兆候に目を光らせておくように仕向けるのは、理にかなったことなのです」としたうえで、ティーチマンはこう続けた。「何週間あるいは何カ月も強い不安や悲しみが続くようなら、専門医の診察を受けたほうがいいでしょう」

セラピストを探しているなら、認知行動療法協会や米国不安症・鬱病協会に頼ればいいと、ティーチマンは言う。また、メンタルヘルス支援ガイドや、大学の研究チームが提供する不安を減らすためのオンラインプログラムの利用も薦める。オンラインにも、オフラインにも、数多くの方法が存在しているが、そのどれを選ぶにしても、自分に合ったものを採用し、合わないやり方は捨てることを忘れてはならない。

「いくつかのアプローチを試してみて、それらが自分にどれだけ有効かをしっかりと見極めるのです。自分に役立つ戦略の組み合わせを見つけるために、試行錯誤を繰り返すのは正常な行為です」

また、仕事での苦悩を減らすためにアプリを使ったり、生産性を損なうウェブサイトをブロックするためにブラウザー用プラグインを利用したりするのもいいだろう。

WIRED US/Translation by Kei Hasegawa, LIBER/Edit by Michiaki Matsushima)