目をつぶって、頭の中でりんごを思い浮かべてみてください ── こう問われた際に、りんごの特徴を言葉では説明できるけれど、その視覚的なイメージを頭に描くことがない「アファンタジア(Aphantasia)」という認知特性をもつ人々がいる。つまり、頭の中でイメージを思い浮かべることなく、世界を認識しているということだ。

こうした認知特性については古くから一部で知られていたものの、「アファンタジア」という特性の名前として論文が発表されたのは2015年のこと。昨年には『アファンタジア:イメージのない世界で生きる』が邦訳されるなど、日本でも徐々に認知が拡がっている。今回のThursday Editor’s Loungeでは、本書の邦訳も手がけるなど日本におけるアファンタジア研究をリードしてきた福島大学人間発達文化学類准教授の高橋純一に、研究の最前線や認知の多様性について訊いた。

高橋の専門は認知心理学で、発達障害のある人の認知機能の特徴や心的イメージの個人差、障害理解について研究をしてきた。その過程で、こうした研究の交差点になりうるアファンタジアの特性に出合い、研究テーマとして興味を抱いたという。誰もが多かれ少なかれ抱く感覚や認知特性の違いは、周囲の人々とさえ共有することが難しいので、偏見にもつながりやすく、当事者が生きづらさを感じるケースも多い。研究を通して常にその点の改善を志してきた高橋は、「アファンタジアの研究を通して社会的な理解を促したい」とその想いを語った。

アファンタジアを「障害ではなく多様性の一部」と説明する高橋は、「“イメージできない”という部分が強調されるのを避けたい」と語る。アファンタジアの当時者に直接話を訊いてきた経験を踏まえ「物事を認知する際に視覚的なイメージを使わないからこそ、アファンタジアの人のなかには言語能力に長けた人が多いようにも感じられる」と言い、視覚以外の認知機能を使って世界を理解している可能性があるのだという。

「そもそも“イメージが浮かばない”とはどういうことなのか」「アファンタジアの得意科目」「“イマジネーション(想像力)”と“イメージ(像)”の違い」など、自身が当事者であるモデレーターの本誌編集長・松島や視聴者からの多くの質問に答えることで、アファンタジアへの理解が深まる90分となった。ぜひ音声もチェックしてみてほしい。[最下段に音声データへのリンクがあります]

■聴きどころはこちら 

・高橋純一による研究(00:01:46) 

・アファンタジア研究の歴史(00:11:10)

・大規模調査での出現率は4%(00:20:25)

・“イメージできない”が強調されることは避けたい(00:28:30) 

・イメージ論争(00:35:17)

・イメージが浮かばない?(00:45:10)

・SNS時代とアファンタジア(00:48:00) 

・イマジネーションとイマジナリー(00:58:15) 

・アファンタジアの苦手科目・得意科目(01:02:55)

・今後の研究活動(01:11:19)

■登壇者プロフィール

高橋純一|JUNICHI TAKAHASHI
福島大学人間発達文化学類准教授。博士(文学)。専門は特別支援教育、認知心理学。アファンタジアの出現率やサブタイプ、イメージ特性について研究を展開。また、研究者の立場から正しい知見を発信すべく「アファンタジア研究情報サイト」を運営している。アファンタジアは主観的体験であり、その解明には当事者の存在がかかせない。アファンタジア研究は当事者との協働により成り立つとの思いで研究を展開している。訳書に『アファンタジア:イメージのない世界で生きる』がある。

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アファンタジア入門:脳の多様性に“心像“から迫る
ゲスト:高橋純一(福島大学人間発達文化学類准教授)