──みなさん、こんにちは。SNEAK PEEKS at SZ MEMBERSHIPでは、SZ会員向けに公開した記事のなかから、注目のストーリーを編集長の松島が読み解いていきます。今回は2023年1月 WEEK #4のテーマである「LIFE」についてです。編集長、よろしくお願いします。

よろしくお願いします。今週は都内近郊でもマイナス4℃とか5℃とか、これまであまり経験したことのないレベルの寒さでしたね。さすがに庭の鉢植えが耐えられるか心配で、いくつか室内に取り込みましたよ。

──そんな鎌倉ライフだったんですね。さて、今週のSZのテーマは「LIFE」でしたが、松島さんイチオシの記事はどれですか?

オンラインで歳をとるということ」です。ぼくぐらいの世代がこの記事を読んだら、最初は「若い人がなんか言ってるな」と思うかもしれません(笑)。この記事を書いたへレナ・フィッツジェラルドはミレニアル世代。物心がついたころにはインターネットやSNSがあり、つまり、そうしたものは自分たちの若さと結びついたものだった、若いことと同義だったわけです。ところが、その下のZ世代の「年寄りがまだインターネットにいるのか」というコメントをみて、そのアプリを消したという、ちょっと痛ましいエピソードがありました。

今週の記事:オンラインで歳をとるということ

──この記事、すごく刺さりました。自分もミレニアル世代なので、チクチクするというか。記事中に「ミレニアルポーズ」を見てZ世代があざ笑うような表現があり、早速調べてしまいました。自撮りが流行った世代なので、カメラのアングルが高いらしいです。注意しようと思いました(笑)。

そうなんだ(笑)。ぼくはこの記事を読んで、舞台がインターネットやSNSに変わっただけで、世代論としては普遍的だなと思ったな。へレナさんの文章や叫びから感じたのは、オンラインがまさに日常となったという事実と、ある意味でそれが都市の現象に通じるということ。例えば、ぼくが20歳くらいのころは、渋谷や下北沢は“若者の場所”だったし、「大人がここで何をしているんだ?」と思ったのと同じようなことが、物理的な都市空間ではなく、いまはインターネットのなかで起こっているんだと。

でも、ヘレナさんも言っているように、大人になってみると、その場には前から年配の人がいたし、多様な人たちの生態系があったことに気づいていく。そういう、社会に対して目が開いていく過程もいいなと思いました。

──あまり閉鎖的にならないように、どんな視点が必要なんでしょうね。

若者が「ここは自分たちの世界だから」と意気がりながら実際に何かを生むケースもたくさんあるので、それは必ずしも悪いことじゃない。でも、どこかで必ず、「自分たちより世界で輝く下の世代がいるんだ」と思うようになる。そういう過程を踏むことは大切。

『WIRED』でもよく紹介するけれど、『銀河ヒッチハック・ガイド』の著者であるダグラス・アダムズの法則だと、人は生まれたときから存在するテクノロジーを自然の一部と捉え、15歳から35歳の間にリリースされた新しいテクノロジーには興奮する。でも、35歳以降にリリースされたテクノロジーは受け入れがたいと。

だから、ミレニアム世代にとってのSNSのように、自分たちはそのテクノロジーを自然の一部のように感じても、それは前の世代にとっては興奮の対象だったかもしれないし、さらに前の世代には自然や社会を滅茶苦茶にするものだと思われていたかもしれない。そうした想像力を養うことは大切だろうね。

また、ヘレナさんは、インターネット空間の通奏低音のひとつに「歳をとるのは恥ずべきことだ」という意識があると言っていて、それが若者特有の排他性にもつながるんだけど、ある意味で、現代社会における無意識の共通認識でもあるよね。

そこでもうひとつ紹介したい記事が「犬の寿命を延ばす薬を開発中──次はいよいよ人間の番となるか」です。歳をとることをネガティブに捉える考えが社会の根底にあるからこそ、こうした研究が進んでいる一面があると思う。

今週の記事:犬の寿命を延ばす薬を開発中──次はいよいよ人間の番となるか

これは、スタートアップを創業した20代の女性をめぐるルポルタージュのような記事になっていて、犬の寿命を延ばす薬を開発し、ゆくゆくは人間の治療に使おうとしている視点が面白い。それと、老化の研究を長年続けてきたSENS研究財団のオーブリー・デ・グレイも登場します。

──デ・グレイはピーター・ティールから多額の資金の提供を受けたこともあるようですね。

そうなんですよ。ぼくは15年前にデ・グレイの本の翻訳版『老化を止める7つの科学―エンド・エイジング宣言』を手がけました。その前にレイ・カーツワイルの『シンギュラリティは近い』という本を手掛けて、そこでデ・グレイが登場したから興味をもったのですが。

生物学的な限界を超えて生きていくことがシンギュラリティの定義のひとつだとすると、例えば、人間の脳だけをどこかにアップロードすればいいという方向性もあると思うけれど、老化を遅らせるという考え方もあるよね。デ・グレイはエイジングをとめられると考えていて、マッドサイエンティストと言われる一方、いまは科学界もそっちの方向に進んでいる。『WIRED』の最新号「THE WORLD IN 2023」でも、「薬での老化治療によって、予防医学に革命が起きる」という記事がありました。

──確かにそうですね。そのなかでこの記事で面白かったのはどこでしょう?

彼女が言っていて印象的だったのは、例えば現在のようにネズミの老化を研究して、ネズミの寿命が延びたと言っても人間はなかなか心を動かされないけれど、自分たちに近しい犬の寿命が延びたとなると違うと。人間にとってのエンドエイジングの認識を変えていくことも見据えているのが、このアプローチの面白さかなと思います。

──先週のポッドキャストで「デジタル伴侶種」の話をしましたよね。コンパニオンアニマルの存在は大きいと思いますし、できるだけ一緒にゆっくり歳をとれたらいいのかと思いますが、松島さんはどう思いますか?

例えば、「この薬を飲めばあなたの愛する人やペットの寿命が延びます」と言われたときに、それを飲ませることは自然に反することなのか、あるいはそれを飲ませないことが倫理に反しているのか。そういった認識も、これから社会のなかで大きく変わっていくのかなと思います。

最後に紹介したいのが、「狩猟採集民に学ぶ、現代の仕事におけるフラストレーションの本質」という記事です。ぼくも『GO WILD 野生の体を取り戻せ!』という本を手がけたことがあるけれど、この記事も狩猟採集民を対象にした人類学的考察から現代のワークスタイルを分析しています。要するに、ホモ・サピエンスとしての人間の体や脳、遺伝子もこの20〜30万年ほぼ変わっていなくて「人体1.0」のままなのに、スマホのOSがどんどんアップデートされるように、人間を取り巻く環境だけがどんどん変わっていく。そのギャップを捉える枠組みを、狩猟採集時代からのバックキャストは与えてくれるんです。

記事にありますが、先史時代の人類について論じる本が立て続けに出ています。まだ翻訳版が出ていないんですが、ジェームズ・スズマンの『Work』や社会歴史学者の『The Story of Work(労働の物語)』、SZでインタビュー記事を掲載しているデヴィッド・ウェングローと『ブルシット・ジョブ』を書いた故デヴィッド・グレーバーが著した『The Dawn of Everything(万物の黎明)』などです。

──本がかなり出てるんですね。Z世代が30〜40歳になるころには働き方も結構変わっていそうです。

そうですね。そういう世代論では前の世代や前の前の世代を参照するかもしれませんが、こうやって数十万年前を参照するのも面白いんじゃないかなと思います。

[続きは音声でどうぞ。最後に今週のレコメンデーションコーナーもあります!]

SNEAK PEEKS at SZ MEMBERSHIP 2023年1月 WEEK #4(LIFE)
WIRED SZ MEMBERSHIPで今週公開された注目のストーリーを、編集長の松島倫明が読み解く。2023年1月 WEEK #4のテーマは「LIFE」。