A:みなさん、こんにちは。SNEAK PEEKS at SZ MEMBERSHIPでは、SZ会員向けに公開した記事のなかから、注目のストーリーを編集長の松島が読み解いていきます。今回は2023年2月WEEK#4のテーマである「SCIENCE」についてです。ゲストとして副編集長の小谷さんにも来ていただきました。松島さん、小谷さん、よろしくお願いします。

M&C:よろしくお願いします。

A:いま編集部は、3月16日に発売する雑誌『WIRED』日本版VOL.48「RETREAT」の校了期間ですが、WIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所の所長でもある小谷さんは、毎号、SF企画を担当してますね。

C:そうだね。今回のリトリート特集では、SF作家の樋口恭介さんに「CONTACT CALLS」という小説を書いてもらいました。人類が撤退(リトリート)したあとの地球が舞台というSFならではの射程で、じんわりくる非常によい作品です。ぜひお手に取っていただければと思います。

A:自然言語と機械言語を話すヨウム(オウム目インコ科)が主人公なんですよね。さて、今週の記事テーマは「SCIENCE」ですが、SF的な観点から小谷さんにもいろいろと伺っていきたいと思います。

松島さんの今週のピックアップは、「NASAの「宇宙冬眠ワークショップ」へようこそ:火星旅行者のための冬眠ガイド」という記事です。人間を人工的に仮死状態にする方法が火星移住計画の鍵になるはず……という、冬眠研究に半生を捧げた研究者たちの最前線を追う内容でした。

M:はい、ある種の動物たちにとって「冬眠」は当たり前の生存戦略で、この記事では1年のうち最大8カ月も冬眠するホッキョクジリスが登場します。そして、アラスカ大学のケリー・ドリューは30年近くその研究を続けているんです。

今週の記事:NASAの「宇宙冬眠ワークショップ」へようこそ:火星旅行者のための冬眠ガイド

例えば映画『2001年宇宙の旅』でも冬眠ポッドが登場するけれど、SFでは人工的に冬眠するシーンがこれまでにも多くありました。

一方、2018年にはNASA初の「宇宙冬眠ワークショップ」と銘打ったイベントが実際に開催され、ドリュー自身もこうした研究を行なう企業の主任冬眠コンサルタントとして参加しています。研究者たちは充分な支援さえあれば10〜15年のうちに人体でも一定レベルの冬眠を実現できると言っていて、NASAも早ければ2026年に混合薬などによる冬眠技術を用いた実験を人体で開始できるだろうと主張しています。記事中ではもちろん人体へのリスクにも言及していますが、どうやら宇宙分野で冬眠の注目度が再び高まっているようです。

そこで小谷さんにぜひ訊いてみたいのですが、冬眠はSFにおいてどんな位置付けにあるんでしょう?

C:いちばん手軽で可能性のあるタイムトラベルの方法、かな。『三体』でも登場人物がコールドスリープを利用してタイムリープしています。ミイラだって、コールドスリープやタイムマシンのひとつだと言われることもありますし、何千年も前から人類はそういう想像力を働かせてきたと言えますね。

別の記事にもあるように、火星に行くには片道9カ月ぐらいかかるし、船や電車の旅とは違ってほぼ運動もせずに狭い空間にいるので、代謝の問題のほかに、水や食料、酸素のこともあり、眠れるならそれに越したことはないのだと思います。それに、大病や大怪我でも簡単に地球に戻れないことを踏まえると、遠くに行けば行くほどコードスリープは考慮に入れるべき選択肢のひとつになるのかと。

M:なるほど。冬眠は低体温療法や心臓病の新たな治療に道を開いていること以外に、トランスヒューマニズムの文脈でも注目されています。要するに、冬眠のあいだは歳を取らないから、いつまでも若くいられるかもしれないとか、自分が嫌な季節をスキップできるかもしれないとか。

C:花粉の季節とか特にね(笑)。

M:そうそう(笑)。臨床試験が進んだ先で、富裕層だけが使える技術になってしまう懸念もありそうだなぁ。この冬眠と宇宙航行に関連するトピックスとして、今週はもうひとつ火星に関するおすすめの記事があったよね。

A:「有人火星探査へ──でも、火星に住むのはやめておいたほうがいい」という記事ですね。宇宙開発機関や民間企業が有人火星探査の実現を目指す一方で、そこでの生活が地獄のようになってしまう理由などが挙げられています。

M:先ほど小谷さんが触れてくれたけど、片道9カ月もかかるし、水とか電力とかをすべて賄おうとするとかなり大変。だから、どうすれば現地調達できるかもさまざまに研究されています。

でも、人類がこれまで地球に対してしてきたことを振り返れば、火星の資源を貪り尽くしてしまう可能性もある。ぼくらが過ごす空間の快適さも重要なトピックのひとつですが、人類の移住は火星にとっていいことなのか……という点も改めて書かれているんです。

今週の記事:有人火星探査へ──でも、火星に住むのはやめておいたほうがいい

以前、SZメンバーシップ向けに「THE END OF ASTRONAUTS:宇宙飛行士の終焉とロボットの台頭」という記事も公開しています。これはマーティン・リースという世界的な宇宙物理学者が寄稿した記事で、「人類が宇宙に行く必要は果たしてあるのだろうか。わたしたちは宇宙に人類を送り込みたいと本当に思っているのだろうか」という冒頭の問いが印象的でした。要するに、宇宙に行くことをロボットに任せたらいいのではないかということです。

一方でリースは、たとえ非合理的な判断なのだとしても、人間が宇宙に行くというエモーショナルな部分があるからこそプロジェクトが動くのではないか、とも言っています。SFではほぼ必ず人間が宇宙航行に繰り出すのも、それが理由なのだと。

C:すでに原子炉内を探るロボットを遠隔操作しているし、生身で危険な場所に行く必要があるかどうかは大きな論点のひとつだよね。宇宙放射線の被ばく量も課題だし、月にせよ火星にせよ、長期間住むならおそらく地底人にならないと難しい。また、現地調達について言えば、野菜工場なら設置できるかもしれないけれど、動物性タンパク質をどう摂取するかも考えなければいけないことだと思います。

A:そうですよね。イーロン・マスクも2050年までに100万人を何らかの方法で火星に送ろうとしているようですが、まだまだ厳しい状況なんだなと思いました。火曜に公開した「人工重力のために回転する宇宙船は本当に快適なのか」も、宇宙における長期ミッションの壁がよくわかる記事でしたね。

このほかにも今週は、思考実験の再検証スキューバダイビングの物理学に関する記事をお届けしました。次週のテーマは「FUTURES」です。お楽しみに!

[続きは音声でどうぞ。WIRED RECOMMENDSコーナーもお楽しみに!]

(Interview with Michiaki Matsushima, Edit by Erina Anscomb)