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松島倫明(以下、松島) 今週のSZメンバーシップ向けの記事テーマは[CREATIVITY]。3月28日に発売した雑誌最新号「FASHION FUTURE AH! ファッションは未来をまとう」の発売にあわせて、創造性にまつわる多数の記事をセレクトしています。今回のSNEAK PEEKS at SZ MEMBERSHIPでは、最新号の責任編集を務めたエディターの田口悟史さんやアートディレクターの富塚亮さんと、雑誌制作を振り返っていきます。

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最新号のエディターズレターで書いていますが、『WIRED』はコンデナストという企業に属するメディアで、ぼくのボスのボスは、ファッション界を牽引する伝説の『VOGUE』編集長とも言われるアナ・ウィンターという人物です。ファッション特集をやると決めていたので、アナが昨年の秋に来日したとき、ファッションにおいていま最も重要なことは何かと質問したところ、「クリエイティブマインドだ」と返してくれました。『WIRED』日本版は10年以上、WIRED CREATIVE HACK AWARDを開催しているし、クリエイティビティやクリエイティブマインドを大切にしてきたメディアでもあるので、ぼくらの原点を思い出させてくれるような答えだと思いましたね。で、ファッションというものをクリエイティビティの観点から編み上げていこうということで、田口くんが責任編集を務めてくれたわけですが、最初はファッションというテーマをどう受け止めた?

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田口悟史(以下、田口) まず、テクノロジーのいまや可能性が最も反映されている素材について取り上げたいと思ったのと、同時に、アナの話にも出てきたバレンシアガのアーティスティック・ディレクターであるデムナに話を聞いて、モードの人たちが考えていることを『WIRED』なりに紹介したい……といったことを考えていたと思います。

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松島 デムナのインタビュー記事のリードには「都市の若者たちの装いを変え、音楽との関係をより豊かにし、ゲームとメタバースにモードを接続した。つまりファッションの未来を展望するために欠かせないクリエイティビティの持ち主である」と書いているけれど、アナも真っ先に取材を勧めるほど、ファッションの可能性を拡張した人物ということだよね。

で、雑誌の巻頭から見ていくと、ストックホルムで取材したアワーレガシー、オール ブルース、イマスコピへのインタビュー記事が掲載されている。表紙タイトルを編んでくれたのはイマスコピのネリー・スコッグなんだよね?

田口 そうです。今回の特集では、クリエイティブな発想で思いもよらない方向に拡がっていきそうな“何か”を見つけたいという気持ちがあったので、「これからすごいことになるかも?」という可能性をもっている人に何かをつくってもらいたいと考えていました。タイトルについても、アナが言っていたもうひとつのキーワードが「オプティミズム」だったので、そういう前向きなムードを出したくて。いろいろ迷いましたが、“Ah”という感嘆詞は驚きや共感までさまざまな捉え方ができていいなと。

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松島 そうだったね。で、雑誌は大まかに三部構成になっている。

1.MATERIAL WONDER:服は何からできているのか?
2.SOURCE OF CREATIVITY:ファッションはなぜ前進できるのだろうか?
3.EXPAND POSSIBILITIES:テクノロジーとマインドセットは誰を変えるのか?

1.は環境に配慮した繊維素材の普及を進めるTextile Exchangeという米国のNPOへの取材や報告書からスタートしているよね。

田口 個人的にもTextile Exchangeのレポートを参照することは多くて。まずは素材をめぐる現状を知ってもらうことが大事かなと思ったんです。見てもらうと、結構びっくりすると思うんですよね。素材の種類は本当にいっぱいあるなかで、重量を基に換算すると、約8割はコットンとポリエステルだっていう。

松島 ハッとするようなデータでした。もう少しページをめくると、24年2月末に破産したRenewcellというリサイクル企業へのインタビュー記事もあって、リサイクル素材の社会実装のハードルを痛感する企画だったなぁ。

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田口 Renewcellは、廃棄衣類を原料とするリサイクル素材を開発していて、ストックホルムの証券取引所に上場していたんですが、昨年、目標に到達していないといったリリースが出て株価がすごく下がったんですよ。そうした状況ではあったんですが、リアリティを伝えるためにも取材は申し込んでいて。実際、校了の数日前に破産しました。

すばらしい素材だと認知されていても、バージン原料を前提としたサプライチェーンが構築されているがゆえに、ハードルもある。例えば、Renewcellは素材をつくっていますが、糸にするのは別の企業。その糸を生地にするとなると、それまで普通のコットンを使っていた企業が新しいラインをつくる必要が出てくる、とか。たくさんつくらなければ値段も下がりませんでし、だからカプセルコレクションのように少量ですむ場合にはいろんなブランドがコラボレーションをしてくれますが、本当にコットンと同じように使おうとするとき、誰がそれをやってくれるんだという課題もあるんです。

富塚 亮(以下、富塚) どんなにいいものをつくっても、クリエイターやデザイナーを含め、誰かの手に届かなければ意味がない。そういう観点から、この特集では受け手のリテラシーもひとつ大事な要素になっていますよね。

田口 やっぱり、『WIRED』というメディアも“ハックする”という文化のうえに成り立っていますし、ファッションをハックするには、着る側も何かやれることがあると思ったので、それをうまく特集に入れていきたいとは思っていました。それを踏まえて、松島さんがウルトラライトハイキングの父と崇められるレイ・ジャーディンに取材をしたMAKE YOUR OWN GEARという企画の位置にもこだわりましたし、自分でつくることが選択肢のひとつになれば、ファッションや衣服に関する考え方や解像度が一段上がってく気がしていたんですよね。

で、「一人ひとりの服をつくる」「自分でつくる」という意味で、バーチャルファッションの第一人者であるThe Fabricantや、3D織り機によって衣服の製造プロセスを変革するunspunへのインタビューにもつながっていくというか。

そこからさらに、Synfluxの川崎和也さんとツールキットを開発した「未来のファッションシステムを描くためのプロトタイピングガイド」では、SF作家の小野美由紀さんや津久井五月さんがこれを使って短編小説を書いてくれて、ワークショップを擬似体験できるような構成になっています。

富塚 これ以外にも、NEW STEPSのページでは、一歩ずつ着実に前進するファッションのディテールが紹介されていたり、ファッションの教育とメディアをめぐる対話があったり。これまでは、ファッションスクールでデザインを学び、その後はただ衣服をつくるだけ……というイメージがあったかもしれない一方、いまは必ずしもそうではなく、そこで身につけたスキルや考え方をもとにほかの業界で活躍している人たちがいるという話も印象的でした。この潮流もひとつ、ファッション業界を考え直すきっかけになると思います。

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田口 そうですね。衣服って最も身近なプロダクトですし、各ブランドは多額の資金や才能を集めて新しいものをつくり、驚きや感動を生み出し続けている。別のやり方で、着心地のいい服などを必死になってつくっている人たちもいるわけです。何かをつくって誰かに見せる/届けることって、人間の基本的な欲求のようにも思えるというか、そうやって身近な営みのひとつとして捉え直すことができれば、これまで見えなかったものも見えてくるのかなと。

あとはやっぱり、楽しそうだと思ってもらえるかどうかは大事にしたかったことですね。 アナが言っていたオプティミズムというキーワードはすごくいいなと思いましたし、それって多少は、衣服をつくる人やファッションが好きな人を信じるということでもあるような気がして。特にいま、ファッション産業は世界第2位の環境汚染産業といわれ、デムナもインタビューで「サステナビリティは義務だ」と言っていたように、解決すべきこともたくさんあるわけですが、いますぐ第2位を脱することは難しい一方、考えて考えて、解決しようとしている人たちがいるという事実にも目を向けてほしいというか。テクノロジーや新しいシステムを通してよくなっていくところもあるし、具体的に頑張っている人たちがいると感じてもらえたら、ファッションってちょっと楽しくなるというか、信じてもいいんじゃないかって思ってもらえるのかな、とは思ったんです。

富塚 付け加えると、ファッションって言語化しづらい感性も含んでいるので、とっつきにくいと感じている人もいると思うんですよ。でも、クリエイティビティの観点から見ると、その最高峰を追求する人たちのアイデアがギュっと詰まっている業界でもある。ファッション業界に限らず、「これから何かを始めたい」「持続可能な事業を展開したい」と思っている人たちのヒントになるような言葉がふんだんに散りばめられていると思うので、それを感じとってもらえると嬉しいです。

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※ 本記事は音声の書き起こしではなく、読みやすさを考慮して編集し、長さも調整しています。

(Edit by Erina Anscomb)