マスクは「ウイルスを他人にうつさないため」のものです

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マスクは「ウイルスを他人にうつさないため」のものです
Image: Shutterstock

インフルにコロナに花粉症に…完全にマスク依存症です。

ここ数週間、米Gizmodoのオフィスやその近辺では、マスクをする人が急増しています。やはり、中国で猛威をふるい、さらなる拡大が懸念される新型コロナウィルスの影響が大きいようですね。患者数は日に日に増えていて、世界中が戦々恐々としていますから。たしかにマスクで口や鼻をふさぐと、なんとなく「守られている感」を得ることはできますが、実際のところ、どれだけ予防効果があるんでしょう。

新型コロナウイルスは飛沫感染する可能性

マスク着用というのも、理にかなってはいるんです。中国の武漢で発生した新型コロナウイルスは主に飛沫感染で広がり、感染者との濃厚接触によってウイルスに感染すると考えられています(今のところ、ですが)。

その感染力や、潜伏期間での感染の有無はまだはっきりわかっていませんが、(インフルエンザなどと同じように)咳やくしゃみで飛び散った唾液や鼻水を介してウイルスが広がる可能性があります。

低リスクとされるアメリカでもマスクが品薄になっている

感染症予防でもっとも一般的なマスクといえば、サージカルマスク(いわゆる不織布マスク)です。日本でも昔はガーゼマスクが主流でしたが、それこそ2003年に同じコロナウイルスを原因とするSARSが流行した頃からは、外科医が手術の時にするような不織布マスクに変わりました。

ただ、今回のように重大な感染症が発生した場合、医療従事者はサージカルマスクよりも防護機能の高い、N95マスクのような保護マスクを着用しています。

正直なところ、アメリカでは新型コロナウイルスは脅威ではあるものの、まだどこか危機感が抽象的というか、実感がわかない様子。それでも、ニューヨーク市からテキサス中部にいたるまで、全国のドラッグストアでマスクが品薄状態になっています。

中国での死者数は日に日に増えていますが、アメリカ本国では武漢などからの旅行者が発症するケースが数件見られた程度。疾病予防管理センター(CDC)も、米国内での新型コロナウイルスの感染リスクは低いという見解を述べています(日本では1月28日に「指定感染症」と閣議決定されました)。

新型コロナウイルスなどにマスクが有効かどうか、実はまだはっきりしていません。「議論の余地がある」といったところ。

過去の調査では「マスクに予防効果があるか、不明」という結果に

2014年にはカナダの研究者グループが、過去に医療関係者を対象に行なわれた「マスクでSARSやRSBウイルス(一般的な呼吸器疾患の原因になる)を防げるか」という複数の高度な実験を再調査しています。しかし、そのレビューは「わからない」という結果に終わりました。3つの実験では効果が確認されたのですが、別の3つの実験では効果が見られなかったのです。

結論の出ない研究で入手可能なデータも限られていたのですが、それでもサージカルマスクよりも保護マスクの予防効果が高いことはあきらかになりました。

だからといってサージカルマスクにまったく効果がない、というわけではありません。予防効果は微々たるものでも、何もしないよりはましなはず。

たとえば、2008年の無作為な臨床試験では、インフルエンザなどの疾患で救急医療センターを受診した子供の家族が適切にマスクを着用していた場合、そうでないケースよりも家庭内感染の可能性が約80%低いことがわかりました。

他にも、大学の寮家庭への調査で、同様の予防効果が認められています。ただ、こうした研究の対象者は手洗い習慣も徹底するよう指導されているので、マスクだけが予防要因ではないかもしれません。

マスクはそもそも「ウイルスを他人にうつさないため」の道具

ただ、この実験結果はあくまで病気にかかっている人がマスクをした際の有効性を示すもので、健康な人が予防のためにマスクを着用する場合、その有効性を過大評価するのは禁物です。

CDC有害物質疾病登録局の元最高医療責任者で、ニューヨークメディカルカレッジのロバート・アムラー学部長は、「マスクは予防目的に設計されているものではありません。あくまで、周囲にウイルスを広めないためのものです」と米Gizmodoに話しています。

CDCは、新型コロナウイルスの感染者(および感染が疑われる者)に対し「他人と一緒に室内で過ごす場合には、マスクを着用したほうが良い」と推奨しています。また、患者自身がマスクを着用できない場合には、健康な家族側がマスクをつけるよう提言しており、感染の疑いのある人を最初に診察、検査する医療関係者もマスクを着用するよう勧告されています

保護マスクは防御率高め、でもフィット感は最悪

保護マスクと比べて、サージカルマスクは目が粗くフィット感もゆるめなので、隙間からウイルスが侵入しやすい、という弱点があります。「とはいえ、多少の飛沫からは守ってくれますし、汚れた手で顔に触れる機会も減ります。私たちは自分で意識する以上に、何度も顔を触っているんです」とアムラー氏は話しました。

身近に医療用具販売店があり、N95マスクを購入できたとしても、やはりデメリットがあります。N95のような保護マスクは隙間なく顔にフィットするものの、着け心地が悪く、長時間着用するには不向きです。特に、すでに呼吸器に問題がある方には非常に不快ですし、小さい子供や顔回りに髭を生やしている人にも適しているとは言えません。

重要なのは、自分自身や他人を伝染病から守るにはマスクを着用するよりも大事なことがある、ということです。こまめな手洗い、そして感染者との濃厚接触を避けることが「誰もが実践すべき健全な保護手段です」とアムラー氏は言います。体調がすぐれない時は、外出は控えてください。

コロナウイルスに気をとられて、インフル予防を忘れないで!

実は、今コロナウイルス以上にアメリカで深刻な脅威となっているのがインフルエンザウイルスなんです。今シーズン、すでに1500万人がインフルエンザに感染し、うち14万人が重症化して入院しています(原稿執筆時)。

ただ幸い、インフルエンザには身近で効力の高い予防対策がすでに存在しています。カリフォルニア大学リバーサイド校の疫学者、ブランドン・ブラウン氏はメールで、「皆さん新型コロナウイルスの脅威に目が向いていますが、インフルエンザワクチンの重要性も忘れてはいけません」と米Gizmodoに伝えています。「今シーズンだけですでに8000人のアメリカ国民がインフルエンザで死亡しています。もっとそのことに注目すべきです」。

アメリカでは、予防接種を受けている人は国民の約半数。まだ受けてない方、マスクをするよりも予防接種のほうが病気のダメージを減らしてくれますよ(新型コロナウイルスも、早く特効薬やワクチンができますように、と切に願いますね)。