NASA、月の裏側のクレーターを天文台にしたい

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  • author George Dvorsky - Gizmodo US
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  • 山田ちとら
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NASA、月の裏側のクレーターを天文台にしたい
Image: Saptarshi Bandyopadhyay via Gizmodo US

これどっかで見たような…?

デス・スターのスーパーレーザー砲っぽいですが、実はめちゃくちゃ斬新な天文台の設計図。月の裏側のクレーター内に作れば、地球からは見えない遠方の宇宙領域も見渡せるようになるんだとか。

"Change the Possible"

NASAが運営している革新的先進概念プログラム(NIAC: NASA Innovative Advanced Concepts Program)は、宇宙開発のニューノーマルを確立するべく、型破りなアイデアを募集し続けています。このたび、月面天文台を含めいくつもの野心的なプロジェクトが新たにNIACの厳しい選考基準を満たし、資金提供を受けることが決まったそうです。

選ばれたプロジェクトには、たとえば木星の第2衛星・エウロパの内部海を探査する方法や、NASAのアルテミス計画で使えそうな着陸装置、はたまたプロキシマ・ケンタウリbまでの恒星間飛行中にいかに反物質を使って宇宙船を減速させるかなど、まさにハイ・コンセプトなアイディアが満載。

その中でも特に興味深いのが月面天文台です。

米ジェット推進研究所のロボット工学者・Saptarshi Bandyopadhyayさんが提案しているのは、月の裏側のクレーター内部に宇宙望遠鏡を設置する計画で、名付けてLCRT: Lunar Crater Radio Telescope(月面クレーター電波望遠鏡)。

NASAはLCRTをフェーズI段階のプロジェクトとして認定し、12万ドルの資金提供を発表しました。今後さらにLCRTを実現する技術に磨きがかけられて説得力ある企画書を提出した暁にはフェーズⅡに引き上げてもらい、さらに資金を調達できる予定ではありますが、まだ安心はできないようです。

「NIACのフェーズⅠは、LCRTのフィージビリティスタディが主な目的となります」とBandyopadhyayさんは米Gizmodoに話してくれました。

「フェーズⅠでは、LCRTの機械工学的なデザインに取り組み、適切なクレーターを月面から探し出し、また文献で提案されているほかのアイデアも探し出してLCRTのパフォーマンスと比較する必要があります」。

LCRTがいつ月面に建設されるかは、まずフェーズⅠが終わってみないと見当がつかないそう。でも、具体的な時期はわからずとも、どんなにスケールのでっかい計画なのかはすでに明白です。

地球からじゃ見えないから月

Image: Saptarshi Bandyopadhyay via Gizmodo US
地球とLCRTの位置関係(縮尺は正確ではありません)。

LCRTの正体は超長波電波望遠鏡で、宇宙空間を駆け抜けるもっとも弱い信号をも観測できるパワーを持っているそうです。

Bandyopadhyayさんの説明によると、

地球上からは10メートル以上の波長、もしくは30メガヘルツ以下の周波数では宇宙を観測できません。なぜなら、これらは地球を覆う電離層がはね返してしまうからです。

さらに、地球を周回している宇宙望遠鏡も地球の電離層からのノイズに妨害されてしまうため、宇宙観測が難しくなります。

このような理由により、10メートル以上の波長を使っての宇宙観測は前人未踏なのだとか。しかし、月の反対側に望遠鏡を設置してしまえば電離層からの邪魔も入らなくなるので、理論的にはより長い波長で宇宙の遠くのほうまで観測できるようになります

LCRTの実現は天文学者や宇宙論研究者にとって願ってもないこと。宇宙で一番初めに誕生した星たちの姿や、138億年前に誕生した宇宙の姿そのものも観測できるようになるのだそうです。

Image: Saptarshi Bandyopadhyay via Gizmodo US
LCRTの作り方。

さらに、月の裏側に設置することにより、地球からの電波干渉やそのほかの妨害からもLCRTを守ることができるそう。

「月の裏側が夜になると、月そのものが盾となって地球からの電波干渉・ノイズ・電離層・地球を周回している衛星や、太陽からの電波やノイズからも守ってくれます」とBandyopadhyayさんは説明しています。

太陽系最大の望遠鏡

Video: KISSCaltech/YouTube

研究論文によれば、LCRTが建設されるべきクレーターは直径3〜5キロメートルぐらいがベストで、上の動画にあるような「DuAxel Robot」と呼ばれるミニローバーがクレーターの淵に等間隔で配置されます。

ミニローバーたちはそれぞれ命綱のようにワイヤーを張りながらいっせいにクレーターの中心に向かって降下します。そして、中心でLCRTの本体から受信機を受け取ると、今度はワイヤーをたどってまたクレーターの淵を登っていきます。

ミニローバーの一連の動作により、最終的にクレーター内部には電波受信網がまるでクモの巣のように張り巡らされるという算段で、うまくいけば直径1キロメートルの「太陽系随一の大きさを誇る充実開口電波望遠鏡」になるとのこと。

計画はカンペキだけど…

DuAxel Robotの性能は「すばらしい」そうで、すでにフィールドテストも行なっているそうです(上の映像を参照)。

同じく米ジェット推進研究所のロボット工学者であるIssa Nesnasさんが過去10年に渡って開発してきたそうで、同僚のPatrick Mcgareyさんと共にLCRTプロジェクトに情熱を注いでいます。

なんとも斬新な計画なんですが、成功するためにはまだどれぐらいの技術開発が必要なのか?とBandyopadhyayさんに聞いてみたところ、「かなり」とのこと。現時点ですでに展開している技術はNASA基準ではまだ「低準備レベル」でしかないそうで、今後継続してNIACに資金を提供してもらうには相当レベルアップが必要のようです。

「詳しい話はできないけどまだまだ道のりは遠いから、このNIACのフェーズⅠ資金には感謝してるよ!」とあくまでポジティブなBandyopadhyayさん。

努力が実ってNIACのフェーズⅡ、そして最終段階であるフェーズⅢに移行できれば、10年後ぐらいには月の裏側にスーパーレーザー砲みたいな望遠鏡が完成するはず。月がちょっとだけデス・スターぽくなってしまうのは否めませんが。

Reference: NASA

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