画集が原作の異色作。SFドラマ『ザ・ループ』のプロデューサー、マット・リーヴスにインタビュー

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  • author 傭兵ペンギン
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画集が原作の異色作。SFドラマ『ザ・ループ』のプロデューサー、マット・リーヴスにインタビュー

Amazon Prime Videoで配信中のドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』。スウェーデンのアーティスト、シモン・ストーレンハーグが描いた美しいアートがたくさん詰まったストーリー付き画集を原作としている異色作で、その独特の雰囲気が大きく話題となったドラマ。

今回はそのプロデューサーであり、期待の新作映画『ザ・バットマン(原題)』の監督も務めるマット・リーヴスにインタビューしてまいりました!

ザ・ループ TALES FROM THE LOOP

シモン・ストーレンハーグの不思議なイラスト集にインスパイアされた『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』。「ループ」とは、サイエンス・フィクションのような事象を現実に叶え、そして宇宙の謎を解き明かすために建造された地下研究施設である。その「ループ」の真上に位置する町に住む人々の、奇怪な体験を描く物語。



MattReeves-CreditShutterstock
Photo:Shutterstock
マット・リーヴス

── 画集を原作とする珍しい作品ですが、そこからどのような話を描くことに決めたのですか?

マット・リーヴス(以下、リーヴス):まず設定として、このドラマはオハイオ州にある街が舞台で、そこの住民の多くは街にある「ループ」と呼ばれる科学研究施設に関わる形で働いています。要するに鉄鋼業の街の中心が製鉄所であるように、この街では「ループ」が中心になっています。

ちなみに「ループ」はこの世界の秘密を解明しようとしている場所なのですが、これは原作のイラストを描いたシモン・ストーレンハーグの故郷にあるCERNの大型ハドロン衝突型加速器から着想を得たものだったりします。

そんなシモンの素晴らしい画集を元に脚本家のナサニエル・ヘルパーンがストーリーを組み上げていったのですが、ストーリーは画集の中で展開されている謎を解き明かすというものではなく、その謎にまつわる話を描いていくもので、言わば情緒的な『ミステリー・ゾーン(トワイライト・ゾーン)』のようなシリーズを目指しました(注:マット・リーヴスは2012年頃、ミステリー・ゾーンの映画化企画に参加していた)。

ただ、最後にすべてが分かるどんでん返しがあるタイプのストーリーではなく「ループ」という架空のものを使って、人の成長や大事な人の死、初恋など「人間の経験の物語」を描いています。

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── そもそもこのシリーズを作ることになったきっかけはなんだったのでしょう?

リーヴス:私と会社のみんながシモンの画集を見てかなり惚れ込んで、そのうちの一人が「もしかしたら、これの映像化権をとれるんじゃないか」と言い出したんです。ちなみにこの段階で画集自体はすでに有名で、そのアートは他の映画やドラマ関係者たちに様々な形で影響を与えていました。

とにかく、そんな素晴らしいアートからなにかを生み出せると考えて、非常に異例なことですが画集の映像化権を獲得しました。そこからTVシリーズを作ることに決め、脚本家を探し始めました。

その時、最初に来たのがナサニエル・ヘルパーンでした。彼はシモンの絵にすごく感銘を受けていたので、シモンを紹介しました。するとそこで彼らは意気投合して、先ほど話した「人間の経験」を描くドラマという基本的な構造が固まりました。

私の制作会社「The 6th & Idaho」は創設当初からジャンル映画(特定のジャンルに特化した娯楽映画)の中でメタファーとして「人間の経験の物語」を描く機会を制作者のために用意することを目的としていたので、そこで生まれたアイデアにすごく惹かれました。

そしてそれから、2年くらいナサニエルと一緒に脚本の構想を練っていきました。ただ、放映するところが決まったわけでもなく、仕事じゃない趣味のような形で進んでいました。そういうこともあり、よくあるSF映像作品のような賑やかさを廃し、アクションの変わりに普通の人々の小さな交流を描くという、売れるかわからないリスキーな路線に挑戦するシリーズとしました。

そこに友人でもある素晴らしい才能を持った監督のマーク・ロマネクが参加して、ナサニエルと会ってまた意気投合し、さらに撮影監督のジェフ・クローネンウェスやプロダクション・デザイナーのフィリップ・メッシナといった凄い人たちを連れてきてくれました。

そしてその後、このシリーズをAmazonに持っていったら彼らはいたく気に入ってくれて、配信が決まりました。特別な思いを持ちながらも、実現するかどうかわからない中で、2年近く準備していた作品が世に出ることが決まったのは本当に幸運なことだと思いますね。

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── とにかくビジュアル面がすごい作品ですが、一体どれくらいの時間をかけて撮影されたのですか?

リーヴス:パイロット版(テスト版)としての位置づけで作った第一話の監督であるマーク・ロマネクが全体のビジュアル面を固めてくれました。マークはそもそもシモンのアートのファンで、そのアートをいかにして映像化するかにじっくり時間をかけてもらおうと、第1話だけは2週間ほどの時間をかけました。それ以降のエピソードは8~9日ほどですね。

ただ、アメリカのドラマの多くはまずパイロット版を作ってからそれを見て実際にシリーズを作るかどうかを検討する期間を設けますが、このシリーズでは一気に全エピソードを続けて撮っています

今作では撮影監督のジェフ・クローネンウェスやプロダクション・デザイナーのフィリップ・メッシナが素晴らしい仕事をしてくれただけでなく、ジョディ・フォスターやタイ・ウェストといった素晴らしい監督が参加していますが、マークが第1話で作ってくれたものが基盤となりました。

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── ビジュアル面で言えば、どれがCGでどれがCGじゃないのか、全然見分けがつかないくらい自然な映像だったんですが、今作はどれくらいCGなのですか?

リーヴス:マークもナサニエルも、落ち着いたリアルな雰囲気を求めていました。なので派手なSF作品のようなCGの使い方はせず、ロボットのパペットを動かす人の姿をCGで塗りつぶすとかそういった使い方が主となっています。

なので視覚効果は特殊撮影が中心で、例えば巨大な建物は途中までが実際にその場にあるもので、あとはCGで足していますが、浮いている物体などはそれを浮かせている物や人をあとでCGで消しているだけです。とにかくリアルに見えることを重視したので、見分けがつかないと思ってもらえてよかったです(笑)。

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Video: Amazon Prime Video / YouTube

『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』は、一見するとNetflixの『ストレンジャー・シングス』みたいな作品かなと感じるかもしれませんが、これがまたぜんぜん違う作品。監督の言うように『ミステリー・ゾーン』的であり日本風に言えばSF『世にも奇妙な物語』かな)、一つのストーリーを追い続けるというわけでもなく、とにかく静かで、ちょっと物悲しさのある不思議なSFとなっています。

こういった話は、たしかに「売れるかわからないリスキーな路線」なのですが、元のアートの良さとそれをバッチリ捉えたプロダクション・デザイン&撮影の妙で本当に本当によくできた映像となっています。

『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』はAmazon Prime Videoで現在配信中。


Source: Amazon.co.jp