自分で夢を操る方法、知りたくありませんか?
現実逃避の方法っていろいろあります。ドラッグ(ダメですよ!)、テレビ、ソーシャルメディアとか。でも一番すごいのって、「明晰夢」かもしれません。明晰夢は、夢の中で「これは夢だ」と気づいていて、夢を操れると言われています。明晰夢を経験したことがあると言う人はたくさんいますし、明晰夢を見る方法を教えるサイトも数えられないほどネット上に存在します。でも明晰夢って本当にありえるのでしょうか。科学的な証拠はあるのでしょうか。いつも通り、専門家の人たちに聞いてみましょう。
Jessica Payne
アリゾナ大学 心理学准教授
クレイジーだって思うかもしれませんが、明晰夢は本当にあります。科学では証明できないような不思議なことがあるのです。実際に明晰夢の実証研究もされています。
明晰夢は珍しく、見るのが難しいという誤解がされていますが、実は練習して明晰夢を見られるようになる人は結構います。私たちのラボや他の研究施設でも寝ている時の脳は、ちゃんと寝る前の指示や記憶をプロセスすることができるという研究結果が出ています。
例えば、テスト勉強している場合、寝る直前にもう一度だけノートを読み返すのは効果的です。寝ている脳に対して、何に集中すべきかを指示することができるからです。これは、問題を解こうとしている時やクリエイティブな解決策を求めている時にも使えます。私の研究では、3週間夢を覚えるぞと決めてから就寝した人の、少なくとも80%が鮮明な夢を見始めると結論付けています。夢を覚えていないと言う人たちは、夢を見ないものだと決め付けているケースが多いです。
明晰夢は夢を覚えることよりもさらに難しいですが、つじつまの合わない事に気をつけて意識するというトレーニングをするといいでしょう。一番よく使われるテクニックは、両手を見て、ちゃんと正しい数の指があるか、その指は正しい場所にあるかをチェックすることです。夢の中に時計が出てきたとしましょう。その時計はちゃんとした時間を示しているか、長針と短針は正しい場所にあるかをチェックします。これを練習すれば、鮮明な夢を見られるようになります。
スタンフォード大学の心理学者でステファン・ラベルジュという人がいます。彼は、誰よりも早く明晰夢の分野に手をつけていました。ずいぶん前にかなり説得力のある証拠を示していたのですが、誰も信じてくれませんでした。もしかしたら、重要ではないと思われたのかもしれませんね。明晰夢を見ている時、もちろん睡眠状態ですが、「睡眠」という言い方はちょっと間違えていて、正しくは脳の状態がいろいろ変わっているということなのです。夜遅くや朝早くはレム睡眠をしていて、明晰夢が起こりやすい状態です。
新しい発見なのですが、明晰夢を見ている人の脳は、前頭前皮質という部分が活発になっていることがわかりました。レム睡眠の時には完全に休止している部分です。ここは、例えば自分の部屋を自由自在に飛ぶことはできないよと教えてくれる場所です。レム睡眠の間はここが休止しているので、わけのわからないことが夢で起きるのです。夢の中では、おかしなことだとは気づかないですよね。明晰夢を見ている間はレム睡眠にもかかわらずこの前頭前皮質が動いているので、夢をコントロールすることができるというわけです。
Tore Nielsen
モントリオール大学心理学教授
この質問は両義にとれるものです。一つ目は明晰夢は本当に存在するのか。夢を見ている間にこれは夢だと本当に気づくことができるのかということです。二つ目は明晰夢を見ている間の鮮明な経験は別の現実なのかということです。
二つ目の質問は、現実とは何か、人間が信じる現実とは一体どこまでなのか、という問題につながってしまいます。これについてはまだ科学でも完全に答えが出ていないので、私もこれ以上は話すのをやめておきましょう。
最初の質問ですが、これについては簡単に答えられます。自分が明晰夢についての研究をしているからというだけではなく、私自身が明晰夢をよく見るからです。一度ではありません、何度もです。なので、明晰夢は本当に存在します。でもちゃんとした研究結果や証拠がなくてはなりませんよね。
実は1960年代から明晰夢の証拠はたくさん存在しています。明晰夢を見ている人たちは自分の意思で筋肉を動かすことができるのです。明晰夢を見るのはレム睡眠中であることが多いのですが、レム睡眠中は自発的に筋肉を動かすことができませんが、眼球の筋肉は動き続けるのが特徴です。
なので、寝ている人が明晰夢を見ている時、夢の中の状態でも目を自発的に動かすことができるのです。研究所の睡眠実験によると、事前に決めた「右→左→右」などの目の動きを明晰夢を見ている間にシグナルとして右→左→右と目を動かせることが結果として出ています。レム睡眠の時の目の動きとは違うものなのです。このように目で明晰夢を見ていると合図できる人たちが出てきたことは、明晰夢が実際に存在するということです。
Ina Djonlagic
ハーバード大学医学部助教授
短く答えるなら「イエス」です。でも明晰夢の定義は幅広いのです。自分が夢を見ていると認識することを経験した人はたくさんいると思います。そして明晰夢を見るための練習方法もたくさんあります。夢の中にいることを認識する練習から、夢の内容をコントロールする練習までさまざまです。明晰夢は、悪夢を見ている時はとても便利なものだと思います。私の患者さんたちで、明晰夢を見れるように練習した人たちは、悪夢を減らすことに成功したと話しています。
とは言うものの、ずっと明晰夢を見る練習を続けることがいいことかはわかりません。明晰夢を見る人たちは、起きているのと寝ているのが一緒になった状態にいるので、睡眠の質という観点と日中の生活にどんな影響があるかが不明なのです。これについてはまだしっかりとした研究がされていないのですが、全体的に夢の研究は、科学的におこなうのがとても難しい分野なのです。なので夢の経験というのはリサーチャーにとっても透明性の低いもので、実験の参加者の話したことに頼るしかないところがあり、かなり主観的なものになってしまうのです。
Deirdre Leigh Barrett
ハーバード大学夢研究家
明晰夢は夢の中では本物です。レム睡眠中に脳が寝ている状態と起きている状態の間で起きる夢です。私の研究「Just How Lucid Are Lucid Dreams?」では夢という状態では「明晰」ですが、すべてが「明晰」というわけではないと書いています。50の明晰夢を以下の4つの命題に当てはめてみました。
1)夢の中の登場人物が夢の中だけの人
2)夢の中の物体が現実世界ではないもの
3)夢を見ている人は夢の中で現実の世界の物理に従わなくていい
4)起きている世界での記憶はフィクションではなく現実的多くの明晰夢は、この4つに当てはめるには曖昧すぎる傾向がありました。半分くらいがこのどれかに当てはまり、4つすべてに当てはまったのはたった4分の1でした。
明晰夢に慣れてくると、夢の中の出来事が本物ではないと気付き、自分がこの劇の監督なんだ、とかディープトランスの中にいるんだと思うようになります。「これは特別な状況で、普通は無理だけどこの壁は通り抜けられる」とか「この男の人は本物ではないから、私が彼を作りだしていて、消すことだってできる」などがいい例ですね。