人間の臓器を大量生産するという野望

  • 6,479

  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
人間の臓器を大量生産するという野望
テルアビブ大学にて人体組織でプリントされた心臓。2019年4月15日

実現したら、世界が変わるかも。

現在、臓器移植にはいろいろと問題が付きまといます。順番待ちのリストは増加の一方で、裕福な人だけが順番を飛ばして手にしたり、違法に摘出され、ブラックマーケットに流れたりもします。

これらの問題の多くは数の少なさに起因しているので、豊富な臓器が合法で出回れば、色々な問題が解決する可能性があります。なんと、これを実現させようとしている人がおり、米GizmodoのJoanna Nelius氏は、個人的な観点からも興味があるそうです。


みなさん、セグウェイを覚えていますか?車輪がふたつ付いていて、器械体操並みのバランスがないとまともに立てないアレです。セグウェイの発明者は現在、非常に野心的なプロジェクトに取り組んでいます。それは、人間の臓器を大量生産する巨大な工場を作るということです。もちろん、食品医薬品局(FDA)からちゃんと認証を得た上で、ですよ。研究面での道のりはまだまだ遠いのですが、発明家のDean Kamen氏は必ずやってくるその時のために準備したいと言います。そこで彼は、プロトタイプを作れる機械を発明、開発することで流行を先取りしようとしているわけです。OneZeroの最新の記事はこの計画を徹底特集しています。

医療の改善を求め続けて来た発明家

Kamen氏の発明は、階段を上り下りでき、相手の目線まで上昇できる車椅子に始まりました。次に彼が手がけたのが セグウェイ。こちらはショッピングモールや大学の警備員、ツアーグループなどの間で人気になりました。しかし、OneZeroが指摘したように、セグウェイは期待されていたような革新的なものにはならず、彼は、会社をJames Heselden氏(覚えていらっしゃるかわかりませんが、自分のセグウェイで崖から落ちて亡くなりました)に売却しました。現在Segway社は中国に拠点を置くNinebotが販売し、同社はスクーターやゴーカートなどラインナップを増やしています。

セグウェイからは手を引いたものの、Kamen氏は発明をやめていません。OneZeroによると、のちにセグウェイとなった最初のデザインがそうであったように、彼の発明品の多くには医学的な目的と理由があります。他にも彼は医学用ポンプやステント、腕を失った兵士のための機械式の義手、発展途上国の村のための浄水器などを発明しています。また彼の会社は、無菌の点滴用薬剤バッグや、COVID-19パンデミックが始まってからはマスク用のより優れた素材を開発しています。彼の会社のウェブサイトを見てみると、発明したものは他にも山のようにあり、米国と海外で合計440件以上の特許を所有しているとのことです。

Kamen氏の次の目標

そんな彼の今の目標が人間の臓器の生産工場を作ることで、これが成功すれば、現時点で臓器移植の順番待ちをしている米国の110,617人には朗報となります。2016年に国防総省から受けた8千万ドル(約85億円)の資金提供を元に、彼はAdvanced Regenerative Manufacturing Institute(ARMI)を開設。これは米国中の170の医療企業、研究施設、団体を繋げ、研究やリソースを共有するための非営利団体です。BioFabUSAはARMIの部門の一つで、人間の臓器を生産する工場に必要な機械の研究、開発を担当しています。OneZeroによると、現在ARMIはその目標やその他の研究のために3億ドル(約320億円)の資金を保持しており、プロトタイプの機械はすでに開発中とのことです。

また同サイトによると、彼が資金を投入しているのは、臓器を待っている人達のための臓器生産用ツールや機械だけでなく、「工場がスマートフォンを作るように心臓や腎臓を大量に作れる、ハイテク組み立てライン」を作るためなのだそうです。彼は、シリコンバレーが半導体でできるなら、私は人間の組織でもできるはずだとOneZeroに答えています。

道のりは遠いけど

人間の臓器を研究室で作るにはまだ遠い道のりですが、去年の4月、テルアビブ大学の研究者達は人間の心臓を初めてバイオプリントしたと発表しました。バイオプリントは3Dプリントと似たようなプロセスですが、マンダロリアンのヘルメットを作る代わりに、生物的材料を元に臓器を「プリント」するのです

臓器をプリントできるようになるにはまだ数年はかかるでしょうが、Kamen氏はその時が来た時に一番乗りできるよう準備しているというわけです。彼の機械は将来的に、靭帯や腱も作れるようになります。この部分は特に興味深いです。というのも、私は10年以上前に前十字靭帯を損傷して移植手術を受けたのですが、遺体から提供された靭帯が関節の中で崩れてしまい、過去10年、靭帯無しで生活して来たのです。今足の中に残っているのは、靭帯を繋ぎ止めていたネジ、脛骨と大腿骨にひとつずつです。もしKamen氏のビジョンが現実化したら、将来私も、バイオプリントされた私自身の靭帯を移植できるかもしれないですね。