豚マスク、蛆虫、蜘蛛、ゴキブリ、葬儀の花輪――。
eBayトップがうるさいブロガーを「潰せ」と部下に命じ、B級ホラー映画のような嫌がらせの小包を次々と自宅に送り届けて脅迫し、執拗なストーカーまがい行為を働いていたことが米FBIと検察の捜査で明らかになり、マフィアドラマ「ザ・ソプラノズ」のようだと衝撃を呼んでいます。
「潰せ」の指令はトップダウン
被害に遭ったのは、マサチューセッツ州ナティックに住むECommerceBytes.com共同創設者のDavid&Ina Steinerさん夫妻。ECommerceBytes.comはeBayセラーに根強い支持を誇り、eBay社内でもCEOを筆頭によく読まれているブログです。
ここに昨年4月10日に「デビン・ウィニグCEO(当時)の年俸は1817万ドル(約19億1820万円)で平社員の152倍」という記事が掲載されたことに腹を立て、Steve Wymer広報部長が「潰すしかない」とCEOにリンクを送信。CEOも「引きずりおろしてやれ」とこれに同調し、8月にまたネガティブな記事が載ると「潰すなら今だ」とプッシュしていました。
小学生のような嫌がらせの数々
実行を任されたのは、James Baugh安全セキュリティ担当シニアディレクター、David Harvill国際レジリエンシー担当ディレクターとセキュリティチームの社員4名です。嫌がらせの手口はさまざまな映画を部内でビューイングして、「棺桶を送ったらどうか?」などとアイディアを出し合って煮詰めていきました。採用になった手口には次のようなものがあります。
・蛆虫、蜘蛛、ゴキブリの詰まった箱を家に届ける。
・豚の糞を発注するもセラーから問い合わせを受けて頓挫。
・ネットで匿名の脅迫メッセージを送る。
・ブロガーのTOYOTA車にGPS追跡端末を仕掛けるため、サンノゼ本社から社員3名がファーストクラスでボストンに飛んで一流ホテルのリッツカールトンに投宿する(車は車庫の中だったため徒労に終わる)。
・朝4時半に大量のピッツァの出前を着払いで注文。
・喪中でもないのに「遺品売りたし」とCraigslistに広告を掲載。
・昼夜を問わず玄関をピンポーン。
・宛先が夫のポルノ雑誌「Hustler: Barely Legal」をわざと隣の家に届ける。
・eBayユーザーになりすましたSNSアウントを作成して悪口と苦情を拡散。
・ボストン地域で夫妻の動きを監視。
怖い刑事と優しい刑事ならぬ「ホワイトナイト作戦」
裏でこれだけの嫌がらせをしておきながら、サポートは親身になって話を聞いて嫌がらせの解決に全力で励み、なるべく好意的な記事を書いてもらう「ホワイトナイト作戦」なるものも部内では用意していました。こちらはCIA映画「Body of Lies」をチームでビューイングして、そこからヒントを得たようですよ?
実行犯6名は全員解雇、刑事告訴される
4回目の嫌がらせ出張では、警察の張り込みのバンが家の前に停まっていました。これを見た社員は「相当パラノイアになってるw」と成果を報告して舞い上がっていたのですが、ちょうど時を同じくして、警察の地道な捜査で、ピッツァの大量発注で使われたプリペイドカードの購入地点がeBay本社付近であることが判明。さらに、嫌がらせで使われたレンタカーのナンバーからeBay社員の身元が割れて、一斉摘発となりました。
捜査介入の責任をとって実行犯の6名(うち1名は元サンタクララ警察署長)は9月のうちに全員解雇されました。今年6月にはディレクター2名が逮捕となって、部下4名とともに刑事告訴されています。
NY Timesが社員のその後を取材しているのですが、トップの命令に逆えばクビ、従っても警察の取り調べを受けてクビでいまだに再就職もままならない状態らしい…。どっちに転んでも地獄ですよね…。
CEOは退職金60億円でGM取締役も留任
一方、ウィニグCEOは一連の不適切発言の責任をとって昨年9月辞任しましたが、こちらは逮捕も起訴もない依願退職なので、退職金5700万ドル(約60億円)のゴールデンパラシュートを手にしています。今年は年棒31万7000ドル(約3340万円)のGM取締役も再任が決まって悠々自適です。
「潰せ」「手段は厭わない。燃えカスになるまで焼きを入れろ」と任侠映画のような怖い発言を繰り返していたWymer広報部長もさすがにeBayは辞めましたが、今年6月にな~んとシリコンバレー青少年クラブCEOに就任しているんですね。
割を喰うのは下っ端ばかり。172倍どころじゃない格差です。「年々平社員とトップの給与格差が広がっているよ」という問題の記事どおりの結末になっていたのでした…。