こう書くと語弊があるかもしれませんが、今年は人生で一番散財しました。
狂ったように爆買いして、その中には去年なら買わないかもしれないけど、リモートワーク、そしてそれに続く地方移住という新しい生活スタイルを模索するうえで、やむにやまれず購入したものも少なからずありました。
これは自分だけでなく、ギズモードにおいても、似たような傾向があったと思います。ストレスフルな社会状況の中で、これまでになく「利便性」がフォーカスされて、ガジェットに求める「質」が変わってきました。
顕著に感じていたのは、「もうハイスペックでなくてもいい」という流れです。もっと極端になると、「スペックなんてどうでもいい」という新たな原理主義が世間で幅をきかせるようになり、ギズ読者の中にも増えてきたということかもしれません。iPhone SEや12 miniが市場で大成功を収めたのはその好例でしょう。
さらにハイスペックでなくてもいいという指向との合わせ技で、「もはや最新モデルじゃなくてもいい」という流れが出てきたのにはいささか困惑しました。そこらへんは、くどくど言わなくても、あくまでビジネスやっているメディアだという事情から察していただけるのではないかと。
僕自身も、以前のように「最新機種がでたら問答無用でその中のフラッグシップをゲットして、考えうる限りベストのツールで武装する」という態度はもはやギズモードの定番じゃないし、何よりクールじゃなくなってきているように感じています。
未だに笑っちゃうぐらいのオーバースペックがもたらす全能感を捨てきれなくて、分不相応な買い物をすることもあります。でも、来年はすこし変わっていきそうな予感があります。ここではそんな「新しい価値観」に気づかせてくれたアイテムたちを紹介しましょう。
スペックを引き算するという思想
価値観の変化を感じたアイテム:TEÄTORA BARRIERIZER DATADOME BR
変化した価値観:捨てるスペック/得られる機能
TEÄTORA(テアトラ)のデザイナーである上出大輔さんからはプロダクトに対する考え方において多大な影響を受けています。上出氏は、あえて防水機能をもたせないことで超軽量化を実現したダウンジャケット「EVAPOD」から、多機能を売りにしたテックウェアとは一線を画したアプローチを試みるようになりました。もともとこのジャンルを作り上げた始祖みたいな人ですが、機能を積み上げる足し算でなく、引き算で実現できることを重視するようになったんです。
普段使いできるレインウェアと銘打ったBARRIERIZERは、ゴアテックスに代表される防水の3レイヤー素材ではなく、ワンレイヤーで撥水できる独自素材「HEXARIUM」を採用しています。ゴアテックスほどハイスペックな長時間の防水機能はありませんが、その分とても柔らかく、通気性があり、部屋着にできるぐらい快適な生地感が担保されています(実際に部屋で着るとスターウォーズのシスのような異質感が出てしまいますが)。移動中の雨であれば、この撥水機能で十分。ゴワゴワしてハリ感のあるゴアテックスの弱点を克服するトレードオフが行われています。
スペシャリストの強み
価値観の変化を感じたアイテム:SIGMA sd Quattro
変化した価値観:目的がはっきりしていれば、オールマイティーである必要はない
今年7月に購入したSIGMA sd Quattroは、レンズメーカーとして知られるSIGMAが独自設計のFoveonセンサーを搭載してリリースしてきたカメラの最新ラインナップです。最新といっても発売されたのは4年前。今ではSIGMAのカメラといえば、より一般的なベイヤー配列のセンサーを搭載して昨年11月に発売されたSIGMA fpの方が有名です。
このFoveonセンサーの特徴は、ざっくりいうと、フィルムライクな質感と立体感。 APS-Cでもフルサイズに肉迫するような解像感が得られるメリットがあるところです。細かな説明は割愛しますが、ベイヤーセンサーのようにデジタル演算で色補完しなくてもいいので、原理的に偽色(実際には存在しない色)が発生しないためと言われています。その反面、高感度に弱く、書き込みに時間がかかるなどの致命的な欠点を未だに克服できないままでいます。
実際、僕のSIGMA sd Quattroも、自然光のある日中にISO100(!)固定でないと使えません(それ以上はノイズが入る)。しかし物撮りには最高で、PCで等倍表示したときのシャープさは、雑誌の編集をやっていた頃に、プロカメラマンが撮影したリバーサルフィルムをルーペで拡大して見た時のような感動や驚きがありました。
前述のSIGMA fpも、フルサイズ最小・最軽量である代わりに、現在のミラーレス機で標準的なEVFやボディ内光学式手ぶれ補正を捨ててしまったユニークなカメラですが、SIGMAという会社は老舗カメラメーカーにはできない「積み上げでなく引き算」の発想があります。
その分、どちらもはっきりいって使いにくいのですが、オールマイティーなカメラにはない一芸に秀でた良さがあるのは間違いないです。
最新が最適とは限らない
価値観の変化を感じたアイテム:SONY α7S
変化した価値観:最新機種が最適な機種とは限らない
同じカメラになってしまいますが、こちらは今年購入したものではないので番外編です。SONY α7Sは、約6年前に発売されたモデル。最近、会社の倉庫で埃を被っていたものを自宅に持ち帰って使いはじめました。動機はこちらのYoutubeチャンネル。
プロカメラマン(自称元売れっ子カメラマン)の鈴木心さんは、5年前に購入した初代のSONY α7Sを未だにメインカメラとして使い続けています。彼のYoutubeを見たとき、自分が最近感じてることをずっと前から実践してきた方がいたんだという発見と喜びがありました。
鈴木さんは、今ではSONY α7Sを自分の目的に対して必要十分な唯一のカメラと見込んで、まるでApple信者が独特の論法でApple製品を愛するような突き詰めたアプローチで愛し、愛ゆえに自分に最適化して使い続けています。
最近はSONY α7Sを最新のSONY製カメラやライカと比較検証していますが、今後も使い続けていこうとする覚悟すら感じます。それは2021年のプロダクト(僕にとってはクリエイティブ作品)業界を考えていく上で、大きなヒントになってくれるはずです。そんなSONY α7Sが会社にあることを(実は知らなかった笑)教えてくれた編集部の若頭・佐々木くんに感謝。でも、来年はオールドレンズとSONY α7Sを自分で買ってみようかな。お金が続けば。
【新年追記】...と、ここまで書いて最新の動画をみたら、あっさりα7SⅢを買っちゃっていました。おい!(笑)