AMDの新しいモバイル用CPUはヤバいくらい速い

  • 73,186

  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
AMDの新しいモバイル用CPUはヤバいくらい速い

M1に負けじとAMDも奮戦!

世間の話題がApple M1の驚異的な速さでもちきりな中、既にデスクトップの分野ではIntelと肩を並べ、追い越さんばかりの勢いのAMDが、実はラップトップでも背後に忍び寄っていたようです。

つい最近MacBook Proに目移りしそうだった米GizmodoのJoanna Nelius氏ですが、AMDの最新プロセッサで「やっぱりWindows!」となったようです。今回はそんな彼女によるRyzen 9 5980HSの比較テストを見てみましょう。


新しいMacBook Proの驚異的なプロセッサ速度に思わず目移りし始めたと思ったら、AMDがRyzen 9 5980HSで私をWindowsの世界に引き戻してしまいました。最新のデスクトッププロセッサ同様、AMDはZen 3アーキテクチャを導入することで、Hシリーズのモバイルプロセッサにも同じような素晴らしいパフォーマンスを実現しました。さらにキャッシュメモリを大量に投入してプロセス時間を大幅に短縮させ、結果としてのメモリの出来は本当にお見事です。これによってAMDは、デスクトップとラップトップ両方の土俵でIntelに並びました。そろそろラップトップのメーカーも気づく頃でしょう。

Asusの最新2-in-1ゲーミングラップトップ、ROG Flow X13はこの新たなプロセッサを搭載しており、丁度私の手元にありました。なので、米Gizmodoが過去にレビューした中でこれに近いプロセッサを搭載したモデルを複数選び、比較テストをしてみました。ただ、GTX 1650 Max-Qグラフィックスカードを搭載していることからもわかるように、ROG Flow X13はパフォーマンスよりポータビリティを重視したモデルです。MacBook Proよりも軽くて薄く仕上がっていますが、ゲームをプレイする時には、CPUについてこれないため、GPUがボトルネックになってしまっています。

理想を言えば、CPUとマザーボード以外は全て同じなシステムで比較したかったのですが、ラップトップはデスクトップと違ってデザインの差が微妙で、全てのラップトップメーカーが同じモデルのIntel版とAMD版両方を作っているわけではありません (Lenovoを除く) 。

というわけで、テストに使用したモデルは以下の通り:

  • Asus ROG Flow X13: AMD Ryzen 9 5980HS @ 3.0-4.8 GHz, 8コア/16スレッド, GTX 1650 Max-Q, 32GB DRAM
  • Asus ROG Zephyrus G14: AMD Ryzen 9 4900HS @ 3.0-4.3GHz, 8コア/16スレッド, RTX 2060 Max-Q, 16GB DRAM
  • Lenovo IdeaPad Slim 7: AMD Ryzen 7 4800U @ 1.8-4.2 GHz, 8コア/16スレッド,Radeon Graphics, 16GB DRAM
  • MSI Prestige 14 Evo: Intel Core i7-1185G7 @ 3.00 GHz, 4コア/8スレッド, Iris Xe Graphics搭載, 16GB DRAM
  • MSI Creator 15: Intel Core i7-10875H @ 2.13-5.10 GHz, 8コア/16スレッド, RTX 2060, 16GB DRAM
  • Dell XPS 17 9700: Intel Core i7-10875H @ 2.13-5.10 GHz, 8コア/16スレッド, RTX 2060 Max-Q, 16GB DRAM
  • Apple MacBook Pro 13-inch: M1 processor @ 3.20 GHz, 8コア (4 “big,” 4 “little”), 16GB DRAM

全ての機種を同時にテストできたわけではありません。また、チャートによって含まれていない機種もあります。例えば、Dell XPSに内蔵されているIntel Core i7-10875HはGeekbench 5のテスト結果にありますが、MSI Creator 15 (こちらも搭載しているのはCore i7-10875H) はGeekbench 5のデータがなかったので含まれていません。また、Cinebenchに関してはどちらのデータもなかったので、両方とも結果に含まれていません。どのCore i7-10875Hベースのモデルを使用したかはグラフ毎に記してありますが、Ryzen 9 5980HSをIntel、AMD、Appleからのラップトップそれぞれと最低一つは比較してあります。

さて、まずはCPUのパフォーマンスから。このグラフは驚くこと間違いなしです。

210127_ryzen9compare_02
Geekbench 5シングルコアテスト。数字が高いほどいいスコア。Core i7-10875Hの結果はDell XPS 17 9700で計測したもの。
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


210127_ryzen9compare_03
Geekbench 5マルチコアテスト。数字が高いほどいいスコア。Core i7-10875Hの結果はDell XPS 17 9700で計測したもの。
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


210127_ryzen9compare_04
Cinebench R23シングルコアテスト。
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


210127_ryzen9compare_05
Cinebench R23マルチコアテスト。
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


210127_ryzen9compare_06
Civilization VI (AIテスト)。数字が低いほど速い。Core i7-10875Hの結果はMSI Creator 15で計測。
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo

Ryzen 9 5980HSのマルチコアベンチマークは、モバイルプロセッサのスコアとしては今までで最高です。正直、IntelやAppleのCPUは比較にもなりません。Ryzen 9 5980HSは、Geekbench 5とCinebench R23-特に後者-において、8コアi7-10875HもApple M1も大幅に凌駕しました。

シングルコアのパフォーマンスでは、AMDはIntelやAppleにかなり近いスコアを出しました。Cinebenchの結果、Ryzen 9はApple M1にわずか6ポイント劣ったものの、Core i7-1185G7には約170ポイントリードしました。一方、Geekbench 5ではそこまでふるわず、M1には200ポイントの差をつけられましたが、それでもCore i7-1185G7とはわずか30ポイント差です。

しかしFlow X13をターボモードにすると、Apple M1に15ポイントの差をつけてトップになりました。ただ、全てのラップトップにターボモードがあるわけではないので、可能なかぎり公平にするため、主なテストではターボモードは使っていません。ラップトップ毎に異なりますが、バランスモードかパフォーマンスモードにしています。例えば、MSI Prestige 14 Evoはバランスモードのみ使用しました。

ちなみに、Core i9-10885HともGeekbench 4を使って比較してみました。なぜ4かというと、Core-i9の結果で手元にあったのがそれだけだったからです。結果は、AMDはIntelに対してシングルコアで300ポイントリードし、マルチコアでは2500ポイントリードしました。

Ryzen 9 5980HSは、『Civilization VI』のAIテストでも好成績を残しました。ただ、Apple M1もCore i7-1185G7も大きく引き離したのですが、どういうわけか前世代のRyzen 9 4900HSプロセッサに遅れをとってしまいました (Geekbench 4の結果だと、4900HSに対してシングルコアで1100ポイント、マルチコアで3000ポイントリードしました) 。原因はDRAMのスピードか、メモリータイミング、あるいはクロック速度かもしれませんが、4900HSを改めてテストしてみないとなんとも言えません。

この奇妙な結果は、AMDの最新プロセッサだけでなく、プロセッサ全体に関する一つの事実を教えてくれます。例えスペック上は同じでも、各ラップトップの設計次第で性能が異なるということです。ディスプレイの傾き具合や排熱デザイン、エアフローなどで、同じようなスペックのラップトップでもパフォーマンスに違いが出ます。Flow X13でも、ディスプレイの傾き具合を変えるだけで、Blenderのレンダリング時間が1分も変わるんです、本当に!

210127_ryzen9compare_07
Blender CPUレンダリングテスト。数字が低いほど速い。Core i7-10875Hの結果はMSI Creator 15で計測。
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


210127_ryzen9compare_08
Handbreakビデオ変換テスト。数字が低いほど速い。Core i7-10875Hの結果はMSI Creator 15で計測。
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


210127_ryzen9compare_09
MP4からHEVCへの変換テスト。数字が低いほど速い。
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


Ryzenのパワーは、特にBlenderのテストで実感できます。同じ画像を全てのラップトップでレンダリングしたところ、Ryzen 9 5980HSは最も速い6分半で完了しました。また、Handbrakeで4Kのビデオを1080P、30fpsに変換するテストでも好成績でしたが、Ryzen 9 4900HSに若干劣りました。一応、ターボモードにすると4900HSより数秒速くなりますが。

Adobe Premiere ProからMP4ビデオをHEVCコーデックで書き出すテストでもRyzen 9 5980HSは優秀でした。Core i7-1185G7には20秒ほど遅れをとりましたが、それでもApple M1よりは遥かに速く完了しています。

シングルコア、マルチコアともに高いパフォーマンスのおかげで、Ryzen 9 5980HSはゲーミングだけでなくクリエイティブな作業でもトップのモバイルプロセッサの仲間入りを果たしました。実際にテストさせてみて、RTX 3060やそれ以上のハードウェアと組み合わせた時にテストさせるのがもっと楽しみになりました。AMDはRyzen 5000シリーズデスクトッププロセッサを出したことで、Intelにゲーミングパフォーマンスで肩を並べたので、RTX 30シリーズを搭載したラップトップでテストしたら、同じような現象が起きると思います。

Asus ROG Flow X13のレビューで詳細を書く予定ですが、現在Ryzen 9 5980HSの足を引っ張っているのはGTX 1650です。極薄のデザインでも熱に関する問題がなかったので (ディスプレイの傾きは影響しましたが) 、よりパワーを重視したデザインのラップトップならどうなるのか、非常に楽しみです。