スタンフォード大がモデルナワクチンのmRNA全配列をGitHubに公開

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スタンフォード大がモデルナワクチンのmRNA全配列をGitHubに公開
モデルナのワクチン(チェコ、2021年1月)

ワクチン配列がオープンソース。胸アツだな。

モデルナ( Moderna)のmRNAワクチンをスタンフォード大がハック! コロナワクチンの全遺伝子配列をGithubのオープンソースコードのレポジトリに公開しましたよ。

mRNAワクチンが働くしくみ

mRNAワクチンでは、mRNA(スパイクプロテイン形成指示体)で体内の細胞に指示を与え、無害なウイルスプロテイン(コロナウイルスが体細胞に侵入するときに使うスパイクプロテインの疑似バージョンなど)の生成を促します。生成後は免疫系フル稼働でただちに撃退開始。mRNAはすぐ分解されちゃって体には残らないんですが、抗体は残るので、いざ本物の新型コロナウイルスがきても大丈夫になるんですね。いわば無害な疑似バージョンで消火訓練して抗体づくり、というわけです。米自治体が公開している日本語の解説はこちらミシガン大医学部の日英FAQはこちら

ワクチン開発が早かった本当の理由

「ワクチン開発はふつう12~18か月かかるもの。こんなに早く開発されるなんてありえない」「安全確認はしょったに違いない、モルモットになるのは勘弁だ」とよく言われますけど、SARS-CoV-2の全遺伝子配列公開から10か月そこそこで2社が米食品医薬品局(FDA)に緊急認可申請できたのは、ひとえにmRNAのおかげです。

MIT News Officeによると、mRNAワクチンはラボ内のプロテイン製造に依存する旧世代のワクチンより、製造が簡単でスピーディー。mRNAの遺伝子配列がワクチンのソースコードみたいな役割を果たしてくれるから作りやすいだけなんですね(日本語解説)。mRNAワクチンはFDAとしても初めての事例なので、それまでのmRNA以外のワクチンのタイムスケジュールと比べて怖がっても✕なのです。

なぜ公開?

スタンフォードのチームがGithubに公開したドキュメントには2ページ分の解説があって、さらに2ページにモデルナワクチンのmRNA全配列が記載されています。そのなかでチームは、モデルナのmRNAがこんなに広まっているのに遺伝子配列がどのようなものか研究者も医療従事者も知る術がないと述べ、「これだけあちこちに配布されているのに、肝心のRNA情報にアクセスできない人もいる。公開すれば、宿主や感染源よりこれを手掛かりに即座にRNAを特定できるだろう」と公開に踏み切った意義を語っています。

なお、ワクチンを「リバースエンジニア」したわけではなく、「2021年現在、医学界と人体バイオの分野で充分認知されている2つの合成RNA分子の配列を推定して公開した」のだそうな。「ワクチン配布開始を機に、遺伝子配列の情報が多くの調査や診断研究に現れるようになった。このような配列を知り、今後のバイオ医療のデータセット解析でほかのRNAと区別できるようにしておくことは極めて有用だ」と、同大のAndrew FireさんとMassa ShouraさんはMotherboardのメール取材に答えていますよ。

ちなみに「研究で使ったRNAは接種後、瓶に残った少量のワクチンから抽出した。本来なら廃棄するほどの分量だが、FDAから研究目的の使用許可を得たうえで解析した」とのことです。公開についてもモデルナ社から事前に許可を得ましたが、特に反対はされなかったそうですよ?

mRNA公開は2例目

FDA初認可のmRNAワクチンは、モデルナのワクチンと、競合ファイザー&バイオンテックのワクチンで、後者の遺伝子配列はすでにPowerDNS創業者Bert Hubert氏がクリスマスに公開済みです。

そのHubertさんがブログで書いているように、公開されたからってだれでも家で大量生産できるようなものではありませんよ。製薬会社がワクチン製造で辿るサプライチェーンの工程は気が遠くはるほど複雑です。膨大な材料調達も要るし、DNAとmRNAの工場も要る。mRNAと脂質を合体させて脂質ナノ粒子(LNPs)を生成しなければならなくて、そのやり方を知ってる専門家はおそらく「100~200人」ほどしかいない。しかもLNPをほかの一般成分と混ぜて詰める最終工程も知識と設備が要求されますし、配布は配布で鬼のように大変。「サプライチェーンの最後にくるのがスパイクプロテインの生成で、これがワクチン接種後、体の細胞内で起こって初めて完了だ」とHubertさんは述べています。

IPで保護されてるんじゃないの?

COVID-19ワクチンの知的財産権(IP)保護の一時的な放棄を求める圧力はバイデン政権に対してもで高まっています。今は利益追求より、なるべく多くの人に配ってパンデミック鎮静化を図るのが先だということで。ファイザー役員のスコット・ゴットリーブFDA元長官は大量配布が進まないのは主に供給と製造の問題であって、IPが足かせになっているのではないと主張していますけどね。いちおうホワイトハウスはIP保護の先送りを検討中です(NBC)。