ハチドリの羽。タマムシの上翅。
光の加減によってゆらめき、虹色に輝くその美しさは息をのむほどです。
ひるがえってヒトを観察してみると、あらためて地味さに気づかされます。というか、ヒト科に限らず、哺乳類に分類される生物ってみんなわりとニュートラルなかんじ。同じ渓流に住む生物でも、カワセミの碧とムササビの茶色とでは彩度が違いすぎます。
哺乳類ってなぜこんなに地味なんでしょう?今回の「Giz Asks」は生物と色の関係についてのお話です。
夜行性ボトルネック説
Matthew Toomey(タルサ大学生物学助教)
なぜ色鮮やかな哺乳類が珍しいかを理解するには、まず哺乳類の進化をいま一度たどってみる必要があります。
哺乳類が現れた頃の地球は恐竜に支配されていました。恐竜たちはおそらく昼行性でしたから、今日の鳥類と同じように優れた色覚を備えていたと考えられます。また、これらの恐竜の多くは捕食者で、当時まだ小さくて弱かった哺乳類の命を脅かす存在でした。
そこで、なんとか生き延びるために哺乳類が選んだ道が、保護色化、夜行性化、そして地下に潜ることでした。地下の暗い環境において優先されたのは嗅覚と聴覚でした。そして、暗闇であまり役に立たない色覚は次第に失われていったのです。
この「夜行性ボトルネック」の片鱗は今日の哺乳類の色覚にも見ることができます。現在地球上で暮らしている哺乳類のほとんどは、青と赤、たったふたつの光受容体だけで色を知覚しています。ですから、哺乳類のほとんどは繊細な色合いを識別できません。一方で、鳥類の色覚は紫外・青・緑・赤の四つに対応する光受容体に構成されていて、色をとても細かく見分けることができるので、求愛したり、敵を威嚇するのに色を使います。ちなみに、人間は進化の過程でほかの哺乳類よりも複雑な色覚を獲得しています。さらに興味深いことに、霊長類の一部はヒト以外にも色覚を発達させた種属がいて、それらの種属はたとえばマンドリルのように非常にカラフルな肌の色をも獲得しています。
「夜行性ボトルネック」は、もうひとつ、哺乳類が保有する色素の数にも制限をかけてしまったかもしれません。鳥類、昆虫類、爬虫類などはみな多彩な色素でカラフルな体色を作り出していますが、哺乳類の毛髪や毛皮に含まれる色素はメラニンのみで、作り出せるのは黒、茶、赤褐色に限られています。メラニン自体は複雑な光学ナノ構造体に取り込むことにより、鳥の羽や爬虫類の鱗などに見られる玉虫色を作り出すことも可能なのですが、そういった例は哺乳類にはほとんど見られません。複雑で繊細な色覚と同じように、繊細な色を作り出すメカニズムもまた私たちの祖先である哺乳類が地下に潜ってから徐々に失われていったものと考えられます。
色はコミュニケーションデバイス
Richard Prum(イェール大学鳥類学・生態学・進化生物学教授)
これは感覚生態学の分野に関係してきますね。要は、生物が生きるためにどのように感覚系を活用しているかです。
色とはコミュニケーションです。私たちが自然界で見る鮮明で美しい色は、すベてコミュニケーションデバイスです。それらの色が表現しているのは、その生物が何を選び取り、何を好み、何を印象深いとするか。このような色の使い方の大前提として、その生物が認知能力を持っていること、そして社会的・個人的な選択肢の中から選び取る能力を持っていることが挙げられます。だれと交尾するか、だれと行動を伴うかなどを自ら決断できるかどうかですね。なぜある生物がある特定の色をしているのかを考察する時、これらすべての要素が関係してくるのです。
コミュニケーションを図るために、生物たちは体に蓄えられた色素を使います。色素とは可視光を選択的に取り込む分子です。また、色素のほかにも構造色を使う場合もあります。構造色とは、青空や虹のように、ある物体の表面が光と干渉したり、分光したりすることで発色して見える現象です。なので、体の色を決めているのは、一方で認知の生物学と行動の社会学が関わっていて、もう一方では色を作り出すためにどのような材料を持っているかが関係しているのです。
鳥類は4色型色覚を持っています。認識できる色彩の豊かさにおいては人間の色覚をはるかに凌ぎます。私たちが想像もできないような色、たとえば紫外黄色や紫外緑色なんていうのも見ることができます。それに加えて、鳥類は豊かな社交性を持っています。連れ立って行動したり、一緒に飛び回ったりしますし、ほとんどはつがいとなる相手を選びます。選択肢の自由度もある程度持っています。では、鳥たちはその自由の中から何を選びとっているのでしょう? 彼らは美しいものを選ぶのです──主観的に見て美しいものを。それが進化して、私の持論である「美的放散(aesthetic radiation)」に至ったと考えています。環境に適応するための手段として新しい表現型を生み出す適応放散(adaptive radiation)とは一線を画した考え方です。
ここまではなぜ鳥たちがカラフルなのかを説明してきましたが、では哺乳類は?
哺乳類には認知能力こそ備わっているものの、(4色型)色覚と、選択肢の自由がなかったと考えていと思います。有胎盤類の祖先は、恐竜に喰われないよう暗闇の中を10億年ぐらいうろうろしていたわけですから。その間、彼らは複雑な色覚を失うこととなりました。そして色が見えなくなってしまったからには、色に基づく社会的なコミュニケーション手段など一切不要になったので、それらを進化させてこなかったのです。それに加えて、哺乳類の多くは今でも夜行性です。コウモリとネズミが哺乳類の大半を占めていますが、どちらも夜行性ですね。
そうは言いつつも、有胎盤類の中には色覚を獲得したものもいます。ヒトや類人猿などを含む旧世界霊長類です。そこらへんにいるトカゲや、金魚にさえ敵いませんが、3色型色覚を持ち、体色もカラフルです。マンドリルの真っ青な顔はその一例ですし、アフリカのベルベットモンキーの陰嚢も真っ青です。
哺乳類は色を表現手段として選ばなかった
Geoff Hill(オーバーン大学生物学教授)
人は非典型的な哺乳動物です。哺乳類の中で最多の齧歯類は、地下に穴を掘って暮らす夜行性動物です。すなわち、ほとんどの哺乳類は夜行性だということになります。
たとえば、あなたの犬と触れ合う時、愛犬はあなたとはちょっと違った視点でこの世界を認知していると感じることはありませんか? 愛犬はまずあなたの匂いを嗅ぎたがるでしょう。哺乳動物の典型です。ほとんどの哺乳動物は、この世界を視覚ではなく嗅覚によって認知しているのです。なにしろ、哺乳動物のほとんどは人間のようにフルカラーで世界を見ていないのですから。
人間の視覚は3次元です(だからこそプリンターに3色のインクを入れるのです)。犬や、牛や、ほか哺乳類の大多数は2次元で見ていますし、色を私たちと同じようには認識していません(立体視ではありますが)。
これらが意味しているのは、哺乳類は色を表現手段としてあまり使わない、ということです。カラフルな哺乳類もいることはいて、霊長類には存在します。たとえばマンドリルのような類人猿はもっともカラフルな動物の一種でしょう。というわけで、ほとんどの哺乳類は基本的に嗅覚に頼りがちで、人と鳥類は視覚に頼りがちなのです。
そもそもつくりが違う
Innes Cuthill(ブリストル大学行動生態学教授)
クジャクやモルフォ蝶の羽、タマムシの翅などは虹色に光りますが、これは構造色に関係しています。動物の体毛は構造的にシンプル(メラニン色素が詰まった筒状のケラチン)なのに対し、鳥の羽・蝶の羽・そして昆虫の上皮一般は幾重にも層が重なり、とても複雑な構造をしています。後者のような構造でない限り、光と干渉して構造色を作り出せないのです。
ハデな哺乳類もいることはいる
Kevin McGraw(アリゾナ州立大学動物行動学博士号プログラム共同ディレクター兼ライフサイエンス科リサーチプログラムディレクター)
とってもカラフルな哺乳動物もいますよ!
ゴールデンライオンタマリンやレッサーパンダは燃えたつような赤褐色の毛皮をまとっていますし、シロヘラコウモリの顔の皮膚は明るい黄色です。マンドリルなど類人猿の何種かの顔の皮膚は鮮明な赤や青で、極めて凝ったつくりとなっています。さらに、スカンクやシマウマなどの哺乳動物が持つ体毛は、白と黒を対比させた大胆な模様を織りなしています。
とはいえ、確かにほとんどの哺乳動物は主にアーストーンなどの落ち着いた色で構成されています。これは保護色を目的として取り入れられたと考えられており、シマウマなどの場合は敵を混乱させて身を守るため(disruptive coloration)だとも言われています。加えて、哺乳動物が歴史的に色覚に乏しいことも関係しています。
哺乳類だってカラフル
Mark. E. Hauber(イリノイ大学進化学・生態学・行動学教授)
いますよ、明るい色をして独特なパターンを描き出している哺乳動物も。
鮮やかな青・赤・黄をしたマンドリルのオスの顔面部と肛門部から、シマウマの白と黒のストライプ、さらには深いオレンジ色をしたゴールデンライオンタマリンの体毛や、苔むしたような緑色をしたナマケモノの体毛まで、いろいろあります。
体の特定の部位のみが明るい色をしている場合もあります。特に陰嚢(ベルベットモンキーの青、ホエザルの白、ニホンザルの赤)、そして眼ですね。人やハスキー犬ならば明るい青から濃い茶色、ホソロリスならばオレンジから赤といった具合です。
さらに、水生哺乳類も忘れてはなりません。シャチの印象的な白と黒のパターンも、アマゾンカワイルカのピンク色も同様に鮮やかです。
2種類のメラニン色素を駆使して多様な色合いを作り出す
Nina G. Jablonski(ペンシルバニア州立大学人類学教授)
George Chaplin(ペンシルバニア州立大学人類学上級研究員)
まず、哺乳類にも鮮やかな色、特に黄やオレンジの体毛を持つ動物はいます。ブラジルのゴールデンライオンタマリンや、バングラデシュのゴールデンラングールなどがそうです。
ふたつめに、鮮やかな肌の色をした哺乳動物もいます。マンドリルのオスとサバンナモンキー(どちらもアフリカに棲息)、そして中国のキンシコウは鼻と尻が真っ青な肌に覆われています。これらの青色は色素によって作られているものではなく、肌の内部のコラーゲンの束が可視光を分光して作り出す構造色です。このプロセスはレイリー散乱と呼ばれ、空が青く見えるのも同じ原理によるものです。同じ動物たちの尻(マンドリルの場合は鼻も)の肌が赤いのは、肌の表面に近い血管内のヘモグロビンによるもの。メスザルが発情期に入ると赤く膨れる部分も、ヘモグロビンの色です。
さて、体毛に戻りましょう。哺乳類の体毛の色は基本的に2種類のメラニンから作られていて、フェオメラニンは黄や赤、ユーメラニンはとても濃い茶色です。メラニン色素を作り出している哺乳動物の毛包は、その時々に応じて多彩な色の体毛を作り出せるよう、フェオメラニンとユーメラニンの配合を変えています。このような仕組みにより、哺乳動物は鮮やかな黄色から漆黒の間にあるすべての色、また色素が欠如している場合の白、それからグレー・茶色・赤茶色・緑がかった茶色系の色ならば想像しうるすべての色合いを表現できます。しかし、哺乳類は鳥と違ってカロテノイドという色素を含んだ体毛を作ることができません。ショウジョウカンチョウやアカフウキンチョウのような真っ赤な体毛を持つ哺乳動物を見かけないのはこのためです。でも、おもしろいことに、鳥の羽の青も色素ではなく構造色からきているんですね。光が羽の表面にあるコラーゲンの束により分光して、青く見えているんです。
体の色はコミュニケーション手段
Greg Grether(カリフォルニア大学ロサンゼルス校生態学・進化生物学教授)
なぜ哺乳類は地味なのか。それを説明するのに、動物が色をコミュニケーションツールとして使う機会を考えてみましょう。
脊椎動物のなかでも最もカラフルな動物たちは、昼行性(日中に活動する生物)で、優れた色覚を持っています。しかし、哺乳動物のほとんどは夜行性、もしくは薄明活動性(夕暮れか明け方に活動する生物)ですので、色覚を持っていない代わりに匂いや音によるコミュニケーションに頼っています。哺乳類のなかで唯一例外である霊長類も、この仮説とは矛盾しません。すなわち、霊長類は昼行性で優れた色覚を持ち、そのうちいくつかの種は非常にカラフルです。一番引き合いに出されるのはオスのマンドリルの例でしょう。
一方で、カラフルな体を持つ無脊椎動物のうちすべてが色覚を持っているわけではありません。色覚を持たないのにカラフルな体を持つ無脊椎動物は、お互いのコミュニケーションというよりはおそらく色覚を持つ捕食者に対してシグナルを送っているものと考えられます(たとえばハチ類の警告色など)。一般的に昆虫類には色が見えていないと考えられているようですが、これは間違いです。チョウやトンボなどを含め、多くの昆虫類は色を知覚しています。
性選択に関係しているのでは?
Tim Caro(カリフォルニア大学デイビス校魚類野生生物保護生物学名誉教授。動物の体色についての研究に従事)
鳥類や昆虫類に比べると、哺乳類には性的二形性による色の違いがあまり見られません。哺乳類のほとんどの種においてメスとオスの色に違いはありませんし、どちらの体色も発情期に変わらないし、どちらの体色もこれといってきらびやかだったり派手だったりするわけでもありません。
性選択にはふたつのプロセスがあります。同性間選択(ほとんどの場合はオス)は、メスへのアクセス権やメスが必要とする資源を巡って起きます。異性間選択は、メスが好ましいオスを選びとることで起こります。どちらのプロセスも(ほとんどの場合)オスの過剰なまでに派手な体色を促します。
この性選択に関する諸要素を理由に、哺乳類は地味になりがちです。鳥類と違い、哺乳類のほとんどは一夫多妻性で、オスがメスを強制的にハーレムに引き入れるケースも多いため、メスが派手なオスを選ぶ余地がほとんどありません。また、哺乳類のメスのほとんどは懐郷性(出生地周辺で一生を過ごす)であるため、オスを選ぼうにも選択肢が限られています。鳥に比べて哺乳動物の移動範囲は限られていますから、メスがつがい以外の相手と交尾を行う機会も限られています。さらに、鳥類と違って子供の世話をする哺乳類のオスは稀なことから、鳥類のメスにとってオスを選ぶ際の基準のひとつが除外されることにもなります。これらのことから推測すると、哺乳類のオスが華美な体色を得るのは期待されるところではありません。
以上の考察を経て、「なぜ哺乳類は地味なのか」という問いに対して出せる回答は以下のとおりです。可能性その一は、性選択の余地がほとんどないから。また、鳥類には3色、あるいは4色型色覚が備わっているのに対して、哺乳類のほとんどは2色型色覚しか持っていないので、視覚よりも嗅覚と聴覚的な性選択に頼る傾向があるとも考えられます。もうひとつの仮説として、鳥類は昼行性であるのに対して哺乳類のほとんどは夜行性であることも関係しているのではないでしょうか。おそらく、これらの要因すべてが複雑に絡み合っているので、どれがもっとも重要かは検証しがたいものがあります。
哺乳類のほとんどは赤と緑を識別できない
Laszlo Talas(ブリストル大学生物計測学・バイオメトリクス講師)
哺乳動物の体毛の色は、主にユーメラニンとフェオメラニンという2種類の自然な色素の存在によって決まります。ユーメラニンは黒と茶を作り出し、フェオメラニンは黄や赤の体毛を作り出すことができます。従って、哺乳類が鮮やかな緑色や深い青色をした体毛を作り出すのは生化学的に無理だということになります。トラやハヌマンラングールの幼体の明るいオレンジ色の毛色が関の山でしょう。
動物の鮮やかな体色は異性の性的な関心を引くために進化した場合が多く、クジャクの羽などはその最たる例でしょう。しかし、哺乳類のほとんどは赤緑色覚異常、すなわち赤と緑の区別をつけられません。これはほとんどの哺乳類に関して言えることですが、私たち旧世界霊長類と新世界霊長類のうちいくつかの種だけは例外です。ですから、ほとんどの哺乳類にとって、いかに鮮やかで美しい体色を持っていようが、添い遂げる伴侶を探すために有利には働きません。
もうひとつの要素はカムフラージュです。茶色やグレー色の毛皮はほとんどの場所において保護色となるようです。哺乳類の多くは冬の間に毛皮を白色に変えることで、雪の中で身を隠すのに役立てます。多くの場合、捕食される側の生物も色覚異常を持っています。ですから、森の陰に潜んでいるトラの黄色と黒の毛皮は人間の目にはあからさまに見えるかもしれませんが、トラに狙われているシカの目からトラを見つけ出すことは容易ではありません。
旧世界霊長類は突然変異により3つめの視覚色素を得た
Almut Kelber(ルンド大学機能生物学教授)
例外はあります。例えばアフリカに棲むマンドリルについて、ダーウィンは「マンドリルのオスの成体ほど鮮やかに発色している様態は、哺乳類全体を見渡しても他に追随する動物はいない」と述べています。マンドリルの赤と青に彩られた顔が、ふたつの答えを提示しています。
ひとつは、鮮やかな体色が同種間におけるコミュニケーション手段として使われていることです。哺乳動物のほとんどは視覚的ではなく化学的、あるいは聴覚的なシグナルを使ってつがいとなる相手を探したり、自分のなわばりを主張したりします。ですから、哺乳類にとって鮮やかな体色はさほど必要性がないのです。では、マンドリルはなぜ違うのでしょうか?
主な理由は、旧世界霊長類(それと新世界霊長類に分類されるいくつかのホエザルの種)がほかの哺乳類とは違った、むしろ鳥類に近い色覚を持っているからです。鳥類(とトカゲ類、ワニ類と多くの魚類)には4つの視覚色素を基にした非常に高度な色覚が備わっているため、人間よりも多くの色を見分けることができます。哺乳類の多くは視覚色素を2つしか持っておらず、この世界で見える色が限られていますから、色が付いているものも知覚することができません。旧世界霊長類(ここに人間も含まれます)はもとは2つしかなかった視覚色素のひとつが突然変異により複製され、視覚色素が増えて3つになりました。そのおかげで、世界がよりカラフルなものとなったのです──もっとも、鳥類にはもうひとつ、紫外色を見分けられる視覚色素が備わっているので、私たちよりもはるかにカラフルな世界を見ることができるのですが。
では、なぜ多くの哺乳類にはふたつしか視覚色素を持ち合わせていないのでしょう? これが3つめの答えの鍵です。鳥類と違い、哺乳類の祖先は恐竜が君臨した時代を主に夜行性、そして多くの場合地下生物として生き延びました。ですから、彼らの眼は夜でもよく見えるように進化し、代償として明るい光の中で明るい色を見る能力を手放したのです。これら初期の哺乳類がもしカラフルな体の色をしていたとしたら、それも地下生活の中で失ったでしょう。見えない、見られないのなら、もはや必要がないからです。鮮やかな色を作り出すことは多くのエネルギーを費やすことでもあるので、必要がなければ失うのも早いのです。
ちなみに、昆虫の多くが鮮やかな色をしているのは、求愛のためではなく捕食者に向けてメッセージを送っているためです。虫は鳥に捕食されることが多いので、鳥に「おいしくないよ」、または「毒を持ってるよ」と訴えかけたり、もしくはそのような不味くて毒を持った虫をマネすることで食べられないようにしているんですね。
話を哺乳類に戻しましょう。なぜ彼らは地味な色をしているのか。これまでのことを踏まえると、私たち哺乳類はメラニン色素を使って茶、黒と赤褐色を作り出すことはできるものの、もっとカラフルな色素やもっと高度なメカニズムを用いてチョウ・甲虫・鳥類に見られる緑色、青色、紫色などの構造色を作り出すことはできないということに尽きます。しかし、マンドリルの例を見るかぎりでは、3,000万年もかからない間に視覚を進化させることは可能のようです。
派手な体色よりカムフラージュが大事
Matthew Shawkey(ゲント大学生物学教授)
マンドリルの顔と尻のように、哺乳類のうちごく少数は鮮やかな色をしています。しかし、そのような鮮やかな肌の色は稀で、私が把握しているなかで鮮やかな体毛と呼べるような例はキンモグラ科に見る玉虫色の光沢ぐらいです。
では、哺乳類に鮮やかな色をあまり見ないのはなぜなのか? 機構的な視点から見ると、色を作り出す手段をあまり持ち合わせていないからです。哺乳動物が使う唯一の色素はメラニンで、黒・茶・グレーの色合いなら作り出せます。しかし、カロテノイドなどの色素を欠如しているため、鮮やかな赤や黄を作り出すことはできません。
色素を使う以外にも、鳥類や昆虫類は構造色と呼ばれるものを作り出すことができます。これは羽や上皮に組み込まれたナノ構造体が光と干渉して、ハチドリのキラキラ光る羽のように自然界においてもっとも鮮やかな色彩を作り出すことができる仕組みなのですが、哺乳類ではほとんど例を見ません。哺乳類の体毛にまつわる化学、形態学、または進化のパターンが、構造色を作り出すために必要なナノ構造体を不可能にしているのかもしれません。また、進化論的な観点からは、恐竜の影に怯えていた哺乳類の祖先が夜行性となり、異性に魅力的に映るよりもカムフラージュで身を隠すことのほうが生存にとって大事だったとも考えられます。
Reference: Nature Asia, 日経サイエンス, National Geographic, THE PAGE