NASAがアルテミス計画の一環として月に送る探査機の着陸地点に選んだのは、南極に近いインパクトクレーターの端という興味深い場所でした。
NASAは先日、月探査機VIPER(揮発性物質調査極探査車)の着陸地点をノビルクレーターの西端に決定したと発表。このクレーターは南極付近にあって非常に寒くて暗い影の多い場所なため、氷状の水を保持できたとされています。VIPERは2023年11月に予定されている月での100日間のミッションの間、この地域の凍てつく寒さに耐えなくてはなりません。
今後のアルテミス計画などに役立つ情報が得られる
月の南極地方は太陽系の中でも特に寒さの厳しいところです。これまでにこの地点への着陸を試みた宇宙機関はなく、研究は離れたところから行なうのみでした。南極地方には意味を持つほどの量の水氷が永久影(コールドトラップ)内に隠れて存在していると示唆する証拠があります。NASAはVIPERをノビルクレーターに送って、月表面と地表下の両方において氷や他の資源の痕跡を明らかにしたいと考えています。
NASA本部の科学局のThomas Zurbuchen副局長は声明文の中で、
VIPERが送ってくるデータは、月を研究する世界中の科学者に月の宇宙起源や進化、歴史へのより詳しい洞察をもたらし、これまで未探査だった何十万マイルも離れた領域における月の環境への理解を深められるので、今後のアルテミス計画などにとっても役立つ情報になる。
と語っていました。
NASAには包括的なリソースマップを作成して、似たような資源がありそうな月上の場所を予測できるようにしたいという展望があります。この情報は今後の有人月面ミッションに役立つとともに、月上での長期的な駐留を築くというNASAのゴールを促進するでしょう。開発費4億3350ドル(約470億円)のVIPERミッションは、将来的な月面での採掘のための準備も兼ねるかもしれません。
VIPERってどんな探査機?
VIPERはSpaceX社のFalcon Heavy(ファルコンヘビー)ロケットで打ち上げられ、Astrobotic(アストロボティック)のGriffin(グリフィン)着陸船で月面に届けられる予定。探査機の高さは2.5mで、ミッションを通して約16~24kmを移動すると見られていて、およそ93平方kmに及ぶ区域を探査することになります。
ノビルクレーターの地形は到達しやすく、その周りは小さめの永久影など科学探査にふさわしい地点の宝庫。月探査機として初搭載のヘッドライトを調査に活用できそうです。VIPERは四輪ローバーで、月面の非常に軟らかい砂でさえも移動できる高度なサスペンションシステムも搭載。また、科学的な取り組みのために複数の分光計システムやハンマードリルを備えています。
この山の多い地域には恒久的に日陰となっている場所が多いですが、太陽が当たる地点もあります。VIPERは充電と保温のためにソーラーパネルを用いるので日当たりのいいところはこのミッションにおいてきわめて重要。それもまたノビルクレーターを選んだ要素のひとつとなっています。
VIPERには自由時間もあるって!
NASAによると現時点での計画ではVIPERは科学的に興味深い地点を少なくとも6つ訪れ、さらに「自由時間」もあるとのこと。サンプル採取は深度と温度の異なる少なくとも3つの掘削地点で行われる予定。このミッションによって、月がどのように氷上の水や他の資源を得たのか、それらが長年どう貯蔵されてきたのか、そしてどの程度が宇宙へと逃れたのかという知見を得られるかもしれません。