AIが無限に生成するメロディー、その出会いもまた運命。作曲家とAIの共創について、tofubeatsら音楽クリエイターが語る

  • author ヤマダユウス型
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AIが無限に生成するメロディー、その出会いもまた運命。作曲家とAIの共創について、tofubeatsら音楽クリエイターが語る
Photo: Sony

AIが、セレンディピティをもたらす。いとエモし。

2021年9月23日〜26日まで、「UNLOCK with Sony」なるオンラインイベントが開催されました。ソニーが実施しているこのイベントは、クリエイターと考えるエンタメの未来がテーマ。様々なゲストを招きつつ、音楽、映画、バーチャルなど、あらゆるエンタメの未来を突っついていきます。

初日である23日のテーマは、作曲家とAIの共創。先日ソニーがリリースした人工知能作曲アプリ「Flow Machines」を軸に、音楽プロデューサーのtofubeatsさん、ボカロPとして活躍されているSohbanaさん、音楽ユニット「ふたりごと」のコンポーザーである三浦良明さんら3人が、AIと音楽の未来を語りました。

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Image: Flow Machines

「Flow Machines」、僕も使ってみたんですけど、これかなり実践的です。コードを指定すると自動でメロディーを生成してくれるのですが、ちゃんと使えるメロディーを出してくれるんですよ。こうしたAIは、プロの作り手からはどう見えるのか。イベントの内容をレポート形式でお届けします。

まさかAIが自分に関わってくるとは

Video: Sony - Stories / YouTube

「Flow Machines」を試したお三方に共通していたのが、「AIが自分に関わってくるとは思わなかった」といった感想。Sohbanaさんは「ニュースなどで見かけるAIが、自分が音楽に関わっているうちに手元にやってくるとは驚いた」と述べていました。

音楽とAIの関わりは深く、AIによる作曲即興演奏マスタリング、そして演奏者らしさの再現など、様々な試みがなされてきました。でも、いざ音楽を作る現場でどれほどAIが活用されているのかは、アーティストやコンポーザー次第。むしろこうした最新テックを製作に用いること自体が、新しい表現ともいえます。

では「Flow Machines」によるメロディー生成は、どういった時に役立つのか。tofubeatsさんは

煮詰まったところに、良い意味で機械的にアイデアを流し込んでくれる。普段の自分から出ない手札が出てくるし、凝り固まった考えを破壊してくれるのに役立つ。

と述べていました。AIが提案するメロディーが、作曲者にとってのひらめき(セレンディピティ)になりうるわけですね。

また、三浦さんは

曲作りのきっかけはもちろん、アレンジの段階でも第三者的な提案が来るのはありがたい。

とも。メロディーを生成してくれるからといって、メロディーに応用する必要はない。これもまた、自分にはないひらめきから誘引される部分ではないでしょうか。

実際にどういった場面でAIが使えたのか

イベントでは、Sohbanaさんと三浦さんが「Flow Machines」を活用した音楽を披露していました。それぞれどういった場面で「Flow Machines」を使ったのか、見ていきましょう。

Sohbanaさんはボカロ曲を製作(動画49:55頃)。曲冒頭から裏で鳴っている細かいピロピロした音や、バッキングの補強に「Flow Machines」のメロディーを活用。細かい音は、例えばコード進行に沿ったアルペジオにしてしまうと平坦に聞こえるので、そこのアイデア出しに活用されたのでしょう。また、「Flow Machines」でのBPM設定を原曲の倍にすることで、より複雑にしているとも。なるほど、倍テン作戦!

三浦さんは女性ボーカル曲を製作(動画53:00頃)。間奏でオクターブ鳴っているシンセの旋律と、メロからサビ終わりまで裏で鳴っているシンセのオブリガート(カウンターメロディ、メロディを引き立てるためのフレーズ)に「Flow Machines」を使ったとのこと。なんとプリセットをそのまま使ってるそうで、プリセットだけでも十分なアレンジ力があることを実感できます。

両者共通して、主旋律であるボーカルではなくその周囲のフレーズに「Flow Machines」を活用しているのは興味深いですね。実際、主旋律は自分なりの歌い上げるフレーズが出るけど、その周りの賑やかしの音で悩む人も多いと思うんですよね(実体験)。そこの悩ましいところを、AIがヒントとなって曲作りに活用できている事例だと思います。

tofubeatsさん「メロディー千本ノック状態」

tofubeatsさん
Photo: Sony

自分が作ったワークエリアには自分が作ったものしかないけど、AIはそこに新しいものを、しかも30秒スパンであげてくれる。

と、tofubeatsさん。音楽に限りませんが、ものづくりをしていると自分の中から出てくる発想が凝り固まってしまい、それを打破するために気分転換なりインプットなりを要すのが常ですが、そうした外部的要素をAIが与えてくれる。まさに、AIと人間の共創と言えるのではないでしょうか。

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イベント内で、tofubeatsさんが実際にタブレット上で「Flow Machine」を使用しているシーン

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イベント内で、tofubeatsさんが実際にタブレット上で「Flow Machine」を使用しているシーン


「Flow Machines」は設定によって音の長さや複雑さ、コードにどれだけ従うかなどを調整できます。調整をしたうえで何度も再生するたびに新しいメロディーが生成されるので、かなり無限みがあるんですよ。なので、どこかしらで「お、今の音の飛び方良いな」と思えれば、これぞセレンディピティ・フロムAIなのでは?

tofubeatsさんはそれを「メロディー千本ノック状態」と、あまりにも正しく称していましたが、作曲者はノックを見守る監督となり、良い打線を見かけたらそれをきっかけに作戦を立ててゆく。こんなフローがあれば、作曲時の煮詰まった時も早く脱出できるかもしれませんね。

また、tofubeatsさんはこうも述べていました。

流れてきたフレーズに「コレ良いな」と感じる運命や感触は、アウトプットされる曲にも影響があると思う。テクノロジーや未知のものに触れたことが、作ってる人間に影響が与えるのは面白い。

これこそ、AIと人間が共創することの奥義だと思います。AIの存在が人の思考に変化をもたらし、創作物として時代に遺されていく。AIはあくまでもプラグインであり、「Flow Machines」は作曲者の思考に刺激を与える新しい指向性のツールである。なるほど、そう思うと俄然使いやすく見えてきましたよ。

Source: UNLOCK with Sony