スタンフォード大学が枝に着地できるロボットを開発。遭難や災害時に活躍しそう

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  • author George Dvorsky - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
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スタンフォード大学が枝に着地できるロボットを開発。遭難や災害時に活躍しそう
GIF: Stanford University via Gizmodo US|インコとSNAGロボットの着地を比較

自然から学んだら、こうなりました。

鳥のように枝に止まれる飛行ロボットを開発できたら、狭くて入り組んだ場所でも着地できますし、羽を休めた分だけ長時間稼働が可能になりますよね。

スタンフォード大学が開発したハヤブサの趾(あしゆび)を模して作られた「SNAG」はまさにそれ。枝に止まれるだけじゃなくて、空中でお手玉やボールをキャッチできちゃうそうです。まだ改良の余地があるそうですが、ゆくゆくは捜索・救難活動、山火事や火山活動のモニタリング、環境調査などにおいて大活躍してくれそうです。

インコの研究がヒントに

空飛ぶロボットはこれまでにもたくさん開発されてきましたが、着地が大きな課題でした。

鳥はあらゆる複雑な形状の表面に着地して、そこから飛び立つことができます。しかし、今日の飛行ロボットにはそのような不規則な形状の物体をつかむ動力学的な能力が限られています。

とスタンフォード大学の研究者たちは新しく発表された論文の冒頭で述べています。

鳥は枝や電線、時には垂直の崖や幹にも造作なく止まれます。しかも、岩のようにゴツゴツしていようが、欄干のようにツルツルしていようが、鳥はどんな場所に着地するのにも決まった動作を繰り返しているそうなんですね。だからこの一連の動作を模倣すれば、ロボットも枝に止まれるようになる! というのがスタンフォード大学のロボット研究家・William Roderickさんの仮説だったのですが、実際ロボットに同じことができるようになるまでには何年もかかったとプレスリリースで説明しています。

Roderickさんはバイオミメティクス(生物の機能を模倣する技術)専門家のMark Cutkosky教授と、飛行ロボット研究家のDavid Lentink教授のラボでインコの飛行と着地について長年研究を重ねた後に、試行錯誤を経てついに「動力学的に複雑な形状の表面に着地したり、不規則な形状の物体をつかめる生体模倣ロボット」を作り上げました。

Video: Stanford/YouTube

それがこちらの「SNAG(Stereotyped Nature-inspired Aerial Grasper)」です。直訳すると「空中で物をつかめる自然模倣的ステレオタイプロボット」。SNAGの上にドローンを装着すれば、空を自在に飛び回れて、枝にも止まれる鳥のような飛行ロボットの完成です。見ためは、ちょっとアレですけど…。

猛禽類のツメで枝をホールド

ゴリゴリのドローンに鳥の趾が生えたやつ。
Photo: William Roderick via Gizmodo US

SNAGの開発はインコの飛翔にヒントを得ていますが、実際のプロトタイプは強靭な趾を持つハヤブサを模倣しています。それぞれの趾には前後の動きに対応するモーターがついているほか、つかむ動作に対応するモーターもついているそうです。

軽量化されているのもポイントで、「骨」の部分は3Dプリンターで印刷されたプラスチックでできています。「筋肉」はモーター、さらにそれらをつなぐ「腱」は釣り糸で構成され、自重の10倍の重さまで運べるとか!

着地のメカニズム

着地に至る一連の動作はなかなか複雑です。

まず、SNAGの腰部分に取り付けられているサーボモーターが、枝に止まる寸前に趾を適正な位置に誘導します。そのまま趾が枝とコンタクトし、着地。着地時の衝撃は足首に回された釣り糸(=腱)によって受動的に吸収され、つかむエネルギーへと変換されるそうです。ここまでの一連の動作にかかる時間はたったの20ミリ秒

さらに、ツメがガッチリと枝をつかんだら、足首がロックされると同時に右足の加速度計が着地を察知し、バランスを保つためのアルゴリズムを発動させることで重心を前に回転させるそうです。

このアルゴリズムのタイミングが非常に難しかったそうで、論文著者たちによれば

バランスアルゴリズムのトリガーが早すぎると足が完全にたたまれる前に固定されてしまうし、遅すぎると衝撃のエネルギーをうまく吸収しきれず、本体がダメージを受ける可能性が高まってしまう

そうです。このふたつの間を取った絶妙なタイミングが必要とされているんですね。さらに、

このタイミングの絶妙さは、すなわち鳥や動物の足の筋肉、そしてそれらを支える腱の動きにも同じように重要なのかもしれません

とも書いています。

SNAGのテスト飛行はラボ内ではもちろん、オレゴン州内の広大な自然の中でも行なわれました。さらに、空中でテニスボールやトウモロコシの粒が入ったお手玉をキャッチする実験も行なわれたそうです。

自然から学ぶことは、自然を学ぶことでもある

結果、SNAGがあまりにも精度の高いパフォーマンスを発揮してくれたので、研究はすでに次のステップに進みつつあるとか。今後は着地前の状況認識の改善や、フライトコントロールに注力していくそうです。

ゆくゆくはSNAGを使って野生動物をモニタリングしたり、山間で遭難した人々を捜索したり、広範囲における環境調査を行なえるのでは、との期待が高まっています。

さらに、鳥を模倣したロボットを作り上げることは、対象となった自然界の生物をよりよく知る試みでもある、とRoderickさん。なんでもRoderickさんはご両親ともが生物学者の家系に生まれたそうで、その影響もあってか

SNAGを開発した動機のひとつに、自然界を観察するためのツールを作りたいという思いがあった。

と説明しています。

鳥のように空を飛べて、枝に止まれるロボットを作れば、環境について調査するまったく新しい方法を手に入れることになるのではないか、と思ったのです。

とも。そして、その言葉どおりSNAGはすでにオレゴン州内の森林の微気候解析に使われているそうです。

もうひとつ、鳥の着地のメカニズムそのものに関しても新しい発見が。枝に止まることに関して言えば、趾の形態の違いはさほどパフォーマンスに影響しないことがわかったそうです。ということは、「枝に止まる」という行為そのものは、樹上生活をする鳥にとって進化の選択圧ではないのかも?

鳥型ロボットの研究が、ひるがえって鳥の趾の進化を探るヒントとなり得るかもしれません。

Reference: Science Robotics, Stanford University