2人の冒険家が過酷な環境下で南極の「到達不能極」を目指す旅は、有人宇宙探査への足がかり

  • author Isaac Schultz - Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
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2人の冒険家が過酷な環境下で南極の「到達不能極」を目指す旅は、有人宇宙探査への足がかり
Image: Chasing the Light

月や火星のような過酷な環境における活動で、人間にどのような心理的・生理的影響があるのかを調べるために、米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)の主導で冒険家2人が「南到達不能極」と呼ばれる、南極で海からもっとも離れている地点への旅を始めてから約1カ月半がたちました。

ジャスティン・パックショー氏とジェイミー・フェイサー・チャイルズ氏は、この南極横断プロジェクト「Chasing the Light」で過酷な環境に身を投じています。現在、南極は夏とはいえ、気温は氷点下ですし、時速160キロ(秒速44メートル)の風が吹き荒れることもあるんだそうです。エンゼルスの大谷投手の速球並みじゃないですか。

もっともアクセスしにくい南到達不能極への過酷な旅

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Image: Chasing the Light

当初の予定では、南到達不能極までの1,770キロ、そこから南極点までの900キロ、さらにヘラクレス海峡までの1,290キロ、そして南極半島の付け根にあるユニオン氷河までの200キロの合計約4,200キロの旅になるはずだったのですが(日本を縦断するより長い)、その後変更されたようで、現時点ではまず南極点を目指してから南到達不能極を経て、スタート地点のノボラザレフスカヤ基地に戻るようです(地図参照)。記事作成時点(12月24日)では、1,414キロ地点まで旅が進んでいます。

あまり耳慣れない「到達不能極」は、大陸ならすべての方向の海からもっとも離れた地点海ならすべての大陸からもっとも離れた地点を指し、それぞれの大陸にひとつずつ、海にひとつ存在します(陸地の場合、もっとも内陸にあるというわけではないそうです)。BBCによると、パックショー氏とチャイルズ氏はスキーと風の力を借りながら、それぞれ約200キロのソリを引っ張っているのだとか。常に追い風だったらいいけど、向かい風の中で200キロを引っ張るとかちょっと想像できない…。

月や火星での有人探査を念頭に過酷な環境への人体の反応を調査

NASA、ESA、そしてスタンフォード大学は、2人の唾液、血液、尿、便などのサンプルから、極限状態に対応する人体のデータを集めているそうです。また、Daily Mailによると、視覚のデータをとって環境に対する認識も調査しているとのこと。

なぜ視覚認識を調べているのかというと、1971年の月面調査で、15メートルしか離れていない場所にあるクレーターを宇宙飛行士が遠いと判断してチェックしなかったらしくて、なんでそんなことになっちゃったのかを理解するのに役立つと考えているようです。NASAの科学者は、この理由について月面環境での被写界深度が宇宙飛行士を混乱させたんじゃないかと話しています。

不毛の大陸である南極は、月や火星における有人探査の実験場にピッタリなんでしょうね。2020年代中頃から後半にかけて月面探査が計画されていることもあって、今回のプロジェクトはグッドタイミングだったようです。

プロジェクトは2月までに終了する予定とのこと。とにかく参加している人たちが全員無事に帰ってきてくれることを願っています。