土の中に眠る遺跡にまでも気候変動の影響が忍び寄る。
イギリスには数万もの遺跡が存在しますが、ローマ帝国時代や、さらに古くて4000年以上前に遡るものもあるそう。
しかし、その多くが危険に晒されている可能性があります。英国全土の泥炭地には2万2500もの古代遺跡があると推定されており、それらが気候変動によって破壊されるかもしれないとBBCが報じました。こういった歴史的遺物を発掘したり新たな保全方法を探したりするのは何年もかかるかもしれませんが、もっとも脆い遺跡を救える頃にはもう手遅れかもしれないのです。
普通ではない、英国の泥炭地
ローマ帝国時代のハドリアヌスの長城沿いにある砦の主任考古学者を務めるAndrew Birley氏は、過去への扉を失いかねないと懸念していると語っていました。古代の遺物は、ただでさえ非常に珍しいですからね。
Birley氏はBBCの記事で「こういった類の物は普通は存在し続けない」と述べています。そのため、「2000年近く前の北部国境地方での生活が本当はどんなものであったか素晴らしい洞察をもたらしてくれます」とのこと。
英国の泥炭地は数千年にわたってあらゆる宝物を維持してきたのです。BBCが紹介していた発掘品のなかにはローマ時代のトイレ便座、世界最古のボクシング・グローブ、女性が綴った手書きの手紙がありました。英国の泥炭地は水分を多く含む生態系で酸素をあまり保持しないため、布地、皮革といった有機物、さらには人間の遺体までも腐敗から防いでくれます。考古学的な遺跡をその時代に閉じ込めておく自然のバリアとして機能するのです(泥炭地は素晴らしい二酸化炭素吸収源でもあります)。
温暖化で乾燥してしまう
しかしイギリスも、地上の他の地域と同様に温暖化が進んでいます。温暖化によって泥炭地が乾燥していき、英国の古代の宝物が危機に晒されているのです。イギリス気象庁によれば、2000年代は少なくとも過去300年間のどの時代よりも暑かったとのこと。それは昨年、気象局が史上初の猛暑警報を発令したことでも浮き彫りとなりました。気温は近い将来も上がり続けるだろうと予測されていることから、気象局は6月に、全国向けの悪天候警報において新たに猛暑の警報も始めました。
気温がますます熱くなり定期的な降雨が減っていていくなかで泥炭地の水分を多く含む土壌が干上がっていくと、土壌の中にもっと酸素が入り込んでしまいます。一度そうなれば、有機物はすぐさま腐敗して、その過程にある歴史を消し去ってしまうのです。
考古学的な遺跡に影響を及ぼしている気候変動は干乾びた泥炭地だけでありません。2018年7月に起きた熱波によって、ウェールズの複数の野原はで数世紀前の集落が現れました。それによって古代の歴史に光が照らされた話と、上昇する気温の泥炭地への影響はまったく別の話題であって、こういった遺跡が長い間保全されていた後に消失してしまうかもしれないというのは憂慮すべき事態です。
Source: English Heritage(1, 2), BBC, British Museum, Met Office(1, 2), NY times, AGU's Eos,