テック産業とコンテンツ産業が目指す未来を考える。
最近は国内における製造業の空洞化がよく話題になりますが、半導体産業は海外から新しく工場を誘致するなど、ちょっと面白い動きが目立ちます。もともとテクノロジー産業は日本のお家芸でありますが、今後の社会ではテック系企業もコンテンツ産業と密接な連携が求められるわけで、クリエイターを意識した視点は欠かせなくなってくるでしょう。
半導体のトップランナーであるインテルも、コンテンツ産業に対する目配せは怠りありません。若きクリエイターを支援し、その発想を汲んだ製品開発を積極的に行なうべく、さまざまな施作を進めています。
そこで今回は、同社の日本法人で第二技術本部部長を務めながら、若手クリエイター支援プロジェクト「インテル® Blue Carpet Project」を主導する立場にある安生健一朗さんをお招きし、テック産業とコンテンツ産業が共に目指すべき持続可能な未来を、ギズモード・ジャパン編集長の尾田と話し合っていただきました。
半導体メーカーというとガチガチに堅そうなイメージですが、安生さんはハードロックバンドのベーシストでもある生粋のロックファン。そのせいかクリエイターの心情もちゃんと理解されており、とても興味深いお話が聞けました。
クリエイターとテクノロジーの密接な関係を構築すべく、次世代のクリエイターをサポートするためにインテルが主導するプロジェクト。学生や若手クリエイターに対してハードウェア提供やワークショップ開催、メディア露出のサポートなど、複数企業が参加してさまざまな支援を行なっている。
日本の技術がなければ半導体産業は成り立たない
ギズモード・ジャパン編集長 尾田(以下、尾田):世の中がスマート化していくにあたって、ハードウェアよりもソフトウェアが重視される傾向にあるわけですが、そのソフトもプロセッサーがなければ成立しません。半導体の開発には未来を見据えた長期的な戦略があって、日本の半導体産業はその戦略を考えつつ、ロードマップに基づいて計画的に事業を進めている印象を受けます。
安生健一朗さん(以下、安生):日本の製造業はどんどん海外に移転しているって報道されていますし、半導体も海外に水を開けられているというイメージがあるかもしれませんが、実はむしろ日本の得意分野を見出すきっかけになっているのではないかと思います。
たとえば半導体の基板として使われているシリコンウエハーの製造は、今でも日本の企業が大きなシェアを占めています。その基板に回路を焼き付ける露光装置は、日本のカメラメーカーが培ってきたレンズ技術の応用です。ウエハーの研磨技術に関しても日本はトップレベルです。このように、日本の技術がないと世界の半導体産業は成り立たない、というのは事実だと思います。
半導体産業は巨額な投資が必要ですし、大きな労働需要も生み出す。ちゃんと推進するには国策レベルの大規模な対応も必要です。どこの工場で作り、どうやって効率的に物流を構築するか。そうした戦略的なヴィジョンを持つことが、持続可能な産業を目指すためにも必要ですね。
尾田:そのなかでインテルという企業の役回りをどのように捉えていますか?
安生:私はインテルに入社して15年ほど経ちますが、そこで経験してきたことを考えると、かなりユニークな企業だなって感じています。ひたすらシェア拡大を目指すというよりは、業界全体で連携を組んで新しい未来を切り開いていく存在とでも言いましょうか。たとえば、半導体やプロセッサーだけ作っていても、それだけじゃユーザー体験につながらないわけですよ。プロセッサーを動かすには必ずソフトが必要で、そのためにはソフトを開発する仲間が必要です。だからいろいろな会社とタッグを組んでいくというのは、インテルにとって必然といえます。
尾田:日本の産業がものづくりからコンテンツにシフトしようとしていく中で、今後の製造業を活気づけていくためのヴィジョンをどう考えていますか?
安生:それにはインテルが一メーカーとして動くのではなく、エレクトロニクス業界全体で舵を切っていく必要があると思います。私の意見としては、SDGs的な動きとして最も重視しているのは、やはり若い人たちに向けて積極的にアプローチして、コンテンツやモノを生み出すことの魅力を発信していくことですね、とにかく人ありきですよ。新しいモノやコンテンツが生みだされる社会であって欲しいですし、そういう社会だからこそ個々が輝けるのかなと思います。
PCのあり方を変えそうなプロダクトたち
尾田:今後の社会の動きを見据えて、安生さんが考える未来のPCの理想型ってどんなものでしょうか?
安生:もっと人に寄り添った相棒的なイメージですよね。そうした意味でインテルが手がけている「インテル® Evo™ プラットフォーム」は、そのきっかけになれるかもしれないと思っています。インテル® Evo™ プラットフォームはディスプレイやオーディオなど、さまざまなジャンルのメーカーを巻き込みながら一緒に開発していった経緯があるんです。単なるブランドアクティヴィティだけじゃなくて、どうやってテクノロジーを発展させていったかという流れがユニークかもしれません。
尾田:インテル® Evo™ プラットフォームに関しては、今までのPCにはない独自性を感じますね。実際にギズモードのスタッフや、仲間のクリエイターが触って映像編集などに使っても、かなりユニークだって意見が目立ちますね。
安生:インテル® Evo™ プラットフォームはユーザーに新たな使い方を発見してもらうツールになり得るのではないかと思っています。アクティブなユーザーが、必要とされている性能を超えた体験ができるPCを使ったらどんなことが生まれるのか? まさに楽しみでしかありません。
尾田:こういったデバイスを触ることで「誰もが挑戦できる」という価値観が浸透するきっかけにもなると思います。またユーザーの可能性を広げるにあたって性能面で"時代のニーズ"に応えることも重要だと思いますが、インテル® Evo™ プラットフォームではどのように意識されているのでしょうか?
安生:最近のPCだと、特に放熱設計が特にホットなトピックスです。カッコいい筐体でかついい性能を出すためには、いろいろな工夫が必要なのですが、放熱を頑張りつつ、CPUもできるだけ高い性能がでるような設定にする、などの工夫が盛り込まれたりしています。しかもファンがうるさくなり過ぎないこと、という条件付きで。
尾田:多くの人が使うプラットフォームだからこそ、ユーザビリティはより重要になってきますよね。今後ユーザーに使われ続けるPCを作るにあたって、最も重要なことは何だと考えていますか?
安生:すごく大事な観点になってくると思うのですが、やはりユーザーがどう使うのかを意識しながら、デザインやモノづくりを行なうこと。これが今後の大きな視点の転換であり、この流れにうまく乗れたデバイスが今後持続的に使われ続けていくんだろうなと感じています。エンジニアリング的なこだわりを重視してきた製造業からしてみると、非常に難しい発想の転換なのかもしれませんが、今まさにそれが求められているのだと思っています。
尾田:デザイナーとエンジニア、それぞれの要求をどうやってうまくつなげるかって、日本の製造業の課題ですね。一方でどこで着地するかが醍醐味だという話も聞きます。
大事なのは「相手を否定しない」こと
尾田:インテルという企業を側から見ていて感じるのは、組織が縦社会の構造ではなく、もっとメッシュ的な組織になっているということです。ある意味でクリエイター集団に近いかも。
安生:確かにそういう要素はあるかもしれません。日本のクリエイティブ産業を見ていると、もっと職業化されないといけないと感じるんですよね。
たとえば優れたセンスの作品を作っている学生が、そのジャンルじゃ食えないからと普通の企業に就職してクリエイターを諦めてしまうということが、今でも多々あるという話も聞きます。そういう人がキャリアを積んで再チャレンジするとか、さまざまな方向から勇気づけてサポートする活動も、企業としてやっていくべきじゃないかと思っていますね。
尾田:安生さんは大学などで学生に講義する機会も多いですが、そういうときに積極的に伝えているテーマってありますか?
安生:最も重要なのは、人の話をちゃんと聞いて、相手の意見を否定しないこと。学生同士で自由にディスカッションしてもらったりしますが、会話の進め方ひとつで生み出せるものが大きく変わってきます。
相手の意見を受け入れながら、その上で新しい発想をお互いに組み立てていく。そういうディスカッションは海外の大学やシリコンバレーで日常的に行なわれている訓練だと思うんですが、同じことは日本でもできますよね。お互いの意見や異なるバックグラウンドを尊重しながらどんどん積み上げてアイディアを膨らませる風土をもっと盛り上げていくことが重要だし、そうした訓練が持続可能な産業を育んでいくのかなって感じています。
尾田:音楽、映像、アートにしろ、どんなに高性能なPCを使ったとしても、作品のクオリティは最終的にクリエイターの資質に負うところが大きい。PCもソフトも大きくクオリティが上がりましたが、やはり使う人の技量がどうしても作品に反映されます。
安生:それはハードウェアの開発でも同じです。いくら優れたプロセッサーを積んだPCも、どんなプログラムを書いて動かすかによって、宝物にもガラクタにもなりえます。
だから若い開発者たちには、単に優れたツールを手に入れて満足するだけでなく、自分でそのツールをどう使うかって考えるときの、わくわくするような感覚をもっと伝えたいですよね。
新しいものに接したときの好奇心って大事ですよ。私も若いころは研究でコンピュータを作っては、次はこうすればもっと上手くいくとか、いろいろ試行錯誤しながら少しずつ身体で覚えていったものです。与えられるものだけではつまらない。
尾田:そういう意味では、クリエイターも半導体やハードウェアに関して詳細な知識とまではいかなくても、おおよそのメリットや将来の方向性については知っていたほうがいいのかもしれませんね。
安生:そうですね。逆に今までのハードウェアエンジニアは、クリエイターがすごく遠い存在で理解しきれていなかったのかも。人々がどうやってハードを使いこなすのかを、ちゃんとイメージして作らないと製品として意味がないんです。
エンジニアが考える新たな技術というのは、既存のAとBを足して新しいCにする。つまりすでに存在するアイデアの組み合わせで新しいものを生み出すのが基本なんですが、それはクリエイターの発想にも通じていると思います。私は、こういった思考の積み重ねが社会として新しいものを生み出していく力の源泉になると信じています。インテルが推進しているBlue Carpet Projectも、そういった思考や発想を生み出す一環になればいいなって思っています
Source: インテル