ダラスに1,000年に一度の豪雨と洪水。MacBookは水に浮き、枯れた水路に水が戻った

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ダラスに1,000年に一度の豪雨と洪水。MacBookは水に浮き、枯れた水路に水が戻った
Photo: Kenji P. Miyajima

降ってくれとは言ったけど、こんなに降れとは言ってない。

深刻な干ばつは大洪水で終わる」と言われているんですけど、まさにその通りのことが、ここテキサス州ダラスで起こってしまいました。1,000年に一度レベルの大雨と洪水が、数カ月続いていた熱波と干ばつをいったん終わらせることになりました。ハッピーエンディングならず。

67日降水量ゼロから記録的な豪雨と洪水

6月3日を最後に、67日間ダラスには雨が降りませんでした。8月に入ってから、10日と17日にサンダーストームであわせて23mmの降水量を記録しただけ。土壌はカチンカチンに固まって、まるでコンクリートのような状態でした。そんな中、気象予報士や気候科学者は21日から22日にかけてとんでもない集中豪雨になって、鉄砲水の被害が出ると注意を呼びかけていました。

そして運命の21日。ダラスのダウンタウンと南東部を中心に、天気予報を超える本当にとんでもない大雨が降りました。特に夜から未明にかけては雷を伴う激しい雨が断続的に降ったようです。ダラスの広い範囲で洪水が発生。特に道路の高架をくぐるために低くなって完全に冠水した場所では、夜中から未明にかけての出来事だったこともあり、たまっている水の深さがわからないまま車で突っ込んで沈むケースが見られました。下のツイートの動画では、消防士が潜って手探りでおぼれている人がいないか確認しています。

ダラス市内の様子を撮影していたFox Newsの取材クルーが、冠水している道路を通ろうとして沈んでいく車から運転手を救出する出来事もありました。

Image: FOX 4 Dallas-Fort Worth / YouTube

救出に向かうはずの消防局トラックが水にプカプカ浮いちゃうハプニングも…。そりゃ24時間で200台以上の車をレスキューするために走り回っていたら、水没するアクシデントが起こってもおかしくないですよね。お疲れさまです。

ダラス警察では、今回の集中豪雨と洪水の対応で、少なくとも22台の警察車両が破損するか廃車になったそうです。

Turn around. Don't drown. (引き返せ。おぼれるな)」。洪水の際に、ニュースやウェザーチャンネルで運転手向けによく使われる言葉です。米国立気象局が本気の動画をつくっています。なんでこういうのはカントリーミュージックが多いんだろう。とにかく、みなさんも道が冠水しているのかどうかわからないときは、チャレンジせずに引き返しましょう。

Image: National Weather Service / YouTube

未明の豪雨だったため、目が覚めたらアパートがえらいことになっていてパニックになる人も。すぐに気を取り直して片付けはじめたあと、水に浮かぶMacBookを見つけて「MacBook浮けるんじゃん」と言えるとは、なかなかのつわものです。ぼくなら泣く。

Image: KSAT 12 / YouTube

また、洪水で流された車が橋から濁流に転落し、運転していた60歳の女性が死亡しています。残された家族や友人のことを考えると、少なかったとは言いたくないですね。

記録ずくめ。1,000年に一度の豪雨

ダラスを襲った集中豪雨は、1,000年に一度(0.1%の確率)発生する規模といわれています。7月から8月にかけてアメリカで発生した5度目の1,000年に一度の集中豪雨でした。

降水量がどれくらい記録的だったかをまとめてみますね。降水量は、ダラス・フォートワース国際空港の測候所で観測されたものです。

・8月22日の144mmは過去最高(従来の記録は1946年の109mm)
・1時間で77mmも過去最高(従来の記録は1976年の74mm)
・8月の総降水量264mmも過去最高(従来の記録は1915年の263mm)

これだけではなかなか伝わらないと思うので補足すると、21日と22日の2日間で年平均降水量の25%1時間で年平均の8%にあたる雨が降りました。8月の平均降水量は54mmなので、2日間で8月平均の4.7倍1時間で8月平均の1.4倍もの雨が降ったことになります。7月までの降水量は平均に対して45%不足していたのに、2日間で7%不足まで一気にV字回復。喜んでいいのかどうかわかりませんが、最悪レベルの干ばつに見舞われていたダラスの乾ききった土壌の上にこんなに大量の雨が一気に降ったら洪水も起こるってもんです。

干ばつで固くなった地盤が水を吸収するようになるには時間がかかるんですよね。一気に降っちゃうと、最初のうちは空気と水の入れ替えができなくて、土に吸収されずにコンクリートの上と同じように流れてしまうため、深刻な洪水被害につながってしまうんです。「深刻な干ばつは大洪水で終わる」と言われるゆえんです。イギリスのレディング大学がわかりやすい実験を行なっています。いちばん右が、干ばつのあとに大雨が降ったらどうなるかを表しています。

ダラス全域で同じように降ったわけではありません。下の地図を見ればわかるように、すごく降った場所もあれば、そんなに降らなかった場所もありました。北部は比較的少なく、ダウンタウン(地図の真ん中)から南部、東部にかけて記録的な豪雨になりました。

Dallas 7days rainfall 2022-08-23
Image: City of Dallas
8月23日までの7日間におけるダラスの降水量(単位はインチ)

もっとも降った南東部では、400mm(16インチ)を超えました。この辺りは貧しい有色人種が多い工業地域なので、洪水によって住む場所を追われた人たちが今後どのように生活を立て直すのか心配です。

ぼくが住んでいるのはダラス市の北部で、近くにゲージがないため推測値になりますけど、だいたい2日間で125mmくらいの降水量だったんじゃないかと思います。近所に水路があるので、洪水がちょっと心配になって様子を見に行ってみました。もう雨脚も弱まっていましたが、いつもは底のコンクリートが見えるのに、川になっていて少しビックリ

4:15〜付近で登場する川は普段は枯れています
Video: Kenji P. Miyajima

2日たってからもう一度水路を確認してみると、まるで豪雨なんてうそのように、いつも通りむき出しのコンクリートにちょろっと水が流れている程度に戻っていました。なんだかここ、黒い革ジャンとパンツに身を包んだサングラス姿でショットガンを持ったシュワちゃんが、ジョン・コナーを後ろに乗っけてバイクで疾走してきそうな場所で好きなんですよね。T-1000はかんべん。

dried stream 2 days after historic rainfall
Image: Kenji Miyajima

40度を超える熱波とか、最悪レベルの干ばつとか、1000年に一度の豪雨とか、そういうドラマチックなイベントはもうおなかいっぱい。涼しい夏がいいなんてぜいたくはもう言いません。ただただ普通にどちゃクソ暑いテキサスの夏をプリーズ!

Reference: National Weather Service (1, 2), 3),4), FOX Weather, FOX 4 Dallas-Fort Worth, CBS News, Dallas Texas TV, Rebecca Lopez, KSAT 12, Reuters, The Washington Post, YALE Climate Connections, U.S. Drought Monitor, University of Reading, City of Dallas