学校にiPadを導入した長野県伊那市の「表現して学ぶ授業」ってこんな感じ

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学校にiPadを導入した長野県伊那市の「表現して学ぶ授業」ってこんな感じ
Photo: amito

生徒に1人1台の端末が与えられる教育環境を目指す「GIGAスクール構想」。コロナ禍でオンライン学習の環境整備が急がれたこともあり、令和3年度末時点で98.5%の自治体の小中学校で、端末の整備が完了しています。

つまりほとんどの小中学生が1人1台何かしらの端末を使って学んでいるわけですが、実際の授業ってどんな感じなのでしょうか?

長野県の伊那市(いな市)ではGIGAスクール構想が始まる遥か前から、教育委員会を中心に1人1台のiPadを導入した教育環境の整備を進めてきました。iPadを使うことで授業がこれまでとどう変わるのか? 伊那市の中学校と小学校に取材をすることができたので、実際の授業の様子をお届けします。

実験データをNumbersで共同編集する理科の授業

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伊那市は東西を南アルプスと中央アルプスが囲む自然豊かな地域。伊那中学校でのびのびと学ぶ生徒たちの手には自分専用のiPadが。

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取材させていただいたのは理科の授業。「運動とエネルギー」の単元で物体の運動について学ぶ実験を行ないます。

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坂道に設置した台車に加わる力をばねばかりで計ったり、記録タイマーで坂道を下る速度を測っていきます。

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実験用の台車とレールを使うのは、僕らが中学生のときにやった実験と同じ光景。しかし、実験結果の記録はペンとノートではなく、iPadで行ないます。

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ばねばかりの目盛を直接カメラで撮影したり、表にデータを入力して記録。紙のノートは一切登場しません。

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実験が終わると、結果を先生が解説していきます。すでに先生のiPadには全グループの実験結果が集約されていて、それをApple TVがつながったテレビにAirPlayで投影しています。

生徒が入力していたのは、全グループのシートが含まれたNumbersファイル。共同編集機能を使って、みんなが一斉に書き込んでいたんです。なるほど、用紙を集める必要もないし、すぐに先生と一緒に振り返りができるから効率的ですね。

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理科を担当する塚平(つかだいら)先生はiPadで授業がデジタル化したことで、効率が良くなる以外にも良い影響があるといいます。

従来であれば、記録タイマーのテープを切ったり、方眼紙に貼り付けたりしてグラフを作る実験でした。これって意外と複雑な作業で、生徒によっては手順がわからなくなってしまうこともあったんです。この記録をiPadで行なうことで実験が効率化されるだけでなく、共同編集機能を使って生徒同士がつながり、サポートし合えるようになりました。ほかにも、Pagesファイルで配布したワークシートに写真で記録することで、より正確に実験の様子を思い出すことができます。写真だけでなく動画も撮影する生徒が現れるなど、主体性を育むことにも役立っています。

また、別の授業ではKeynoteを使って科学現象をアニメーションで伝える「モデル化」という手法を取り入れたそうです。

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生徒が作った飽和水蒸気量を説明するアニメーション。理解度が違うと表現方法に差が出る。

コップに結露する現象をKeynoteのアニメーションで表現することで、気温と飽和水蒸気量の関係を学ぶというもの。生徒によって飽和水蒸気量の表現が微妙に違っていて、そこで初めて自分の理解が間違っていることに気づくこともあるのだそうです。

紙とペンで描いた静止画だけで理解するのではなく、動きのあるアニメーションを自分で作ることで学びの精度を高められるところがiPadらしい旨味だなぁと感心しました。

森で動画制作をする英語の授業

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続いて見学させていただいたのは伊那西小学校の外国語(英語)の授業。なんと、森の中にあるオープンな教室で行ないます。

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英語の自己紹介をiPadで撮影、Clipsアプリで編集するんだとか。

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ペアを組み、校舎のすぐそばに広がる森を舞台に自己紹介動画を撮影します。

「What color do you like?」
「I like green.」

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緑色が好きだという友達のために、森林の緑を撮影しています。動画のインサート素材にするんですって。

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動画はステッカーや音楽をつけて自由に編集します。

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一見、動画を作ることは語学の学習と関係ないように感じるかもしれませんが、学級担任の横山先生はしっかりと効果を感じているようです。

ただペアで会話するだけだと、本当に相手に伝わっているのがわからないことがあります。動画を作って後から見返すことで、自分の英語を自ら客観的に評価できるようになったのが良かったと感じています。また、自分なりの表現で作った動画を友達に見せあうことで、授業が楽しいと感じられる点も魅力的です。なにより、生徒が自分の考えを発言したり表現したりすることに抵抗がなくなり、自信を持って発信できるように成長してくれていることが素晴らしいことだと思います。

外国語の授業以外にも、チョウの羽化のタイムラプスを作成したり、森を舞台にした映画を製作したりするなど、生徒を主体とした活動がiPadを通して生まれているそうです。こちらの映画、名演揃いなのでぜひご覧ください。

iPadのある教室では「主体的に表現して学ぶ」授業が行なわれていた

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伊那市教育委員会 学校教育課 ICT活用教育専門幹/足助 武彦(あすけたけひこ)先生

教育委員会で伊那市へのiPad導入を2014年から進めてきた足助(あすけ)先生は、iPad導入後の教育に関してこのように語ります。

iPadが入って画期的だったのが、火山灰の観察の授業のときでした。顕微鏡の接眼レンズにiPadのカメラを近づけると、顕微鏡写真が撮れてしまうんですよ。これまでは高額な機材が必要だったことが、手元で簡単にできてしまったんです。植物の成長を写真で残したり、チョウの羽化をタイムラプスで記録したり、子供たちの学びがICTを導入することによってどんどん変わっています。ICTで授業をすると子供たちが自然離れするのではないか?と懸念される方もいますが、少なくとも今回ご紹介したiPadの授業ではそんなことはありません。ICTがあると、自然ってもっとよく見えるようになるんです

伊那中学校、伊那西小学校の授業では生徒が主体的に学ぶ環境づくりに力を入れていることがよくわかりました。

ICT化による効率化はもちろん、ICTを使って得た知識を表現することで生徒が学んだことを自信を持って吸収することができる。伊那市にとってそれを叶える最良の選択肢がiPadだったのでしょう。

Reference: Apple