ゴジラが出てきそうなメキシコ湾の海中パイプライン火災から1年。油田からメタンが大放出

  • 5,098

  • author Molly Taft - Earther Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
ゴジラが出てきそうなメキシコ湾の海中パイプライン火災から1年。油田からメタンが大放出
Image: Televisa Veracruz / Twitter

火が消えたら次はガス漏れ。どこかに元栓ないんですか。

昨年12月と今年8月にガス漏れ

覚えていますか? 昨年、メキシコ湾の海上油田近くで撮影された、いまにもゴジラが出てきそうな、海面がオレンジ色に燃え盛る映像を。あれから1年ちょっと。さすがに火災はおさまっていますが、あの油田から地球を温暖化させるメタンが大量に放出されていることがわかりました。ロイターによると、ク・マロブ・ザップ(Ku Maloob Zaap)海上油田は8月5日から29日までに4万4064トンのメタンを大気中に放出したとのこと。これは二酸化炭素370万トンに相当し、一般家庭65万3106世帯が1年間で電力使用によって排出する量と同程度なのだとか。

欧州宇宙機関(ESA)が昨年12月に行なった調査でも、同油田が今回の調査と同じくらいのメタンを放出していたことがわかっています。メキシコの年間平均排出量の約3%にあたるそう。決して少なくありませんね。というか、本来防ぐべき排出でしかありません。

今年8月の調査を率いたバレンシア工科大学のItziar Irakulis-Loitxate氏はロイターにこう述べています。

昨年12月は、(ガス井から発生するメタンガスを減らすために遊離ガスを焼却処分する際に発生する炎である)フレアリングを止めたため、常時メタンの放出が続いたのは17日間でしたが、今回はほぼ1カ月断続的にガスを放出してフレアリングを行なっています。

海上油田のユニークな名前にピンときた人がいるとしたら、やっぱり海底パイプラインの破裂が原因で起こった、この海面が燃える映像が話題になったからじゃないでしょうか。頭の中でゴジラのあのテーマソングが流れましたもん。

所有企業はインフラ整備もコメント要請も放置

この海上油田はメキシコの国営石油・ガス企業であるペメックス社が所有しています。ロイターとESAの研究者はともに、昨年と今年のメタンガス漏出の原因を突き止めることはできなかったとしていますが、過去の報道をみる限り、ペメックス社はこのク・マロブ・ザップ油田を含め、老朽化した石油・ガスインフラのメンテやアップグレードをちゃんとやってこなかった歴史があるようです。石油・ガス企業にありがちな話です。調査会社Statistaによれば、2010年から2017年までに同社の施設で発生した事故による死者は約100人にも上るそうです。

なお、ペメックス社は今回の調査結果を全否定。メタンではなく窒素など他のガスと混同しているのではないかと声明を発表していますが、ロイターからコメントを求められても既読無視しているようです。

さらに、ロイターの追跡調査の結果、昨年12月のメタン漏出を当局に報告していなかったことが判明。法定の報告義務を怠ったようです。この件についても、同社はロイターのコメント要請に応じていません。認めなければどうということはない、みたいな感じになっているのでしょうか。

メタンは無色無臭で温室効果がCO2の80倍あるヤバいガス

ところで、メタンは二酸化炭素ほど長く大気中にはとどまりませんが、短期間の温室効果は二酸化炭素の約80倍と、気候に深刻な影響を与える恐れがあるんです。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、昨年発表した最新の報告書で、世界規模のメタン排出量増加短期および長期の温暖化対策の目標達成に大きな障害になっていると初めて指摘しました。石油・ガスの生産は、掘削とくみ上げの際に行なわれるガス抜きやフレアリングによって、世界最大のメタン排出源のひとつに数えられています。

頼みの綱は、メキシコ大統領のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏。大統領は6月、石油・ガス部門からのメタン排出量をほぼゼロにするために、ペメックス社が20億ドル(約2884億ドル)投資すると発表しました。また、メキシコは2030年までのメタン排出量30%削減を公約している122カ国(2022年10月初旬現在)のひとつでもあります。しかし、世界銀行が毎年発表している「Global Gas Flaring Tracker」によると、メキシコは最もフレアリングを行なっている国の8位にランクされているうえに、過去数年間でフレアリングが著しく増加している3カ国のひとつにも名を連ねています。言ってることとやってることが真逆というのも、石油・ガスをめぐってはありがちな話です。


メタンは見えないし匂いもしないので、意図的であれ事故であれ、漏れていてもわからないヤバいやつなんです。石油・ガス企業が自主規制できないのはもうわかりきっているんだから、政府がちゃんと規制しないと、いつまでも漏れ続けることになると思うんですよね…。

Reference: Reuters (1, 2), Global Methane Pledge

ゴジラが出てきそう。メキシコ湾の海中パイプライン火災

メキシコで7/2の5時ごろ(日本では7/2の19時ごろ)、メキシコ湾南端ちかくにあるク・マロブ・ザップ(Ku Maloob Zaap)海上油田の近くの海中パイプ...

https://www.gizmodo.jp/2021/07/gulf-of-mexico-is-on-fire.html