洗面台もって水曜初出社のイーロン・マスク。
10月27日木曜深夜には買収が成立してツイートに、粛清に、マスコミ対応にと大忙しです。1週間のまとめに、その後の主な動きを加筆してみました。
10/27深夜 トップを解任
買収成立後真っ先にやったのがトップの解任です。具体的にはパラグ・アグラヴァル最高経営責任者(CEO)、ネド・シーガル最高財務責任者(CFO)、ショーン・エジェット最高法務責任者(GC)、ヴィジャヤ・ガッデ信頼&安全最高責任者が27日深夜のうちに一斉解任となりました。
ゴールデンパラシュート(巨額退職金)の金額については、 解任理由を明示することで計2億~6億ドル(約30億~89億円)もの巨額退職金の支払いを回避しようとしており、粛清された幹部たちが対抗手段を検討中です。
取締役会を解散してCEOに就任
CEOの後釜はもちろん自分自身です。取締役会は解散になって、取締役はイーロン・マスクひとりになりました。ニューヨーク証券取引所(NYSE)でのTwitter株の売買は28日停止に。11月8日には上場廃止となって非公開カンパニーに。
急に広告大好き人間になる
「広告は嫌いだ」と3年前の10月28日にツイートしたイーロン・マスク。買収して初めて、広告がないとTwitterが回らない現実に目覚めたのか、今年10月27日のツイートでは180度前言を翻してTwitterの広告主さま宛てにラブコールを送り、「Twitterを世界でもっともリスペクトされる広告プラットフォームにする」と誓いを立てました。
宣言も虚しくTeslaと競合関係にある自動車大手のGM、フォードはTwitterへの広告出稿をストップ。EVスタートアップ会社のCEOにいたっては買収提案をTwitterが受け入れた春先のうちに個人アカウントを削除し、警戒感を露わにしています。
Nワードが半日で500%近く増える
イーロン・マスクが掲げる「言論の自由(フリースピーチ)」がどれほどのものなのか、限界に挑戦するのが4ちゃんなどで大流行。買収成立から12時間で黒人差別用語のツイートが500%近く増えました。
Evidence suggests that bad actors are trying to test the limits on @Twitter. Several posts on 4chan encourage users to amplify derogatory slurs.
— Network Contagion Research Institute (@ncri_io) October 28, 2022
For example, over the last 12 hours, the use of the n-word has increased nearly 500% from the previous average. pic.twitter.com/mEqziaWuMF
NBAキングのレブロン・ジェームズもこれにはビックリです。「これが本当ならイーロン・マスクのチームも深刻に受け止めて対処しないとな。ヘイトスピーチとフリースピーチの区別もつかないやつ多すぎ」とツイートしています。
I dont know Elon Musk and, tbh, I could care less who owns twitter. But I will say that if this is true, I hope he and his people take this very seriously because this is scary AF. So many damn unfit people saying hate speech is free speech. https://t.co/Sy0jvXIBnC
— LeBron James (@KingJames) October 29, 2022
このツイートについた返信もヘイトとフェイクと不適切コンテンツの山、500%どころではありません。
違反摘発チームがコードに触れなくなる
違反アカウントの復活については専門家の諮問委員会を設けて多数決に従うと慎重な姿勢を示したイーロン・マスクですが、違反コンテンツを取り締まる信頼&安全チームは10月末からコードにまともに触れてないという話も出てきました。
Bloombergが匿名社員複数から聞いた話によれば、普段なら数百人体制で修正と罰則適用を進めているのに、買収直後から修正・削除・罰則適用で使うツールへのアクセスが凍結されて、10月31日時点でそれができる社員はわずか15人。Twitterヘイトスピーチ禁止条項に違反するアカウントがあっても処罰の処理ができず、ミスリードや中傷をふくむ投稿があっても罰則を適用できない状況らしいのです。
この内部情報については、Twitter安全&インテグリティ部門のトップから「経営陣交代の移行期にはよくあることであり、インサイダーリスク軽減が目的。ルールの適用は大規模にやっている」とすぐさま完全否定のツイートが放たれました。
This is exactly what we (or any company) should be doing in the midst of a corporate transition to reduce opportunities for insider risk. We’re still enforcing our rules at scale. https://t.co/CZudS4gBqo
— Yoel Roth (@yoyoel) November 1, 2022
ですが数百人体制が15人体制になってもまだ「大規模」にやれるものなんでしょうか? アクセス制限がいつまで続くのかも知りたいところ。米Gizmodoも同じ疑問を抱いてTwitterにコメントを求めましたが、まだ回答は得られていません。
段ボールもって会社を追い出されたエンジニアを演じるニセモノ現る
投資家向けTwitter買収再建プランでは「社員の75%近く(7500人中5600人余り)を人員整理する」と説明していたイーロン・マスク。「解雇を通告するとすれば11月1日の株式報酬付与前だろう」との憶測が広まり、本社の前には報道陣が大勢詰めかけました。
するとそこに段ボール抱えた2人が途方に暮れてショボーンと出てくるではないですか。報道陣はさっそくマイクを向けて「Teslaのローンどう払えばいいかもわからない」といった生々しい証言をとりました。が、のちに2人は完全なニセモノであることが判明しています。
よくよく録画を見れば、ひとりは姓を「LIGMA」と名乗っているんですよね。これはフォートナイトゲーマーに巣食うとされる架空の伝染病の名前(用例「Ninja、LIGMAで死んだってよ」)。これでガセって気づくと思ったら報道陣だれも気づかなかったっていうオチ。
肩書きをコロコロ変える
買収成立に合わせてイーロン・マスクはTwitterプロフィールの肩書きを「Chief Twit」に変えましたが、全方位的な苦情の嵐に見舞われ、「Twitter Complaint Hotline Operator(ツイッター苦情ホットラインのオペレーター)」へと変更しました。しばらくはこの肩書きでいけそうな雲行きです。
「過去1~2か月に書いたコードを印刷して出せ」と命じる
出社早々、周囲に「今すぐ大量解雇はない」と言って安堵させたイーロン・マスクですが、10月27日木曜の全社員説明会は急きょドタキャンに。社員は何の将来プランも示されないまま、不安に押し潰されそうになりながら週末、週明けを迎えました。
それも辛いけど、もっと辛いのは「過去30日に書いたコードを50ページ印刷して提出しろ。30日で50ページに満たないなら60日前まで遡って用意しろ」と28日金曜正午過ぎに秘書に命じられたエンジニアたちです。これでデキる社員か否かを判断して、採用継続か否かが決まるっぽいのだけど、審査に当たるのはTesla、Space X、Boring、Neuralinkからイーロンが引き連れてきたエンジニアたちで、Twitterはまったくの門外漢です。Teslaでエンジニア経験のある人はマスコミの取材に答えて「オートパイロットやってるエンジニアにTwitterわかるわけない」と笑っていたそうですよ?
Happy Friday all. pic.twitter.com/Rk9m1v1hmu
— Leah Culver (@leahculver) October 28, 2022
「印刷したコードをシュレッダーにかけろ」と命じる
ともあれ本社のプリンターは大忙しです。金曜午後ずっと回りっ放しだったのですが、これはいろいろ問題があると進言する人がいたようで、午後の半ばには印刷中止令が出回り、すでに印刷したぶんは全部シュレッダーにかけてプレゼンはPCで行なうよう命じられました。もうこれだけで辞める人が出そうな展開だ…。
認証バッジ有料プラン、11月7日までに用意できなければクビ
無理難題を言うのは過去のコードだけじゃありません。青い認証バッジ(ネームの横にある青いチェックマークのこと。公式マークとも)を5ドルにする計画やめて20ドルにしたらもっと儲かるんじゃね?と思いついたら、エンジニアを呼びつけて「11月7日までに用意しろ。できなければチームまるごとクビだ」と言いだす始末。
スティーヴン・キングに平謝り
この有料化。払えないとバッジが90日で消える計画と知って、世のインフルエンサーたちはカンカンです。スティーヴン・キングも「20ドルだと? ファ〇ク。金もらいたいぐらいなのに。そんな馬鹿な話があるか。現実になったらエンロンみたいに消えてやる」と発狂寸前。
$20 a month to keep my blue check? Fuck that, they should pay me. If that gets instituted, I’m gone like Enron.
— Stephen King (@StephenKing) October 31, 2022
イーロン直々に「広告収入だけじゃ何ぶんにも苦しいもんで…。8ドルでどうでしょ?」と機嫌をとりなしています。どうなることやら…。
VINE年内復活だ!と言い出す
Twitterが買収して4年前に閉鎖したループ動画ポータルVINEも復活させると言って、エンジニアに大昔のコードを見させています。Twitter上で投票にかけたら7対3で復活賛成票が多くて、人気ユーチューバーから「TikTokみたいになったら面白いよね」と言われてスイッチが入ったもよう。こちらの期限は年内です。
もちろんVINEのコードは4年前のもので、TikTokみたいな推奨アルゴリズムはまったくありません。まかされたエンジニアたちの力ない悲鳴が聞こえるようです…。
以下、2022年12月末に追記
正社員の半分をレイオフ
75%という投資家向けの説明よりは少なかったけど、それでも正社員の50%に当たる約3700人が4日夜、予告も説明もないまま人員整理されていきました。会社のシステムやメアド、パソコン、Slack部屋に突如アクセスできなくなって初めてレイオフされたことを知るという異常なもので、なかには「寝てる間にクビになっていた」人も。さっそくカリフォルニアでは州が定める60日前予告の義務を怠ったとして集団訴訟の嵐です。
レイオフしすぎて、解雇された社員が何人も呼び戻される
あまりにも急だったため会社が回らなくなって、同じ週末にはリストラされた社員が何人も呼び戻される事態になりました。かわいそうなのは転職先のアテもあるのに呼び戻されたデキる社員です。レイオフされたままだったら給与3か月分の退職金がもらえるのに、レイオフを撤回されて断ったら、それは「辞職」ですから3か月分の手当てがパー。喜んでいいものやら悲しんでいいものやら…。
契約社員の8割をレイオフ
正社員を半分解雇した次の週末には契約社員5,500人中4,400人が即時レイオフになりました。3か月の手当てもなくて、もっと状況は悲惨。正社員と同じく、予告も説明も引き継ぎもないまま作業中に突然アクセスがブロックされるという非情なものでした。
部門トップが続々辞める
リストラをまかされた管理職もダメージは大きくて、イーロン・マスクの側近からクビにするエンジニアのリストを渡されて、その場でゴミ箱に吐いた管理職も…。
リストラの準備段階では役員が早々に会社を辞めていきました。4日金曜未明に辞めたのは、全世界の広告主と広告代理店の対応を総括する最高責任者と、Twitter初の黒人役員としてダイバーシティ最高責任者を務める女性、マーケティング最高責任者。全員女性です(イーロンはSpace Xでもセクハラもみ消し疑惑で社員と対立していて、Twitterでは「18禁動画で黒字転換を目指す」というもっぱらの評判。広報、マーケ、ダイバーシティは部門ごと解散にされたので、辞める理由はいくらでも思いつきます)。翌週にはセキュリティ、法務コンプライアンス、違反コンテンツ取り締まりを総括する男性の役員も続々と辞め、重要ポストすべてが空になってしまいました。
「Twitter倒産するかも」と弱音を吐く
一番痛かったのは、前CEOの粛清後、イーロンの右腕として働いていたYoel Rothトラスト&セーフティー最高責任者の辞任です(2016年結成されたトラスト&セーフティ諮問委員会が解散になってサイトの安全性に自信がなくなったようです)。広告を取り下げる企業の波は止まず、さすがのイーロンも「このままじゃ倒産だ」と珍しく弱気なツイートを発します。
それもそのはずで、買収のときイーロン・マスクがTwitterに背負わせた借金は130億ドルで、本年予想売上の7倍。毎年10億ドルずつ返さなきゃならないのに、Twitterのキャッシュフローは昨年時点で6億3200万ドルぽっちです。全然足りませんからねぇ…。いちおうインフラ経費を年間10億ドル削減することで帳尻を合わせようとしてますが、1日300万ドル分もインフラ予算を削ったらダウンしそうで心配。
間違いを訂正する社員を次々クビにする
世界各地でTwitterが遅くなるとイーロン・マスクはTwitter上で「(Android)アプリが不完全なバッチのRPCを1000回以上もやってるせいだ」と謝罪しましたが、現場のAndroid担当から「PRCはやっていません」とすみやかに訂正が入って技術的知識の浅さが露呈。よっぽど恥ずかしかったんでしょう。間違いを指摘したエンジニアは、一連のやりとりの5時間後、クビになってしまいました。
「インフラ担当をほぼ全員クビにしておきながらバッチ処理のことをとやかく言うなんてどんだけよ」「自分で何言ってんのか全然わかってない」とイーロンをボロカスに書いて助け舟を出した勤続10年選手も解雇になって、イーロンは「クソ投稿してるやつらはみなクビになった」と意気軒昂です。
Twitter上で批判した社員だけならまだしも、非公開の社員用Slack部屋で非難していたスター選手までまとめて解雇され、「24時間見張られているのか…」と社内に動揺が広がります。
ハードコアに働けないやつは辞めろ!と言ったら1200人が辞める
士気の衰えを感じたのか、イーロン・マスクは長時間死ぬ気で働け!と喝を入れます。全社員にメールを送りつけて、これからはハードコアに働いて結果を出す人間だけが生き残る、そんなTwitter 2.0に100%コミットできる人間だけが残れ!と誓約同意を求めたところ、正社員約1200人が同意を放棄してアッサリ会社を辞めていきました。
青バッジを売ったら、なりすましと本物の見分けがつかなくなって休止
Twitter Blueの特典として8ドルで青バッジを売り出したら、公式アカウントそっくりの偽アカウントが大量にわいて販売は速攻で休止になりました。
お金を払えばだれでも買える青バッジと区別するため、その後、企業の公式アカウントは灰色になったり文字になったり青に戻ったり金色になったり(今ここ)しています。そのうち政府や国際機関は灰色になって、無料の青バッジは撤廃になる見通しです。
永久凍結アカウントを次々復活させる
問題発言で永久凍結になっていたアカウントが無罪放免になってTwitterにぞろぞろカムバック! 人権団体が恐れていたことが現実になります。
トランプ元大統領は自身が推奨するTruth Socialに残るほうを選びましたが、恩赦の波に乗って復帰した問題児イェ(カニエ・ウェスト)は間伐あけずにヒトラー絶賛ツイートを放ってまた凍結となりました。何をやっておるんじゃー…。ちなみにTwitterとInstagramから締め出されてParler買収にやる気を見せていたイェは、そっちも先方に断られて破談になっています。今見たらParlerのアカウントも消滅してました…。
社内にベッド入れて働いてたら違法建築の疑い
会議室などが空いて、遊ばせておくのももったいないので、ベッド、たんす、洗濯機を搬入して社員を寝泊まりさせてたら、宿泊施設の許可のない建築を不法に宿泊に使ってる!と通報され、サンフランシスコ市から立ち入り調査の要請が舞い込んできました。
ビルといえば、買収成立後Twitterは、本社と世界中の支社でビルのリース代を何週間も滞納しているという怖い話もあります。買収時にTwitter経営陣が利用したチャーター機の約20万ドル(約2600万円)分の支払いも拒否して訴えられていますし、 旅行代理店からの電話にも一切出ないらしい…。元経営陣へのゴールデンパラシュート(巨額退職手当)も出し渋って、社員の出張経費請求も却下して、経費削減に血道をあげているという専らの評判です。イーロン・マスクは社員を突然本社に呼び出すこともあるんですが、そういうときにも社員は交通経費が出るかもわからなくて大変みたい。
満場のコメディーショーにサプライズで出演! ブーイングを浴びる
トランスジェンダーをネタにするギャグで配信元のNetflixに多大な迷惑をかけた毒舌コメディアン、デイヴ・シャペルのライブに友情出演。延々10分間にわたってブーイングを浴び、これまたニュースになります。
ちらほら応援の声も聞こえるんですが、会場に居合わせた人によると、8割ぐらいはブーイングだったそう。最初にTwitterに録画を公開した人はすぐアカBANになりました。以下は再掲の録画です。
The original account that posted it has disappeared (either because the fanboys have been sicced on it or something more nefarious, not sure which), so here's Elon Musk being booed at a Dave Chapelle gig last night pic.twitter.com/mpz5jFcyQB
— Chris Stokel-Walker ~ @stokel@infosec.exchange (@stokel) December 12, 2022
記者、競合SNSのアカウントを凍結する
イーロンのプライベート機の現在地を追跡していた青年のアカウント@ElonJetが削除され、そのニュースを報じた全米主要メディア記者と競合SNS・Mastodonのアカウントまで削除の巻き添えを食らいます。
「子どもがストーカー被害に遭って困ってる。”暗殺コーディネート(標的の緯度経度)”の追跡は一切禁止だ」と後日イーロンは削除理由を明らかにして規約を修整しましたが、LA郊外のガソリンスタンドで不審人物と護衛が衝突したのは、@ElonJetに到着時刻が公開された23時間後です。しかも空港からはだいぶ離れた場所ですので、@ElonJetを参考にしたとは思えないんですよね…。「テキトーな理由をこじつけて、うるさい記者を追放したのでは?」「競合SNSへのリンクを禁じるのは違法なのでは?」と騒ぎが大きくなって、現在アカウントは徐々に復活中。
世界一の金持ちじゃなくなる
Teslaの持ち株を売りまくってTwitterに注ぎ込んでるイーロン・マスク。いくら売っても追いつかなくて、大量売却の影響かむしろTesla株のほうがヤバくなり、11月のTesla株暴落では1日で86億ドルも失ってしまいました。それでも世界一の金持ちの座はキープしていたんですが、12月半ばのTesla株暴落でとうとう2位に転落です。
TwitterのCEOはそのうち辞めるっぽい
Tesla株に財産を注ぎ込んでる投資家たちから悲鳴が上がっているのを受け、イーロン・マスクは「TwitterCEOを辞めるべき?」とTwitter上で投票にかけます。すると過半数がYESと回答。「おー!やっと辞めてくれるか!?」とTesla株は一瞬持ち直しました。
ところが、そのうちだれかが「ライク数と投票数が合わない。ボットに汚染されてんじゃね?」と言い出してイーロンが「おもしろいね」と反応。「こういうことはTwitter Blue有料ユーザーだけでやらないと」という声にも「これからそうするわ」と反応しているのを見て、「辞める気ないんかい!!」とTesla株はまた下降ラインに逆戻り。4月のTwitter買収提案のときからとんでもなく値を下げています。はたして終わりは見えるんでしょうか…。